第65話 火槍炸裂
ゴブリン・アンデッドを主力とした第六師団本隊に、メッツァー軍の竜騎士部隊が襲いかかる。
その先頭はもちろんバルケーノだった。
ぎょろりと目玉を動かし、ヴァロウたちの方を睨んでいる。
1度、大槍を大きく振り回し、脇に挟んで構えた。
口を目いっぱい開き、号令を出す。
「かかれ!!」
竜騎士部隊が突撃してくる。
興奮した飛竜が、首を動かしながら、鋭く嘶いた。
その時、ヴァロウも動く。
「アルパヤ! 布を開け!!」
「う、うん!」
側にいたアルパヤは頷いた。
ゴブリンと若いドワーフで構成された工兵部隊に指示を出す。
覆い隠していた布をはぎ取った。
現れたのは、火槍だ。
成人男性の足よりも一回り大きな穴に、周りは鉄でできている。
鉄筒の下からは短い導火線が出ていた。
中の火薬に引火させ、その熱量を使って鉄の塊を打ち出す兵器である。
「馬鹿め! 火槍なんぞ我らが手塩に育てた飛竜に当たるものか!!」
バルケーノが率いる竜騎士部隊は怯まない。
そのままの速度を維持し、第六師団に襲いかかってくる。
火槍はさして珍しい兵器ではない。
金のかかる魔法兵部隊を組織できない都市では、配備されているところもある。
だが、連射が効かない上、精度も大したことがない。
それなら、費用を負担してでも、魔法兵部隊を揃えたり、火槍よりも構造的に安易で安価な大弩弓が好まれた。
今では、最前線ではほとんど使われていない兵器だ。
故に火槍=使えない兵器というイメージが根強い。
だから、バルケーノはこの時火槍を侮ったのである。
「放て!」
ヴァロウの指示が飛ぶ。
アルパヤは合図となる旗を上げた。
一斉に導火線に火を付けられる。
瞬間、火槍が火を吹いた。
ドォゥウンンン!!
地を揺るがすような音を立て、砲口から砲弾が放たれる。
それはキュウゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥ……と鋭い音を立てて、空へと上がった。
その速度は凄まじい。
だが、飛竜たちの旋回能力も高い。
飛んできた砲弾に対し、翼を広げて回避した。
「ふんっ!」
得意げに笑ったのは、バルケーノだ。
覚悟しろ、と叫ぶ。
だが次の瞬間、事は起こった。
バアァァァアアアァァァアァアァァァアアァァァアァ!!
爆発音が空に響き渡る。
砲弾が破裂したのか。
バルケーノは後ろを振り返る。
視界に広がった光を見て、驚いた。
それは花火だ。
大輪の華が大空に咲いていた。
すると、大量の火花が竜騎士部隊に降り注ぐ。
たちまち混乱状態に陥った。
「馬鹿者! 落ち着け! たかだか火花ではないか!!」
バルケーノは空で一旦停止し、部隊に呼びかける。
そう。
バルケーノの言う通り、たかだか火花である。
だが、異変は自分の愛竜にも起こった。
突如、暴れ出すとなんと大輪の花が咲く方へと動き出したのである。
鼻息は荒く、興奮しながら愛竜は主人の指示を無視し、空を滑空する
初めは花火に反応したのかと思えば違う。
むちゃくちゃな軌道で飛び始めた。
「くそっ!! 一体何が起こっておるのだ!!」
バルケーノは無理矢理手綱を引く。
だが、愛竜の興奮は収まらない。
ぐわっ! ぐわっ! 激しく威嚇しながら、主人の指示を無視し続ける。
他の竜騎士にも同様のことが起こっていた。
飛竜は竜騎士の命令を受け入れず暴れる。
ついには、飛竜と飛竜が空中で衝突した。
そのあおりを食らって、竜騎士が空に投げ出される。
地面に激突し、即死した。
そうしたことは、空のどこでも起こっていた。
飛竜同士が激突、あるいは飛竜に振り落とされ、次々と竜騎士たちが地面に叩きつけられる。
鎧のおかげで生きていても、アンデッドの部隊が現れ、トドメを刺した。
「ぎゃああああああああああ!!」
あちこちで竜騎士たちの悲鳴が響く。
150騎の竜騎士部隊は、気がつけば10分の1以下になっていた。
「何が起こっておる……」
バルケーノはただただ目を大きく丸めることしかできなかった。
明らかに正気を失った飛竜たち。
その飛竜から落ちていく屈強な竜騎士。
自ら槍を携え、鍛え上げた竜騎士部隊が、今や壊滅の危機にあった。
戦歴の長いバルケーノでも、一体何が起こっているのか。
分析することさえはできなかった。
ただ1つはっきりしていることがある。
この事態を引き起こしたのは、あの花火であること。
これは偶然ではなく、明確な意図の下で行われていること。
そして、誰がこの凶状を考えたかということだ。
