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採取専門の中級冒険者やってます

作者: 柚子ライム






「♪♪」


鼻歌まじりに生活魔法で火をおこして夕食の準備を始める。

今日の採取はめちゃくちゃラッキーだったわ!

依頼の薬草を1日で確保できたもの。

おかげで明日は定期依頼分の採取ができる。


持参した野菜と採取中に討伐した角ウサギのシチューがいい匂いを放ちだす。

ん〜空腹を刺激するいい匂い。

え?採取専門の冒険者なのに魔獣倒せるのかって?

採取専門の人たちだって護衛依頼をこなせるくらいにはそこそこ戦えるわよ。

自分で自分の身を守れなくちゃ魔獣がいる街の外に出て活動するなんて命とりだもの。

とくに私はソロでやってるから尚更よ。


夕食の前に身体と着ている服に生活魔法のクリーンをかけて今日1日の汚れをスッキリ。

設営の準備も完璧だ。

1人用のテントを張り魔獣避けの香木の入った小型の炉を10個ほど配置して火をつけてある。

もっと少なくても大丈夫らしいけど安心してぐっすり寝たいからいつも多めに焚いてる。

この爽やかな柑橘系の香りをかぐと体に力が入らなくなるから魔獣は絶対に近寄らない。

無防備に倒れ込むなんて弱肉強食の魔獣たちにとって死に直結するもの。

香木はいつも必ず多めに持ち歩いてる。

足りなくなった!なんてことがないようにね。

マジックバックのおかげで荷物が多くなる心配がないから安全安心のためのいろんな準備ができてホントありがたいわ。

めちゃくちゃ高価な買い物だったけど冒険者にとって必須アイテムよ。


いい感じになってきたわね。

具が煮えたところで香り付けのスパイスを加えてシチューが完成。

スライスした黒パンにチーズをのせて軽く火であぶったチーズトースト。

デザートは採取中に見つけた森林檎を焼いてハチミツをかけた焼き林檎。

素敵な夕食のできあがり。


「今日も美味し糧に感謝を。」


ん〜〜〜我ながら完璧!美味しい!

身悶えしながらシチューをはふはふと頬張る。

合間にチーズトーストをもぐもぐ。

シチューをはふはふ。

至福。


「きゅぅ〜…」


ん?なんの音?

お腹の虫のような音が聞こえて後ろを振り向く。

そこには白っぽい薄汚れた小さな毛玉。

いや、目があるから生き物だ。

ってなんの生き物?

これでもかってくらい香木たいてるから魔獣じゃないはず。

でもどう見ても馬じゃないし猫や犬でもなさそう。

そもそも普通の動物が単独で魔獣がうろつく森に入ったとたんすぐさまあの世行きだ。


「きゅ〜…」


力なく鳴きながら毛玉が近寄ってくる。

魔獣の気配のような項のあたりがピリピリするような感じはしない。

冒険者の直感が大丈夫だといっている。

手を差し出すとスリスリと身を寄せてきて怖がる素振りもみせず手のひらに乗ってきた。

やだ可愛い!

そのまま顔の近くに持ってくると頬にすり寄ってくる。

クリーンをかけてやると毛並みがキラキラと輝く銀色になった。


「おまえこんなとこでどうしたの?お母さんは?」


手乗りサイズの赤ちゃんがこんなとこに1匹でいるなんてありえない。

母親が魔獣にやられた可能性もある。


「きゅん…」


悲しげに鳴きながら私の手にスリスリし続ける毛玉に胸がわしづかまれた。


「お腹空いてるんじゃない?シチュー食べる?」


毛玉はまるで言葉がわかるかのように私を見上げてきゅうきゅう鳴いている。

澄んだ青空のような瞳。

小さな前足が必死に私の手を掴んでいる。

いやもうホント勘弁して。

瞬速でマジックバックから小さめのお皿を出してシチューを冷ましながらよそって座っているシートの上に置く。


「お食べ。」


毛玉はすごい勢いではぐはぐ食べ始めた。

スパイスも入っているので少し心配だったが猫みたいに喉をぐるぐるさせて食べているのでどうやら口にあったようだ。


「美味しい?」


クスクスと笑いながら問うと美味しい!というようにキラッキラの紺碧の瞳が私を見上げる。

小さく切った黒パンをシチューに浸してやるとまたはぐはぐと夢中で食べだした。


おかわりを1回。

満腹になってコロンと転がった毛玉のお腹もコロンと膨らんでいる。

そのお腹をさすってやると小さな前足と後ろ足でじゃれついてくる。

4本足の動物なのね。

肉球はなくて前足も後ろ足も小さな指が4本。

なんの動物なのかしら?

