#16. 勇気の証明
◇今回はコユ視点です。
そこは、相当の物好きでなければ来ることもないような、街の端っこの広い路地。
住宅に挟まれた石畳の地面。何の変哲もないバトルフィールド。
場所なんてどこでもよかったけど、邪魔が入らないようにって彼女は私の手を引いて連れてきた。
まるで逃がしてくれないような力強い手で。
喧嘩の半額セールなんて挑発をしてきたプレイヤーが、さっきまで私の手を引いていたあの子が、今度はその手でチェーンソーを持つ。
片手には金色に輝くコインがあった。
「──【コイントス】」
決闘のカウントダウンが始まると、1枚のコインが高く飛んでいく。
金髪赤眼チェンソー女──コインを撒き散らしながらの一風変わった戦闘スタイルと、なぜか下に何も穿かないインナー晒しスタイルの変な子。
隠しダンジョンをクリアし、一躍有名になった新米配信者。
「【起動】」
対する私は……何があるんだろう。
私が見下ろしているはずなのに、今はあの子がとても大きく見える。
『3……2……1……DUEL START!』
「【ルードバスター】!!!」
瞬間、今度は向こうから先制攻撃を仕掛けてきた。
両手斧系武器の攻撃スキル……あのチェーンソーって斧扱いなのかしら。
「当たるはずないでしょう。それは命中率が低いスキルよ。あなたがどれだけ狙いを澄ましても、システムが当てないことを選べば当たらない。いえ……それ以前の問題ね」
大振りのモーションは、見てから回避できるくらい簡単。
ましてや飛べる私に当てることなど、有り得ない。
空振ったチェーンソーは突風を巻き起こし、吹き飛ばされないよう私は盾の影に身を隠し、しがみつく。
「その盾、ちょっとズルいんじゃない?」
「ズルじゃないわよ。これはこの盾の標準機能。盾に付加されてるスキルを使って飛ぶの」
《機械仕掛けの晦冥》──盾カテゴリ武器でありながら、装備すると防具を装備できなくなるという致命的な欠陥を持つ、タンクから嫌われていることで有名な盾。
だから、昨日の【ルードバスター】は一撃でHPがごっそり持っていかれてしまった。
「というかズルいのはそっちでしょ……」
たったの1Gを消費して裏表を当てるだけでバフが盛れるなんて。
こっちは飛べるという優位性こそあるけれど、実のところ浮遊中はMPを消費し続けるから永遠には飛べない。
STR要求値も高く、MPを消費し続けるからなるべく長く飛ぶにはINTも上げないといけない。
物理のSTR、魔法のINT……本来ならどちらかを集中して上げて、片方は少しだけステータスポイントを振ればいいだけなのに、この盾を使うには両方を上げなきゃいけない。
ほんと使いづらいことこの上ないわ。
けど、あなたはそれを知らない。
相手のHPは分かっても、MPは見えないのだから。
「さあ、どうするの? お得意のコイントスであなたも飛べるのかしら!」
あのスキルはゴルトを消費してランダムなバフを得ることができるもの……私がこうして飛べる以上、このゲームではプレイヤーの浮遊・飛行が想定されてる。
彼女が飛べないとは限らない。
──けど、果たしてコイントスが使えるかしら。
《濫伐者カリカーン》の攻略を見た時、あなたは大量のゴルトを消費して、しかもその元を取れていない。
10万か、20万か……使ったとしても限界があるし、これ以上は使うはずがない。
ゴルトライザーを発動させるためにまた自傷したら、その時は今度こそ油断せずに……圧殺させる!
「【加速】──ッ!」
前の不意打ちとは違う。
MP消費速度が上昇する代わりに、飛行速度も上昇。
飛来する鉄の塊を喰らいなさい!
「近接武器だと、飛んでる敵を倒すのってめんどくさいなぁ。全然届かないんだから」
「なっ──」
私の盾が、チェーンソーの刃にガリガリと削られて火花を散らしていた。
まさか、受け止められた……!?
「だから相手の攻撃に合わせてこっちも攻撃をする。前回のようにはいかないよ」
違う、そんなの当たり前だ。
カウンターなんて珍しくもなんともない。
でも、なんで受け止められるのよ。
「私のレベルは60、あなたはたかだか30かそこらのレベルで、私のSTRを上回っているって言うの!?」
せいぜい一瞬、止められるだけだ。
たとえSTR極振りでも、このレベル差は埋まらない。
考えられるとしたら……いや、そうとしか考えられない。
『【コイントス】46,000枚目に成功しました』
「ほとんど失敗しちゃったか。でも足りる」
いつ発動したの……?
