1 竜を拾いました
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「君にとっても僕にとってもお互いが必要な存在だ。そうは思わないかい?」
王城の庭園の一角に作られた薬草園で、呪いのために竜に変えられていた王様は魔女のハンナにそう告げた。
「私も誰か話し相手がいたら最高だと思っていたの」
二人共にいれば、寂しくない。
そこはむせかえるような薬草の匂いが充満していた。戸棚には古い本が沢山並んでいる。魔術書が大半で、薬草学の本も多い。何かしら液体が入っている瓶が並んでいる。周りには乾燥させるため薬草が逆さにいくつも吊るしてある。棚には小さい真四角の引き出しが何十個も並んでいて、中身は乾燥させた薬草のようだ。
部屋の中央には大きな黒い鍋があり、中身はオレンジ色の液体でぐつぐつと煮えたぎっている。
部屋の上部には空気抜けの煙突があり、新鮮な空気が循環するような仕組みになっているらしい。
地下の奥の研究部屋に篭もりきりの魔女は鍋を大きなへラでかき混ぜている。
「寂しい・・・」
(誰か話し相手が欲しい。
誰でもいいから)
黒いローブに黒い髪、碧眼。少し痩せている少女、ハンナが呟いた。もう少しふっくらしたら、随分と可愛い容姿だろうに、目下の所は見目は二の次、三の次らしい。本人に可愛いという自覚はなく、(ガリガリに痩せていて可愛くない容姿だ)と思っている。
魔女の日常はいつも通りだ。毎日薬草を取りに森に出かける。薬を作成する。たまに町の薬屋に売りに行く。何かしら食料を買う。目深に黒いローブを被り、元々の性格上、お喋りが好きでは無いために町の住人と会話していない。
そもそも何を話していいのか、よく分からなかった。
矛盾しているが、ハンナは誰か話し相手が欲しかった。
いつものようにハンナは森に出かけた。その森は南の魔女の森と言われる。薬草が沢山生えている。鬱蒼と茂る森は
薬草が生育するのに適した環境である。ハンナの家の庭にも薬草を栽培しているが、森に入って変わった薬草を見つけるのもささやかな楽しみの一つだった。
この王国には4つの森があり、北の魔女の森、東の魔女の森、西の魔女の森、南の魔女の森である。昔は魔女は忌むべき存在として迫害されたこともあったが、今では薬師のような扱いである。
膨大な知識を有する魔女達はそれぞれ4つの森に散らばっている。
「あれ、何かしら?」
森の小道を歩いていると、数メートル先に何か倒れている。大きさは野うさぎくらいだ。
ハンナは近づいてよく見ると、それは野うさぎではなく、小さい竜だった。
ハンナは倒れている竜を拾った。小さい青黒い竜だ。鱗がピカピカ光っている。竜にも色々な種類が存在するが、こんな竜見た事あったかな?
死んでいるかと思ったが、温かい。どうやら生きているようだ。
(可愛い竜ね)
ぐっ、ぐ~
竜のお腹が鳴る。
「あなた、お腹が空いているのね。」
魔女は少しびっくりして、くすりと笑い、竜をいそいそと両手の上に乗せて持って帰った。
「お、お腹が空いた・・・」
やはり竜はお腹が空いて倒れていたらしい。
魔女が与えた食料をバクバクと食べる。
「ふう。美味しかった!」
魔女の肩に乗る竜は餌付けされて魔女の近くから離れない。
魔女は竜がペットみたいで可愛いくて、仕方がない。鱗がピカピカなので、さらに布で拭いてあげるとますます輝きを増した。
「わあ、綺麗」
満腹になった竜は満足げに話し出した。
「実は僕は本当は人間なんだよ」
「えっ、えっ?」
「君が魔女なら、分かるでしょ?これは呪いだって」
「確かに落ち着いて見れば、何か魔力を感じるわ」
「ぼっ、僕は悪い魔女に竜に変えられたんだよ!」
「え、本当に?かなり昔には悪い魔女は存在していたけど、今はそんな魔女がいるはずがないわ」
「僕の姿を見てよ!」
魔法で竜に変えられた人間。
ハンナは信じられなかった。
そんな魔法を使う悪い魔女はもうこの世界にはいないはずだ。
(私の認識が間違っていたのかな?)