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その20 世界の半分とモモ ー番外ー.

モモは、緑と一緒にパソコンに向かっていたころのことを思い出していた。


カチャ、カチャッカチャ、カチャッ 緑が慣れない指先をキーボードにたどらせている。


『”わたしは、いつも、”ここで変換してみたら、”渡しは、いつも”?ちっがーう!』

『緑、落ち着いて、もう一度変換キー押したらいいから。』


キーを打つ緑の横でモモが、パソコンのキーの打ち方を教えている。

カチャ、カチャッカチャ、カチャッカチャ、カチャッカチャ、カチャッ

『”私は、いつも、大好きなナスのこと考えてるよ。”って、打てた!』


『うん。そこで、もう一回リターンを押して。』

『うん。よし。あっ、セリフが入った!』

緑は嬉しそうにモモに顔を向けた。

『パソコン画面の私のキャラクター「メロン」がセリフを言ってる。

これも、パソコンの向こうのナスにも見れてるんだよね?』


横で自分のタイピングを見守ってくれていたモモに、緑は真剣な顔で聞いていた。

モモは、顔は笑っていたと思うが内心複雑な思いで答えていた。

『うん。そう。』

緑は満面の笑みを返して自分の気持ちを声に出した。

『うれしい。どんな顔してみてるかな。』


ー そんな感じだったと思う。


「プログラム完成、か。

仕事じゃない方のことだよね。」

モモはディスプレイにの前で肘をついて、手を組み顎を支えた。


先ほど博士からのモモあてにきたチャットメッセージを見て、緑のことを思い出していた。


博士:プログラム完成


「短すぎるけど、まぁ、彼らしいかな?」


モモの意識が、また過去の緑の会話に戻っていった。


病院で、点滴を打っている緑がモモにぼやいていた。

『ねえ。

親に買ってもらったノートパソコンだけど、この前一時退院したとき、埃かぶってたの。

もったいないよね。』


『うーん。

だったら、今度、緑が家に戻ったときにでも、タイピングの練習だけでもやってみたら?

練習付き合うよ?』


『打ち込むだけなんて、つまんない。

そうだ。モモちゃん。

最近知り合った子とチャットしてるって言ってなかった?

私も入れてもらってもいい?

それなら、頑張れそう。』


博士から招待コードを送ってもらい、緑をチャットルームに招待するときに、モモは緑のイメージ作成のために博士に緑のスナップ写真を渡していた。


緑は、初めて招待された部屋に入ったとき、自分のアバターを見てかなり興奮していた。

『えっ?これが私?

かわいい!

