その8 メロン
ピー
目覚ましの音かな?
「今、何してたっけ?」
ふと見上げると、目の前にナスのマンションがあった。
「そだ。そだ。ナスをカフェに誘って、ケーキを食べに行こうって思って歩いてたんだわ。」
だって、河川敷までの道の間に新しくカフェがオープンしたから、甘いもの好きなナスを誘ってあげなきゃって思ったんだわ。
「ふふっ、めんどくさそうにするだろうけど、聞いたんだ。
モモちゃんたちに。
ナスが甘いもの嫌いじゃないって!
今日は無理かもしれないけど、誘うだけ誘ってみる!」
マンションの入り口すぐのエレベータのボタンを押して、扉が開いたから乗り込む。
8階のボタンを押して、昇る間にエレベータの鏡で髪型を整えたら、角部屋の前まで行って、ノックする。
2回 トントン。
私はこのドアを開けることができるって知ってるから、迷わずドアノブを回して引く。
ほら、開いた。
「ナス!何してるの?今日は外に出ないの?」
ナスはパソコンデスクの椅子座っていて、キーボード叩いてるけど、顔だけこっちに向けた。
前髪で目が半分隠れているけど、ジト目してるのわかる!
でも、これはいつものことだから、気にしない!
「アー。何よその目。
露骨に邪魔なやつが来たって言ってるわよ。
河川敷に行くまでの細い道沿いに新しいお店ができてたんだけど、それがすっごくおいしいって!」
ジト目のナスの目がさらに細くなってる。かわいい。
「メロン。俺は今日課題に取り組んでいたいんだ。
新しいケーキ屋になんか興味は無い。行くのなら一人で行け。」
ふふ、おかしい!なんでケーキ屋って知ってるのよ。
新しいお店としか言ってないのに!
ナスってとってもわかりやすい。
「えー!一人で行っても面白くないよ。」
手を合わせてナスにお願いのポーズを見せながら近づいてみた。
「嫌なら、××でも誘っていけよ。」
ンっ?今なんて言ったんだろう。
まぁいいや、関係ない。
机の前に座っているナスの方に手を置いて、ナスの顔を覗き込んでみた。
「ねぇ。だから、ちょっとだけ付き合ってよ。おごったげるから。」
私がそういうと、ナスはジト目をやめて眼を大きく見開いた。
「おまえ。何考えてんだ?」
「えっ?どうやったら、ナスがケーキ屋さんに一緒に行ってくれるかってこと!」
あ、ナスの顔があきらめ顔になった。
ナスの表情はとってもわかりやすい。
ナスは口が悪くても、優しいってことは知ってるんだ。
「よし、わかった。お前が俺に協力してくれたら、俺も協力してやろう。」
ナスが私に協力を求めてる?
めずらしい。いつもお前は何考えてるかわからないって、相手にしてくれないのに。
でも、だから、嬉しい。
「何をしたらいいの?」
「俺は、町のバーチャル世界を作っているんだ。
町と住人のインプットが必要で、できるだけユニークな情報が必要だ。」
んー。何言ってるのかわからない。
ナスの表情は分かりやすいけど、頭の中はついていけないのが悲しいよね。
とりあえず、聞いてみよ。
「それで何をしたらいいの?」
「そうだな。お前のことを教えてくれ。」
う、嬉しい。私のこと?
飛び跳ねたいけど、そのタイミングは今じゃない気がする。
「ケーキ屋は?」
「あぁ。ケーキ屋の後でいい。すぐ行きたいんだろ。その調子じゃ。」
思わず飛び跳ねた。
「やった。ナスが一緒にケーキ屋に行ってくれる!」
うれしい!ケーキ屋に行くこともだけど、それより私のことを聞いてくれたのがとっても嬉しい。
ナスの呆れた顔なんて、気にならないくらい、とーっても嬉しい!
