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その7 博士とナス

玄関ドアを閉め、鍵をかけたところで博士は俯き大きく息を吐いた。

先日床屋で髪を短く切りそろえてもらったため、俯いても前髪で前が見えなくなることはなかった。


「つかれた。」


久しぶりに履いた黒い皮靴を脱ぎ、キッチンを通り、部屋に向かう。


そのまま、パソコンの電源を入れたが、椅子には座らず隣室に向かった。

雑な手つきで黒いネクタイをはずし、礼服を脱いで床に放り投げ、ベッドの上にあったTシャツとパンツに着替えるとそのままベッドに突っ伏した。


「つかれた。」

博士は身体を半回転し、壁を見るように横になった。

「言われたな。だから行きたくなかったんだ。」

腕で目を覆い、大きく息を吸い込んではく。

「いつも、同じ事言われてるよな。

俺も成長しないな。

わかってるんだ。俺なんかにメロンのことが分かるはずがないってことは。

いくらインプットしてもその情報は俺から見た彼女でしかない。」


目をつぶって壁に向かって淡々としゃべり続ける。


「メロンの情報を入れて、周りから得た情報を入れて影響を受けさせても、その先に回答がなければ、既定に戻るしかない。

ループ、ハングアップを避ける必要があるんだ。しかたない。

そもそも、メロンは何も考えてないんだ。」


『それは、お前から見た メロン だろ』


今日、墓の前に集まった友人の一人に言われたセリフが、博士の頭の中をよぎる。


「そうだ、今のうちにまとめておかないと。

俺が知ってることだけインプットしたって、どうせだめなんだ。答えは出ない。」


ゆっくりと体を起こし、ベッドサイドのテーブルの引き出しからだしたメモにペンを走らせた。

30分ほどそうした後、隣室のパソコン横にある白板の前に立ち、メモを1枚1枚破って磁石で白板にとめていく。


メモをとめ終わると電源の入ったパソコンを見ながら、椅子を引いて座った。


「前回は、カフェのデータを入れて、その反応を見ていたんだったな。」


博士は、先日行った床屋の前にあるカフェのデータを追加したことを思い出していた。


プログラミングソフトを起動し、今日得た情報をまとめたメモを見ながら打ち込んでいく。

博士の指がキーボードを忙しくたたくと、ディスプレイに白い記号が何行、何段にもなって走っていく。



「コンパイル」

Enterキーを叩いて、そう言った博士は椅子を引いて、両手を上にあげて体を伸ばした。


-----------


博士が突然部屋に入ってきたかと思うと、PCに向かう俺に言った。

「ナス、今日のことを報告してくれ。」


博士はそのまま白い四角い部屋の隅まで歩き、備え付けてあるふたり用の小さなキッチンテーブル用の椅子に座って俺の方を見た。


「メロンはまだ来てないけどぉ?」

俺は、博士のことが気に入らない。

だから、つい反抗的な態度をとってしまうことは自覚している。


「メロンは、まだいい。お前だ、ナス。」


今日の博士はニヤニヤしていない。

どちらかというと疲れているように見えるが、俺の知ったことじゃない。


俺は、ディスプレイに目を戻して、キーを打ちながら答えた。

「今日は、博士の指示が何もなかったから、無理やりメロンに引っ張られてカフェに行った。」

俺が、行きたかったわけじゃないから、無理やりといった方が正解だろう。


あ、そうだ、ループのことも報告しとくか。


「博士、俺のセリフでメロンがループしてたぜ。

何だったかなぁ。そうだ 『おまえ、何考えてんだ?』って、セリフだったっけ。

2回言ったら、2回とも同じ答えしか返ってこなかった。

だから、ループして何回このセリフ言っても同じことしか返さないようになってると思うぜ」


博士から反応が返ってこない。

思わず、ディスプレイから視線を博士の方に移動したら、面白いものが見れた。


頭を抱えてうなだれている。


「そうか。そうだな。聞いといてなんだが、メロンの考えていることは分からないんだった。」

博士がうなだれていた頭を上げて、俺の方を見た。

俺はとっさにディスプレイに視線を戻す。


「ところで、ナスはどうして2度も同じことを聞いたんだ?」


そこで、俺はもう1つ博士に確認しようと思っていたことを思い出し、キーボードの手を止めて答えた。

「えっと、そうだ。

メロンが博士を知らないくせに、俺を誘った口実が「博士から何も言われていない」だったから、そんな流れになったんだったかな」


「ああ、せっかくデータを追加したけど、前データの修正が必要か」

博士がまた頭を抱えたのが目の端に入った。


やっぱりバグか。

俺はため息をついた。

博士は何がしたいんだ。

それを聞いても答えてくれないのは分かっているから聞かないけどさ。


「わかった。ナス。後でもう一度今日を始め直すから、」

そう言うと博士は椅子から立ち上がった。


「から、何、さっきの修正するの?」

歩く博士に聞くと、訳の分からない答えが返ってきた。


「やっぱり俺が駄目なんだ。メロンは決められたセリフしか言えなくなってしまう」

言うと、博士がドアから出ていった。


いや、メロンをそういう風に作ったんじゃないのか?

学習機能はあるがクエスチョンだけで、回答までたどりつかないように。

だったら俺は?


ピー、例の音が聞こえた。

次に聞くときは、今日を始め直すときだろう。

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