#21. ヒメとコユ(友達の友達ってなんだか気まずいですよね)
◇今回はヒメ(ユリ)視点です。
──これは、良くない流れだ。
わたしは日課の復習勉強をしていた手を止め、卓上に飾ってある写真立てを見つめる。
シンプルなデザインの木製の白い額には、わたし達が中学生の時、修学旅行で撮ったユメちゃんとの2ショット写真が飾ってある。
「お嬢様、いかがなされましたか?」
「あ~……遠野さん、わたし紅茶飲みたくなっちゃったな~」
「すぐにご用意致します」
ぺこりと一礼して部屋を出ていく遠野さんを横目に、わたしはすかさずスマホを取り出してフルライブを起動。ランキング1位の配信を再生する。
「大勢のプレイヤーが何度挑戦しても攻略できなかった難攻不落の第三ダンジョンをクリア……コユちゃんの話ではベータ時代にもクリアできなかったから目立ってるんだ……準備とかの配信をこまめにやって布石を置いてるのかな……あぁ、有名なギルドのメンバーなんだ……」
わたしはユメちゃんに胸を張って隣を歩いてもらえるよう全力でサポートする。
そのためには敵情視察は必須──なんだけど。
「お待たせしました」
「わっ、び、ビックリした~。もう、ノックくらいしてください」
「申し訳ございません。もしかすると課題そっちのけでサボっているかも……と思いまして」
「ま、まさか~」
冷や汗を隠すようにペンを走らせる。
配信を見ていたのはバレていない……よね。
「まぁ、お嬢様に限ってそんなことはないとは思いますが、一応見張っておくようにと旦那様に釘を刺されておりますので」
う~……お父さんめ……。
でもこれは仕方がない。
元々わたしは、幼少から『普通の家庭と変わらない日常を経験してほしい』という両親の思いでユメちゃんと同じ小学校、中学校に通っていた。
けどそれは中学までの話で、高校や大学は良いところに通わせるという話だった。
それでも、どうしてもユメちゃんとも同じ高校に通いたくて、テストでの学年順位で1位をキープするという条件を呑ませてこうして普通の高校に通わせてもらっている。
だから仕方ないんだけど、日課の復習勉強という名のデイリークエストをクリアしなければ学力がピンチなのです。
──けどいまユメちゃんを放っておくのは危ないよ~っ!
ユメちゃんの良いところは苦手なことに対して勇気を持てること。
でもそれは、言い換えれば『無理をしている』ということにもなる。
個人勢のVTuber寝転部コユが提案したノーダメージクリア、あのアイデアは悪くなかった。
でも、カリカーン攻略に一週間を掛けてしまったから、わたしは今回のエクスユニル攻略では気が急いでしまった。
もし時間をズラすことを提案できていたら──なんて言うタラレバを考えても仕方ないよね。
わたしは今の自分にできることをするしかない。
そして、ユメちゃんを信じてあげるんだ。
「お嬢様、どうかなされましたか?」
おもむろに立ち上がったわたしに、ちょっとえっちなことをするけど真面目な遠野さんは今日もしっかりと監視役をしている。
「紅茶飲んだらお花摘みに行きたくなってしまったので、ちょっと行ってきますね」
「なるほど、それでしたら私もご一緒に」
「五十嵐、遠野さん押さえててください」
するとすぐに扉が開き、黒のスーツ姿で待機していた五十嵐が遠野さんを背後から取り押さえた。
「了解しました。ほら遠野さん、トイレまで付いて行くのは流石にまずいですって。特にあなたの場合は!」
「くっ、離せ変態! 私の純潔をけがしていいのはお嬢様だけよ!」
「心外だなぁ……あぁ、ユリ様。なるべく早めに戻っていただけると助かります」
「は~い、善処します~」
それほど時間はかからない。
遠野さんを五十嵐に任せ、お手洗いへ。
念の為に鍵を掛けて、スマホを取り出す。
「……あ、もしもし~? ヒメですけど~」
『ん……なによ。あなたからなんて、珍しいわね……』
通話先の相手はゴソゴソと物音を立てながら、少し涙ぐんだような声でそう言った。
