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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
8章 メッツァー城塞都市占領

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第77話 新たな魚料理

 ひとまず危機は去った。

 ヴァロウの予測では、しばらく本国軍は攻めてこない。

 そもそも彼らが本国と同盟領の境界線にいたのは、同盟軍が魔族に討たれた場合の保険という意味合いだった。

 しかし、その介入はヴァルファルの領主ルミルラによって遮られた。


 好機とあらば、どさくさに紛れてメッツァーを占拠し、独立を企む同盟を瓦解させようと本国は考えていたが、それが失敗に終わったのである。


 本国でも反戦の声が日増しに多くなっていることを、ヴァロウはペイベロから聞いて知っている。


 大義名分がなければ、リントリッド本国も軍を動かしにくい状況なのだ。


 逆に言えば、ヴァルファル側としても似たような状況ではある。

 もし、あそこで一戦交えることがあれば、本国軍の介入を許すことになってしまう。

 仮に2万の兵を打ち破っても、所詮局地的な勝利でしかないのだ。


 しかし、ゆっくりしている時間はない。

 ヴァルファルと魔族軍が手を組んだと知られるのも時間の問題である。

 相手が魔族と、その彼らと結託した人間となれば、反戦の声も少なくなる。

 今度は、さらに大きな規模で同盟領に襲いかかってくるだろうと、ヴァロウは予測していた。


 が、一服するぐらいの時間はできた。

 ヴァロウはこの間に亡くなった人間、魔族たちを埋葬することに決める。


 ボッタッキオの軍に勝利した時には、大きな歓声を上げていたのに、一転してメッツァーの民たちの顔は暗かった。


 あちこちで嗚咽が聞こえ、咽び泣く声が聞こえる。

 それは人間だけではない。

 魔族たちも同じだ。

 特に魔狼族は集団意識が高い。

 魔族の中でも、取り分け仲間同士の結びつきが強いのだ。


 それ故か、魔狼族は人間の遺体の埋葬を手伝った。

 同じ仲間を失ったもの同士、シンパシィが働いたとでもいうのだろうか。

 遺体を運び、亡骸を葬るための穴を掘り、人間を埋葬していく。


 指示した張本人であるベガラスクは――。


「仲間の穴を掘るついでだ。あと人間の亡骸の腐臭が鼻に突くからな」


 とそっぽを向きながら言った。

 が、何かしら心情の変化があったことは確かである。


 死者を弔うことによって、魔族と人間の距離が縮んでいく。

 それはヴァロウすら予測できなかったことだった。


 蝋燭を立て、死者を弔う。

 その日はそれだけで終わった。


 翌朝。

 その明るい声は、朝日とともに現れた。


「みんなー! おまたせー!」


 現れたのは、エスカリナとルロイゼンから来た補給部隊だ。

 今日も馬車の中には大量の食糧が詰まれていた。

 海水ごと魔法で凍らせた氷の中には、大量の魚が閉じこめられている。


 内陸のメッツァーでは感じることのできない磯の匂いに、メッツァーの民は驚き、たちまち補給部隊に群がってきた。


「ルロイゼンの補給部隊です。わたしの名前はエスカリナ。ルロイゼン城塞都市の領主代行よ。よろしくー!」


 いつになくエスカリナの声は高い。

 わざとらしくも感じるが、逆にそれが良かった。

 暗いメッツァーの雰囲気に、新風が流れ込む。

 民の顔が少し和らいでいった


 ヴァロウではできない芸当だ。

 そしてバルケーノの娘でもあったルミルラにも。


 エスカリナの天真爛漫さと、人との距離を縮める力は一種の才覚だった。

 戦場を経験し、同胞による略奪を経験した民たちに、一瞬で寄り添っていく。


 おかげで、何故エスカリナがこうして補給部隊に同行しているのか、咎める機会すらなくなってしまった。


「よし!」


 補給部隊の設営が終わり、エスカリナは腕をまくる。

 例の焼き魚や煮魚を振る舞い始めた。

 焦げ臭かったメッツァーの街に、おいしい匂いが立ちこめる。

 あちこちで腹の音が鳴り始めた。


 そこでようやく皆は空腹であることに気付く。

 悲しみで、それどころではなかったのだ。


 焼き魚の匂いが立ちこめる。

 煮魚にかかった醤油の香ばしい香りが、お腹を強く刺激した。


「まだか、娘!」

「腹減った! 早く食わせろ!」


 早速やってきたのは、ベガラスクとザガスだ。

 即席の厨房に立つエスカリナを睨み付ける。

 大人の男でも震え上がりそうな殺気の前で、エスカリナは勇敢だった。


「ちょっと待って! あなたたちは後よ。先にメッツァーの人たちにあげるの」


「な! なんだと!」

「人間よりも、オレ様たちが後で食うのか!?」


「その代わり、新しいレシピを覚えてきたわ。新しい魚料理に、あなたたち興味がない?」


「新しい……」

「……魚料理」


 ベガラスクは尻尾をぶんぶんと振る。

 ザガスも突き出した頭を引っ込め、髪を掻いた。


「それは美味いのだろうな?」


 ベガラスクは紅蓮の瞳を光らせ、睨む。


「当たり前よ! わたしが作るのよ」


 エスカリナは自信満々とばかりに胸を張った。


「チッ! しゃーねー」


 ザガスは踵を返し、事なきを得る。


 エスカリナの魚料理は、メッツァーの民にも好評だった。

 メッツァーは内陸の都市である。

 魚料理が高級料理といっても、ピンとこないものが多い。

