2.子供は好きな方です
昨日ここまであげとけばと思いました。
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「ぬわあああああああ!!しぬしぬしぬしぬううううううう!!!初デスペナが紐なしバンジーとかシャレにならねえぇぇえええ!!!!」
穴はかなり深く、底にまだつかない。
風切り音と体で受止める風で低くなりつつある体温で少し冷静になった。
息を整え、姿勢制御を試みると意外と上手く行き視線を下に移すことが出来た。
すると戦慄した。
「蜘蛛の巣ううううう?!?!」
やばい!からめとられる!
と思ったが蜘蛛の巣に突入した瞬間若干の抵抗はあったものの、落下の勢いが強かったからか蜘蛛の巣をぶち破りまだ落ち続ける。
蜘蛛の巣はその1枚だけで、落下の勢いを少しでも弱くするためかツタのネットなどが設置されている。
数枚のネットを破り、落下の勢いがかなり弱まりまたネットをぶち破ったらいきなり床が俺の全身を叩いた。
「がはっ…」
落下ダメージが算出される。
幾分か殺されていたと言え結構な勢いで叩きつけられたため、それだけで瀕死になってしまっていた。
「だけど…生き残った…」
これがダンジョンの入口だったら確実に詰んだが。
周りを見渡すが入口の光が届かないほどに深い穴で視界が確保できない。
視界の隅に灯りを確保してくださいと表示される。
このまま時間が経過すると狂気度が増えていきますとも表示された。
このままでは確実にデスペナする。
「不味い…生き残った意味が無い…」
何か策はないかとインベントリを漁る。
すると中には初心者装備一式とランタンが表示されていた。
早速装備一式を装備し、ランタンをマテリアライズさせる。
残りの燃料が視界の隅に表示され、周りが照らされる。
ランタンで周りを照らすと、いきなり周囲が光だし、あまりの光量に目を閉じてしまった。
視界の隅に盲目のデバフが確認された。
薄目を開けると、光量が少し抑えられた周囲の景色が見えた。
結晶だ。
この巨大な穴の側面に、結晶がびっしりと貼り付いている。
光が反射し、穴全体が照らされている。
ランタンの光のみで、完成した穴の景色に感動を禁じえない。
だが、視界は赤みが着いて瀕死の表示が消えないことから俺の意識は現実に戻される。
どうするか考え、視界をめぐらせるとソレはすぐに視界に入った。
光り続ける穴の中で、一際明るい光を放つ球体。
ただ、それ自体が光っている訳ではなく、光を集めているようだった。
「なんだこれ…」
そう言いながら、その球体に手を伸ばすと…
カタッ…
微妙に動いた。
この時確信した。
卵だこれ…!
どうするんだよ…!触っちゃったよ…!
エネミー産まれたらどうするんだ…!
今の俺の体力なら撫でられただけで死ぬ自信あるよ…!
半ば諦め、へたり込むと卵の揺れは激しくなりついにヒビが入る。
ヒビはすぐに卵の全体に広がり、ついに割れた。
「ぴゃう」
中から出てきたのはのっぺりとした顔のトカゲだった。
のっぺり。と言っても白の外骨格が顔を覆っているためにそう見えただけだ。
目は確実に見えていないだろう。
角らしいものはなく、本当に外骨格のあるデフォルメされた子トカゲということしか分からない。
卵から出ると意外と早く4本の足で立ち、うろちょろし始めた。
スンスンと匂いを嗅ぐように頭を動かすと、こちらに頭を向けた。
ピタッと止まるとこちらをずっと向き続けている。
正直言うと怖すぎる。
だが、このトカゲを見ると何故かうちのペットを思い出し、俺はそのトカゲに話しかけたのだった。
手をトカゲに差し出し、
「お、おいで」
すると…
「ぴゃう!ぴゃぁう!」
トカゲは顔?を輝かせ駆け寄ってきた。
幼女の体からしても少し小さいトカゲの体を持ち上げる。
「…けっこう…」
見た目以上の重量に少し…言い表せない感情にひたっていると、頭の中にアナウンスが響き渡った。
『EXjob獲得!【竜母】が強制的に設定されます』
『jobに合わせアバターを調節…完了』
『EXskill獲得!【授乳】【教育】【叱責】【称賛】【児戯】が強制的に設定されます』
『称号獲得![竜の母となりし未人]』
『アイテム獲得!《星往く竜の卵殻》《星往く竜との絆》』
流れ込む情報の濁流。
俺はそのアイテムログを改めて確認し頭を抱えて呻いた。
あぁあ…
「職業枠と…スキル枠が…ママさんスキルに潰されたァ!」
メスガキになるためにこのキャラ作ったのに!!
希少ステータスを体現した貧乳ボディが地味に巨乳になってるしぃぃぃい!!!
