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Slow Fl@sh Back -壊れた走馬燈-  作者: 金子大輔
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【C-2】

 中二病という言葉がある。それは中二で患う病ではなく、中二を過ぎても自分で自分の在り方を妄想や幻想で設定して生きる人間にあてがう言葉のあや。そもそも、そんな病はない。

ともなれば中二という年頃はアイデンティティーへの目覚めの時期だと言える。

自分として自分はいかなる存在かを意識しながら、理想や夢を描き、受験など現実とも向き合わなくてはならない。

「(面倒な年頃だ)」

寝落ちしてしまいそうなくらいつまらない授業。

休み時間に漫画やゲームの話で盛り上がるガキ共。

すでに大人として大人以上の時間を生きてきた俺からすれば、全てが不毛で幼稚で無意味なものだ。

 周囲と一切の関係を断絶し幾ばくかの時は流れ、それと比例して俺の髪は伸びるだけ伸びた。

顔が前髪でほぼほぼ隠れてしまうほど伸びて、見かねた母が散髪に行きなさいと言ってきたが聞き入れる気は起きなかった。

それでも良くない意味で目立ったようで、学年主任の教師に目をつけられるようになってしまった。

「明らかな校則違反だぞ。明日までに切ってこい!」

明日までという事は今日中に散髪しろと。唐突な指示に舌打ちすると、それが教師の逆鱗に触れる。

「なんだキサマ!その反抗的な態度は!!」

このまま殴られるのではないかと身構えたが、さすがにそこまではしてこなかった。

「いいか!明日までにだぞ!」

捨て台詞を残し教師が立ち去る。

「(まぁ別に好んで伸ばしてるわけじゃないんだけどな)」

鼻息を荒くして去る教師の背中を眺めながら、思わず鼻で笑ってしまった。

「(偉そうにしなさんなって。アンタより長く生きてんだよ。俺は)」

周囲は見て見ぬ振り。そりゃ関わり合いたくはないだろう。面倒な事には首を突っ込まず無視をするのが一番だ。分かる。分かるよ。

そうやってクラスで起きてるイジメとかも無視して済ますんだよ。お前らは。

だからと言って俺もイジメを止めるヒーローになろうとは思わない。

ただ、違うのは自覚しているか流されているかだ。

俺は自らヒーローにならない方向を選び生きている。

決して目を合わさない周囲のガキ共にも呆れ、また俺は鼻で笑ってしまった。

 日増しに孤立していく俺という存在。他からすれば孤独な存在。やもすれば『一人ぼっちの可哀想な奴』に映るだろう。

「違うのだよ。違う。全く違う。」

学年主任の注意を従順に従うはずなく俺は相変わらず長い髪のまま通い続けた。

再三注意をする教師には前髪の隙間から睨むより笑顔を向け、遠巻きに見て見ぬ振りのガキ共にはこちらから無関心の瞳を向ける。

誰もが声をかける事を躊躇う人間。

それなのに、そんな人間にわざわざ声をかけてくるバカもいたりする。

最初は同じ二年生の中のデキの悪い不良たち。暗いだの不気味だの好き勝手な言葉を並べてくる。

初めは聞かなかった事にして無視をする。すると言動は行動に変わる。

「おっと!いたのかよ?」

廊下で通り過ぎる際にわざと肩をぶつけ小バカにした顔をする奴等。こうなる事は予想済みだ。

「わざとぶつかってヘラヘラ何を勝った気になってるんだい?」

そうニヤリとすると不良たちはカチンときて手を出そうとするだろう。

「な、何だよコイツ………。」

殴るか蹴ってくるかと予想していたが、そこは外れて奴等は手を出してくる事はなかった。

奴等自身では………だったが。

 とある日、俺は下校の道の途中で奴等、あの不良たちに呼び止められ、人気のない雑居ビルの裏に連れてこられた。

「先輩!コイツっす!」

同級生ヤンキーたちがヘコヘコする先には三年生の不良たち。

「(お決まりのパターンってやつだな)」

たった一才しか変わらない輩たちは口々に『生意気』だとか何とか言ってきたが、それが古典的ヤンキー漫画の一場面のようだと笑ってしまったその後の展開も漫画そのもの。まずは同級生ヤンキーが俺の腕を掴み、身動き取れなくしてから先輩の一人が攻撃。

集団リンチってやつだ。

それはそれで手の内が単純で察しがつく。

「やれやれ、だな。」

両腕を掴まれたまま先輩が拳を上げた次の瞬間、その先輩がうずくまる。

その光景を俺以外の人間は予想だにしていなかったようで、皆が皆してキョトンとした顔をした。

そんなのは簡単。殴られる前に先輩の股間を思いきり蹴り上げてやっただけ。

「なっ?!」

うずくまる先輩にビビる同級生。それでも腕を放さない。

「先輩たちは動くなよ。で、オマエら早く手を放せ。」

そう言って今度は股間を押さえうずくまる先輩の頭に足を乗せ威嚇すると、別の先輩が一歩にじり寄るのが見えた。

「動くなって!!」

足の下の頭を上から更に踏みつけ、煙草の火を消すように踏みにじってようやく誰も動こうとしなくなった。

「オマエらは放せよ。」

睨みをきかせると、ようやく腕を放す同級生。

「あー面倒くさい。面倒くさい!面倒くさいんだよ!!」

手を放した奴等を次々と殴り飛ばし、うずくまる頭を蹴り上げると、それを引き金に襲いかかってきた先輩たち。

「俺は孤独でも!孤立してるわけでも!ないんだよ!!」

はっきり言って中坊など怖くもなんともない。ドラマや漫画に感化されて意気がってるだけじゃ俺には勝てない。

これは中学生の殴り合いの喧嘩じゃない。一方的に俺が殴るだけの運動。

「なぁ、集団リンチってのはさ『集団をリンチする』って事だったけ?」

足下で許しを懇願するのも無視して一人の髪を掴み上げ、かろうじて意識のある顔に笑ってみせる。

「あとさ、さっきの話の続きなんだけど、俺は孤独でもなければ孤立してるわけでもないんだよ?分かるか?」

朦朧としながらも首を横に振るのを見て、俺は優しく教えてやった。

「そうかそうか。分からないか。じゃあ教えてやるよ。」

その前に掴んだ頭をアスファルトに叩きつけ、辺りが静かになったのを確認してから俺は答えを叫んだ。

「俺は孤高の存在だぁぁぁっ!!!!」

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