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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
7章 パルマ高原の戦い

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第68話 パルマ高原の戦い 決着

いよいよ決着です!

 それは1人の女だった。

 襤褸を纏い、特別美しいというわけではない。

 貧民街になら、どこにでもいる妙齢の女だった。


 彼女はヴァロウが以前、メッツァーの城門前で助けた母親である。

 むろん、バルケーノが知る由もない。


 母親は魔族に囲まれ、ただ戸惑うばかりだ。

 さらに膝を突くバルケーノに目で射抜かれ、「ひっ」と悲鳴を上げた。


「なんだ、貴様……」


 バルケーノは凄む。

 恐怖で震える母親の代わりに、説明したのはヴァロウだった。


「その女は反乱の折、夫を亡くした未亡人だ。そして、つい先日病気だった息子も亡くなった」


「……ふん! だからどうしたというのだ!?」


「どうしたですって!?」


 母親の青い顔が、たちまち赤くなっていく。

 今度は彼女がバルケーノを睨み返す番だった。


「私も夫も反乱には荷担していなかった。だけど、あなたたち兵隊は私の夫をゴミのように殺した。何もしてないのに。悪魔とののしって、夫を殺した。しかも、最愛の息子までもが……。うっ――――うわああああああ!!」


 怒ったかと思えば、今度は女は泣き出した。

 だが、すぐに顔を覆った手の平から、薄暗い色の眼光を光らせる。

 さしものバルケーノも、母親の迫力に押され、「むぅ」と唸った。


 その異様な雰囲気の中で、ヴァロウは高らかに宣言する。


「これより罪人バルケーノを処断する」


「ざ、罪人だと!」


「だが、我らは魔族である。人間の法律には従わない。魔族にも人間を裁くという判例はない。よって第六師団師団長ヴァロウが、独断を以て判断を下す」



 バルケーノ……。貴様を()刑に処す。



「私刑だと! 我を裁くだと! 魔族がか! 笑わせるな! 一体何の権限があって……」


 その時だった。

 バルケーノの前に人影が映る。

 顔を上げた時には、鋭い刃が鎧の継ぎ目を狙って振り下ろされていた。


 首筋。

 頸動脈からは外れていた。

 だが、深々と刃が刺さり、血が噴出する。

 脳天を突くような痛みが、バルケーノに襲いかかった。


 刺したのは、あの母親だ。

 暗い目をして、バルケーノを睨んでいる。


「女……。貴様ぁ!!」


 傷口を押さえながら、バルケーノは立ち上がろうとする。

 だが、動けなかった。

 先ほどの女の一撃にしてもそうだ。

 バルケーノであれば、素人の攻撃など見てからでも余裕でかわすことができる。


 やっと自分の身体の異変に、バルケーノは気付いていた。


「毒か……」


 バルケーノは刺さった刃ではなく、矢を抜いた。

 矢の傷は浅い。

 だが、その鏃には毒が塗られていたようである。

 だからなのか、身体が思うように動かない。


 すると、今度は誰かが背中の上にのしかかってきた。

 動けないバルケーノに為す術はない。

 顎を強かに打ち、うつぶせになった。


 目線だけを動かすと、ゴブリンが取り囲んでいる。

 それぞれバルケーノに飛びつくと、纏っていた鎧を脱がし始めた。

 愛槍すら奪われ、猛将から武具が外される。


「ヴァロウ! 貴様、一体我に何をしたいのだッ!」


「聞いてなかったのか? ならば、もう1度言おう。これは私刑だ……」


 ヴァロウは合図を送る。


 すると、再び魔族の後ろから人間が現れた。

 1人ではない。

 50、いや100人はいるだろうか。

 大勢の人間が魔族の合間を縫って、バルケーノの方へと向かってくる。


 皆、先ほどの母親と同じだ。

 薄暗い瞳をしている。

 だが、その奥から放たれる殺気は本物だった。


 武器を握り、歯に怒りを溜め、ひたひたとバルケーノとの距離を詰めてくる。


 その殺気、怨嗟はまるで毒だった。

 バルケーノの身体に回る毒よりも恐ろしくはいずり回り、猛将を金縛りにする。

 さらに、それは回った毒の影響か。

 それとも、処断されることになって初めて彼が、罪悪感を感じたのか。


 100人以上の人間に混じって、明らかに人ではないものの姿を見る。

 落ちくぼんだ眼窩、血まみれの顔、手や足のない人間たち。

 それは、バルケーノに絡まった怨霊たちであった。

 反乱から生き延びた人間とともに、こちらへやってくる。


「――――ッ!」


 途端、バルケーノは息を呑んだ。

 それもそのはずである。

 彼らの中に、バルケーノがよく知る人物がいたからだ。


 黒い髪と白い肌。

 大きな黒目に生気はなく、ただ唇には血の跡がついていた。

 その格好は村人のようであったが、間違いない。


 娘ルミルラであった。


「や、やめぇ! やめろぉおぉおおぉぉぉおお! 来るなぁ!!」


