022 - にゃぁぁぁぁ! -
022 - にゃぁぁぁぁ! -
「・・・酷い目に遭ったよぅ、エルちゃんも居ないし・・・ここはどこだろう」
私の名前はリンシェール・フェルミス、ステーションドックに侵入したベンダル・ワームに襲われていたところを禍々しいパワードスーツを着た謎の人に助けられ、雑に全身を洗われた後放置されています。
ようやく立てるようになってシャワー室の中を見渡すと高価そうな宇宙服洗浄機が置いてありました。
「勝手に使って大丈夫かな・・・お漏らししちゃったから服の中が気持ち悪いし、いいよね」
一般の洗浄機の倍はありそうな物々しい装置に近付きます。
「わぁ・・・すごい、最大5回も繰り返し洗浄してくれるみたい」
パネルの説明書きを読むと他にも様々な機能が満載になっていました、これ絶対高いやつだ・・・。
かちゃっ
かちっ
私は洗浄機に横たわり、腰のところに付いている2つの挿入口に洗浄器具を取り付けてスタートボタンを押しました。
こぉぉぉぉ・・・・
しゅこぉぉぉぉぉぉ・・・・
ぉぉぉ・・・
・・・
・・・
ピッ・・・洗浄が終了しました。
かちっ・・・
かちゃかちゃ・・・
「よいしょっ」
洗浄機から降りて私のブーツを探します、パワードスーツ野郎に足首を掴まれ逆さ吊り状態で脱がされたからどこかにある筈・・・お部屋の隅に無造作に放置されてるし!。
首から下の全身を包んでいる宇宙服の足裏は靴になっています、でもそのまま歩き回ると汚れるので普通は上からブーツを履いているのです。
ピッ・・・シャワールーム、ロックを解除します。
ぷしゅー
「・・・誰か居ますかぁ?」
ブーツを履いてシャワー室?を出ると宇宙船の通路のような場所に出ました、両側に扉があって人の気配はありません。
「勝手に歩いていいのかな・・・」
ずっとここに居る訳にもいかないし、エルちゃんの事も心配なので私は通路の奥に向かって進みました。
ピッ・・・主寝室、ロックを解除します。
プシュー
「開いた・・・」
「あ、リンちゃん!」
お部屋の中にはベッドに座って端末のモニターを見ているエルちゃんが居ました。
「エルちゃん!、わぁぁんエルちゃん聞いてよぉ、怖いパワードスーツの人が・・・」
「俺様の事か?」
「ひぃっ!」
声のする方に振り向くと通路に真っ黒なパワードスーツを着た人が立っています。
「あ、ニート、リンちゃんの介抱ありがとう」
「おぅ、面倒だったがシエルの頼みだから仕方ねぇ、感謝しやがれ」
雑に頭から丸洗いされただけで介抱された覚え無いですけど!。
「リンちゃん、改めて紹介するね、僕の船の操舵サポートシステムでN.I.T.T. - 2000、通称ニートだよ」
「え・・・これ、人じゃなくてサポートシステムなの?」
すぱこーん!
