表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/60

#02. 攻撃ヒット時、1Gがドロップします。


 キャラクタークリエイトは手短に済ませる。

 現実の体をスキャンして──あ、おっぱい盛れるんだ……? ふぅ~ん……?



「……2カップくらい上げとくか」



 せっかくだしね? うん。

 数値を弄ると、私の胸はそこそこ立派に成長した。



「ま、まぁゲームだし……? ちょっとくらいおっきくしてもバチは当たらないよねぇ!」



 誰が聞いている訳でもないのにそんな言い訳をして、残りの設定を済ませた。


 金髪をポニーテールにして、瞳の色は赤に。

 身長は弄ると動きづらそうだからリアルと同じく157cmのまま。

 プレイヤー名は……本名は避けるのがネットマナーか。

 でも考えるのめんどくさいな……金生(かなう)ユメ……あっ。



「略して《カナメ》でいいや」



 思いつきにしてはなかなか良さげ。

 こうして私は攻略サイトで紹介されていた強そうな武器(ハルバード)を担いで、いざデュエルダイバーズ・オンラインの地に降り立った。



  ■■■



「──よくぞ現れた、ダイバーよ」



 壮大なオープニングから場面が切り替わり、いつの間にか片膝を突いていた私の前で、王様っぽい人がそう言う。

 周りは絢爛豪華な作りをした部屋……謁見の場ってことかな。

 さすが王城。どれもこれも高そうだなぁ、全部売ったら幾らくらいするんだろ……。



「ダイバー殿。この世界は増え続けるモンスターによって未曾有(みぞう)の危機に瀕しておる。もはや我らの手では止められまい……どうかこの地を救って欲しい」



 これはデュエルダイバーズ・オンラインのメインストーリーだ。

 異世界、つまり現実世界からやって来た私達はゲーム内では()()()()と呼ばれる。

 意識を落としてログインしてることもあるし、夢の中のような……それこそ本当に異世界に来たみたいでワクワクしてくる。



「もちろんです王様。私がこの地を救ってみせましょう!」



 承諾の意味を込めた言葉を投げると、王様の頭上に黄色いアイコンが現れる。

 無事、メインストーリーが進行したみたいだ。

 ここで断るとメインストーリーをスキップしてプレイすることもできるけど、メインストーリーは進めることで報酬金が手に入るからやります。



「そなたの勇気、心から尊敬する」



 王様がそう言うと、片手を上げてローブを着た男を呼ぶ。

 その人は見るからに魔術師っぽい。杖とか持ってるし。



「我が国の魔術師がそなたにスキルを授けよう。希望を言ってみるがよい」



 来た。初期スキル獲得イベント。

 ここで貰えるスキルは何万通りもあるらしく、希望に沿ったスキルが手に入る。

 ただ、あまりにも強すぎる効果を希望すると選出率が大幅に低下してハズレスキルを引くことになるから注意するように、って攻略サイトに書いてあったな。



「お金が欲しいです!!」



 簡潔かつ欲望に忠実な希望を言ってみた。

 めちゃくちゃ強い攻撃スキルとか、使い勝手のいい回避スキルとか、そんなものはどうだっていい。

 今の私が欲しているのはお金!

 DDOの中の通貨で言えば『(ゴルト)』だ。



「よかろう」



 王様が頷くと、魔術師は聞き慣れない言語で詠唱を始める。

 私の足元に大きな魔法陣が現れ、光に包まれる。

 これが私の金欲を満たしてくれる第一歩……。

 いったいどんなスキルが──!



『スキル【ゴルトライザー】を獲得しました。

 攻撃ヒット時、1ゴルトがドロップします』

「おぉ! ……1ゴルト?」



 1……たったの1……?

 つまり……0.01円ってこと?

 あ、王様も魔術師さんも気まずそう。



「その……なんと言いますか……申し訳ない……」



 まぁ、ランダムだから仕方ないよね。

 それに換金システムがあるならこうでもしないとバランス取れないもんね。

 スキルの再選出(リロール)はできないけど……うん。

 魔術師さんは悪くないよ。



「……少ないが、これは旅の資金に使うといい」



 眉を八の字にした王様が玉座の手すりから軽く手を上げると、騎士のひとりが袋を持ってきた。

 せめてもの慈悲だろうか……袋はずしりと重かった。



「あっ、ありがたく……頂戴いたします……!」



  ■■■



 意気消沈しかけたけど、慈悲深い王様のおかげでなんとか立ち直った。

 受け取った袋を開くと金色に輝く硬貨がぎっしり詰まっている。

 私の所持金は早くも『20,000G』だ。

 リアルマネーで言えば200円程度。

 換金は1,000円からなのでまだまだ届かない。

 札束もいいけど、こういうひと目で価値があるとわかる金貨も愛でがいがあるなぁ。

 紙では得られないこの確かな重みは心地いい……。 



「それに塵も積もれば山となるって言うし、このスキルも使えないことはないよね」



 実体化しているゴルトの入った袋をトントンとタッチすると光に変わって収納される。

 ……ホントに収納されたよね?



