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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
8章 メッツァー城塞都市占領

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第78話 魚のあら汁

どうぞご賞味ください!

 器に盛られた色とりどりの野菜たち。

 神秘的に光る茶色のスープ。

 そして湯気とともに上がってくる風味豊かな香り。


 ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。

 子どもたちが目を輝かせている。

 その横でベガラスクも、器に彩る具材とその匂いに、下顎を開いたまま固まっていた。


 人間も、魔族も関係ない。

 等しく器の前で固まっていた。


「どうぞ召し上がれ」


 エスカリナはそっと手を差し出した。


 まるで宝石箱のような料理に、子どもたちは戸惑う。

 魔族同様、人間たちもこんな料理を食べたことがないからだ。

 味噌汁の中から、磯の香りが漂う料理なんて……。


 戸惑っていると、器を握る猛者が現れた。

 ベガラスクである。

 人間たち同様に、何か恐れているようにも見える。

 彼にとっても、魚のあら汁は未知の料理。

 しかも、味噌を知らないベガラスクにとって、勇気のいる料理だった。


 それでも、さすがは魔王の副官である。

 器を持ち上げ、まだ握りに不慣れな箸を構えた。

 口の先端に近づけていくと、器用に汁を流し込む。


 ずずっ……。


 慎ましい音を鳴らした。

 すると――。


「うまぃい!!」


 ベガラスクは紅蓮の瞳をカッと開いた。

 戦場の中ですら出さないような大きな声を上げる。

 空気とメッツァーの城壁を震わせた。


 焼き魚のシンプルにガツンと来る味とは違う。

 煮魚の技巧が凝らされた味とも違う。


 甘み、風味、塩気、そして旨み……。


 多様な味がベガラスクの口の中で混じり、そして広がっていく。


 味噌の味はベガラスクの予想を超えて、独特だった。

 だが、気に入った。

 この風味と旨みは、ただ獣を食べているだけでは味わえない。

 優しく、攻撃的ではなく、ふわっとその残り香だけを置いて消えていく。


 そこに魚のあらで取った出汁が利いていた。

 磯の風味はもちろんのこと、絶妙な塩気がいいアクセントになっている。

 味噌との相性は最高で、深い味わいとコクを提供し、味の層を作っていた。


 幾重にも重なった味の多層構造。

 まさに堅牢にして、鉄壁のドライゼル城を思わせる。


「むっ!」


 気が付けば、汁がなくなっていた。

 器の中に、瓦礫のように野菜が残っている。


「もう! 汁だけじゃなくて、お野菜も食べるのよ」


 エスカリナに叱られる。

 しかし、汁だけをもう1度継ぎ足してくれた。


 折角なのでと、ベガラスクは野菜を摘む。


「ぬほぉおぉ!!」


 思わず変な声が出てしまった。

 全身の毛と尻尾がピンと逆立つ。


 うまい。


 食べたのは大根だ。

 少し芯が残っていて、シャキッとした食感がまた良い。

 だが、感心するべきは大根の味に染みこんだ味だろう。


 ふわりと磯の香りがする。

 そして絶妙な塩気。

 首を傾げるぐらい魚の出汁が、よく大根に染みこんでいた。

 そこに味噌がかかり、ここでも味の多重構造で魅了してくる。


 他の野菜も同様だった。

 不思議なのは、これだけ色々な味を舌で浴びても、決して素材の味がなくなるというわけではないところだ。


「どう? おいしい、ベガラスク?」


 エスカリナが上目遣いで尋ねる。

 ちょっと緊張した面もちだ。

 審判の時を待っているのだろう。


 ベガラスクはふと考えた。


 最大の謎は、この魚のあら汁ではない。

 こんな不思議な食べ物を、どうして弱っちい人間が作れるかである。

 魔族は強い。

 魔法技術においても、人間の上をいっている。


 しかし、1000年かけたとしても魔族がこの料理を作れるとは思えない。



