#13. 大盾の少女、現る!(なんか敵意剥き出しなんですけど)
──そこは、学校から徒歩10分圏内。
手入れの行き届いた綺麗な花壇が道行く人の目を奪い、ふわりと漂うコーヒーの香りで中へと誘う魔性の喫茶店《喫茶しらかぜ》。
そう、私のバイト先である。
「お待たせしました。こちら本日のケーキセットです」
「まあ、今日はショートケーキなのね。いちご大好きなの! 嬉しいわぁ」
「わ、私も好きです。ごゆっくりどうぞ……」
常連のおばさまにコーヒーセットを運び、ぎこちない笑顔を向けてカウンターの方へ戻る。
コーヒーカップを磨いていた男性と目が合った。
こちらの綺麗に色が抜けた銀髪をオールバックにしたクール・ダンディなおじさまは風間店長。
《喫茶しらかぜ》の敏腕マスターだ。
「金生さん。接客慣れてきたねぇ~」
風間店長はいつも物腰柔らかな口調で、にこやかに褒めてくれる。
人見知りが抜けない私としてはあまり実感のない話なんだけど……。
「そ、そうでしょうか……まだぎこちないと思うんですけど」
「いやいや、藤原さんがサムズアップしてくれてるよ」
「えっっ」
常連のおばさま──藤原さんの方を振り向くと、なんともにこやかな笑顔で力強いグッドサインを送ってくれていた。
「は、恥ずかしいです……」
「あははっ、成長している証だよ」
「──そうそう。もっとドンと構えていいんだよ」
店の裏から私達の会話に入ってきたのは、服越しでも分かる筋骨隆々とした体つきのイケメン。
身長は180cm以上あるそうで、157cmの私と比べるともはや彼はクマだ。
「おや五十嵐くん。もう倉庫整理終わったのかい?」
「えぇ、これくらいは朝飯前ですよ」
そう自信満々に言った五十嵐さんは右腕ガッツポーズ。
「あっ、五十嵐さん、この前はシフト変わってもらってありがとうございました」
「いいよいいよ。そのために僕がいるんだからね」
「そんな大袈裟な……なにか飲みます?」
「お、先輩っぽい。──いいんですか?」
「一応先輩ですので。いつもは五十嵐さんが後輩っぽくないから敬語とかやめてもらってますけど、ちょっとだけこういう先輩面もしてみたかったんです」
「そっか。なら後輩として、先輩のお言葉に甘えさせてもらいますね。コーヒー、ブラック。ゴチになります!」
「マスター、彼に美味しいブラックコーヒーを」
「かしこまりました~」
最近バイトに入ってきた五十嵐さんには急にシフトを代わってもらったりといろいろお世話になってしまった。
そのお礼を風間店長に淹れてもらうのは……、
まぁ、いいよね……?
「──じゃあ、お疲れ様でした」
「お疲れ様、金生ちゃん。コーヒーありがとう。でも今度また急用が入って来れそうになくても気にしないでね」
「は、はい。ありがとうございます」
日も暮れ、客足も落ち着いた頃に退勤。
しかし……五十嵐さんはいつでもいるけど、なんであんなに働いてるのだろうか。
暇……いやいや、あんなに仕事ができる人はそういない……。
きっとコーヒーが好きなのだ。
■■■
急上昇ランキングに載ってから数日。
配信を始めると多くの視聴者が見に来てくれるようになって、私は少し緊張しながらもDDOをプレイする。
……んだけど。
「あんたか、俺達が先に見つけていた隠しダンジョンを攻略しやがったのは」
そんな難癖をつけてくるプレイヤーに声を掛けられるようになってしまった。
ちなみに彼らが隠しダンジョンを見つけたと言うのは嘘だ。
だってあのダンジョンは、高威力の爆発系魔法を破壊可能なダンジョン壁に当てなきゃいけない。
この人達の武器は剣や盾など、見るからに近接戦闘型。
ヒメのような魔法職は一人も見当たらない。
またか、と私は肩を落とす。
こうやって声を掛けられるのはこれで三回目だった。
「カナメちゃんどうする~? 処す~?」
「そんな物騒な……」
できればあまり対人戦はしたくない。
ゲームとは言え、ゴブリンを相手にするのとは訳が違う。
相手は人間らしい人間。
モンスター以上に表情が目まぐるしく変わるし、なにより喋る。
