温泉王子と婚約者の私
応募の都合上! 本文は千文字で終わりです!
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、暇に飽かしておかしな研究に明け暮れ。
放っておくのも心配なので、私は殿下の研究室を訪れる。
「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に……来ましたが……」
部屋は白い煙——湯気に包まれていた。
何も見えない。
「あっ、婚約者殿」
煙の奥から声がして、殿下が顔を出した。
「殿下! この真っ白なのはどうなっているのです?」
空気がすごい湿ってる。それと室温が高い。
「これか。これは……演出だ」
「演出?」
何それ?
「湯煙の天然温泉だ」
「意味が分かりません。ちゃんと説明してください」
私がそう言うと、殿下はやれやれと首を振った。
正直ウザい。
「君は新聞を読んでいないのか? そこに置いてあるから、今すぐ読むんだ」
見ると、テーブルの上に新聞が広げられている。
湿気でふにゃふにゃだ。
「えーっと……『井戸から熱湯、我が国では珍しい温泉』」
「ぴんと来たんだ。それでわざわざ取り寄せた」
そう言って示す先には大きな浴槽が置かれていた。
お湯が張られて、湯気が立っている。
「素敵な浴槽ですね」
ちょっと高そうなやつだ。
そう言えばこの人は王子だった。
王子様々だ。
「そうだろうそうだろう。これは特注……って、そうではなく」
殿下は浴槽のお湯に手を浸した。
「これが温泉だ! すごいだろう!」
そう言われても……。
「ただの濁ったお湯では——」
「違う!」
いつになく熱い殿下。
「どこから説明したものか……」
「あの……健康にいいんですよね」
そのくらいは私でも分かる。
「そうだ。分析の結果、この温泉は美容と健康に効果があると判明した」
「では殿下の健康——」
「俺ではなく君の美容と健康だ」
またまた。この人は時々こんな言い方をする。
「それだけではない。温泉が湧く所、人が湧く。人が湧く所、金が湧く」
なんだかこの人らしくないことを言い始めた。
「俺は温泉リゾート開発に投資する! それで研究費を稼ぐ!」
その投資に使うお金を研究費に回したら?
私はそう思ったけど、のぼせ上がった殿下は。
「ここも改装して、俺と君の愛の巣だ! 新婚旅行は温泉だ!」
言って私の手を取る。
そしてなぜかステップを踏もうとして————
「ああっ!」
滑った。
「でんかーっ!?」
ざっばーん。
*
後日。
「『温泉の夢は露となり……泉温低下』。リゾートは無理ですね」
「くっ……だが俺には君という温泉が————」
まだのぼせてる。