#12. 急上昇ランキング……2位!(それでも大きな進歩です)
『250,000回』
『80,000人』
これは先日、私ことカナメがヒメと行った未踏破の隠しダンジョン《濫伐者の柩》をクリアしたあとに増えた配信動画──いわゆるアーカイブ──の再生回数と新規チャンネル登録者数だ。
フルダイブ配信サービス《フルライブ》。
日本国内だけで6000万人以上の利用者がいるそのソーシャルアプリには『急上昇ランキング』という今最もアツい配信動画がピックアップされるシステムがある。
1,000人ほどのチャンネル登録者数だった私がここまで伸びたのも、このランキングに載ったからだ。
「じゃじゃじゃ~ん! ここっ『カナメch』で~す!」
「うわ、ホントに載ってる……」
私のアーカイブは急上昇ランキング2位。
ヒメのアーカイブは5位で、再生回数が多いのは《濫伐者カリカーン》との戦闘は後衛支援職のヒメ視点が見やすいからだろう。
でも、あれだけやって1位2位を独占できなかったのは悔しいな。
「やっぱりわたしの見立ては正しかったよ~!」
「いやさすがっす、ヒメプロデューサー」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ、カナメクン!」
メガネをクイッと押し上げるような仕草とクサイ演技をするヒメに、思わずクスリと笑ってしまう。
「……ありがとねヒメ、私を引っ張ってくれて」
「お、およよ……? な、なにかな~? いきなりそんなこと言われたら照れるぜ~」
「そういえばお礼言ってなかったなって思ってさ」
これは私の力だけじゃ成し得なかったことだ。
まだヒメの隣を歩いてもいいかは分からない。
きっとまだその資格はないけど、道は見えた。
「私、もっと有名になるよ。めっちゃ稼いで、それで……いつかヒメをディナーに誘ってあげる」
「へっ──」
突然、顔を真っ赤にしてフリーズするヒメ。
金魚みたいに口をぱくぱくさせたかと思えば、顎に手を当てて首を傾げる。
「……デートだ……それはもうデートと言うことでは……? でもユメちゃんがそこまで考えてるかな……いやない……ユメちゃんに限ってそれはない……純粋……そう、これは純粋なお食事会へのお誘い……」
なにか呟いているけど、まぁ楽しみにしてくれればいいか。
「ということで、これよりカナメは大人気配信者になるべくチャンネル登録者数100万人を目指します」
「お、おぉ……! やる気ステータスMAXだ~!」
夢は大きく。
しかし確実に、叶える。
手元のコインを弄び、弾く──。
「まぁ達成できるかどうかは──」
数回転ほど宙を舞い、陽光に煌めく金貨をキャッチ。
恐らく表。そして、やはり出てきたのは表側。
ノンストップ・ゴールドラッシュ、大当たりだ。
まぁ、幸先がいいのは、いいんだけど……。
「……うん。あのさヒメ、私の気のせいだったらいいんだけど……」
「どうしたの~? 注目されてるのがそんなに気になる~?」
「気になるよ! わ、私が人見知りだって知ってるでしょ……!」
咄嗟にヒメの後ろに身を隠す。
これで視線は防げてたとしても、ヒソヒソ声はしっかり聞こえてくるわけで。
「おい……あれが昨日の……」
「マジで隠しダンジョンクリアしたの?」
「武器は両手斧って聞いたけど装備してないな……」
それが悪感情じゃないのはよかったけど、やっぱり人の目と声は慣れない。
「ごめんヒメ、盾にしちゃって……」
「気にしなくていいよ~。でももう何万人の人に見られてるんだけどな~」
「あれはこっちから見えないし、コメントだし……」
「それにこれからもっと人気になるんだから、今のうちに慣れておいた方がいいかも~?」
「うぐっ、わ、わかってるって。善処する……」
当面の目標はヒメ以外の人ともちゃんと話せるようになること、かなぁ。
なんて弱気になりながらも、隠しダンジョンをクリアしたプレイヤーという肩書きはちょっとだけ私の心を浮つかせるのだった。
■■■
──ぱちくりと目を瞬かせ、姫園ユリは自室の高い天井を見つめる。
部屋は暖かく、快適な温度と湿度が保たれていた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「……あーうん、ただいま~」