「メニュー呼び出し……ふぅ、よかった、消えたわけじゃないね」



 空中に現れた薄いパネルを震える指先で操作し、しっかり所持金を確認。ホッと胸を撫で下ろす。 

 ついでにステータスからスキル【ゴルトライザー】を見ておこう。



「永続発動……攻撃が当たりさえすれば1ゴルトがドロップか」



 それ以上のことは書いてないけど、このゲームはスキル強化もできるし、まだ伸びしろは残ってる。気落ちするには早いはず。



「よし。となれば、さっそく試してみるかー!」



 街の大きな門の向こう側、広く豊かな草原へ向かう。


 私が背負っている武器、ハルバードは槍と斧が一体となった長柄武器。

 槍で突くも良し、斧で叩き斬るのも良し、斧の反対側……鉤爪で引っ掛けたりも出来る優れ物。

 攻略サイトによれば万能武器だ。

 これさえあれば勝ちですわ。



「おーいそこのゴブリンくん、ちょっとジャンプしてみなよ!」

「ぐぎゃっ?!」



 ヤンキーのカツアゲみたいなことを言いながら、私は緑肌の小鬼、《ゴブリン》の反応を見る前にハルバードで斬り上げた。


 ──チャリン。とゴルトのドロップ音が響く。



「すごい! ホントに出てきた!」



 怯んでいるゴブリンへ追撃すれば、さらに1Gゲット。

 攻撃すればするほど、ジャンジャンお金(コイン)が降ってくる。

 運動は好きだけど、こんなに激しく動けるのはやっぱりゲーム……フルダイブだからかな。

 大きな武器を豪快に振り回すのは案外楽しい。


 ゴブリンのHPを削り切るとその体は白く輝き、ポリゴンとなって爆散。

 すると今度は討伐報酬が降り注ぐ。



「お金の雨だ……」



 報酬金額は100G……リアルマネー換算で1円。

 見た目ほど高い金額ではないけど、それでも討伐時の消滅エフェクトに混じった美しい金貨(ゴルト)の雨は、なかなかどうして気分がいい……!

 リアルでやろうにも当たったら痛いし、投げ飛ばして無くしたら数日は寝込む。



「ああ……っ! これだよ! これ!

 これこそ現実じゃできない、ゲームならではの愉悦っ!」



 お金を浴びるなんていう大富豪のような体験に、胸の高鳴りが抑えきれない。

 しかもこのドロップしたゴルトは貯めれば現実になる。



「ふふ……ふふふ……っ」



 この騒ぎで他のゴブリン(カモネギさん)がワラワラと集まってきた。

 ちょうどいい、この雨をもっと浴びたかったんだ。



「ほらほらほらぁ! まだ出せるでしょ! 早く出しなってぇ……っ! 出したらスッキリするからさぁ!! 主に私がね!!!」



 ハルバードを振り回す。

 ゴルトがドロップする。

 ゴブリン達を蹴散らす。

 血の雨の代わりに、お金(ゴルト)の雨が降ってくる。


 あぁ、体が火照って仕方ない。


 これだけ暴れても誰にも怒られないし、暴れれば暴れるほどお金が手に入る。

 こんなにも楽しいものだったなんて、どうして今までこれを知らずに生きていけたのか不思議なくらいだ。

 高い買い物だったけど、お値段以上の楽しさ。

 このゲーム、買ってよかったなぁ……!



「あぁぁ……っ! このゲーム、さいっっこぉっ!!!」



 私は黄金時雨こがねしぐれを浴びながら、感謝の意を示すべく巨斧を高々と掲げた。




◤PN 《カナメ》 Lv.4

 所持金『24,320G』(換金時:243.20円)

 武器『古びたハルバード』

 防具『色褪せた旅人の服』


 所持スキル【ゴルトライザー】    ◢


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
攻撃当たるたび0.01円て多くね?って思うけど、少なく感じるものなんかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