DDOのチャットサービス、フルダイブしていなくてもフレンドと音声通話くらいはできる便利なものだ。
「なんだかつらそうな声だね~、邪魔しちゃったかな~?」
『なんだと思ってるのよ。別に……ちょっと花粉症なのよ』
「あ~、カナメちゃんのことで悩んでた訳じゃないんだ~」
『なっ!? なんでそれを!?』
当てられたことが意外だったのか、もはや言い逃れができないコユちゃんのリアクション。
やっぱり、二人は似てるなぁ。
「コユちゃん、悩みとか抱え込むタイプでしょ~」
『うぐ……そ、それがなによ』
「カナメちゃんもそうだから、なんとなくわかっちゃうんよ~」
カナメ──ユメちゃんの場合はその悩みのタネがわたし自身だから話せないというのもあるだろうけど。
「配信が上手くいかなかったこと、悩んでないかな~って。連絡してみた~」
『はぁ……勘がいいわね。そうよ、私のせいでカナメが悩んでるっぽいから、どうすればいいのか考えてたの』
「……答えは出た?」
『考えて、わからなくなったわ。どうすればいいのか。あの子になんて声をかければいいのか……』
そっか~、と相槌を打ちながら、ここからの言葉を選ぶ。
どうして二人が友人になったのか、わたしは後になってユメちゃんから聞いた。
その時「なんだか放っておけなくなって、思わず……」と、そう答えている。
貰えるはずだった出演料をゼロにしてまで、対等な友達であることを選んだ。
「……妬けちゃうなぁ」
その時の勇気はきっと、ユメちゃんが初めてわたしに声をかけたくれた時と一緒だ。
ユメちゃんに友達ができるのは喜ばしいことで、この先、もっと人気者になっていけば友達と呼べる人達も増えていく。
わたしよりも付き合いやすい、対等な友達が。
嬉しいことのはずなのに、わたしの中では邪な独占欲が滲み出て──。
それは身勝手な欲望であると理性が働いて、わたしはスマホの向こうにいる友達へ。
「遠慮するなんてらしくないなぁ~」
『遠慮なんかしてないわよ!』
「そうかな~? わからないなりに、いろいろ言ってみるのもいいかもしれないよ~?」
『私にもカナメみたいに勇気を持てって言いたいのね』
そうすれば、何かが変わると信じて。
「言ってきなよ、コユちゃん」
『……策士ね、ヒメ。いいわ、フォローするって言ったしね』
──これでいい。
配信の悩みは、配信者として先輩のコユちゃんに任せよう。
そしてわたしはユメちゃんが立ち直るのを信じる。
『あ~、それなら……ヒメ、夜時間ある?』
「え? そうだね~……9時過ぎなら少し時間あるかな~?」
『オーケー。じゃあその時間にDDOで合流ね』
「何か思いついたのかな~?」
『別に、コユがいつも悩んだ時してることをあなた達に教えたげるだけよ。カナメだけじゃなくて、ヒメも……友達だから』
じゃあまた後でね──と、コユちゃんはそう言って通話を終えた。
こういう時、先輩っぽくて心強いなぁと思わずにはいられない。
「わたしも友達……ふっ、フフ……そっか~♪」
たまらなく嬉しくなって、思わず笑ってしまう。
「ならわたしは、早く課題クリアするぞぉ~……!」
なんだか良い流れが来た気がして、わたしは足早に机へ向かうのでした。
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ちなみに、お手洗いから戻ってくると五十嵐は遠野さんの肉椅子になっていました。
「…………ユリ様、ボディーガードとして本当に面目ないんですが……この人やたらとクソ強いんすよ」
あ~、だから早めに戻ってほしかったのか~。
「お嬢様の前で汚い言葉を使わないでください!」
「いってぇっ!? ちょ、すみません! 今のは僕が悪かったです! でも明日しらかぜの方でバイトなんであんまり叩かないでいただけると」
「黙りなさい、この変態!」
「だから変態はあんただろっ!?」
遠野さんは長いスカートの中に隠していた鞭で、五十嵐を打ちのめす。
バシンといい音が鳴って……せめて部屋から出てやって欲しいなぁと思うわたしなのでした。