「てか竜母ってえええ!ママにならなきゃいけないんですかあああああ?!?!」
…ふう…ふう…
「…ま、まあいいさ。初期スキルがママさんスキルであろうが…レベルをある程度あげればまたスキルが取得できる」
それに、レベル以外でもスキルの取得方法はある。まだだ、まだ諦めるな。
「ぴゃ、ぴゃあああああん」
息を整えているとすぐ隣から泣き声が聞こえた。
どうやらトカゲが驚いて泣いてしまったようだ。
「ご、ごめんね…え、えーっと…」
『名称設定ができます』
どうやら名前がつけられるようだ。
…この子についての情報を少ししか持っていないから名前をどう決めたらいいのか分からない。
鑑定スキルを取ろうにも初期スキル枠は既に埋められてしまった。
この子の種族を知るのはだいぶ先になりそうだ。
ただ、星往く竜とか【竜母】とかの情報からこの子がドラゴンというのは分かっているので、それ相応の名前をつけてやりたい。
「…【ウロ】、おいで」
ウロと名付けたドラゴンを抱っこする。
抱っこをするとウロはすぐに泣きやみ、弱々しく鳴いてくる。
「ぴぅ…」
「よしよし…驚かせちゃってごめんね」
撫でていると泣き疲れたのか寝てしまった。
「よし……問題は解決してないぞ」
穴からは抜け出せてないんだよな。
強行するか。
そう思い、俺はインベントリの短剣をマテリアライズさせた。
「ウロは……服の下に入れてベルト締めればいいか」
服の下に少し冷たい温もりを持ったウロを入れ、壁の強度を確認しに行った。
4時間後…
「ぶはあああ!!」
穴のてっぺんの端に短剣を突き刺し、体を無理矢理上げる。
途中でウロが起き出し、いきなり母乳を吸い出すなどアクシデントはあったが、無事に穴から抜け出せた。
(これ…全年齢だよな…)
授乳の感覚はくわえられているという感覚しかない。
そもそも俺は男だから授乳の経験などないためよく分からないが、さすがにこれは全年齢ゲームとしてどうなんだろう。
「ウロちゃん?」
「ぴゃう?」
「お母さん頑張って登ってたのに…お腹すいたの?」
「ぴゃう!」
ちなみにこのお母さんロールは実母の真似だ。
母さんは俺と兄弟に異常に優しいため、実母の真似をすることにした。
優しければ好感度は上がりやすいと思ったし、1番見てきた母親像の真似をすれば違和感はないだろう。
「…人がいっぱいいるところに行こっか」
「ぴぅ?」
難しくてわからなかったのか首を傾げるウロ。
穴の底では閉塞感もあって、少しこの子が怖かったが外に出た今ではかなり可愛く感じる。
俺も少し疲れたし、宿屋をとったらログアウトしよう。
「れっつごー!」
「ぴゃああう!」
その瞬間、ものすごい…トゲトゲしい気配が肌をさした。
その方向を見ると…
(弾丸?!)
豆粒ほどの見えたこと自体が奇跡の物体。
反射的に片手に持った短剣を振るう。
ウォールクライミングで耐久度が減っていた短剣は砕け、弾丸はどこかへ飛んでいった。
すぐにウロを抱っこし駆け出す。
サバゲーの経験を生かし、的確に障害物を利用し俺は逃げ切った。
◇◇◇
衛兵の守る門から堂々と街に入る。
少し気にしながら入ったのだが、衛兵はチラッとこちらに視線を向け、驚いたような顔はしたがそれまでだった。
一応ドラゴンなのだが大丈夫なのだろうか。
街に入ると目につくのは人、人、人。
行き交う人々に圧倒されそうになるが、頭の中に響いたアラートで目が覚めた。
視界の隅の表示を見てみると…
『注意!満腹度が危険域に達しました。すぐに食事を摂ってください』
スキルなしのウォールクライミングが祟ったのかどうかは知らないがお腹がやばいらしい。
別にリアルならこれぐらい耐えられると思うがここはゲームだ。
これでデスペナをくらってはたまらない。
NPCっぽいモブ顔の男性に食べ物屋の場所を聞きすぐにそこへ向かった。
意外と近くにあったので入る。
人が多いが空席は一応あったので良しとする。
メニューをサッと流し見し、店員さんを召喚。
「ハンバーグをひとつ」
キリッとした顔で頼む。
すると店員さんは少し困った顔をした。
なんでやねん。
程なくしてハンバーグがやってきた。
鉄板の上で肉汁をはじけさせるこの創造物は俺の食欲を刺激した。
両手にナイフとフォークを持ち食べ始める。
美味い。
噛む度に流れ出たはずの肉汁が溢れ出す。
まるで…水を吸い続けたスポンジのごとき肉汁の量、肉汁が無限に溢れ出てくる。
肉は何を使っているのだろうか…
などと一人食レポごっこをしていると服に違和感。
下を見るとウロが俺の服をまくり中に入って母乳を吸おうとしているところまで分かった。
俺はフォークとナイフを置き、ウロを抱き直し服の中に入れてやる。
するとウロはすぐに母乳を吸い出す。
盛大に音を立てながら。
「ま、まて!ウロまて!」
「ぴぅ?」
「音を立てないで?」
「ぴぅ!」
ウロはききわけがいい賢い子なので音を立てなくなった。
そこで少し気になりステータスを開く。
見たらどうだ。
満腹度が少しずつではあるが減っていくでは無いか。
そういうことだったのね…
「食費も馬鹿にならなそうだなぁ…」
残ったハンバーグを平らげるとウロもやっと満腹になったようだ。
「いこっか」
「ぴゃう」
代金を支払い、店から出る。
事前情報で宿屋の場所は把握しているため、宿屋につき宿屋を取りログアウトするまでそう時間はかからなかった。
読んでいただきありがとうございました。
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