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連休のキャンプ場で起こるトラブルでは、自分勝手な押し付けが多い。

「一緒に楽しめばいいじゃん」というのだ。

楽しいのは自分たちであって、巻き込まれた側は迷惑以外のなにもの(たまったもん)でもない(じゃない)


(たきぎ)にはナタをつかう。

それを「やってみたい」と言い出したり、勝手に触ろうと手を伸ばしたりされたら……「テメエら、いい加減にしろよ?」と確実に目が据わるのも当然というもの。

ナタでも包丁でも手にした状態でそのセリフを言ってみ?

一瞬で「刃物を手に殺そうとした」と騒ぎになる。

周囲のキャンパーは「「「はあ? なに言ってんだ、お前?」」」の状況。

騒ぎに気付いた私も、話を聞いて同様の感想をもった。

しかしキャンプに無知な奴がいたら、管理棟を吹っ飛ばして警察沙汰に発展させる。


この騒ぎに巻き込まれてパトカーが来た話は、いまでも顔見知りの間では笑い話である。



「お巡りさんっ、この人です! この人が……」

「刃物を持ってるんです! はやく捕まえてください‼︎」


駆けつけた警察官に、『自分たちが正義』という表情で訴える女性たち。

このときは3人だった。

主に騒いでいるのは2人で、1人は「ちょっと、落ち着いて」と止めていた。


「キャンプ場にナタを持ってくるのは当然だが?」

「……へ?」

「包丁やサバイバルナイフを持ってくるのも当然だ」

「でもっ!」


警察官たちは必死に食らいつこうとする2人を無視して、残りの1人に話を聞くことにしたようだ。


「ところで、こちらの彼とは知り合いか?」

「……いえ」

「じゃあ、キャンパー仲間?」

「……違います」

「じゃあ、関係ない人に絡まれた上に因縁つけられただけか」


「気の毒に」とキャンパーを同情する警察官。

「変な連中に絡まれちまったな」と仲間を同情するキャンパーたち。


味方だと思った警察官が味方ではなく、自分たちの知らない常識を突きつけられただけ。

それを知ったところで、「自分は正しい」と信じ込んでいる連中が大人しくなるはずがない。


「なあ。お前らが小学校の頃って、林間学校とか行かなかった?」


いつまでも騒がしくして引かない女性たちに声をかけた。

同じ女性だから味方、だと思ったのか?

今度は私に笑顔を向ける。

私とは何度か顔を合わせているキャンパーたちから「コイツら、バ〜カ〜」という声と白い目を向けられても気付かない。


「あるわよ」

「そのとき、何つくった?」

「え……? カレーライスだけど……?」

「そのとき包丁やまな板、フルーツナイフなど使わなかったの?」

「そりゃあ、飯盒炊爨(はんごうすいさん)で使ったけど……」


とたんに周囲がいっせいに噴き出すような笑い。

「バッカでぇ〜」と声に出して笑う人もいる。

ずっと2人を止めていた1人がボソッと「キャンプで料理するから包丁を持って来ててもおかしくないよ」と呟いた。

その言葉に、さらに「いまさらか」という含みを持って嘲笑うキャンパーも現れた。


「私は(たきぎ)を砕くのにナタを使う。火をつけるマッチやライターだって、油だって持ち歩いてる」


私の言葉に首肯するキャンパーたち。

中にはおちゃらける連中もいた。


「うわー。こいつらの常識だと、オレたちって放火犯にされるのか?」

「押し込み強盗の後に放火する気だって?」

「お巡りさーん。俺たちこんな顔してるけど、犯罪を犯せるほど肝っ玉は太くありませーん」


警察官に訴える、ちょっと厳つい顔のキャンパーたち。

拝むように、両手を前で組むキャンパーもいる。

その様子を笑っている警察官たちも慣れたものだ。


「アンタらの言ってることは、『キャンプしたけりゃ火を使うな。料理もするな。キャンプ自体するな』って言ってるようなもんなんだよ。ウチらの楽しみを否定しないでくれる? だいたい、キャンプ場に来てて『キャンプをするな』はないわー」


私の言葉にほぼ全員が頷く。

その中には警察官たちも含まれる。

だって、私たちキャンパーを全否定されたんだからね。


「嫌なら()んじゃねえよ」という声が聞こえた。

それをきっかけに、彼女たちは男漁りにきた、などという声まで出てきた。

それには警察沙汰にされた男性キャンパーが肯定した。


「コイツらの格好見ろよ。これで『一緒にキャンプしましょう』って……翌朝(あした)、死体が3体も転がってるじゃないか」


ここ数日は、日中は半袖か七分袖で過ごせる暖かさだったけど、朝晩は一気に気温が下がる。

そんな日に、騒いだ2人は半袖や袖なし(スリーブレス)のトップスと薄手のカーディガンという姿。

下はヒラヒラのスカートにサンダルという(よそお)い。

そこだけが『オシャレな観光地に遊びにきました〜』という状態。

「男の目を意識した格好」と言われたら「そのとおり」と納得でき、キャンプに不向きな姿である。

大人しい1人はシンプルな長袖とジーパンという服装にスニーカーで、キャンプやバーベキューに来たことがあると分かる。


「あの2人、バーベキューでも不向きだよね」

「どーせ、全部男にやらせるんだろ」


私の呟きに、近くのキャンパーが唾棄する。

キャンプ場ではジーパンとスニーカーが推奨される。

足を守るためもあるけど、ジーパンや藍の布製品は虫よけの効果もある。

手足から頭に虫よけスプレー、腰に携帯用の虫よけ。

もちろん、虫さされの薬も必須。

オシャレ着など一番似合わない、それがキャンプ場だ。


「皆さん、うちの者がご迷惑をおかけしてすみません」


そう声をかけてきた男性に騒いでいた2人が驚き「なんであなたがここにいるのよ!」と声を荒げた。

話の内容や警察官への説明から、どうやら1人が妻で、もう1人は妻の友人。

そしてシンプルな装いの彼女は男性の妹。

その妹がキャンプに行くと知った妻が「私も連れて行け」となり、「私も行ってみたい」と無理矢理押しかけてきたらしい。


「私がテントを張っている間に『ちょっと回ってくる』と言っていなくなって……」

「テントを張る手伝いもしないで?」

「……はい」


さすがに4人用のテントを1人では張れないため、管理棟へ設営依頼(ヘルプ)に向かう途中で騒ぎを聞きつけて「ひとりでは無理だと判断して兄に連絡しました」とのこと。

それが警察に電話していたなどと知らず、パトカーが来たときに事態の大きさに気づいたそうだ。

兄妹で頭を下げ、不貞腐れて謝罪しない2人を連れてキャンプ場から退出。

一応騒ぎを起こしたことで、2人は警察署でお説教の後に身元引受人を呼んで解放する、と被害を受けたキャンパーに説明していた。

「夫に知られたら叱られる!」と騒いでいた友人女性。

必死に「呼ばないで!」と訴えていたけど……

何度目かの嫁姑戦争が勃発するらしい。

「それはそれは。見たかったね〜」という言葉で、この笑い話は必ず締めくくられる。


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