016 - あーしあさんはひきこもりたい -(挿絵あり)
016 - あーしあさんはひきこもりたい -
・・・定例配信を終了します・・・
わいわい・・・
「陛下ぁ」
「思ったより小柄な御方だね」
「聖帝陛下万歳!」
ざわざわ・・・
・・・
・・・
「はぁ・・・」
コツ・・・コツ・・・
「聖帝陛下!、今回も素晴らしい演説でした!、これで貧民どもの生活も向上しましょう、この私感動で涙が・・・」
「宰相、世辞はいい、それに民を「貧民ども」などと呼ぶな・・・余は少し疲れた、部屋で休む」
「はっ!、おいお前達!、陛下を宮殿内にお連れしろ!」
・・・
・・・
ガチャ・・・
「此処で良い、茶もいらぬ・・・一人にしてくれ」
バタン・・・
ぽすっ・・・
「はぁ・・・疲れた・・・」
初めまして、余・・・いえ、私の名前はアーシア・フィーネ・ユーノス、ここユノス星団における君主にして最高権力者・・・というのは皆がよく知る聖帝としての顔で、本当の私は少し人見知りな普通の女の子・・・。
・・・「女の子」というのはアレですね・・・私は今年で1561歳になるのですから。
訳あって両親から帝位を譲り受け、この星団を統治しています。
先ほど宮殿のバルコニーから行った演説は私の姿と共に星団中に生中継されていました、とても恥ずかしいです・・・でもお仕事だからやらないといけないの・・・。
「何で?、何あの突風・・・お顔見えてないよね・・・うぅ・・・」
私は自室のベッドに腰掛けて近くに置いてある端末を起動、4ちゃんねると呼ばれている書き込み自由の掲示板を開きます。
「・・・聖帝ちゃんスレ・・・いつも通り好意的なのが半分、批判の書き込みが半分かぁ・・・おっと先に確認しなきゃ、お顔見えてたら恥ずかしくて死んじゃうよぉ・・・」
0020 名無しの聖帝さん
見えた!
0021 名無しの聖帝さん
可愛かった、突風に感謝!
0022 名無しの聖帝さん
思ってたより幼い顔立ちだな
0023 名無しの聖帝さん
聖帝陛下prpr
0024 名無しの聖帝さん
しね
0025 名無しの聖帝さん
>>23
お前不敬罪な!
0026 名無しの聖帝さん
陛下可愛い、撫で回したい
0027 名無しの聖帝さん
>>26
通報した!
「あぅ・・・」
フルフル・・・
私は動揺する気持ちを落ち着かせ視線追従型カーソルを動かして動画サイトに切り替えました。
「ジュノチューヴ、聖帝素顔・・・検索・・・っ」
不安は的中、ありました・・・演説中に突風が吹き、フードがめくれて私の素顔がチラ見した瞬間を捉えた動画が!。
(今回のレオーネ星系反政府組織との停戦合意については・・・ひぅっ!・・・)
「あぁぁぁ!、そこで止めないでぇ!・・・は・・・早く爺やにお願いして動画の抹消を・・・えと、これって言論弾圧にならないかな?、でも消さないと余のお顔が星団中に・・・」
ぽちっ・・・
「爺や、早く来て、余を助けて・・・」
コンコン・・・
「入って・・・」
がちゃ・・・
「お呼びでしょうかお嬢様」
お部屋に入ってきたのは初老の男性、オーイヴォレー・アツーシー・・・彼は私が幼い頃からお世話をしてくれている専属の執事兼参謀なのです。
「わぁぁん!、爺やぁ、余のお顔が・・・お顔が星団中にぃ・・・早く消して・・・」
「無理でございます、この手の動画は消すと増えますので」
オーイヴォレー執事長・・・私が爺やと呼んで懐いている彼の言葉は無慈悲でした・・・。
「もうやだ・・・余はお部屋に引き篭もるの、お仕事もしないの・・・」
「龍帝陛下に怒られるのでは?、父様達に楽をさせてあげるのと御自分から希望して星団の帝位を引き継いだのに・・・」
「ぐすっ・・・えぐっ・・・だってぇ、父様達ちょっと長めの休暇を取るって出て行ったまま400年も音沙汰無いんだよ、酷いと思わない?」
「ノル・・・いえ、龍帝陛下は途方もなく長い時間を生きておられますからなぁ、時間の感覚が我々とは違うのです・・・陛下達にとって400年は我々の感覚で40日程度・・・あと200年もすれば戻って来られるのではないかと」
「あぁぁぁぁ!、もう限界!、大臣達は言う事聞かないで好き勝手やるし、宰相はいやらしい目で余の身体を見るの!」
「ほぅ・・・あのクソ虫がお嬢様をいやらしい目で・・・それは初耳ですぞ、今夜にでも爺がこの世から跡形も無く消して差し上げましょう」