 とうとうバルケーノの口から悲鳴が上がる。

 怨霊を振り払うように手を伸ばすが、やはり毒の影響で思うように動けない。

 たちまち、そんなメッツァーの領主を人間たちは囲んだ。

 その周りには、怨霊たちもいる。


「頼む! 助けてくれ! 仕方なかったのだ! 我とて! 我とてこんなことを!」


 バルケーノは亀の子になり、頭を抱えた。

 まるで子どもが親に悪戯の言い訳をするように許しを請うた。


 これが猛将の正体である。


 バルケーノはすべてを省みず、ただ己の戦功だけを誇りとし、最後には猛将として華々しい散り際を求めた。


 だが、ヴァロウはその最期を許さなかった。

 最期の最期に、バルケーノに罪と対峙することを強要したのである。


 ただ戦場にのみ己を見出し、虚飾を重ねた猛将。


「バルケーノよ。そういう人間をなんというか知っているか?」



 裸の王様というのだ。



 その瞬間、亀の子になったバルケーノに100の刃が振り下ろされる。

 それも1度や2度ではない。

 何度も、何度も振り下ろされた。


「きひひひひひひひ!」

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

「ひゃああああああ!」


 奇声が上がり始める。

 バルケーノに刃を突いていた人間の表情が変わった。

 いや、顔色そのものが変わり始める。

 顔面赤黒く染まり、赤い眼光が蠢いた。

 一体腹のどこからそんな音を出せるのかわからない。

 そんな奇声を彼らは上げ続けている。


 当の昔に身体の限界が来ても、人間たちはバルケーノを突き刺し続けた。


「ヴァロウ様……。これは――」


 メトラは慌てた。

 だが、当のヴァロウ本人は冷静だった。


「狂人化だな」


 大気や人間、魔族の中には、魔素という魔力の原料となるものが含まれている。

 その性質は精神によって左右され、時に身体の変化を起こすこともある。

 その顕著なものが、狂人化である。


 極限の精神状態になった時、理性は破壊され、人間らしさを失う。

 その性質は、魔族に近いものとなる。

 精神を乗っ取ることは容易く、訓練すれば『狂戦士』として戦列に加えることも可能だった。


「彼らの狂人化は避けられなかった。いずれ精神のたがが外れ、暴走した魔素によって自ずと廃人になっていただろう」


「彼らを生かす道はこれしかなかった、と……」


 メトラは少し強い口調でいう。

 だが、ヴァロウの表情はやはり変わらない。


「残酷だと思うか?」


「はい。ですが……」


「…………」


「あなたが背負うなら、私も背負うだけです」


「ああ……」


 それだけ言って、ようやくヴァロウは動いた。


 バルケーノの前に進み出る。

 あれほどの傷つけられたのだ。

 死んでいるだろう。

 誰もがそう思っていた。


 だが、くぐもった声が漏れ聞こえてくる。


「きさ、ま……。やはり……あの小僧か…………」


「ルミルラから聞いたのか? 違う。俺は人鬼族のヴァロウだ」


「どうでもいい……。くくく……。一体何のつもりだ? 復讐か? 無駄だ……。貴様には無理だ。……この世界はすでにくさっておる」


「だから、お前はせめて将として綺麗な散り際を望んだのか。実の娘を殺してでも……」


「かかっ……。何がわるい。どうせくさっているのだ。人は増えすぎた。8000人を失っても、またいくらでも生まれてくる。覚えておけ、ヴァロウよ。人の命など存外軽いものよ……」


 瞬間、ヴァロウは剣を抜いた。


 ギィン、と鋭い音が鳴る。

 ごろり、とバルケーノの首が転がった。

 苦悶の表情を浮かべ、飛竜と共に飛んだ空に視線を投げかけている。


 一瞬だった。

 ヴァロウはバルケーノの命を摘み、討ち取ったのではなく、処断した。


「ああ……。知っている」


 ヘーゼル色の瞳を冷たく光らせる。


 転がった首級の髪を乱暴に掴み上げ、皆の前でさらした。


「メッツァー城塞都市領主バルケーノを、ここに処断した!」


 ヴァロウは声を張り上げる。


 すると、歓声が沸いた。

 熱狂的な声を上げ、人間も魔族もバルケーノの死を喜んでいた。


 こうしてメッツァー軍は全滅した。

 8000いた兵は、ほぼ0に近い。

 対して、魔族軍3000は、2500。

 倍数の敵に対して、この戦果は完勝といっていい勝ち方だった。


7章『パルマ高原の戦い』はこれにて終章です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったよ! と思っていただきましたら、

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次章に向けてのモチベーションになります。

よろしくお願いします!


6月10日発売の『ゼロスキルの料理番』もよろしくお願いしますm(_ _)m

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