4話
割られる結界
「なに!化け物め!」
急速撤退!後に全力ダッシュをする
「ふん、子羊が、逃げられると思うか!」
その顔は正しく悪魔だ
背中に強い衝撃を受ける
何かにぶつかったようだ
「チッ、クソが!」
力をこめると背後の何かが壊れ、後ろに落ちる
「きゃぁぁぁああああ!」
真後ろから悲鳴が上がる。しかも若くてかわいい声だ
穴の開いた壁が前に見える。撤退したつもりが敵のアジトに入ってしまったようだ
「死ねぇぇええ!」
火の玉が真っすぐ飛んでくる
その後ろで笑う敵の姿と共に、
「女、子供を巻き込みやがってそれでも戦士か!」
これでも盗賊稼業をやっているが一度も女、子供に怪我を負わせことがないのが唯一無二の俺の自慢さ
敵の攻撃を避けるわけには行けない。後ろには漢が守るべきものがあるからだ。決して俺が言えるようなことではない。だがこれを捨てたら人間ではなくなってしまう
腹に強い衝撃が襲う
熱さは感じない、強烈が痛みが皮膚を駆け上る
本来なら一瞬で終わるはずだ。まさかこれは、焼夷弾か
火の粉が飛ぶ
「ギャッホォォォオオオ」
前から声が近づいてくる
「あつ、」
飛んだ火の粉が後ろの少女の皮膚を焼く
最期に俺の自慢も砕けたな…
生物的威圧感を感じる
「ヒャフォ?」
圧倒的な光量に目を瞑る
爆音が耳を振動させる
いつまでたっても来ない死、いつの間にか狂った声も途絶えていた
恐る恐る目を開けてみる
黒い肉が寝ていた
黒い、肉?
助かったのか?
なんとか元が人間だと分かる
人間?
周囲を見渡すが何もない
ぎこちなく上を見上げる
少女が一人浮いていた
銀色の髪の毛を靡かせ、黒い蝙蝠のような翼で体を包んでいる
「使徒の名のもとに保護対象への第一危険因子と判定、抹殺…完了」
使徒?危険因子?
使徒を名乗る少女と目が合う
あまりの恐怖で思考が停止する。だが戦場で支え続けてくれた勘が強制的に動かす
俺の命は少女の気まぐれといったところか、痺れるー…って痺れないな。うん、気が動転しているな。とりあえず戦闘意志がないことを示そう
得物を柄にしまう
少女が会釈をしたように見えた
え?
もう既に彼女の視線は別の方向を向いていた
指先に光が灯る
発射
その先には正面攻撃を仕掛けた仲間たちに向いていた
「あ、だ…」
着弾
光が大きくなり仲間が巻き込まれていく
よく見れば村人も巻き込まれていた
跡にはドッグタグすら残っていない
一瞬で塵にされる仲間たちを見て安堵している自分に困惑する
女を痛めつけることしか能がないトーシローだったからかもしれない
無理やり女を犯しているときに止めに入れなかったことを思い出し自分が恥ずかしくなる
再度指先に光が灯る
その先には別行動させたエリートの側面攻撃隊がいた
空中で分離する
ん?数が合わないぞ
貫かれる
胸を押さえ苦しみながら息絶える仲間
性格に問題がある者のみが殺される
「第二次危険因子排除完了」
冷酷に宣言される
飛び立つのかと思えば高度を落としてきた
そういえば唸り声が聞こえないな
周囲を見渡す
狼たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていた
「あいつら…まぁー今はそれが一番いい手かもしれないな」
ゆっくり降りてくる少女を見ていると翼の間から皮膚が見えた。裸なのか?なら何か羽織る者が必要だな
振り向くと頭を抱えて怯えている少女の膝に毛布が掛かっていた
「あーすまんがその毛布貸してはくれないだろうか?」
「は、はい!え、ええどうぞ」
少し怯え、もじもじしながら差し出してくる
襲った相手に少ししか怯えないあたり肝が据わっているな…
「あの、」
「ん?どうしたの?」
「さっきはありがとうございます」
「ああ、いいんだよ、当然のことをしただけだからね」
なるほど、この少女は向かってきた攻撃から守られたから警戒が緩んだのか。死にかけたけどなんか気分がいいな。早いところ盗賊稼業から足を洗いたいぜ!本心から!あんなことなければ今頃まっとうな仕事をしていたんだろうな…過去を悔やんでも仕方ない。今は目の前にあることを片付けよう
毛布をもって駆け出していく
足先からゆっくり着地する少女
クリッとした可愛らしい緑の眼一瞬目を捕らわれるが
内心をうまく隠しながら毛布を渡す
「お、ありがとう、気が利くね」
さっきまでと空気が違う。戦闘時に雰囲気が変わる人をよく見かけたがここまで変わるのは初めて見た
翼の内側に器用に入れていく
期待した俺が馬鹿だった
翼が展開する
巻き起こる風
「うっ」
腕で顔を防御する
たったそれだけの動作で吹き飛ばされそうになるとは…
防御を解く
「あ、ごめん、ごめん、考慮していなかった」
翼は掻き消すように消えていた
軽い感じで謝罪してくる
「え、いえ、おきにならず…」
どこ行った!俺のコミュニケーション能力!
