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その17 博士と緑

博士は、右手に持つマウスを動かし、画面をクリックした。


川を見ながら話している二人の動きが止まった。

画面の中のナスもメロンもここから先は何も進まない。


プログラムを組み、情報を与え、キャラクターが選択肢をつくれるようにしながら、まるで自分たちが考え動いているように動作させていた。

与えられた情報から、選択をつくり出し、枝葉を辿りながらたどりつく、そんなスタートからエンドまでを作り、解がでたところを完成としてコンパイルした。

プログラムを実行させ、その動きを録画し動画を作成した。


緑からみた博士を理想化したナスは、結構、博士に近いようだった。

近いようだったけど博士ではなかったので、博士はナスのようにならなければいけないのかと焦った。

緑が見ている博士は緑が作ったナスだったから、それに答えてそんな風に振る舞ってしまいそうな自分が、博士には受け入れ難かった。


だから、それを伝えたかったが、それを伝える前に緑に先手を打たれてしまった。

メロンの告白は、かつて、博士のアバターであったナスに自分のアバターであったメロンを通して緑が伝えてきた言葉だった。


そのとき、博士はその一言一言が自分のことではないように感じていた。


「白衣の似合う、ナスが好き。」

別に、似合ってなんかない。

痩せ気味で、外に出ないから焼けていない肌色のキャラなら、白衣を着るだけで3割増しにはよく見えるだけじゃないか。


「難しいこと言う、ナスが好き。」

自分の理解できないことをいう人間を普通は好きにならない。

自分とは違う次元のキャラだから、難しいことを言ってもその頭の中を理解できていると錯覚できるだけじゃないか。


「すぐに表情に出る、ナスが好き。」

あの当時の解像度で、表情なんかわかるわけがないだろう。

理想フィルターを被せすぎだ。


「嘘をつかない、ナスが好き。」

嘘を嘘と思わなければすべてが真実だと思えるだけだ。

アバター自体が仮の姿で、嘘ではないが、真実でもない。


「すぐに落ち込む、ナスが好き。」

落ち込んでいるわけじゃない。

お前から見るナスが俺から外れていっているのが怖かったんだ。


2D画面のなかの交流の中では、自分のそんな思いを緑には伝えられなかった。

博士は、画面のなかのナスを見て、話しかける。

「そうか、理解できなくても受け入れられるものなのか。」

画面に手を伸ばそうとして、やめて、膝の上にその手を下した。


ドウシテカオヲミタコトモナイオレニソンナコトガイエルノカ

そんな言葉が頭をよぎった。

「だから、まったく理解できなかった。

だから、おれは受け入れる方法もわからなかった。」

博士は、セリフを棒読みするように感情のこもらない声をだしていた。


博士はメロンを受け入れられない自分自身が信じられなかった。

(どうして受け入れられないんだ。受け入れたら楽になれたんじゃないのか?)

幾度も自問自答を繰り返した。

(こんな、どうしようもない俺に好意を向けてくれたんだから、むしろ、喜ぶべきじゃなかったのか?)

そんなとき、緑がいなくなって、メロンだけが残って、罪悪感が膨れ上がった。


そのとき、かつてのメロンのことばが、メロンと緑の声を多重にして聞こえた。

「「博士。なぜ私とナスを分けて作ったんですかぁ?」」

博士は止まった画面を見ながら答えた。

「何故だと思う?緑」


「俺は、お前が嫌いじゃなかった。

お前が好きだと言ってくれる俺でいたかったけど、できなくて、それでも実際に会えたときには、俺に幸せそうな笑顔を見せてほしかったんだ。」


「実際に会ったとき、俺に笑いかけるどころか、幻滅されるかもしれないと思えた。

緑の好意を受け入れられない俺は、緑にとって何の価値もないだろう?」


博士はそう言いつつも左右に軽く振って、自分の言葉を否定した。

「わかってる。究極の自己否定だ。

俺から見た緑を勝手に自分を否定する材料に使っているだけだ。」


緑から見た博士がナスだったように、博士から見たメロンが緑で、だから、博士にとっての緑はナスにしか好意を向けない。


メロンの理想のナスは、自分でメロンを受け入れるという解に辿り着いた。

『何のためかなんてわかりきったことだった。』


博士には止まった画面から、そんなナスの声が聞こえたような気がした。

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次が最終話です。(2回に分けるかもしれません)

最終話の後、1話追加します。

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