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その12 メロンとナスとモモと

パソコンの横にある白板の前に博士が立っている。

白板にはたくさんのメモ、スナップ写真が貼ってある。

そして、その合間にコメント、プログラムコード、数式が殴り書きで書かれている。

新しい情報が来るたびに、その時に思い付きで書き、消して書き直してコード化してプログラムに打ち込んだ。

今では、自分で書いておきながら読めない字もある。


そして、また、新たなメモを追加する。

過去の情報や写真はモモやその友人に提供してもらったものだ。


白板を、目で追って、頷きながら自分に言い聞かせるように言った。

「メロンは、あの世界でもう独立した。

次はナスの番だ。」


一通り白板を見直した博士は、パソコンの前に座り、キーボードを打ち出した。


コードを見直し、追加し、そうしながら、これを始めたころのことを思い出していた。


 ーーーーー


「私の友だちにあなたのことを話したら興味を持ってしまって、話してみたいって言ってるの。

どうする?」

黒髪で服や色から女性だろうということがわかるような、ドットの荒いイメージのキャラクターからそんなセリフがでている。


「どういうことだ?」

パソコン画面では、もう一人、白衣を着た黒い短髪のキャラクターがワタワタと移動している。

白衣のキャラクターは博士だ。

河川敷の遊歩道で、ちょっとしたトラブルで知り合った女性とパソコンの中で話している。


「このチャットルームに呼んでもいい?」

ドットの荒い女の子イメージのキャラクターは、お願いのポーズをしているように見える。


「・・・・」


「大学に受かったとたんに入院しちゃって、合格祝いに買ってもらったパソコンの使い道がないって嘆いてるのよ。」


「・・・・・・・・・」


「緑っていう子なんだけど、だめかな。

人見知りの博士は、チャットルームでも人見知りしちゃうかな?」


博士は、本来の彼女の顔を思い浮かべながら、絶対にからかわれていると思っていた。


「なんて言ったんだ?友達に?」

セリフを言う博士のキャラクターは汗をかいているように見える。


「病院からの帰りに、変な男の子とあって友だちになったことと、

パソコンに詳しくて、チャットルームでいろいろ教えてもらってるって話したの。」


「もしかして、その子ってお見舞いに行っている入退院を繰り返している子のこと?」


「そうよ。」


モモとは河川敷で知り合ってから1年以上は経っていたが、実際に会うよりはこうやってパソコン画面の中のキャラクター同士で会うことが多い友だちだった。


1年の中で、「果物の桃に里と書いて”とうり”と読むの、でも友達からは”もも”って呼ばれてる」ということも教えてもらった。

桃里と知り合って、話すようになって、同じようにプログラミングを勉強していることが分かり、ネットワークを利用したチャットルームを開き、そこで話すようになったのだ。


そんな交友の中で、友人の病院にお見舞いに行くときだけ、博士の家の近くの河川敷の遊歩道を通っていることを教えてもらっていた。


もちろん、そんな事情を知っていて断れるわけもなく、博士は返事を打ち込んだ。

「いいよ。招待するからコードを伝えてくれる?」


「ありがとう。」

女の子イメージのキャラクターからお礼の言葉が出ていた。


 ーーーーーーー


博士はキーボードを打つ手を止めて、再び、白板の前に立った。


そして1枚のスナップ写真に目を止めた。

「これが、一番最初にもらった写真だったな。

まだ、髪が短かったころの緑だ。」


博士は眼を細め、緑の最初のドット絵のイメージを思い出していた。

「最初はこの写真をモデルにしたから、髪は短めにしてたんだったっけ。」


博士は別の写真を見ながらそのイメージを変えたときのことをさらに思い出していた。


「自宅療養に入ることには、髪が肩より長くなっていたからこっちのイメージでキャラクターを作ったんだよな。

今のメロンのイメージを。」


チャットルームで話すようになってから数年が経った頃、古いチャットルームを閉鎖することにした。

それはネットワーク、パソコン周りの環境が新しくなることに合わせて新しく作るためだった。


ドットの荒いイメージではなく、映像に近いアバターが作れるようになった。

緑のキャラクターのイメージは紙が肩より長く伸びていた。

そんなとき、緑がいきなり提案してきたのは名前のことだった。

「もうすぐ、夏が終わるね。

夏が旬のものの名前を付けようよ。」


パソコン画面には3D映像の背景の中で、立体的なキャラクターたちが歩いていた。

それぞれの名前としてメロン、ナス、モモとつけられ、彼らの世界が始まった。


入退院を繰り返していた緑は、自宅に帰り療養していると言っていた。

あまり外を出歩けないので、背景は外にしてほしいというのも緑の要望だった。


仕方がないので博士は自宅付近の街並み、道、景色を撮影し、取り込みその世界を作っていった。


モモや博士が就活、大学卒業、就職の時期になると忙しくなり、その世界に入るのはモモだけという日も多くなった。

そんな忙しい中でも博士は、緑の要望をできるだけ聞き、プログラムに反映させ、狭いながらも世界を実物に近づけていった。


ナスとしてログインし、ナスとしてメロンと話す。


「これは、緑が病院を退院するころの写真だな。」

博士が指したのは髪が肩より長く伸びた緑の写真だった。


結局、このときになっても、博士は緑の実物に会ったことはなかった。

なかったのだが、仮の世界の中ではメロンがナスに好意を口にしていた。


博士は、メロンが何故そこまでナスを好きになったのか理解できず、喜ぶどころか、逆に落ち込んでいた。


「ナスとして、どう答えたらいいのか、ナスならどう答えるだろう」

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