「ダメ!、あの宰相は強欲で幼女趣味の変態だけど有能なの、個性的な大臣達を謎の手腕でまとめてるし・・・今消しちゃうと余のお仕事が今より増えるの!」
「では私はこれで失礼しますお嬢様」
「うん・・・ありがとう、爺や」
私に温かいお茶を淹れてくれた爺やがお部屋を出て行きました、疲れてるから寝ようかな・・・そう思ったのだけど・・・。
「今日は辛いことがあったからちょっとだけ気分転換しよう・・・余の嫁に癒してもらうの・・・」
ピッ・・・回線接続・・・ゲームモード・・・。
民の間で大人気のゲーム「セイキ・マッツ〜救世主伝説2〜」、聖帝たる者、民の娯楽も知っておかなければと興味本位でプレイしていたらハマってしまったのです・・・。
戦争によって文明が崩壊した世界を舞台に広大なオープンワールドを仲間と一緒に冒険しつつ、弱者にヒャッハーする悪党を退治・・・それはほとんどの時間を宮殿の中で過ごしている私にはとても魅力的な娯楽でした。
運営しているのはおじ様が経営しているレベルスカンパニー傘下の会社で「ニャムコ・エンターテインメント」、夢中になって課金してたら爺やに怒られたの・・・。
「お嬢様、ゲームは1日2刻までとします!、いいですね!」
爺やの声が頭の片隅で聞こえたような気がするけど今日の演説は上手くできたしちょっとくらいいいと思う、自分へのご褒美だ・・・私はゲームにログインしました。
「余の嫁・・・リリーちゃんはいつも可愛いでちゅねー、爺やに内緒で課金ガチャ回した甲斐があったの・・・あ、イベントは明日までかぁ・・・敵が強いから仲間と一緒に倒せば楽・・・」
本来このゲームは仲間と一緒にパーティを組んでプレイするのだけど私はずっとソロでやっています、ゲームとはいえ人見知りの私に協力プレイはとても難易度が高いのです。
「それにうっかり口を滑らせて余が聖帝だとバレたら大惨事・・・」
「・・・様」
「ていっ・・・それっ!・・・もうちょっとで倒せる・・・頑張れリリーちゃん!」
「お嬢様!」
「わひゃぁぁ!、じ・・・爺や・・・いつの間に余のお部屋に?」
「爺やに内緒で課金ガチャ回した甲斐があったの・・・辺りからでしょうか」
「ひっ!」
「お嬢様、少し爺とお話し致しましょう」
「わぁぁん!、ごめんなさい!」
・・・
ざわざわ・・・
「ヒャッハー、女だぁ!」
・・・
「ぐふっ!、畜生!刺された!」
・・・
「いやぁぁ!、誰か助けて!」
がしゃーん!
ざわざわ・・・
・・・
「・・・もうやだ、帰りたい」
「薬が無いから買いたいって言ったのシエルだろ、これから売ってる場所に連れて行ってやるから黙ってついて来い」
俺の名前はベネット・ライアスだ。
今俺とシエルはハンターギルドから出て荒廃したスラム街を歩いてる、俺にとっては見慣れた街の光景だが整備されたステーションしか知らないシエルにとっては居心地の悪い場所のようだ。
このステーション・・・惑星ゼーレ軌道上にある12号ステーションに転移する前、シエルがどこかで薬を買いたいと言って来た。
「予定外の寄り道をしたからお薬が残り13日分しか無いの・・・」
「これから行くステーションでも買えるぜ、13日残ってるなら余裕で間に合うだろ」
薬・・・そう、ベンダルワームに寄生されているシエルは薬が無いと生きられない、だがこの星団の中ならステーションや惑星にある基地、居住区内の殆どの場所で薬を買う事ができる、もちろん今居るこのステーションでも薬は売っている。
「おじさん、まさかここに入るの?」
「あぁ、そうだが」
「・・・」
シエルが顔を赤くして動揺してるな、無理もねぇか、ここはストリップ劇場やら娼館、賭博場が一緒になった娯楽施設だ・・・派手な看板が光を放ち、妖艶な女達が通りに出て客を引いてる、中に入ると酒場があってその奥はステージだ。
もちろん店の中は古くて汚ねぇ。
俺達が入った時にはショーが始まっていて、中央に立ってるポールに纏わり付くように全裸のダンサーが踊って男どもを楽しませてる。
「今日の主役はルーシーか・・・」
ステージで踊る女が俺達に気付いたようだ、股を大きく開いて手を振ってきた。
こいつは路地裏で男に乱暴されてるところを俺が助け、孤児で金も行くとこも無ぇって言うからここを紹介してやった、他の女と違い胸はささやかだが一部の野郎には需要があるようで結構な額を稼いでるらしい。
「ベネットの旦那じゃねぇか、最近顔見せなかったから心配してたんだぜ」
「まぁ色々あってな・・・」