 利用しろ……。



 ふとヴァロウの言葉が、ベガラスクの脳裏をよぎった。


 負けん気のベガラスクにとって、人間の料理にここまでうち負かされるのは、とても癪に障ることだ。


 けれど、これも1つの力だと捉え、利用する。

 それは決して自分が弱いということではない。

 ベガラスクはそう解釈した。


「魔族のおっさん、うまいか?」

「うまいか?」


 恐れを知らない子どもたちがベガラスクに近寄ってくる。

 あら汁の入った器を両手で持っていた。

 すでに口につけたのだろう。

 唇に味噌の滓がついていた。


「あ! ちょっ! こら!」


 エスカリナが慌てる。

 さすがに子どもをベガラスクに接触させるのは不味い。

 逆鱗に触れれば、たちまち首の骨を折られるだろう。


 厨房から出て、ベガラスクを諫めようとするが、魔王の副官は思いがけない言葉を放った。


「ふん。まあまあだな……」


 器をテーブルに置く。

 人と同じように手を合わせた。

 すると、子どもの頭をポンと叩く。


 エスカリナには、その時のベガラスクの顔が、少しだけ優しげに見えた。


 その場を去っていく。


 エスカリナはふっと息を吐いた。


「ふふん。わたしの目は狂いがなかったようね。……そうよ。人間もそう。悪い人間がいれば、良い人間もいる。そして、魔族にだって良い魔族がいる。そういうことでしょ、ヴァロウ」


 メッツァーのどこかにいる指揮官に話しかけるのだった。



 ◆◇◆◇◆



「こんなところにいらっしゃったのですか、師匠」


 ルミルラがやってきたのは、城壁塔だった。

 窓がない石壁で囲まれた空間は、程良く涼しい。

 今日は少し日差しが強いので、陽の光から逃げるにはちょうど良かったのだ。


 魔族になってからというもの陽光に弱くなっているような気がする。

 人間の頃と比べ、暑さを感じやすくなっていた。


 ヴァロウは城壁塔の中に机を置き、書類をめくっていた。

 おそらく壊れた宮殿から持ち出したのだろう。

 メッツァーの状況を確認しているのだ。

 早速、ヴァロウは政務に励んでいた。


 そのヴァロウは顔を上げた。

 ルミルラに反応したのではない。

 急に香ってきた磯の香りにである。


「いかがですか? 魚のあらで取った味噌汁だそうですよ」


 ルミルラは器を差し出す。

 ヴァロウは少し躊躇った後。


「いただこう」


 熱い器を握った。


 まず汁に口を付ける。

 ふわりと魚と味噌の風味が口の中に広がっていった。


 味もそうだが、この温かさがいい。


 お腹の中を直接さすられているような……。

 そんなホッとする熱さだ。


 ヴァロウは城壁の下を見た。

 メッツァーの民、魔族、魔獣が一緒のところで魚のあら汁に舌鼓を打っている。


 特に印象的なのが、メッツァーの民だった。

 あれほどの破壊と死を目にしのだ。

 極限の緊張感の中で、身体を冷たくしていたに違いない。


 それが1杯の器によって、温められていく。

 嗚咽を上げていた人間にも笑顔が見えた。

 身体の芯から熱く、ボロボロになるまですさんだ心に、味を教えてくれる。


 ヴァロウが彼らにできることは、言葉で鼓舞することぐらいだろう。


 だが、人間が作った料理は、時にどんな名演説よりも人を奮い立たせる。

 そして、どんな種族も引きつける力がある。


 今、城下に見える光景がまさにそうだろう。


「師匠の目的は、この光景を世界に作ることですね」


 ルミルラはヴァロウの側に立つ。

 自信満々の回答ではあったのだが、ヴァロウは首を振った。


「違うな。俺の目的は、武力均衡だ。魔族と人類を分ける。均衡状態を作り、戦争を止める」


「天下を2分するのですね。しかし、その後のことは……」


「その後のことは、お前とエスカリナに任せる。俺がやれることは、戦うことぐらいだからな」


 ヴァロウは器をルミルラに渡す。

 すでに空になっていた。


 再び席につくと、また仕事を始めてしまった。


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