#20. 然うは問屋が卸さない。
ダメだ、足が蔓に絡まって、全然身動きが取れない。
【コイントス】のバフで何とかするしかない……!
そうして取り出したコインを上へ投げようとした、その時だった。
木漏れ日に照らされているはずなのに、私の視界は暗くなる。
「……あっ」
……いや、暗いんじゃない。これは黒だ。
光を遮っていたのは、黒の大盾──晦冥。
「ちょっと前失礼するわよっ!」
その声とほぼ同時に、コユの大盾が私を守る。
エクスユニルの踏み潰し攻撃を、難なく耐えていた。
「【勇攻激化魔法】──決めちゃえカナメちゃん!」
「頭を狙いなさい! ダウンしなきゃ届かない弱点だけど、コユの盾なら関係ないわ!」
「──ありがとう! 決めてくる!」
ヒメによるバフを受け、私を守ってすぐ側に静止した大盾に飛び乗る。
ふわりと浮かび、スピードを上げてエクスユニルへ突っ込む盾。
バランスを取るのが難しいけど、コユがしっかり遠隔操作してくれているからか落ちずに済んだ。
そうして、エクスユニルの頭上に到着した盾から飛び降りた私は、その立派な枝角目掛けてチェーンソーを振りかぶる。
「【ルードバスター】ッ!!!」
ライトエフェクトが閃光し、コゥン……と心地良い音が響く。
角が根元から折れたのだ。
そのままチェーンソーの刃はエクスユニルの弱点である頭に命中し──連鎖、連撃。
【ゴルトライザー】が発動し、黄金の滝を作り出す。
「コォ……フォォォ……ゥルル…………ッ」
大量のゴルトコインを撒き散らした《神獣エクスユニル》は、遂にポリゴン状に変化して眩く光り輝き、爆散──。
笛の音のような断末魔がふあんふあんと木霊するなか、私達は『Congratulations!』の文字を見届けるのだった。
「やっ……」
私がそれを言おうとした瞬間、後ろから不意に抱き着かれる。
「やったあっ!! やった! やったわ! ほらね言ったでしょ! 全部防御してあげたわよ! 初見ノーダメージクリア! やり遂げたわ!」
「お~、コユちゃんどうどう。カナメちゃんの首絞めてるよ~」
「あっ、と……ごめんなさい、はしゃぎすぎたわ」
少し顔を赤くしながら、コユは私の首を離す。
あの防御力は頼りになったけど、コユにとってもギリギリだったのかもしれない。
考えてみれば後方から状況を把握し、距離感も測って浮遊盾を操作。
敵の攻撃タイミングに合わせてガードするのは、私じゃできない。
「でもガードってHPを完全に守るわけじゃないよね~? コユちゃんのHPって……」
ヒメはそう言ってコユのHPゲージに目をやる。
通常、防御というのは防ぐだけであって無力化するものじゃない。
ダメージ軽減だ。
それなのに、コユのHPは1ドット足りとも減っていなかった。
「そりゃ普通の盾なら減るわ。盾の衝撃を体で受け止めるんだもの」
「……あっ、盾から離れてるからダメージ入らないの!?」
「そういうこと。まぁその分、押しとどめるためにMPを使うのよ。ガード成功時にゴッソリとね。だから今回はヒメのMP回復に助けられたわ。ありがと」
「えへへ~嬉しいなあ~♪ このパーティーだからできた戦術なんだ~!」
私がアタッカーをして、コユが私を守って、ヒメがそれをサポート。
上手く噛み合ったからクリアできたんだ。
『【¥1,000】おつ狩りさま』
『これで次の街に行けますね!』
『おめでとう!おめでとう!おめでとう!』
『ほんとに初見ノーダメクリアするやつがあるか!』
『俺も晦冥使おうかなぁ、どこで入手すんの?』
『ダメージ軽減率70%とかいうクソダルいゴーレムと数時間格闘する苦行を強いられるぞ』
『コユ氏のアーカイブに残ってるよね。まさか日が昇るとは思わなかった』
『【¥3,000】Congratulations!!!いいバトルでした』
「コユちゃんも頑張ってるんだな~♪」
「フフン……もっと褒めてくれてもいいのよ?」
「エイトハンターさん、クロメノコさん、投げ銭ありがとうございます!」
コメントも続々と流れてくる。
投げ銭もチラホラと見られ、エクスユニル攻略配信は大成功──かに思えた。
──配信終了後、私達は急上昇ランキングを見て目を疑うことになる。
■■■
街の噴水広場。
そのベンチに腰掛けて、私はフルライブの急上昇ランキングと睨めっこ。
エクスユニルとの戦闘は上手くできたつもりだったけど、まさかのランク外。
失速の原因は──。
「攻略組が第三ダンジョンボスを討伐したみたいね……」
コユは爪を噛み、私以上のしかめっ面でランキング上位を睨みつけていた。
「第三ダンジョン……最前線だね~」
「えぇ、レベル60から70を解放するための第三ダンジョン《旧アルファス城塞跡》……ベータの時はここ止まりだった。まぁ、だからでしょうね……クリアされたと聞いてたくさんのプレイヤーが見に行ってるんだわ」
攻略の最前線と言われていた第三ダンジョンの配信。
最大16人のレイドパーティーを組み、それぞれが配信を行ったことで1位から16位は軒並み《旧アルファス城塞跡》で埋め尽くされていた。
上位陣の最高視聴者数は10万人をゆうに超える。
その後、ここぞとばかりに多くの配信者が《旧アルファス城塞跡》の攻略に乗り出し、結果──第一ダンジョン《神獣の大森林》の攻略をしていた私達は埋もれてしまった……。
「どうすれば……っ」
せっかく兆しが見えてきたところだったのに、ただこの日──彼らとの配信時間が被ったことが原因で埋もれた。
運が悪かったで片付けるのは簡単だ。
でも、その運を掴み取るための努力を……私はしていただろうか?
今回の配信はコユのアイデアであって、私自身は何もしていない……何も。
あぁ……まただ。また何もできていない。
相手はコユが言っていたプロゲーマー。
私達よりもフルダイブゲームの経験が多く、洗練された動きは見た者を魅了する。
彼らは運でここまで上り詰めたわけじゃないんだ。
「……ヒメ、コユ。私、今日はもうログアウトするよ。いろいろ考える」
「考えるって……」
「私のミスが原因かもしれない。せっかくコユが企画してくれたのに、ごめんね。でも今日は楽しかったよ」
「ちょ、待ちなさいカナメ──!」
そう呼び止められた時には、私の指はログアウトボタンに触れていた。