店の一番奥にある薄暗い場所・・・そこに置いてあるソファに座って女達の胸を揉んでいた男が俺に馴れ馴れしく声をかけて来た。
こいつの名前はカルロ・ミテコイ、この街を牛耳るマフィアのボスだ、こいつの首にも賞金がかかっていて30年ほど前俺が狩ろうとしたら命乞いされた。
気まぐれで見逃してやったら俺に恩義を感じたのか弟分にしてくれって言って来やがった、マフィアの・・・当時こいつは幹部だった・・・が舎弟なんて冗談じゃねぇって断ったが、今でも付き合いは続いていてお互いを利用し合う友人のような関係だ。
「また身寄りの無ぇガキを連れて来たのか?、こいつは男かぁ?男ならえらく美少年だな、傷があって眼帯してるのもいい、そういうのが好きな変態野郎も居る・・・合格だ、うちの店で踊ればいい暮らしができるぜ!」
カルロの奴が俺の後ろで震えてるシエルを舐めるように見て言った、何か誤解してるようだ。
「こいつは違う、それに女だ」
「あぅ・・・」
シエルの顔色が悪い、無理も無ぇか・・・カルロの奴はいかにも極悪人って顔してるからな。
「こいつはシエル、俺の友人の娘だ、しばらくの間一緒に仕事をする事になったからお前の部下によく言い聞かせておいてくれ」
俺はカルロの目の前にあるソファに座りそう言った、隣には店の女が座り酒をグラスに注いでくれている。
「ほぅ、旦那が誰かと組むなんて珍しいな・・・下の連中には左目に眼帯した男か女か分からん子供には絶対に手を出すなって言っておこう」
「僕、そんなに男に見えるかなぁ・・・」
シエルが自分の身体をペタペタ触りながら呟いてるが、お前は言わなきゃ男か女か分からねぇぞ・・・。
「それからベンダルワームの薬ここで売ってただろ、50本用意してくれ」
「そんなもん何に使うんだ?」
ぐいっ・・・
俺はシエルの肩を掴み、首に巻いてるマフラーを剥ぎ取った。
「わぁぁ!、おじさん何するの!、やだ返して」
シエルが慌てて首輪を隠そうとするが・・・
「何だ、嬢ちゃん宿主か、旦那の知り合いなら20本程おまけしといてやろう」
「え・・・驚かないの?、僕宿主だよ・・・」
「シエル、前にも言っただろ、ここは最底辺のゴミ溜めみたいな街だから宿主が歩いてても誰も気にしねぇ」
「うちのダンサーの中にも宿主が居るぜ、首輪とエロい防護服はそれなりに需要があるからな、確かルーシーの次に出るのはリーシャの奴だった筈だからこの後見て行けよ」
「・・・」
「シエル嬢ちゃん・・・だったな、俺ぁベネットの旦那にでかい借りがある、この街で困った事があれば俺を頼るといい、それから・・・ベンダルの薬だけじゃなくて他に気持ちよくなる薬も売ってるぜ、要るなら遠慮なく言ってくれ」
「シエルに変な事教えるなよ!」
「冗談だよ・・・ブツは明日部下に持って行かせる、旦那のドックでいいのか?」
「追加で携帯食料と「綺麗な」飲料水パックも頼む、数は・・・100だ、薬の請求書も俺宛てに送ってくれ」
カルロと話してるうちにルーシーのステージが終わったようだ、そのまま残ってる客も居るし次目当てで前に移動する奴も居る・・・俺はグラスの酒を煽った、久しぶりに飲んだから美味いが傷が痛みやがる。
「ベネット様ぁ!、何でルーシーのステージ観てくれなかったの!、酷いよぉ!」
ステージを降りたルーシーが全裸のままやって来て泣きながら俺に抱き付いた。
「お前のとこのボスと大事な話があったんだ、そのうちまた観に来てやるからよ」
そんな事を話してると店内がまた騒がしくなって来た、俺の膝に座ろうとするルーシーを押し除けてステージの方を見ると・・・。
「あれが店で雇ってる宿主か?」
「あぁ、リーシャって名前だ、半年ほど前だったか・・・薬を欲しがって組織が経営する別の店に来た、金が無ぇって言うからここで働かせてる」
照明に照らされたステージに出て来た少女を眺める・・・防護服を着て首輪を嵌めてるから間違いなく宿主だろう、それに目が見えないのか両目を覆う眼帯をしていた。
アーシアさん
読んでいただきありがとうございます!。
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
面白いなって思ったら下のお星さまやいいねをポチリと押してもらえると作者が喜びます・・・。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
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