#28. 火の玉ガールと変態ロリ(今日はよくエンカウントしますね)
爆炎をバックに決めポーズをした赤いマントが特徴的な少女は、これまた赤い髪をロングウルフカットにしているけど、その長い襟足は紐で縛っていてポニーテールのようになっている。
お人形のように大きな目は碧眼で、キラキラと輝いて見えた。
腰の鞘から真っ赤な片手直剣を引き抜くその姿は、騎士や勇者を彷彿とさせる。
「なぁにがドラゴナイトだよ、ふざけてんの?」
エルドは刃を失った剣の柄を投げ捨て、ドラゴナイトさんに詰め寄る。
「むっ、あたしのヒーローネームにケチを付けるのならもっと良い案を持ってくることだね! でも悪党らしいところはグッド」
「だから、ロールプレイングに付き合ってる暇は無いんだよ! 《竜翼の旅団》ギルドマスター、ツバサ!」
ツバサ……それが本当のプレイヤーネームか。
《竜翼の旅団》と言えば、20人程度のギルドで……前年の《ギルドデュエル》では2位。
つまり、《キャラバン》にとっては因縁の相手ということになる。
それにしても、どうして助けに来てくれたんだろう。
私とは面識なんてないはずなのに……。
「……君達のHPを回復させよう。災難だったな」
「あ、ありがとうございます」
「聞いての通り、あの子の名はドラゴナイトではなく《ツバサ》。私は《|Bibliophile》だ……まぁ名前は好きに呼ぶといい」
ツバサさんに先生と呼ばれていた女の子、ビブリオフィルさんは長くて白い髪が地面に着いてしまうのも気にせず、倒れている私達に視線を合わせてくれるようにしゃがみ込んだ。
それにしても、耳が長い……エルフ耳ってやつかな。
ヒメと同じアクセサリーか、それとも本当にエルフ種なのか。
そうこうしているうちにネックレスが光を放ち、私達のHPを回復してくれる。
あれはマギアロッドに並ぶ魔法系武器種の《タリスマン》か……広範囲の支援スキルに長けてる武器なのは知ってるけど、HPが一瞬でフル回復した。
魔法攻撃特化のマギアロッドではこうはいかない。
「ツバサ、派手にぶちかましたまえ」
「はーい! それじゃあこの子達はあたしが預かるね!」
「おい待て、まさか逃がすわけないだろ? 竜翼はこの僕が必ず──」
倒す、とかなんとか言う前に、赤い刃の切っ先がエルドの口元に向けられる。
剣がエルドを指したその瞬間を、私は目で追えなかった。
ビュン、と風を切るほど素早い剣筋。
熱気が吹き抜ける。
赤い剣が、燃えていた。
「【火竜砲】!」
瞬間、爆発するかのようにボウッと炎が前方へ放たれる。
エルドの顔面を焼き払い、大きな炎に身を隠した私達はビブリオフィルさんの合図で一斉に《港街ベタル》へ転移し、事なきを得た。
■■■
「ということで、改めまして! あたしは《竜翼の旅団》で団長をしてます! ツバサです!」
「えっと……私は《夜猫の喫茶店》のギルドマスター、カナメです。先程は助けていただきありがとうございました、ツバサさん」
「ツバサでいいよ! そっか、ギルド作ったんだ! 最近配信追えてなかったからなぁ……!」
……ん? 配信を……追えてなかった?
「それって……」
「うん! カナメちゃんの配信見てるよ! カリカーン討伐おめでとう! ドヤかわいかった! ヒメちゃんにも会えて嬉しい! エクスプロージョン派手で好き!」
《竜翼の旅団》ギルドマスターが、まさか私の視聴者!?