 しかも、この辺りは肉が主体だ。

 肉と比べると、魚の身はやや淡泊である。


 エスカリナは半分恐る恐る提供したのだが、それは杞憂だった。


 老若男女問わず、皆が「おいしい」と舌鼓を打つ。

 それは空腹もあるかもしれない。

 けれど、その言葉を聞き、笑顔を浮かべる領民たちを見て、エスカリナは逆に涙を浮かべそうになった。


 もしルロイゼンがメッツァーのようになったら……。


 そう思うだけで、領主代行エスカリナは胸を締め付けられる。


「エスカリナ様……」


 話しかけてきたのは、補給部隊に帯同してくれたルロイゼンの料理人である。

 彼らがいなければ、1万人近くの人間に魚料理を振る舞うことができなかっただろう。


「ご指示通り、骨と頭を抜いておきましたが、これをいかがなさるのですか?」


 料理人が尋ねる。


 そう。

 いつもは骨と頭を丸ごと焼いたり煮たりしているのだが、今日の魚料理は違った。

 エスカリナの指示によって、頭と骨を抜いておいたのだ。


 それは前回シュインツで煮魚を振る舞った時、不慣れなドワーフたちが魚の骨を喉に引っかけるということが続出したからである。


 その反省を生かし、今回は骨と頭を抜いたのだが、実はエスカリナには別の狙いがあった。


「ありがとう。これでまた新たな魚料理が作れそうだわ」


 エスカリナはルロイゼンから持ってきた古いレシピ本を開く。


 まず魚の頭や骨に塩をかける。

 しばらく放置し、お湯をかけた。

 骨に残った白い身が、魔法をかけたように白くなる。

 ちょうど様子を見ていた子どもが、キャッキャッと喜んでいた。


「これが新しい料理なのかぁ?」


 覗き込んだのはザガスだった。

 手を伸ばそうとするのをエスカリナがペシリと叩く。


「何すんだよ!」


「まだできてないの。これは生臭さを取るためよ。あと、あっちで待ってなさい。後で持っていってあげるから。子どもたちが怖がるわ」


 エスカリナは横を見る。

 顔を青白くした子どもたちが、大きなザガスを見上げていた。


「チッ!」


 また舌打ちして、ザガスは去っていく。


「お姉ちゃん、怖くないの?」


「大丈夫。見た目はああだけど、意外と可愛いところがあるのよ、魔族って」


「魔族が」

「可愛いの?」


「そう。食べてるところとか見物よ。まるで赤ちゃんみたいなんだから」


「「「へぇ~」」」


 子どもたちは去っていくザガスの背中を見る。


 一方、エスカリナはレシピを確認しながら慎重に料理を続けた。


 しばらくしてから魚の頭と骨をお湯から取りだす。

 すると、水と少量の酒を入れた鍋の中に入れた。

 そこに根野菜や芋などの野菜を入れる。

 アルパヤが好きなショウガも投入した。


 そして、エスカリナが満を持して取りだしたのは、茶色いペースト状のものだった。


「お、おい! 娘! おおおおお前、我らに人間の排泄物を食わせるつもりか!」


 遠目から見ていたベガラスクが近づいてきた。

 その尻尾はピンと逆立ち、あわあわと揺れている。

 耳をピクピク動かしながら、目を丸めた。


 ベガラスクの言葉に、エスカリナは顔を赤くした。


「そそそそそんなわけないでしょ!!」


「で、ではそれはなんなんだ! どう見ても、う――――」


「ダメ! それ以上いわないで! これはね、味噌っていうの!」


「……みそ?」


「魔族のおじさん、味噌知らないんだ」

「知らないんだ」

「おいしいのに……」


「「「ねぇ……」」」


 子どもたちは一斉に頷く。


 少しベガラスクの矜持に障ったらしい。

 紅蓮の瞳を光らせる。

 たちまち子どもたちは震え上がった。


 そこにエスカリナがお玉で魔狼族の頭を小突く。


「こら! 子どもたちを怖がらせないの。メシ抜きにするわよ」


「な、なんだと……!」


 エスカリナはベガラスクを睨む。

 その本気度は、眼差しの強さで理解できた。


 第四師団師団長にして、魔王の副官の1人であるベガラスクは、口を噤む。

 エスカリナに手をかけるのは容易い。

 だが、彼女がいなければ、料理が食べられなくなってしまう。


 それだけは避けたかった。


「す、すまん……」


 明らかに嫌々だったが、ベガラスクは謝罪した。


 割と素直な魔狼族を見て、子どもたちもちょっぴり警戒を緩める。


 ちなみに味噌は内陸部では有名な調味料である。

 豆を発酵させたもので、独特の風味と甘みを持つ。

 栄養価が高く、平民から貴族まで慣れ親しまれてきた。


 エスカリナはお湯の中に味噌を投入する。

 ふわりと味噌の香りが舞い上がった。

 すると、同時に磯の香りがする。


「すごーい」

「変わった匂いだねぇ」

「あたし、はじめてぇ」


 内陸にあるメッツァーの領民にとって、磯の香りは未知の香りなのだろう。


「これが海の匂いよ」


 説明すると、子どもたちは甲高い声を上げて喜んだ。


 少し煮立てて、エスカリナはようやく鍋を上げる。



「魚のあら汁のできあがりよ」



 エスカリナは得意満面の表情を浮かべるのだった。


次回、実食!


おかげさまで『ゼロスキルの料理番』が好評のようです。

ご購入いただいた読者様ありがとうございます。

まだという方、そもそも読んだ事がないという方、

こんな感じで飯テロやってます。

良かったら、Web版、書籍版をチェックしてみて下さい!

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