その4 メロンの話
「ん~!おいしかったね。」
約束どおりに、ケーキ屋で代金を払ったメロンは、ケーキを3つも食べて、それはそれは満足そうだ。
メロンの頭上や周りにはピンクのハートが飛び散っているのが目に見えそうなほどの満面の笑みだ。
ナスは思わず、ハエを払うかのように右手を振ってハートを蹴散らしていた。
「何してるの?ハエ?」
ナスの右手を眼で追い、クスクス笑いながらメロンはナスの周りを回った。
ナスは相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
「おまえ、食べたケーキの中でどれが一番おいしかった?メロン」
「えっと、、、」
「3つ食べたよな?」
「うん。どれも甘くておいしかったよ。」
ケーキ屋を出て河川敷の方向に歩き出し、5分と経っていない。
「俺は、ケーキがどんな味だったのか、覚えいてない、というか理解していない。」
ナスが独り言のように呟くと、メロンはキョトンとした顔になった。
「んー。ナスが食べたケーキは味が難しかった~?」
「話にならない。」
博士に作られた俺たちが何故ケーキなんか食えるんだ。
メロンはそこに疑問を持たないらしい。
そういう風に作られたんだな。だったら俺は?この世界に違和感だらけだ。
「あっ!人の情報だったよね!忘れてた訳じゃないのよ!」
メロンはナスの顔を見て、不機嫌の原因が自分に出された条件のことだと思ったらしい。
いきなり、声を高くしてナスの前に立ち止まった。
「じゃ、学校のこと話すわ。友達のことね!」
ああ、そうか。彼女は学校に行き、多くの友達を持っていたんだ。
明るい性格のおかげで友達も多く誰からも慕われる。
そう、そういえば、そんなだったな。
「ああ、ちょうど良い。俺が作成中の町には高校もある。普通の平凡な町だ。」
ゲームに使用するわけでもなく、何かの実験にするのでもない、平凡な街。
そこに人間を作り出し、生活をプログラミングする。
人口1万人程度の街、学校もあれば公園もある、ただ、この世界のように橋の向こうには行けないし、
行こうと思う人間もいない、そんな仮想空間が俺の課題だ。
博士は何故そんな課題を俺に出したのだろう?
「また、何か考え込んでる?ナスってば、そんな顔ばっかりだとおっさん化が早まるわ」
メロンは両手で頬を挟み、さも困ったように、顔をフルフル左右に振って見せた。
「ほら、川を見ながら話してあげるから」
土手の上を指差し、メロンは先に駆け上がっていった。
何をするにも、楽しそうだ。
「俺とは本当に正反対だな。」
ナスは先に行ったメロンを目で追いながら、急ぐ素振りも見せずに変わらない歩調で後を追った。
幅2mくらいの歩道がずっと続く土手の上で、川に向かい座っているメロンの隣にナスは座った。
「学校にはいろんな子がいるのよ。どんな子の話が良い?」
唐突に話し始めるメロン。
「ああ、そうだな。まずは、お前が一番仲の良い友達のことでも」
メロンの表情が変わった。何故か不思議そうな顔をしている
ピー どこかで電子音が聞こえたような気がした。
メロンの表情が元に戻った。
「えっと、一番仲の良いのは、隣のクラスの女の子なの!今年はクラスが変わっちゃってね。」
「俺が必要な情報は、人の家族構成や、性格、体型、・・・」
ナスの話を無視して、メロンは一生懸命しゃべり続けた。
「でね、休み時間にその子がいろんなもの見せてくれるの。
この間、同じクラスの子も混じってるときに、海外のお土産をくれたの」
メロンは延々と話し、ナスにしては根気よくその話を聞いていた。
「仲の良い子は、私と同じ背格好でね、趣味もよくあうの。
だから、お土産とか選ぶのすごく選びやすいって言ってた!自分の好きなもの買えば良いから迷わなくてすむって。」
「そのときに一緒にいた子が、あっ同じクラスの女の子で、髪が腰まであって、長身の美人系な子とその友達2人なんだけど、今度自分たちも海外旅行するって行って、行き先について盛り上がっちゃって」
さらに2時間、メロンは4人の友達のことを話し続けた。
ナスはメロンの話を聞いているうちに、その中の一人をよく知っているような感覚があった。
ナスは学校に行っていない。もちろんメロンの友達にあったことも無い。
ピー どこかで電子音がなった。
確かに二人に電子音は聞こえているのだが、当たり前に吹く風のようにそこに何かを感じることはできないらしい。
「あーもう、のど乾いちゃった!いっぱい話したから、今度はナスが飲み物おごって!」
「何で俺が、ケーキ屋に一緒に言った交換条件だろ?」ナスはあきれ顔でメロンを見た。
「だいじょうーぶ!大丈夫!さっ行こう!」
メロンはナスの腕を引き上げ、無理やり立たせ、腕を組んだままナスを引っ張るように歩きはじめた。