【実話ホラー】ついてくる男
昨日の話です。昨日のことは近いうちに丸1日分エッセイとしてまとめるつもりですが、ホラーとしてシングルカット出来そうな部分があったので、先に発表しちゃいます。
その日私は訳あって3時間くらい散歩していた。これはその時の出来事である。
私は散歩をしていて面白いものがあるとすぐに撮影する癖があるのだが、その日も例に漏れずそこらじゅうで撮りまくっていた。
「あ、あの看板面白いな」
そんなことを思いながら看板の写真を撮った。その時前から歩いてきていた女子高生が少し怪訝そうな表情をしていた。
もしかして、盗撮してると思われてる? まぁ何か言われたとしても写真フォルダを見せればいいか。そう思って私はそのまま歩いた。
すれ違った時、女子高生は特に話しかけては来なかった。
それから数秒後、私は真後ろから足音がしていることに気が付いた。
もしかして、さっきの子が何か言おうと引き返してきたのか?
そう思った私は歩きながらチラッと後ろを確認した。完全に後ろを向くわけではなく、横を向いて視界の縁っこで確認する感じだ。
私の目に映ったのは女子高生の姿ではなく、水色っぽいシャツを着た男性だった。私のすぐ後ろをベッタリついてきているのだ。
もしや、女子高生のあの表情は私が写真を撮っていることに対してではなく、私の後ろにベッタリついてきているこの男性を見ての反応だったのでは?
男性は帽子を被っていた。水色っぽいシャツに帽子⋯⋯もしかして警察!?
ということは今の私の行動を見ていた? 盗撮していると思われた? だから後ろをつけて、どこかで職務質問しようとしているのか?
生まれてこの方職務質問などされたことがなかったので、私は軽いパニックに陥っていた。
しかし、後ろの警官に悟られる訳にはいかない。平常心を保たねば。不審に思われてしまうかもしれないからな。
普通の顔をして普通に歩いていた私だが、心臓はバクバクだった。警官が真後ろにいるとこんなにも緊張するのか。特に悪いことをしたわけでもないのに、職務質問をされると思うとこんなにも心臓に来るものなのか。
しかし、それから2、3分歩いても一向に話しかけてこなかった。ずっとベッタリついてくるだけだ。
なんなんだ、泳がせてるのか? 次スマホを構えたら現行犯逮捕するつもりででもいるのか? 私は面白いものを撮ってるだけだぞ?
マジでなんなんだよこの人。そんなことを思った時だった。後ろから声が聞こえた。
「ヒィ〜ン」
とても高くか細い声だった。
これ、後ろの人が言ったのか? そう思い、私は耳を澄ましてみた。
すると、
「えへ、えへ、えべべべべべべ」
今度は低い声で言っている。声量は先ほどと変わらず小さかった。
警官よりヤバいやつに背後取られてんじゃねーか! と私は心の中で叫んだ。
「えへへへ、えへへへへへへへ」
「ひ〜〜ん」
刃物で後ろから襲われる可能性がある。痰を飛ばされる可能性がある。おしっこをかけられる可能性もある。何かを投げつけられるかもしれない。
そんなことを考えてしまうほど、この男は異常だった。
ヤバイヤバイヤバイヤバイと思いながら歩いていると、ついに立ち止まらなければならない場面に遭遇してしまった。
横断歩道が赤なのだ。
どうする? 私が立ち止まったら後ろの男も立ち止まるのだろうか。それとも私にぶつかってくるだろうか。凶器で襲ってくるのだろうか。
いや、でもこんな車がたくさん通っている道で人を刺したら問題になるぞ。
いやいや、そんな常識が通用するような奴か? 変な声を出しながら私の1.5メートル後ろを延々とつけてきてるんだぞ?
いろいろ考えた私は、横断歩道の手前で左を向き、そのまま円を描くように歩くことにした。半径5メートルほどの円を描きながらこの歩道と薬局の駐車場を歩き回るのだ。
なぜ私がこんな作戦を立てたかというと、止まるのが怖いのはもちろん、残された選択肢である「左折」が正解かどうか分からなかったからだ。
私が左に行ったとして、後ろの男もついてくるかもしれない。私をつけているのか、ただ行く方向が同じなだけかは分からないが、とにかく撒きたかったのだ。
作戦通り円を描き始める私。
そのまま赤信号の横断歩道を渡る男。
急ブレーキで止まる自動車。
幸いその車のすぐ後ろに車はいなかったので、事故にはならなかった。
周りなど見えていないかのように前を向いたまま横断歩道を渡り切り、男は夕闇に消えていった。
私は心臓がはち切れそうな思いだった。さっきまで刃物で刺されるんじゃないかと気が気でなくて、今度は目の前で人が轢かれそうになる。心臓がいくつあっても足りやしない。
突然終わってしまってすみません。これ以上特に書くことがないので終わりにしました。
とにかくめっちゃ怖かったです。ああいう状況になると後ろ向けないって初めて知りました。