#23. もうひとりじゃない
メインクエストを進めたプレイヤーの第二拠点となる街、《港街ベタル》はその景観の良さから《王都アルファス》よりプレイヤーの数も多かった。
南国風のコーデで観光を楽しむ人や、水着で自撮りする人で溢れて返っている。
「はい、コユの奢りよ」
「なんか虹色に光ってるんですけど!?」
「トロピカルジュース。このベタルでしか飲めないドリンクよ」
コユが屋台から買ってきたのは、プラスチックのような透明のカップに入った《レインボー・トロピカルジュース》というアイテム。
鮮やかな黄色の果実が浮かび、ジュースの中をキラキラとした光が降り注ぐ。
ひと口飲むと、ほんのりと酸っぱく、しかし次第に甘い後味が追ってきた。
フルーティーで喉越し爽やか。
「うまっ!?」
「わ~初めての味~♪ 美味しい~!」
「ん……? ヒメ、その頭どうしたの!?」
「わ~! カナメちゃんこそ~!」
《レインボー・トロピカルジュース》を飲んだ私とヒメは互いに顔を見合わせる。
なんとビックリ……髪が虹色になっていたのだ。
「それがこのジュースの効果よ! 飲めばしばらくゲーミングヘアーになるわ。まんまと引っかかったわね!」
くししと笑って、コユもジュースを飲み、同じく虹色の髪に輝く。
「ほらほら、スクショタイムよ! 撮った撮った!」
「こ、これ撮るの!?」
「わーいスクショだ~!」
球体型ドローンの前で三人寄せ集まり、何枚か写真撮影。
虹色頭が永遠に記録されてしまった。
「さ、次よ!」
「今度はどこに行くの!」
「オススメのレストランがあるのよ! お肉と魚、どっちもいけるわ!」
「わたしお肉が食べた~い♪」
「じゃ、じゃあ私も!」
コユに案内されるまま、陽光に煌めく海が眺められると人気のレストランへ。
テーブル席、私の隣にヒメ、私と向かい合う形でコユが座る。
オススメだからとコユのセレクトで注文された商品は、頼んで数秒でNPCの店員が運んでくる。
赤黒いソースが滴る肉厚のラムチョップ。
焼きたてなのか、ほわほわと白い蒸気を昇らせるパン。
顔より大きなエビは縦に割られ、身の表面が炙られていた。
「このお肉美味しいな……仮想飯もここまで来たか」
「お肉に豪快にかぶりつくの夢だったんだぁ~!」
隣に座るお嬢様は骨付きのラム肉を手に取ると、がぶりと大きなひと口で頬張る。
私も豪快にかぶりつくと、柔らかいラム肉から肉汁が溢れて、口の中でソースと交わる。
「んむっ!?」
──なんだこの肉、噛めば噛むほど旨味が溢れ出てくるみたいだ。
口の中でお肉が躍る……すかさず焼きたてのパンも放り込むと、あぁ……これまた合うなぁ……!
「カナメちゃん! このエビもぶりんぶりんで美味しいよ!」
「ヒメ、そんなに急いで食べなくても」
「なんでかなぁ~、すごく美味しいんだよ~♪」
こんなに食欲のあるヒメは初めて見た。
でも、ゲームの中だからいくら食べても太らないし、口元が汚れてもレストラン専用ナプキンで一度でも拭けばキレイさっぱり汚れが落ちる。
普段はテーブルマナーとか気にしてるんだろうし、やっぱりゲームでくらい何も気にせずはしゃいでほしいな。
「ほら、よく言うでしょ? みんなで食べるから美味しいのよ」
「……うん、そうかも。確かにいつもよりずっと美味しく感じるよ」
「100倍美味しいよ~!」
みんなで食べるから、いつもより美味しい。
そういえば……エクスユニル攻略も私達だったからできた戦闘で、視聴者さんは楽しんでくれていた。
「コユ、ヒメ。私……もっと上に行かないとって、気が早っていたのかもしれない」
どんなものであれ、上がり続けることはできない。
必ず波がある。
「コユもそういう時期あったわ、割と最近。あなた達と出会った時ね」
「あぁ……そういえばそうだったね」
「それが今や友達。こうして一緒にゲームでご飯食べてるなんて……想像もつかなかったでしょうね」
フォークを置いたコユは、私を真っ直ぐ見つめながらテーブル上の両手を握る。
「……あなたが、友達になってほしいって言ってくれなかったら……私はこの場にいなかったわ。だからありがとう」
その言葉は少し震えていて……顔は火照っているのか、頬がほんのり赤く染まっていた。
「私、こういうの初めてだから……せっかくできた友達が無理して考え込むくらいなら、それをブチ壊してでも笑わせたいって思ってる。だってここはゲームだもの! 無理せず気楽にやってほしいのよ……もっと友達を頼ってほしいのよ……!」
私はなんて愚かだったのだろうか──と、いま一度そう思う。
これは配信、周りの、多くの人を楽しませるもの。
それを私自身が楽しまずに、誰を楽しませられると言うのか。
数字を気にして、結果楽しめなくなるなんて、酷い悪循環だ。
それを、コユは壊してくれた。思い出させてくれた。
そもそも私はこのゲームを楽しみ、遊びながら稼いでやろうとしていたことを。
「……ありがとう、コユ。楽しさとか、誰かを頼る勇気とか、忘れてたみたい」
迷いは晴れた、楔は抜けた。
「私、決めたよ」
私はコユに手を差し伸べる。
「一人じゃできなくても、私達ならできる。エクスユニル攻略でそれがわかった」
一人でやらなきゃヒメに追いつけないと、そう思って、私は一人で走ろうとしていた。
でも、それだと私は前へ進めない。
私には迷いそうになった時、道を示してくれる仲間が必要なんだ。
「だから──」
私に足りないものはこれから培っていけばいい。
それでも足りないものは……二人に助けてもらってもいい。
きっとそれが友達で、仲間と言うものなのだから。
「──私達で、ギルドをつくろう」
それを聞いたコユは一瞬目を丸くしたけど、すぐにいつもの調子で笑って、私の手を取ってくれた。
「その話、乗ったわ!」
「わたしも、わたしも~!」
「三本の矢、文殊の知恵。私達なら最強だからね」
「そうと決まれば、ギルド結成祝いよ! お誂え向きに料理もあるわ!」
「まだ申請も出してないのに!?」
「もう出来たも同然だよ~♪ ほらほら、カナメちゃんもコップ持って~♪」
ヒメに言われるがままコップを取り、私達はギルドの結成を祝って乾杯した。
《寝転部コユ》
*個人勢のVTuber、チャンネル登録者数およそ13万人。
初配信日 |2043年1月3日
身長 |140cm
ファンネーム|部員
ハッシュタグ|配信タグ:#生ごろ寝
ファンアート:#コユArt
趣味 |ゲーム、だらだらすること
得意な配信 |夕方や夜を中心に活動。
ゲーム配信や晩酌配信など。