「そう?ならいいんだけど」
会話終了、重苦しい空気が流れる。彼女の気に障れば一瞬で殺されてしまうぞ、どうすればいいんだ!なにか話題はないのか!
肩を揉みながら腕を回し始める少女
「えーと、肩揉みましょうか?」
「ん?あーありがとう。でも大丈夫よ」
あんたが大丈夫でも俺の精神は大丈夫じゃないんだよ!
「さっきさ、」
「は、はい」
よかった向こうから話題を提供してくれた
倉庫目掛けて足を進める少女
後ろから付いていく
「森で寝ていたんだよ」
「は、はい」
確かに落ちて行ったな
「そしたらさー石の上で寝ていたんだよ。ほんと笑い話だよね。石の上で寝ちゃって肩が痛いですーって死んでも言えないし、」
え?今思いっきり言っているじゃん
「あの、一つ伺ってもいいでしょうか」
「その固ぐるっしさやめてくれたらいいよ、」
「えーそれではお言葉に甘えて。感知した魔力が途切れ途切れな件についてで…ついてなんだけど。もしかして複数人いる?」
「あーそれね、森のとき寝ぼけて隠蔽解いていたみたい。あはは、だから全部私だよ」
「それはよかったで…うれしいかぎりだよ」
こんなの複数体もいたらこの世の終わりだ
倉庫につく
「ちょっと私に合いそうな服持ってきてくれる?さっきから呼びにくそうだから、亜薫里。それが私の名前覚えておいてね」
「は、はぁ」
ずかずかと倉庫に入っていくし…亜薫里
確か使徒っていっていたな。あれは勇者や聖女の類なのだろうか?いいや、そんな清潔さは微塵たりとも感じなかった。どっちかというと悪魔?まぁーいい、服だな。この倉庫以外はすべて炭になっているんだけどなーあるわけねーだろうが!
◇◆◇◆
んー2度寝程気持ちのいいことはない。まぁー石の上というふざけた場所だったけど、まぁーいいでしょう。にしてもさっきの人かっこよかったな。私が裸であることにいち早く気が付き颯爽と毛布を渡す。いいねー正しく紳士だねー。さらにさらに護衛対象である少女を守るために自ら火の玉に当たったところもかっこよかったー。そうあれぞ漢!漢の中の漢だ!
「ん?だれぇ?」
怯えながらも健気に聞いてくる。その視線は毛布に当てられていた
「敵ではない。毛布ありがとう、ちょっと貸してもらうね」
「うん、わかった」
「ありがとう」
やっぱりそうだったか。少女から毛布を借りるしかない程布がないとしたら服を持ってきてっていうのはさすがに無理があったな。まぁー何とかなりそうな気もするけど
「火傷した場所を見せてくれる?」
「う、うん」
警戒しながら腕を出してくる
白くすらっとした美しい腕だった
幸い火傷は表面だけだった
内攻で周囲の細胞を活発化させ皮膚の交換を早めさせる
「なんか、あたたかい」
「君は相性がいいのかもしれないね。どう?痛む?」
「んん」
小動物の様に顔を横に振る
か、かわいい
「ならよかった。親は?」
この子は世界を動かす存在。神からの迎えが来ないあたりこの子を守り続ける必要がありそうだ。どのような能力があるのだろうか?発想力、魔力、暴力または思考?いろいろな可能性がある。どれか見当がついた方がこの任務もやりやすいだろう。物理的な暴力から守るのか、陰謀、精神的な暴力から守るのかで今後の身の動かし方が違うからね
「戦いに行ったきりまだ戻って来ていない」
確かに生き残った村人が戻ってきていない
後ろから足音が聞こえる
振り向くと布を片手に持った先ほどの男がいた
「向こうで右往左往していた村人の一人が持っていた。運がよかったな」
布を投げ渡してくる
広げてみると透けるんじゃないかと思うほど薄い汚れたワンピースだった
来てみるとサイズはちょうどよかった
「贅沢は言えないか。にしても右往左往する大人ってどうなの?」
「何とも言えませんな」