そんな相手を物理武器で殴るのは気が引けてしまう。
が、相手はそんな私の心情など知る由もなく……。
「あんたにデュエルを申し込む!」
街中でそう叫んで、《決闘》の承諾を要求してきた。
私の目の前に現れた半透明のパネルには、『《決闘》を申し込まれました。挑戦しますか?』とYes/Noボタンが表示される。
「俺が勝ったら隠しダンジョンで手に入れたレアドロップをトレードしてもらおう」
「それは困ります」
「《決闘モード》はプレイヤー同士で行う真剣勝負。『何かを賭けることができる』けど、お互いが対等と思わないと成立しないんよ~」
「ふん、元は俺達が手に入れるはずだったものだ」
これ勝ってもごねそうだな……面倒だ。
まぁこれだけたくさんのプレイヤーがいたら、こんな輩もひとりやふたりいるもの。
これも慣れていくしかないか──と、そう思った時。
「《不死鳥の火花》を賭けるわ」
突如としてデュエルの賭けを提示した少女の声と共に、男衆を掻き分けた大きな盾がズンと地面に突き刺さる。
──黒い盾だ。
私の背よりも大きく、金属の塊……壁みたいな大盾。
そんな盾の裏から、まるで雪を被った桜のような……淡いピンク色の髪の女の子が出てきた。
それを見た男は息を吹き出し、嘲笑うように話し出す。
「おチビちゃん、嘘はいけないよ。《不死鳥の火花》? そいつは持ってるだけでデスペナルティを無視して即時復活できるレアアイテムだ。あの鳥を倒すには高難度の天空ダンジョンに行かなきゃ──」
「は? なに勘違いしてるの。コユが話してるのは、そこの金髪女よ」
そう言って私を指さす少女。
コユ……?
あ、名前を一人称にしてるタイプの子か。
珍しいな……最近だとVTuberさんくらいでしか聞かない。
コユさんは、淡いピンク色の髪を風になびかせながら私をキッと強く睨んでくる。
こんなに敵意剥き出しの視線を受けているのにあんまり嫌じゃないのは、失礼だけど凄く小さい子だからなのか……それとも。
「なに? そんなにジロジロ見て。変なところでもあるのかしら」
「見てるのはそっち……いや、すごい格好だなと思っただけです」
かなり、目のやり場に困る服だ。
白いスカートがシースルーになっていて、太ももがうっすら透けて見えている。
ギリギリ見えない、けど激しく動くと絶対に見えてしまうであろう透け具合。
ヒメに選んでもらった私の服も大概だけど、この子もかなり、攻めた格好だ。
目のやり場に困るけど、気になって見てしまう。
敵意とか悪意とか、そんなのどうでもよくなる。
「……調子に乗るなよ。こいつと戦うのは俺だ」
「はぁー、めんどうね。ならどっちが先に挑むか、これこそデュエルで決めましょ」
「はっ、望むところだ。泣かせてやるよ」
大盾少女は男衆に向き直ると、決闘を開始するためにメニューを呼び出す。
「…………」
そして、空いてる片手──ちょうど盾で隠れている左手が、「早く行きなさい」とでも言うかのようにシッシッと動いた。
「……カナメちゃん」
「ん……そうだね。行こう」
ヒメに促され、私達は彼女の善意に甘えてその場から静かに退散する。
あの子、助けてくれた……?
でも、どうしてだろう。
あの敵意に満ちた目は……嘘や演技ではなかったはずだ──。
『今のって寝転部コユ?』
『ほんとだコユ氏だ』
『ふむ、わからせてみたいメスガキですね』
『↑面会には行くね……』
「ねこ……え? なんて?」
『ねころべ こゆ』
『DDOのベータテストにも参加したVTuberだよ』
『なんかぐーたらしてそうな名前だな……』
『ロリktkr』
どうやら私を助けてくれた少女は、なんとも不思議なお名前をしたVTuberさんだったようです。
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これからも、皆様に楽しんでいただけるよう精進していきたいと思います。
それでは、また次回もお楽しみに!
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