最初の一歩はいつも軽い
なろうの人気作や話題作、新人の処女作、埋もれている微妙な作品などをランダムに読み漁っていたある日、急に魔が差しました。
「このくらいなら俺でも書けるんじゃないの」
北斗次兄の偽者みたいな心境に至ってなろうデビューした自分ですが、どうも思ったように数字が伸びない。
もっと評価してもらえるはずなのに、どうしてこんな目に。天才……ではないにしても、まあまあの文才があるはず。
しかしブクマも総合ポイントも二ケタ。
PVも一万にも満たない。
自分が凡才であるという(わかりきっていた)事実を今更突きつけられてそこそこのショックを受けて軽く落ち込むも、まあこんなもんだろと思いつつ、それでも気を取り直すために同レベルの作家さんの嘆きを求めてあれこれ検索すると、
「初めての連載の初日PVは二だった」
「総合ポイントは三ケタに達したら全体でも上澄みのほう」
「やっときた感想がクソみたいなアンチコメでつらい」
という夢も希望もない意見が次々と目に飛び込んできました。
苦戦してる人いっぱいいるなあ……
別に自分が飛びぬけて駄目じゃないんだな……
これは共感というより、底辺が別の底辺を見て安堵しているという悲惨なスパイラルなだけなのですが、一応、そこで終わらずに、なぜ自分の作品は読者に受け入れられないのか、ちょっと思案してみました。
本格的にやると自分で自分にトドメを刺すことになるから、あくまでもちょっとです。
ならそれは思案ではなく思案したフリしてるだけの思考停止ではないか、という意見は受け付けません。的を得たツッコミなら受け入れられるというナイーブな考えは捨てて下さい。
……で、結論ですが、あっさり出ました。
「自分の書いてる連載、状況描写が足りてないわ」
他にもあるだろ、もっと深刻な原因が……という暗い心の奥底から聞こえるもう一人の自分の叫びはこの際無視して、今回の結論について説明しようと思います。
「リバーシって知ってる?」
夏の盛りも過ぎ、ようやく涼しくなってきた帰り道、ヒロインがそう俺に聞いてきた。
「いや知らないけど……有名な人なのか? その、リバーさんって」
俺が素直にそう言うと、彼女はぷっとふき出した。
「そ、そうじゃないよ。リバー『氏』じゃなくて、リバーシ。最近、都で流行ってるっていう卓上遊戯よ。ふふっ、ぷふふっ」
ありがちな異世界を舞台にした、まだ付き合う手前の、一番いい時期の幼馴染同士の会話が始まりましたが、まあ自分の普段の文章はこんな感じです。
……吹き出すほど面白い勘違いかどうかは置いといて、量が全く足りてませんね。
面倒ですが増やしてみましょう。
「リバーシって知ってる?」
夏の盛りも過ぎてようやく涼しくなってきた、薬草や山菜取りの帰り道、隣を並んで歩いていたヒロインが脈絡なく俺に聞いてきた。
彼女の質問は、こうやっていつも唐突にやってくるのだ。
「リバー氏?」
初耳の名前だ。いったいどこの誰だろう。
「聞いたことさえない? 町でもそこそこ話題になってるんだけど」
足を止め、薄青色の瞳でこちらを見上げてくるヒロイン。
身長は自分のほうがずっと上なため、こうして上目遣いでじっと目線を合わせられると、なんだか甘えん坊の子犬に見つめられているようで、可愛らしく思えてくる。
「いやちっとも知らないけど……有名な人なのか? その、リバーさんって」
俺が素直にそう言うと、彼女はぷっとふき出した。
鮮やかな赤毛が良く似合う彼女の、その無邪気な笑い顔を見ていると、それだけで心が満たされて温かくなってくる。
「そ、そうじゃないよ。リバー『氏』じゃなくて、リバーシ。最近、都で流行ってるっていう卓上遊戯よ。主人公ったら、相変わらずズレた勘違いするのね。ふふっ、ぷふふっ」
「そこまで笑うことかよ……」
俺が口を尖らせてぼやいても、ヒロインの笑いはしばらく止むことはなかった。
はい、増やしてみました。
……最低でも、このくらいは必要でしょう。いや実際はもっともっといるのでしょうが、自分の出涸らしみたいな根気ではこんなところが限界です。
人気作、話題作と呼ばれる作品は(当然例外もあるでしょうが)おおむねこれらの描写が細やかで量も多く、読んでいるとその風景がぼんやり見えてくるような幻覚性をともなう文章で綴られています。
自分の書く文章はぶつ切りで要点だけササッと書いてるので、そこが致命的に劣っているのでしょう。だからといって、露骨な水増しもただの文字数稼ぎにしかなりませんが。
しかもここまで読めばおわかりでしょうが、自分の文体は長さもクドさもどこか中途半端で、悪目立ちすらろくにできないときています。
なので、これからは少しずつ描写を増やしながら、回りくどい表現を減らして広く浅く一般受けを狙っていこう──そんな改善を行おうと思うのですが、結局のところ作品が面白くないと全く意味がない気がしますのでやめやめ。ふて寝しよ。