ずっと部屋に待機していたのか、クラシカルなメイド服に身を包んだ二十代半ばの女性に向けてさっぱりした挨拶を済ませたユリ。
大人が三人、川の字で寝ころべるほど大きなベッドから立ち上がると、メイドはユリのパジャマを脱がせていく。
「遠野さん、パンツは脱がせなくていいです」
「失礼しました。では」
「ブラも取らなくていいです」
「はい。ですがそろそろ新調するべきかと」
ユリの専属メイド、遠野菫子は慣れた手つきでブラのホックを外す。
ゲンナリした表情のユリは新しいブラジャーを着せられ、その良すぎるフィット感に「またこの人勝手にオーダーメイド品作ってるよ」と言いたげなため息を吐いた。
「……五十嵐は?」
「彼はアルバイトです。《喫茶しらかぜ》の」
「あ、そっか。ユメちゃんしばらくこっちに入り浸りだったからな~。そろそろバイトも再開すると思うけど、日にちは減ると思うから五十嵐にはもう少しシフト入ってもらうことになるかな」
「彼、一応お嬢様のボディーガード役ですので、あまりコキ使うと自分の役職を忘れてしまうかもしれません。私はお嬢様にならコキ捨てていただいても構いません」
「あ、はい大丈夫です~」
「くぅっ……今日もお嬢様の冷めた瞳は麗しいですね……」
表情にはあまり変化が見られないが、声には艶があり、頬を赤く染めハァハァと息を荒らげるメイド遠野。
「遠野さん、それ気持ち悪いのでやめてください」
「……ふぅ。それで、彼女……金生ユメのご様子はいかがでしたか?」
一瞬で冷静さを取り戻せるのはメイドとして優秀だからか。
優秀なら初めから瀟洒であってほしいが。
「まだ周りの目や声を気にしてるかな~。昔から変わらないよ」
ワンピースに着替えさせられたユリは遠野と共に部屋を出て、広い廊下を歩きながら言う。
途中、すれ違った他の使用人が頭を下げようとするたび手で制しながら。
「でもやっぱりユメちゃんはすごい……一度決めたら誰よりも強い勇気でぶつかっていくんだ~。それが自分の苦手なことだろうとね」
「お嬢様がそこまでの評価を……私も会ってみたいものです」
「早めに会っておかないと、遠い人になっちゃうかも」
ある一室に着くと、遠野がその扉を開く。
部屋は会議室のようになっており、大きな机に椅子がいくつも囲んでいた。
机の上にはプロジェクター。
椅子には何人か使用人が控え、ユリが部屋に入るや否や一斉に立ち上がって頭を垂れる。
プロジェクターで大きく映し出しているのは、金生ユメの隠し撮り写真。
「皆さん、頭を上げてください。言ったでしょう。特別扱いはしないで、と」
「ユリお嬢様、そうは参りません。これは礼儀なのです」
「はぁ……わかってます。言ってみただけ」
ユリは使用人達に座るよう促し、パソコンを操作してプロジェクターからの映像を切り替える。
フルライブの急上昇ランキングだ。
2位にはカナメのアーカイブがある。
「わたしとユメちゃんが友人になって、もう十年が過ぎました。ですがユメちゃんは身分差を気にし、そして人見知りの性格が災いして周りの目……周りからの評価に敏感になってしまった。これはユメちゃん以外を放置していたわたしの落ち度でもあります」
そう、姫園ユリは知っていた。
金生ユメが周りの目を気にして「自分にはユリの隣に立つ資格はない」などと思っていることを。
「結果として、高校生になったこの二年間……ユメちゃんはバイトに明け暮れ、過度なストレスを溜めてしまった結果、ショッピングによる爆買い散財でストレス発散。これでは、いつまで経ってもユメちゃんはわたしの隣を……胸を張って歩いてくれない。それはいけません、絶対に」
ユリは意を決したように、いつもののんびりしたオーラを消し去って、鋭い眼光で前を向く。
「さっき、ユメちゃんの意思確認をしました。彼女は上り詰めます。成り上がります。誰よりも高く、そして最も有名な配信者になります」
そうなれば、もうユメは人の目など気にしない。
「ユメちゃんが何も気にせず、わたしの親友であるために。そしていつかのディナーデートのために……!」
ダン、と机を叩いたユリは不敵に笑って──。
「『カナメちゃん大人気化プロジェクト』を実行しま~す♪」
そう高々と宣言するのだった。
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