すごい、こんなことできるの?』


『操作方法教えるから、ほら、マウスにぎって。』

モモは、緑のすぐ横について、モモを落ちくように促したものだ。


チャットで話すようになったものの、緑はあまりタイピングが上達せず、モモは緑にタイピングのアドバイスを続けていた。

それは、古いチャットルームを閉鎖して、新しい環境で作成された環境でも続いていた。

入退院を繰り返していた緑が、あまり外を出歩けないので、背景は外にしてほしいと博士に頼んで作られた世界。


モモは、新しい世界がパソコン画面に表示されたときの気持ちを思い出した。

「新しいCGの世界はすごくきれいで、すごく好きだったんだけど、緑が博士に頼んで作ってもらった世界だと思うと、何となく入りづらくなって。」


顎を引いて、そのまま顎を支えていた手に目を伏せた。


「忙しいって理由をつけて、2人がいるときにはあまりあの世界には入らなかったな。」


そのまま、大きく息を吸って吐き出した。


当時、現実世界で、モモは博士が「自分には無理、絶対むり、できるわけがない」とか、色々言っているのを笑いながら聞いていた。

口で言っているだけで、手先はその世界をつくるための構想を描き出していたからだ。


「本当に、なぜ彼は、誰にもできないことをやってのけているのに、自分に対してはマイナス評価なんだろうと、不思議だったわ。」


モモは三人のチャットルームにあまり入らなくはなったものの、メロンのタイピングの面倒は見ていた。

だから、チャットルームでナスがメロンに説教くさい言葉をこまめに返しているのも知っていた。

そして、2人がログインしていないと知っていて、ログインし、その世界に1人しかいないアバターを眺めるときもあった。


ナスへの好感度がメロンの中でどんどん大きくなって、モモは、メロンとナスから、すこしずつズレていくことを感じていた。


「緑はきっと実際の博士を見てもそのままの好意を持ち続けたんだろうな。

あの中のメロンは緑にもましてポジティブ変換が得意みたいだったしね。」


モモは、顔から手を外してその手を上げて大きく伸びをした。


「もしかしたら、自己否定がちな彼だけど、緑には押し切られてしまうかもって思ってたっけ。」


伸びをした手をおとして、再び顎の下で組んだ。


「まさか、緑がいなくなるとは思わなかった。

なのに、メロンは存在し続けてて、どうしていいかわからなくなっちゃったわ。」


モモは、ディスプレイに表示されている「博士:プログラム完成」の文字をじっと見つめた。


「緑がいなくなったから、私の中でも、博士の中でも「ナスの緑への気持ち」が宙に浮いてしまったんだと思う。

その気持ちにケリがついたってことでいいのかな。」


モモは、緑がいなくなってからのことを思い返した。


あの日、博士に会いに行くために待ち合わせをしていたのに、緑は時間を過ぎても来なかった。

待ち合わせに来ない緑に連絡をしたら、緑のお母さんが電話に出て、緑が事故に遭ったと教えてくれた。

病院に運ばれたけど意識がない状態だと聞いて、すぐに病院に行った。

移動中、博士にショートメールを打った。


ー緑が事故ったから今日はパスー


モモは、博士が緑の顔を始めてみるのが遺影になるのが嫌で、お葬式が終わってからその話をした。

だけど本来の緑を知ってほしくて、モモ自身もそれが正解ではないだろうと思いながら、退院後の髪が伸びた緑のスナップ写真を博士に渡した。


そうしてはじまった白いボードへの書き込みとVRの「世界への入室」は、博士のメロンの世界だった。


モモは博士のために、自分と緑の友人たちを博士に紹介し、緑の人となりや情報を伝えていった。

そのうち、命日にお墓参りに行くようにもなり、その友人たちと直接話すようになった。

モモからの情報だけでなく、多方面からの緑の情報を知ってもらいたかったからだ。


モモは、自分のために博士に、緑とメロンを知ってほしかった。

そうして、博士が出せなくなった、メロンの告白の答えを聞きたかった。


「何故かな?

メロンしか知らない彼が、緑に答えを出そうとするのが嫌だったのかも?

でも、その解析で世界の中のナスが博士から分離したとき、すごく嬉しかった。」


そして、世界の扉の中にログインして博士と二人で歩いたとき言われた言葉が頭をよぎった

『何でって、今の君がこの世界のナスと話す必要はないと思っているからだけど。』

「この世界のナスと彼はまったく別で、私もその世界では別で存在してたのも、嬉しかった。」


モモは、緑がいなくなってから、博士の気持ちがどうなるのか、どこに行くのか知りたいと思った。

ただ、それだけだと思っていた。


「明日、落ち着いたころに、行ってみよう。」


そうして、モモは、翌日、コンビニでビールと辛い食べものを買った。

その後、彼に電話をかけると、すぐに「もしもし」という返事が聞こえた。


その声を聞いて少し緊張したのが自分でも不思議だった。

何とか、ことばをつないでみる。


「チャットで、プログラム完成したって、送ってたから、今頃ボーっとしてるんじゃないかと思ったんだけど。」

また、すぐに声が返ってきた。

「チャットって、昨日のだよな。

今日は送ってないから。

タイミングよすぎ、まるで、どこからか見てるように思えるくらい、その通りだよ。」

彼のしかめた顔が頭をよぎって、モモは笑ってしまった。


笑いながら、モモは自分の心が軽くなっているのを感じた。

そうして、宙に浮いていた自分の気持ちが何なのか、何となくわかったような気がした。


モモは博士の部屋に入ったとき、白いボードの写真がはがされ、文字が消されていることに驚いた。

買ってきたものをテーブルに置き、ビール片手に白いボードの前に立つと思わず聞いていた。


「これ、全部、なくしちゃったんだ。」

博士は聞こえているはずなのに、無言で、モモが買ってきたチゲうどんのパッケージをあけて食べた。

「これ、思ったより辛いぞ。」

そう言いつつも、食べ続けて、辛さのあまりか汗が出てきている。


モモがその様子を、だまって見ていると、博士にしては、はっきりとした声で言った。

「もう、ナスが解を出したから、これ以上の先に俺は介入できないんだ。」


モモはその言葉を聞いて「ナスの解は他人事?」と思えた。

「そうか。

けり、ついたみたいだね?」

そういいながら、モモにとっても、これは1つの解のように感じて、強く、

(だから、新しい問いをぶつけてみたい)

と思ってしまった。


衝動的にモモは自分が持っている缶を博士の頬にピタッと付けた。


缶についている水滴で博士の頬が濡れたのを見ていると、自然と言葉が続いた。

モモは自分でも声のトーンは下がったの分かった。

「それで、聞きたいんだけど、」


「なにを?」


「わたしが、あなたのこと好きだと言ったら、今度はどんなプログラムを組むの?」

モモは少し息を吸って、吐いて整えていた。

「それで、現実に隣にいる人間の場合も、プログラムを組んでVR世界の誰かに答えを期待してみる?」


博士がかなり焦っているのが分かる。

その様子を見て、ほっとしている自分に少し驚いてもいた。


まるでショートしそうなほど赤い顔をして焦る博士を見て、思わず口走っていた。

「だからそのマイナス思考の回路がショートしない程度に、私にその熱を持っていてくれたら嬉しいんだけど。」


博士が焦りながら頷く姿を見て、これからもこんなふうに一緒にいられることをただ嬉しいと思った。

-----

終わりです。


誤字脱字の修正を後日入れるかも。

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