後ろのパワードスーツに後頭部を張り倒されました。
「わぁぁん!、痛いよぉ!」
「俺様に対してこれとは失礼な奴だな、このまま船外に放り出してやろうか!」
「2人とも喧嘩しないで!」
「・・・というわけで、ニートに頼んで助けに来て貰ったんだよ、ここはステーションに停泊してる僕の船の中だから安心してね」
「何度か中を見せて貰ったエルちゃんの船ってもっとボロ・・・いや、古かったから気付かなかったよ」
思わずボロいと言ってしまいそうになって慌てて誤魔化します。
「おじさんが殆ど新品みたいにしてくれたんだぁ」
そういえば知り合ったおじさんが船を傷付けたお詫びに改修してくれたって言ってたような・・・。
「それで、船の外・・・宙港はどうなってるの?、大騒ぎになってると思うんだけど」
ベンダル・ワームが検疫のところまで入って来たのです、入港ドックの中に居た他の人達がどうなったのか気になります。
「シエルの奴はベンダルが人を襲ってるところを見ちまうとおかしくなるから映像は見せてねぇが俺様はずっと監視してたぜ、聞きたいか?、床に頭を擦り付けて頼むなら教えてやらないでもねぇな」
「・・・」
何でこのニートと名乗るサポートシステムはこんなに偉そうなんでしょう、私はちょっとだけ芽生えた殺意を押し込めて言いました。
「私も映像を見るのは怖いな」
「実際に触れられたり犯された訳でも無いのに情けねぇ奴だな、シエルなんて・・・」
「やめて!」
続きを聞きたくなくて思わず叫んでしまいました、確かに私は二度襲われてもエルちゃんのおかげで無傷なのにずっとあの時のトラウマでベンダルが怖い・・・うぅ、悲しくて涙が出て来ましたぁ・・・。
フルフル・・・
「ニート!、何でリンちゃんをいじめるの?、もっと仲良く・・・とまでは言わないけど優しくしてあげてよ」
エルちゃんがニート(クソ野郎)を叱ってくれました、ざまぁ!。
「まぁいいだろう・・・シエルに免じて教えてやるから感謝しやがれ、入港ドックと検疫を含む宙港の建物は居住区から隔離されて完全閉鎖してる、観光船の中から出て来たベンダル・ワーム5匹のうちの3匹は衛兵や常駐の軍が始末したが2匹はまだ見つかってねぇ」
建物が居住区から隔離されたのなら街の住民や私のお家は大丈夫かも、でも中で働いてる同僚や船から降りていた旅行者は襲われているかもしれません、それに・・・。
「まだ2匹も残って・・・」
「旅客船や旅行者の中に貴族が居るからそいつらの救出が先らしいぜ、俺様がここのシステムを乗っ取って・・・いや、集めた情報だ、軍も貴族に被害が出たら責任問題になるから一般人は後回しになってるようだな」
「今乗っ取ったって言ったぁ!・・・それにシステムに無断アクセスするのは星団法違反・・・」
「細かい奴だな、また頭を殴られたいか?」
がしっ!
大きくて凶悪な爪の付いた手で顔面を掴まれました、痛いです!。
「にゃぁぁぁぁ!」
「だーかーらー、ニート・・・リンちゃんには優しくしてあげて!」
エルちゃんの言葉でクソ野郎が手を離してくれました。
「他の検疫窓口に居た女が2人、ベンダルに犯されて卵を流し込まれてたぜ、それからお前が居た検疫のとこに男がおかしな事を言いながら鉄パイプ片手にやって来て腹を串刺しにされてたな・・・」
「男?」
「小太りの中年だ、「リンちゃーん、今助けるから待っててねー」なんて叫んでたぜ」
どうやらスキナンジャー主任が私を助けに来てくれたようです、気持ち悪い上司だったのに少し見直しました、でも大丈夫でしょうか?。
「あ、それと「ベンダルに寄生されたリンちゃんを保護して一生養ってあげるんだ」とも言ってたな」
ちょっとでもいい奴だと思った私を殴りたい!、あいつは本当のクソ野郎でしたぁ!。
「検疫の女2人はまだ卵が孵化してねぇようだが救助が後回しになってるから処置に時間がかかるだろうな、気持ち悪い男の方も早くしねぇと死んじまうぜ・・・どうする?」
「どうするって言われても・・・助ける事はできるのかな?」
「俺様が出て行って・・・不本意だがこの船に乗せる、女2人はどこか別のステーションに運んで治療すればギリ間に合うかどうかってとこだな、男は貴族っぽいから運がよけりゃぁもうすぐ救助されるだろうぜ」
「助けに行ってくれるの?」
「お前の友人ならやってやらなくもねぇが俺様としては正直面倒臭ぇ、停泊中の船には待機命令が出てるからシステムに介入して出航記録を改竄する必要があるし卵が孵化したらお前やシエルが危険だからお勧めはしねぇ」
どうしよう、宿主にされるのは可哀想だからできれば助けてあげたい・・・でも、私に対して彼女達が行った数々の嫌がらせや悪口を思い出して・・・。