その時、バルケーノに迫る飛竜があった。
衝突するという時、バルケーノは大槍を振り下ろす。
飛竜の首を狩り、無理やり衝突を回避した。
当然、飛竜は落下をはじめ、騎乗していた竜騎士も「閣下!」と悲鳴を上げながら、地面に叩きつけられる。
ふん、と鼻息を荒くしながら、バルケーノは振り返った。
眼下を見据える。
ヘーゼル色の瞳と視線が混じりあった。
「おのれぇぇえええええ!! ヴァロウォォォォオオオオオオオ!!」
バルケーノは空の上で吠えるのだった。
◆◇◆◇◆
花火の威力に驚いていたのは、メッツァー軍竜騎士部隊だけではなかった。
それを実行指揮したアルパヤも目を丸くする。
副官補佐のメトラも固まり、次々と空から落ちてくる竜騎士に目を見張った。
だが、1人ヴァロウだけは違う。
剣を地面に突き立て、地と空を眺めていた。
「すごい! 花火だけで、竜騎士を……」
メトラはやっと声を漏らす。
だが、ヴァロウは即座に否定した。
「あれは通常の花火ではない」
ヴァロウは背後のアルパヤにぐるりと顔を動かす。
「よくやった、アルパヤ」
戦後ならいざ知らず、戦さの最中でヴァロウが人を褒めるのは珍しい。
それほど、ヴァロウにとってアルパヤの兵器の出来が良かったということだ。
その褒め言葉を聞いて、褐色の肌は明らかに赤くなる。
ベレー帽を脱いで、アルパヤは照れくさそうにくすんだ灰色の髪を掻いた。
「ボクも驚いたよ。まさかあの花火で、竜騎士を壊滅状態に追い込むなんて」
アルパヤが放ったのは、単なる花火ではない。
特定の熱量と、人間が聞こえる音域を越えた――超音波を発生させるものである。
「超音波、ですか?」
聞き慣れない言葉に、メトラは首を傾げた。
「元々飛竜というのは、我ら魔族の特徴を研究し、掛け合わせた合成生物だ。当然、合成させた種族の特徴と酷似している。その1つが超音波だ」
合成された種族の内の1つ、鳥人族は超音波を発し、その音の反射によって距離を算出して、障害を回避している。
鳥人族同士では、混線しないようにそれぞれ音波の周波数を分けるという特徴を持ち、空中での仲間との衝突を避けることを可能にしていた。
飛竜もこれと同じ機能があると睨んだヴァロウは、鳥人族が鳴らす音域を響かせる花火を開発させた。
結果は見ての通りだ。
飛竜が放つ音域が乱れたことによって、飛竜は距離感覚を失った。
あちこちで飛竜同士の衝突が起こったのも、そのせいである。
「では、熱はどういった意味があるのでしょうか?」
メトラは学生のように質問する。
教師役のヴァロウは淡々と説明した。
「飛竜には熱を可視化する能力がある」
「熱を……可視化ですか!?」
「別に驚くようなことはない。これは竜人族の特徴だからな」
熱を可視化することによって得るメリットは、やはり夜間でも活動できるからだろう。
薄暗い中でも、周囲の温度を確認し、獲物と仲間を識別できるのが、竜人族の大きな特徴だ。
飛竜にもその機能は備わっていた。
特に彼らは、幼少の頃から戦闘生物として育てられる。
魔族の体温に反応するように訓練されているため、滅多なことでは人を襲わないようになっていた。
ヴァロウは魔族の体温と同じ設定の熱を出せる花火を作るようアルパヤに指示した。
ドワーフは土と鉄の種族である。
穴掘りは得意だし、発破――つまり火薬の知識にも長けていた。
発する熱の調整など朝飯前なのだ。
「以上の理由により……」
「この混乱が起きたということですか。さすがは、ヴァロウ様」
深く敬服し、メトラは頭を下げた。
ヴァロウはその賛辞を無表情で受ける。
空を見上げると、バルケーノがこちらを見ているのがわかった。
「バルケーノ、残念だったな。お前が鍛えた竜騎士部隊の練度は見事だ。だが、お前は飛竜という生物の特徴を知らなさすぎた。いや、飛竜を使う際の魔族の特徴を把握してなかったのが、お前の部隊の敗因だ」
俺は魔族だ。
その魔族の特徴もまた俺が把握していないはずがないだろう。
ヴァロウは手の平を掲げる。
宙に浮くバルケーノを己の手の平の上に来るようにかざすのだった。
1本1本相手の指を折るようなイメージで書かせていただいています。
面白い! 更新待ってる!
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発売日間近でソワソワしている作者に、喝が入ります。
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