その3 メロン
「やった。ナスが一緒にケーキ屋に行ってくれる!」
嬉しくて飛び跳ねてしまう。
無理かな〜って思ってたんだけど、言ってみるものね。
交換条件を出されちゃったけど、それもきっと何とかなるわよね!
ケーキ屋に向かう道の途中でメロンがナスに向かって話しかけた。
「ナスと博士ってやっぱり似てるよね〜。」
「どこがだよ。博士と俺とはぜんぜん違うよ」
まったくこっちを見ないで答えるナスの横顔。
ナスと並んで歩いているとナスの横顔ばかり見上げることになるんだけど、
ちょっとこの横顔が好みだったりするのよね。
「さっきは似てるって言っていたのに。。。」
ほんとに。性格と背格好、どうしてナスはこんなに博士に似てるのかな?
ピー・・・
ん?あれ、今何を考えてたっけ?
「あっ、あそこよ。ケーキ屋さん。ほら、店先にウッドデスクが置いてあるとこ。」
「ふーん。かわいらしいだけの店かと思いきや、落ち着きもあるんだな。
これも、あの世界に加えてみるか。」
ナスは手で顎をさすりながら、店先に出ている看板のメニューを覗き込んだ。
「まぁ、メニューはどこも同じだな。
小難しいケーキの名前。
それにフルーツを盛り込んだケーキの説明がうまくおいしさをにおわせる。」
「もう、いいじゃない!そんなこと。早く入ろうよ。」
メロンがナスの腕をぐいぐいと引っ張っているが、ナスは一向に動く気配が無い。
ようやく店に入れたのは、というか、店の行列の最後尾に並んだのはメニューを見だしてから10分後だった。
その間にも3組くらいが行列に並んでいた。
「非効率な奴だな。俺がメニューを見ている間に列に並んでたら良かっただろ」
「ふーんだ。何のために一緒に来てんのよ。遊園地の順番取りじゃ無いんだから!」
「何のためって。」
ナスは、まったくわからないと言うように首をふった。
メロンがそっとナスの肩に手を伸ばし、自分の方に傾けとばかりにナスの肩を抑えた。
ナスは、左足を少し曲げ、メロンの口元に耳を持っていくように傾いてみた。
「ねぇ。ナス。見てみて!ほら、結構男の人もきてるでしょ。男の人にとってもおいしいんだよ。この店。」
キョロキョロと辺りを見ながら、小声でナスにささやくメロンはかなり得意げな顔をしていた。
男の人もというよりは、女性の相方として、、、ばかりだが。
「きっと、お前と同じでひとりできたくない奴が、手近な誰かを誘っただけだろ」
ナスの話が終わらないうちに、店員の声が聞こえた。メロンの瞳がパッと輝いた。
「次のお客様〜。どうぞ。お二人様ですか?」
「はーい!ほら!ナスいこう。」メロンはいそいそと店内に入り込んだ。
その手でしっかりとナスの腕を引っ張っていたものだから、かがんだ体制のナスは躓きそうになった。
メロンはそれに気づかない。
本当にこのケーキ屋のとりこになっているようだ。
ナスは再び首をふった。メロンの行動を深く考えるつもりは無いらしい。
「うーん。やぁっぱり、おいしい!並んだ甲斐があったわね!あっナスが食べてるのも少しちょうだい。」
メロンは満面の笑みでケーキをほおばっている。
「博士にもお土産に買ってかえろ!」
ナスは何か言いたそうにというか、不服そうにメロンを見たが言うのをやめたらしい。
「ふーん。並ば無くても最初に買って持ち帰ったらよかったのにって思ってるんでしょ。ナス」
ナスは、メロンにもそれなりに人の考えを洞察することもできるのかという目を向けた。
「んー。やっぱりお店で雰囲気味わいながら食べたいじゃない。雰囲気って大事よ。」
メロンの説得?に納得したのかナスが素直に答えた。
「あぁ。そうだな。」
ナスは笑っているわけではないのだか、心なしか、楽しそうだ。
「なぁに?急に素直ね。」メロンは意外そうにナスを見た。
「お前の情報も悪くないと思って。」ナスはケーキを食べ始めた。
ケーキの先をフォークで割り、一口大にして口に運ぶ。まるで、視線をメロンからわざとはずそうとしたようだった。