1話
466年春、花が最も綺麗な時期だ
赤く光る満月が頭上で輝く中、下草が生え花が咲き誇る草原で魔教の教主である私、亜薫里は正教の教主の前で今、朽ち果てようとしていた
「ふん、小娘が、これで終わりだ!」
小娘だと、あんたも同じような歳だろうが!
心の中で悪態をつく
青年の正教教主が正教の象徴である白いローブから右手を出す
己の内攻を核として周囲の魔力が終結し始める
如何にもやばそうな光り輝くボールが生成される
避けたい、だが避けることができない
右腕以外残されていない満身創痍の私が避けることはできない。どうせここで死ぬのだ、なら一矢報いろうではないか
必死で隠蔽しながら魔力を集める
「これが何かわかるか?」
正教教主がボールを見せつけながら問うてくる
レイプしないあたりかなり善良的だよなー。ってそんなことはどうでもいい、今は隠蔽に専念するんだ。えーとボールの話だっけ。あれは初めて見る魔法なんだよな
「知らぬな!」
「そうか、そうか、では冥土の土産に教えてやろう、これは原子魔法だ!」
原子魔法、原子魔法、なんだっけ?てか魔法のジャンルを教えてくれるってかなり優しいな…あ、原子魔法って確か遺伝子壊す奴だよね。やばくないか?
攻撃のために貯めていた魔力を吸収し脳を保護する
「では、さらばだ!」
飛来する魔法
空中で爆発
同時に襲い掛かってくる圧倒的な熱量と放射線の波動
一瞬で消し飛ぶ体
脳は残っている
だが魔法による保護も最強ではない
放射線が僅かに通り抜けてくる
僅かといっても致死量を軽く超える
徐々に削られていく、そもそも酸素を供給できない
このままではまずい、一矢報いれない
必死に魔力を集め保護の修復と酸素への変換を行っていく
永遠とも思われる時間が過ぎていく
熱量はゆっくりとだが確実に下がっている
そしてついに終わった
顏を再生する
戻った視界で見渡す
見渡す限り茶色、だが1輪の黒い花が咲いていた黒菊だ。この爆発の中よく生き残るよな
大きなクレーターができており人っ子一人いない
様子見に帰ってくる正教の教主のために保護を解除し残っていたすべての内攻で魔力を急激に集める
魔力で青いボールを生成する
それを口の中に入れ隠す
果たして正教の教主はこんな放射線の中来るだろうか。いやこの魔法を使えるぐらいだ、銅の塊でもつけてくるのだろう
魔力の波動を感知する
空間が歪みそこから白いローブから出る足がゆっくり出てくる
姿は変わらなかったがローブの魔力の流れが変わっていた
「な、まだ生きていたか!」
驚き後ずさる正教教主
「しぶとい性格なのでね!」
貯めていたボールを口から発射する
真っすぐ飛来する
だが躱される
「な、」
ニヤける正教教主
引っ掛かったな
「ふん、残念だったな。今度こそ終わりだ!」
再度輝くボールが作られる
何発作れるねん!あんなの無造作に撃たれたら戦況がひっくり変わるわよ!だが、ちょうどいい、これなら仕留められるだろう!
正教教主に躱されたボールが帰ってくる
原子魔法目掛けて
「喰らえ!」
手から放たれる瞬間に命中
誘爆
莫大なエネルギーが近付いてくる
正教教主に一矢報いることが出来た、満足満足…って行くか!ようやく魔教も軌道に乗ってきたんだ!この世界に転生してからまだ17年!まだ両親にも会えていな!私は、私は絶対に地球に戻るのだ!ここで終われない!
精いっぱい抵抗する。だが嘲笑うように白い光は私を包んでいく
~
この世界で初めて見たのは森林。そこで捨てられていた。幸いそこには食べられる巨大な生物がうろうろしていた。動物相手に武術を極め10年、初めて人間に出会った。しかも青年に。彼は免罪で国外追放を受け住む場所を追われ途方に暮れていたようだ。彼に食事を与え、雑談し互いに慰めあったもんだ。1年ぐらい2人で暮らしていただろうか。青年を追って若い女が来た。彼女は青年の彼女らしい。彼女にも武術を教えてから半年。また2人を追って友人が来た。続々と人が集まってきて集落ができた。前世の知識を活かした武術はその世界にとって異質であった。異質なものに対する対応は2つに分かれる。囲もうとする、と排除しようとするだ。それ以来この武術を求めて多くの人が集まった。手下になることを条件に武術を教え始めた。手下の心臓には意思一つで爆破できる魔術を仕掛けた。だからだろうか、魔教と呼ばれるようになったのは。多くの達人を輩出した正教が動き出した。我々を殲滅しようと。陰に潜り密かに生きてきた。だがすぐに発見された。部下たちの前で逃げるわけには行かなかった。私が殿になりその隙に仲間を逃がした。かなり消耗しながらも敵教主とのタイマンまで持ち込むことが出来た。次に頭を通るのは高校の第一志望校の合格。友達とした馬鹿笑い、そして告白。初めての彼氏。あの頃は楽しかった。彼氏ができてから1週間。居眠り運転をするトラックに轢かれたのは…
お母さんが遠くにいる
「お母さん?」
お母さんがなんか言っている。追いかけると、僅かに声が聞こえてきた
「行くのよ」
「え?行くってどこへ?」
後ろ向きにムーンウォークしながら急速に後退する
「待って!また置いていかないで!」
馬鹿笑いした親友が見えてくる
「早く行くのよ?」
「だからどこへ?」
また消える
寂しそうな背中が見えてくる
見間違えるはずはない。あれは彼氏の背中だ!
「私はここよ!」
「亜薫里早く行くんだ!」
「だからどこへ!」
また消える
もーやだ
その場で座り込む
どこへ行けっていうのよ!
一筋の光が見えてくる
「行けっていうなら行ってやる!」
光目指して駆け込む
ゆっくり瞼を開ける
カプセルの中で緑色の液体に浸かっており酸素マスクを着けていた
まだ生きているようだ
腕をを動かしてみる
問題なく動かせて
指先を見てみるとシワシワになっていた。むっちゃ老けたやん!もーやだ!何年たっているんだよ!って水に浸かっていたからか
突然水流を感じ始める
なんだ?
徐々に水面が下がって来たようだ
内攻を使い魔力を集める
水面が下がってきたということは治ったということなのだろう。現に意識が覚醒したのだから
青色に輝く魔力弾を手に生成する
発射
ガラスが粉砕される
零れる液体
足からゆっくりカプセルから出る
そこは永遠と白一色が広がる神秘的な場所だった
「目が覚めたか…」
声がどこからか聞こえてくる