「貴方が面倒くさいなら別に友達じゃないし・・・助けなくてもいいや」
「そうか、手間が省けて助かるぜ」
私は酷い奴だ・・・それは自分が一番よく知っています。
・・・
「偶然ステーションにエルちゃんが居てね・・・うん、また助けられちゃった、閉鎖中は居住区の中に入れないから許可が出るまでエルちゃんの船でお世話になるつもり・・・大丈夫だから心配しないで・・・」
今私はエルちゃんの端末を借りてお母さんと通話しています、ベンダル・ワームの襲撃は居住区の住民に大きく報じられたようで、お母さんはとても心配していました。
いつになるか分からないのだけど一般の出入りが許可されるまではエルちゃんの船でお世話になると伝えます。
「エルちゃん、お母さんがお礼を言いたいって」
私は通信中の端末のところにエルちゃんを呼びました。
一度目のベンダル・ワーム襲撃事件の時から私はエルちゃんに返しきれない恩があるのです、それなのにまた命を助けられてしまいました。
「お久しぶりですおばさん・・・はい、大丈夫です・・・いえ迷惑なんてそんな・・・」
私はエルちゃんとお母さんの会話を聞きながらこれからの事を考えています。
今回の件で恐怖が刷り込まれてしまったからステーションの検疫ではもう働けないかもしれない・・・もしまたベンダル・ワームに襲われたらと思うと怖いのです。
でもそれだと別のお仕事を探さないといけない・・・。
「私の宇宙服を買う時お父さんに借りたお金もまだ返せてないからなぁ・・・」
買った時から身体が成長して窮屈になってしまったけれど、この宇宙服は私の年収のおよそ30年分なのです。
「・・・ちゃん」
「・・・」
「リンちゃん!」
「え・・・何?、エルちゃん」
「おばさんとはもう話さなくてもいいの?」
お母さんとのお話が終わったようです、端末のモニターにはまだ心配そうなお母さんが映し出されていたので私は大丈夫だと再度伝えて通話を切りました。
「僕は5日後にお仕事があるからそれまでに宙港への立ち入り許可が出ないと困るなぁ、久しぶりにお家でのんびりしたかったのに・・・」
「ごめんね・・・」
「リンちゃんが謝らなくてもいいよ、悪いのは全部あの化け物だから」
エルちゃんはそう言ってくれるのだけど、私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「待たなくても俺様がシステムに介入すればバレずに出航できるぜ」
私の背後で立っているニート?が不穏な事を言い出しました・・・。
「できれば悪い事はしたくないなぁ、まだここにベンダル・ワームを持ち込んだ犯人捕まってないでしょ、疑われるような動きは避けた方がいいよ」
確かにその通りです、私は同意するように頷きましたがニートは不満そうです。
「俺様は疑われるようなヘマなんてしねぇぜ!」
・・・本当に何でこいつはこんなに偉そうなの?。
仮に閉鎖が長く続いた時にはニートの偽装工作でエルちゃんはお仕事に出発し、私も同行する事になりました。
エルちゃんの隣に座って一緒に端末で宙港内の状況を調べているとニートが私に話しかけてきました。
「おいリン、呼吸や脈拍が速くなってるぜ、薬の効果が切れたんじゃねぇのか?」
何故か呼び捨てにされましたぁ!、それに・・・。
「何で私の呼吸や脈拍が分かるのよ!」
「そりゃぁお前の身体をスキャンしたからに決まってんだろ、それに白衣に入れてあった身分証を宙港のデータベースに照合したから身長体重はもちろん病歴や飲んでる薬の種類まで丸見えだぜ」
「なぁっ!」
「宿主・・・お前の場合はシエルの体液を定期的に摂取してたからベンダルの宿主と同種の依存症で毎日薬を服用しねぇと禁断症状が出る、それから過去のトラウマ・・・恐怖を抑える為に精神安定剤も飲んでるな」
私の個人情報が全部こいつに知られてるし!。
「シエルがお前の家で療養してた時に毎日2人でエロい事してたんじゃねぇのか?」
フルフル・・・
確かにエルちゃんと・・・えっちな事はしたけど苦しんでるエルちゃんを慰めようと思ったからで・・・。
当時の事を思い出したら身体が疼いて熱くなってきました。
読んでいただきありがとうございます!。
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
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〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
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