考えられるとすれば……初撃のルードバスター。
私があの子から目を離したのは、あの時だけだ。
いや、それよりも、なんで使うの……使えるのよ。
「あなた、馬鹿なんじゃないの!? たった一度の決闘で、有り金全部使う気!?」
これはボス攻略でもなんでもない。PvPだ。
しかも報酬金はなく、あの子が賭けたものは『私が払うはずだったコラボ出演料の帳消し』という意味不明なもの。
それなのに、どうして。
「──押し切るッ!」
「っ、【オートガード】!」
グン、と揺れる盾。
バランスを崩した私は盾から落ち、すぐに自分を守るよう命令する。
あぁ……でも、間に合わないわね──。
「あなたの方が、速いわ」
チェーンソーに斬られる感覚はこの上なく不快だったけれど、自分の体から無数のコインが落ちていくのを見るのは、なんだか不思議な気分だった。
『GAME SET──Winner《カナメ》』
私……負けちゃったのね。
でも、悪い気分じゃない。
「なんで使ったの、コイントス……」
「使う価値がある。そう判断しただけです」
「そう……10万円の女ってわけね」
「いや、円換金するなら1,000円の女です」
「やっすいわね!?」
考えてみればそうだけど。
そうだけど……なにこのやりとり。
調子狂うわね……。
「じゃあお願い、聞いてもらいますね」
「……そういえばそんな話だったわね。いいわ、迷惑かけちゃったし……なんでもしてあげる」
この際、しっかり終わらせよう。
後腐れなく、もうお互い干渉しないように。
そう、思っていたのに。
「私と一緒にゲームしてください」
勝者は意外にも、そんなことを言ってきた。
「は……あ……? ちょ、あなた……何言ってるの? 出演料を帳消しにして、お願いすることがそれ!? というかゲームなら今もしてるし、いったい何がしたいのよ……」
「だから、その……友達になってください……!」
「は……はあ……? なにそれ……意味わかんないわ……なんで、友達なんかに……」
やめろ、にやけるな、私。
「きっと楽しいから。一人でも充分楽しいけど、私はヒメと一緒に遊んでいるのが楽しい。だからコユさんともお友達になりたいです」
こんな簡単に絆されてどうするの。
ダメよ、聞いちゃダメ……断って、それで終わり。
この関係は終わりなの。
あとはいつも通り、私を見てくれる人のために頑張って、いいねとかたくさんもらって、褒めてもらって…………でも、この子はずっと私を見てくれていたな。
「…………なんで、そこまでしてコユと友達になりたいのよ」
出会って間もない。
ただ気に食わなくてぶつかり合っただけの人。
……いや、私が勝手に目の敵にしただけ。この子は何も悪くない。
だからこそ、なんで友達なのかわからない。
全然わかんないのに、どうしてこんなに……たまらなく嬉しいと思ってしまうの。
「今の勝負が楽しかったからです。誰でもいいわけじゃない、コユさんと一緒にこうしてゲームをしたのが、私にはとても楽しく思えたからです。汚れも凝りも無くなれば、きっと私達は良い関係を築けます。──だから」
手が差し伸べられる。
あの時は振り払った手……。
「一緒にゲームをしましょう」
そう言って、慣れてなさそうな笑顔を向けてくる。
あぁ……そうか。
この子はあの時……勇気を出して、私に声をかけてくれたのね。
「……次は勝ってやるわ。カナメ」
私は、カナメの手を取った。
力が入っていて、カナメの緊張が伝わってくる。
「はい……コユさんやっと名前呼んでくれましたね」
「う、うっさいわね。友達とか言うなら『さん付け』やめなさいよね。なんか痒いのよ」
「じゃあ……無くなっちゃったゴルト稼ぎ、手伝ってよね。コユ」
「……足引っ張るんじゃないわよ」
ゲームも配信も、やっぱりソロの方が気楽だ。
でも……マルチプレイも案外悪くないって、そう思った──。
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それでは次回も楽しんでいってください!
──YOU WIN!