玄関に向かいながら、上着を着ているナスを振り返って思わず言ってしまった。
「ナス、大好き!」
「こんなことくらいで何言ってるんだ?」
こちらも見ずに言うナスがあきれた声を出してる。
あきれてはいても、嫌がってはいないのが分かる。
今日はすごくいい気分!
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ナスとそのままカフェに行きケーキを3つも食べてしまった。
また、ダイエット頑張らなきゃだわ。
「ん~!おいしかったね。」
ナスを見ると、私の周りの空気を手で払っていた。
「何してるの?ハエ?」
おいしいケーキを食べた後なのに、ナスは相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
このまま帰りたく無いな。
思わず、ナスのマンションとは反対にある河川敷の方に足を進めると、ナスは何も言わずについてきた。
やたっ。
散歩デートできる。
ならんで歩いていると、前を見たままナスがぼそっと声を出した。
「話にならない。」
二人で歩いてるのが嬉しくて、一人舞い上がってしまってたわ。
「あっ!わたしのことよね!忘れてた訳じゃないのよ!」
「ああ、そうだ。俺が作成中の町と住人の難に役立つかわからんが、××からの課題だからな。」
ナスが難しそうな顔をしている。
「また、何か考え込んでる?ナスってば、そんな顔ばっかりだとおっさん化が早まるわ。」
ナスを見ながら、自分の頬を両手で挟んで、困った顔をしながら顔を振って見せた。
ナスの顔が少し緩んだ。よし!
歩いているうちに見えてきた土手の上を指して、階段にむかった。
「ほら、川を見ながら話してあげるから」
土手の上まで登っても、ナスはペースを崩さず歩きながらこちらに向かっている。
私のこと、何を話そう。
どれだけナスが好きか話してみようかな。
また、あきれられるかな?
河川敷に続く土手の斜面に座ってナスを待つ間に、いろいろ考えすぎちゃった。
ナスがきて、私の横に座ったとたんに思わず言ってしまった。
「ねぇ。わたしたち付き合わない?」
ナスが川の方に視線をむけたまま、固まったのが分かった。
ガチッって音がすごく似合いそう。
面白い。
思わず、ナスの腕をつついてみた。
「ナス、かわいい!」
ナスが大きく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて
「いや、そんなはずはない。このタイミングじゃないはずだ。
いや、そうなのか?
××は何考えているんだ?
おかしいだろ。
ここは1、2時間くらい、何らかの話を聞くとこだろう?
え、これで時間を取るのか?」
なんてことを言っている。
「あーもう、のど乾いちゃった!緊張したんだから、今度はナスが飲み物おごって!」
なんてことを言うと、ナスがあきれ顔でこっちを見た。
「何で俺が、ケーキ屋に一緒に行った交換条件だろ?」
「だいじょうーぶ!大丈夫!さっ行こう!」
うん。断られてはいないし。このまま押しちゃえ!
ナスの腕を引き上げたらすんなり立ってくれたし、このまま腕も組んじゃう。
ほら、腕組んだままでもそのまま歩いてくれてる。
大丈夫!
「白衣の似合う、ナスが好き。
難しいこと言う、ナスが好き。
すぐに表情に出る、ナスが好き。
嘘をつかない、ナスが好き。
すぐに落ち込む、ナスが好き。」
そのまま川沿いに土手の上を歩きながら好きコールを始めると、ナスが開いている手で自分の顔を塞いだ。
「ちょっと待て。
何だ。今日は。
『おまえ、何考えてんだ?』」
ナスがそう言って急に足を止めたから、腕を引っ張る形で半歩、私が前に出てしまった。
そのまま腕を引いて顔を覗き込んでみたら、指の間から、”しまった”って表情のナスが見える。
わかってるよ。
今日は分かってるんだ。私。
ちゃんと答えるよ。
「ナスのこと考えてるよ。
ナスもメロンのこと考えてくれてるでしょ?
私は、いつも、大好きなナスのこと考えてるよ。」
ピー・・・