#25. キャラバン、エンカウント!?
「血鬼……竜翼……キャラバン……」
ひと狩り終えた私は岩に腰かけ、前年の《ギルドデュエル》トップスリーを眺めては腕を組んで唸る。
《血鬼夜行》……DDOで最大のギルド。
ギルドメンバーは100人まで登録できるけど、このギルドは人が多すぎて《血鬼夜行・第二陣》というもうひとつのギルドまで結成しているほどだ。
《竜翼の旅団》は総勢20人と比較的少ない。
女性プレイヤーがギルドマスターをしているらしいし、少し話をしてみたい。
そして《キャラバン》──このギルドは90人以上のメンバーを抱えていて、その名の通りアイテムを売る商人ギルドだ。
儲けがいいのか、換金システムを使って生計を立てているとか。
「エクスユニルも倒したし、アイテム売れば5,000円くらいにはなるんだけどなぁ……」
まぁ、やっぱりそう簡単に稼げるものでもなく。
私の場合は【コイントス】のために取っておく必要があるっていうのも理由のひとつだけど。
高価なレアドロップアイテムが欲しいところ……。
「チェーンソーはレアドロだけど……メイン武器を手放すわけにもいかないしなぁ」
《濫伐者カリカーン》から運良くドロップしたこのチェーンソー、名前は《チェンソー・ゼロス》。
柄が長く、それまで使っていた両手斧カテゴリの《ナイツオーダー・バルディッシュ》と同じ雰囲気で使えるから扱いはすぐに慣れた。
「それ売らない方がいいわよ」
モンスターのドロップアイテムを整理していたコユが戻ってきた。
ヒメは……【エクスプロージョン】でモンスターと戯れてる。
「さすがに売らないよ。でもレアドロのわりにはパッとしないなぁって思ってさ」
「DDOには大剣や斧系武器の見た目をチェーンソーに変えることはできても、《チェーンソー》って武器は無いわよ」
「へぇ……ぇえええっ!? ないの!?」
勝手にチェーンソーカテゴリ武器なんだと思っていた。
つまりこれは、まさか、新武器種……?
「まぁ実際はハルバードやバルディッシュとかと同じ両手斧カテゴリでしょうね。ルードバスター使えてるし」
「なんだぁ」
「でもあの連撃はどの武器でもできないわ。前々から聞こうとは思ってたけど、どんなスキルが付いてるのよ」
「あー、そういえばちゃんと見てなかったかも」
ランキングとかでそれどころじゃなかったし。
そう思いながら、私は装備画面を呼び出して《チェンソー・ゼロス》を選択する。
「【連鎖鋸斬動力炉】……永続発動スキル。攻撃時、与ダメージを複数回に分けてヒットさせる……か」
「デメリットは? コユの盾みたいに防具が装備できないとか」
「デメリットは……なさそう。でもなんか鍵がかかってる」
「鍵……あぁ、レベルが足りないのね。いくつ?」
「レベル45でスキル開放だってさ」
今のレベルは42だから、もう少しでこの未開放スキルの正体がわかる。
「じゃあ今日はもう少し狩ってく?」
「うん、そうしよう。ヒメ~! 次行くよ~!」
手を振って、巨大なスライムに杖を突っ込んで内部から爆破させて戯れていたヒメを呼ぶ。
するとヒメはにこっと明るい笑顔で手を振り返し──直後、ひと際大きな爆発によりスライムは爆散した。
「あの子……えげつないわね」
「そだね~」
「……カナメも大概だったわね」
それは武器がいけないのであって私のせいではないはずだけど……ひとまず、私達は狩場を移す。
場所は《荒らされた遺跡》という、ツタがビッシリ張った壁や崩れた石柱が目立つ中規模のダンジョン。
ここには中ボスクラスのモンスターが複数湧き、攻撃モーションも単純だから経験値を稼ぐにはちょうどいい狩場だと攻略サイトに書いてあった。
噂によれば、その中ボスのレアドロップは換金アイテムと呼ばれるもので、NPCの店で高く売ることができるのだとか。
──しかし、実際に来てみると何か様子がおかしい。
私達はモンスターのモの字もない静かな遺跡に首を傾げる。
「ここってモンスターがすごくたくさん出てくるんだよね~?」
「うん、そのはず……でも一匹もいないなんて……」
しばらく歩いてみても、全くエンカウントしない。
「これは……先に来たプレイヤーに狩り尽くされたわね。次の湧きには時間がかかるわ」
「そういうのもあるのかー!」
「そんなあ~!」
中ボスがいる遺跡最奥の扉を前にして、なんの収穫もないとは……。
「……うぅ、まぁ仕方ない。また別のところに──」
そうして狩場を移そうと、扉に背を向けた時。
「やーやー、今日は運がいい! レアドロがふたつも落ちるなんてねぇ~!」
扉は開き、中からぞろぞろと……8人のプレイヤーが出てきた。
魔法職が多い。2人だけ盾を持っていて、もうひとりは……盾使いの人達の後ろにいてよく見えない。
特段目を引いたのは、先頭に立って気分良く鼻歌を歌っている金髪でサッパリとした塩顔の男性プレイヤー。
モノクルを掛け、厚手のローブを身にまとい、手には長い杖──マギアロッドカテゴリの武器を持っていた。
「あの顔どこかで……」
「第三ダンジョンの攻略に参加してた人だね~」
「ついでに言えば《キャラバン》のギルドマスターね……」
私達の視線に気付いた仲間の盾使いが、ギルドマスターの肩をちょちょいと突っついて知らせる。
すると、モノクル男はこちらを横目で見て……にこりと爽やかな笑顔を向けた。
「おっ、性別未変更! 純粋な女性プレイヤーなんて珍しい! どーもどーもお姉さん方! 初めましてぇ、僕は《キャラバン》ギルドマスターのエルドと申します。いかがです? これから一緒にお茶でも……」
「ギルマス、今日はまだノルマが……」
「あぁ? ……んー、まぁそうだな。──いやぁすみませんね、こちらから誘ったのに!」
どこか鼻につく振る舞いで名乗った《キャラバン》のギルドマスターは、相手に応じて表情をころころと変えながら喋っていた。
「大丈夫よ。私達も用事があるから」
コユが私達の前に出て、少し強めに、威嚇するように答える。
「あっは~! そうでしたか! お互い残念でしたね、また機会があればその時はぜひ。それではぁ」
そう言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。
終始、貼り付けたような笑顔で。
「ん……?」
エルドに続いてギルドメンバーが去っていくなか、私はたった一人だけ女性プレイヤーがいることに気付いた。
目を惹く長い黒髪に、金色の瞳。
まるでモデルさんのような綺麗なスタイルは和装を映えさせ、腰には白い鞘の刀が差してある。
でもその人の表情はとても堅く、私と目が合ったかと思えばすぐに逸らされてしまった。
──クールでかっこいい人だなって、その時の私はそう呑気に思った。