なんだか急に恥ずかしくなってきちゃったな……。
「えっと、じゃあじゃあ~、カナメちゃんのファンだから助けてくれたってこと~?」
「そうなの! たまたま先生と水遊びしてたら雷ピシャーンってしたからビックリしたよー!」
「わ~ほんと偶然だぁ~!」
「偶然ラッキー! 本人に会えちゃった! 助けられてよかったよ……!」
ヒメとツバサは互いに手を握り、ブンブン上下に振りまくる。
コユの方は……なぜかビブリオフィルさんに頭を撫でられていた。
「偶然と呼ぶには些か面白みに欠ける。これは奇跡だよ、ツバサ。君の推しと私の推しが、まさかギルドを作っていたとはな」
「あの……なんでコユは撫でられてるのかしら……あんまり子ども扱いされるのは好きじゃないんだけど……」
「あぁ、知っているとも。でもそんな君がかわいいからこうしてつい弄ってしまうのだ」
「でも先生やりすぎ」
ロリがロリを撫でくりまわすこの光景に、ツバサはビブリオフィルさんの頭に軽いチョップを入れる。
「ごめんねコユちゃん。先生、ミニコンなの」
「は? ミニ……コン……?」
聞き慣れぬ言葉にコユが首を傾げると、ビブリオフィルさんはメガネをかけていないのにメガネをクイッと上げるような動作をして解説を始めた。
「ミニ・コンプレックスの略称だ。類似としてロリータ・コンプレックスが挙げられるが、私は少女だけでなくこの世全ての小さきものが好きだ。寝転部コユのようなロリ系VTuberの配信はよく見ているが、彼女は他と違う特異なものを持っている。
……そう、設定身長がリアルであるということに他ならない。私のようにリアル身長を改変し小さくなっているのではなく、天然で小さい。それはとても素晴らしいことなのだよ」
饒舌に解説しながらも、ビブリオさんの指先はコユの肌を滑り……ぞわわと鳥肌を立たせたコユはその手を振り解いてビブリオさんを睨みつけ──。
「おーけー、さてはただの変態ね? でも残念、コユはこう見えても大人のレディーなのよ! 晩酌配信だってしてるし! まぁ、あんまり飲めないけど……!」
そんな反論をした。
そういえばコユって大人なんだな……見た目と噛み合わなくて気にしたことなかった。
「いいや、酒類を飲むというだけで大人のレディーとは言えまい。ましてや寝転部コユに限ってそれはないと断言しよう。
なぜなら意識を仮想世界に没入させるフルダイブでは、リアルの身長と誤差が大きいほど動きづらくなる。だから君が盾をサーフィンさながら乗りこなしているのを見て確信したよ……。あれほど精密にバーチャルアバターを使いこなせるということは、君のバーチャル身長とリアル身長はほぼ一致していると推察できる。
君は完全なる合法ロリだ。素晴らしい……この世の奇跡だよ……」
一度振り解かれた手は諦めを知らず、ビブリオさんは恍惚とした表情でコユの頬を撫でる。
「ねぇカナメっ! この人怖い! 長文でコユを無理やり納得させようとしてくるわ! たすけて!」
「あー……とりあえず、どこかでお茶にでもしませんか? 助けてもらったお礼もしたいので」
ひとまずコユからビブリオさんを引き剥がすべくそう提案すると、ツバサは目の奥を輝かせる。
「推しとお茶できる!? い、いいのかな!? 他の視聴者さん怒らない!?」
「『助けてくれてありがとう』『こんな視聴者がいるなんて俺誇らしいよ』『行ってこい、お前がナンバーワンだ』『許す』……大丈夫そうだね」
どうなることかと思ったけど、無事に切り抜けられて視聴者さん達も安心しているようだ。
中には『キャラバンぶっ潰す』とか怖いこと言ってる人もいたけど、それは私の役目だからと言っておいた。
「やったぁ! あ、でも節度は守らないとね!」
「……ツバサ。なぜ私を見て言う? 私とて本人が本気で嫌がるならばこの手を止めよう」
「あぁうん先生、恋は盲目ってよく言うよね」
「ん? そうだな」
「だからっ、いい加減やめなさいよぉぉ~……!」
まるで猫と触れ合っているかのようにコユの顎をくすぐるビブリオさんに、ツバサはやれやれと肩を落とすのだった。




