思春期の僕
僕には幼馴染の女の子がいた。
名前は山橋琴音。
少し太っていて、ちびまる子ちゃんのみぎわさんみたいな風貌をしている。僕ら男子はその体型から、相撲の琴錦とあだ名をつ毛ていた。
その琴錦、琴音とは、幼稚園の時からずっと仲良くしていて、小学校時代はずっと一緒に登校していた。
けれど、中学生になると僕らは思春期をこじらせ、琴音を馬鹿にするようになった。僕もそのグループに入っていたので、琴錦と馬鹿にしていた。
あの琴音から今も離れられない。永遠に苦しみ続ける。僕の人生は変わってしまった。
中二の5月。六時間目。退屈な数学の授業。僕はふと琴錦の方を見た。琴錦はいつもはドンと構えているのに、今日は何か落ち着きがなかった。
「お腹でもすいたのかな?琴錦」
僕はそう思った。琴錦っていわれるし。
5分たち、ますます琴錦の落ち着きはなくなっていた。みな寝ているため琴錦の変な行動に気にしない。琴錦の額から脂汗がトロリと落ちた。
「あぁ、もうダメ、漏れちゃう…」
そんな声が聞こえたと思ったら、行きなり琴錦の椅子から水が滴り落ちてきた。
ビャシャバシャ、バシャッバシャッ
琴錦がおもらしをした。
どうしようか迷った。皆が起き出した。
「先生、山橋さんがおもらししました。」
委員長が告げるといきなり琴錦、いや琴音が泣きはじめた。
そのまま委員長に連れられ保健室に向かった。
今日は終礼は全校集会だった。終礼中、琴音は帰ってきた。サイズがなかったのだろう。とてもピチピチな体操服ズボンに上はブレザー。どう見ても不格好だ。しかも、みな制服のなか。上級生までも、笑っている。琴音は顔を真っ赤にしながら帰ってきた
下校時、僕は琴音を探した。
「今やらなきゃいけないんだ。幼馴染。」
琴音は一人でトボトボと歩いていた。外での終礼だったので、おしりは砂まみれだ。不格好な紺色ハーフパンツ。
「よっ!琴錦、今日の土俵はどうやったか?」
「・・・」
琴音はなにも答えなかった。長い沈黙のあと琴音が口を開いた。
「私、漏らしちゃった。我慢できると思ったのに、」
左手はハーフパンツをぎゅっと握りしめている。
「恥ずかしい。この格好。一人だけ体操服なんて恥ずかしいよ。」
「あの横綱だって土が付くんだせ。まわしであるくの恥ずかしいと思うけどなぁ。それぐらいで泣いててどうすんねん。琴音。」
僕は精一杯の、元気付ける冗談を言ったつもりだった。
しばらく沈黙が続いた後、別れ際、琴音はこういった。
「また明日、ありがとう。」
その明日は二度と来なかった。
次の日から琴音は学校に来なくなった。しばらくすると琴音の家も空き家になっていた。なにも言わずに、幼馴染をおいて。
どこで選択を間違ったのだろう。何が駄目だったのだろう。僕は、琴音が実は好きだったのかもしれない。