魔獣の可能性もあるわよね。

もしかしたら赤ちゃん魔獣には香木が効かないのかもしれないし。

なんにせよこんな無防備で愛らしい生き物を魔獣のいる森に置いていけない。

私は迷うことなく毛玉を連れ帰ることを決めた。


翌日、定期採取を終え夕方近くに拠点にしている街に戻った。


「ギルドであなたのことを登録しないとねシヴァ。」


「きゅ!」


シヴァと名付けた毛玉は心得た!とばかりに私の左肩で飛び跳ねる。

めちゃくちゃ可愛い。


冒険者にはテイムした魔獣はもちろんペットとして飼う動物の登録が義務付けられている。

依頼にあった魔獣や動物の登録をしている冒険者を把握するためでもあり、街で一緒に暮らすわけだから安全対策のためでもある。


「よお!フェミア!」


ギルドに向かう途中の路上で顔見知りに声をかけられた。


「久しぶりねジェイド。」


ジェイドは護衛や魔獣討伐を専門としている上級冒険者だ。

彼もソロなので何度か臨時パーティーを組んで依頼をこなしたことがある。

冒険者には厳しい条件のもと特級、上級、中級、初級と4つのレベルが定められているんだけど彼は限りなく特級に近い上級冒険者として有名な人。

しかもクールな雰囲気の美丈夫なので女性人気も凄まじい。

お察しの通りそんな彼と親しくしている私はかなり睨まれております。

もう慣れたけどね。

同じくギルドに向かっていたジェイドと並んで歩き出すとすぐに肩の毛玉に気付いたようだ。


「そいつ何だ?魔獣?」


「わからないのよ。でも危険な感じはないのよね。赤ちゃんだしほっとけなくて。」


「まぁ確かに危ない感じはねぇな。大丈夫だろ。」


差し出されたジェイドの指に小さな手をのせるシヴァ。

握手してるみたいで二人で笑ってしまった。

何度も冒険を共にしてきた彼の野生の勘は信頼できる。

大丈夫という思いは彼に太鼓判を押されて確信に変わった。


「また臨時パーティー組まないか?長期の依頼を受けようと思っててさ。長期依頼はフェミアの飯がないと辛い。」


「たしかに。」


一度彼が作ろうとしたことがあるのだけどあれは酷かった。

蒸発して炭と化したスープと使い物にならなくなった鍋。

思い出してぷっと吹き出すとバツが悪そうに後頭部あたりの髪をガシガシしている。


「いいわよ。このあとギルドで手続きしちゃいましょうか。」


「やった!おう!そうしようぜ!」


少年のように喜ぶジェイド。

取っ付きにくそうな見た目からは想像できないこういった飾り気のない素直なところが彼の魅力だ。


「そいつの登録もするんだろ?両方の手続きが終わったら飯行こうぜ。うまい店見つけたんだ。オマエが好きそうなパスタの店。肉料理もサラダもデザートも美味い。」


「いいわね!」


「んじゃ決まりな!」


ギルドの重厚な扉を押し開いて当たり前のように先に私を通してくれる。


「ありがと。」


「おう。」


紳士的なところを指摘すると照れるから言わないけどね。

二人で中に入ると一斉に視線が集まる。

ジェイドへの畏敬の眼差しと私への嫉妬の眼差し。

こんなの気にしてたらソロの冒険者なんてやってられないわ。

今回みたいにソロ同士で臨時パーティーを組むことはよくあることだしソロの冒険者ってみんなの憧れである上級冒険者や特級冒険者がほとんどだもの。

私みたいなソロの中級冒険者なんて数えられるくらいの少数派。


「きゅっ!」


悪意のある視線に反応したのかシヴァが私の頬にぴたっとくっつく。可愛い。


「お!小さなナイト様だな。」


「きゅきゅ!」


ふふ。ジェイドとシヴァ気があったようで良かったわ。

今回の長期依頼の旅もこれなら問題なさそうね。

シヴァの登録と片道1週間はかかるナルキアナ大森林での魔獣討伐と採取の依頼を受ける手続きを済ませジェイドおすすめの店へ向かう。


「いつ出発する?」


「早めに出たいな。長期予報だとここ3週間ほどは安定した天気らしいから。2日後はどうだ?」


「問題ないわ。2日あれば休息と買い出しには十分よ。」


「じゃ2日後の早朝に出発だ。朝飯も頼む。」


「ふふ。了解。任されました。」


「はは!任せたぜ!」


「きゅきゅ〜う!」


「オマエも頼りにしてるからな!」


「きゅっきゅ!」


この街の飲食店のほとんどはギルドに登録済みのテイムされた魔獣やペットの入店もOKだ。

ジェイドとシヴァのやり取りにほっこりしながら目的の店に入った。

何を食べようかなと考えながら。


採取専門の中級冒険者ユーフェミア・キーンズのとある日常である。





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