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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
5章 シュインツ攻略戦

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第36話 ルロイゼン帰還

書籍版が1月15日発売です。

Web版ともどもよろしくお願いします。

 ルロイゼン城塞都市は、ここしばらく穏やかな日々が続いていた。

 最前線は遠く彼方。

 テーランを中心に起こった内乱も、今のところ影響はない。


 重税を課す悪徳領主もおらず、食糧の備蓄も十分というほどではないが、2000人の民を2月食わせるぐらいには用意ができていた。


 普通に暮らせるという幸せを噛みしめていた民だったが、いよいよ戦火の足音を聞くことになる。


 ヴァロウたちが帰還したのだ。


「おかえり、ヴァロウ!」


 弾けるような笑顔と共に迎えたのは、ルロイゼン城塞都市の元領主の娘エスカリナだった。

 人魚たちの出迎えの唄を聞いて、走ってきた彼女は、ヴァロウに抱きつく。

 それは、この大要塞同盟では当たり前の習慣だった。

 久しぶりの再会を喜ぶ際に行われる習慣である。


 それはメトラも教養としてわかってはいた。

 が、ヴァロウに抱きつくエスカリナを見て、眉をピクピクと動かしている。

 習慣とはいえ、エスカリナの場合、ちょっと行き過ぎのような気がしたからだ。


 すると――。


「メトラさんもおかえり!」


 エスカリナは、ヴァロウと同じようにメトラに抱きつく。

 メトラの頬がポッと赤く染まった。

 一瞬、呆然とするも、すぐに意識を回復させる。


「ちょ、ちょっと! あなたね!」


 慌てて、突き飛ばす。

 そのエスカリナはぼんやりとした顔で首を傾げた。


「何を驚いているの、メトラさん?」


「淑女足るもの、もう少し節操をもって……」


「淑女……? 節操……? ヴァロウもそうだけど、時々あなたたちって、人間っぽいことをいうよね」


 エスカリナは身体をくの字にして笑う。

 それを見て、メトラはむっと頬を膨らませた。


「ザガスもお疲れ様」


 エスカリナはザガスに抱擁しようとする。

 だが、その前に大きな腕で阻まれた。


「馴れ馴れしくするな、人間……。食っちまうぞ」


 三白眼が鋭く光る。

 さすがのエスカリナも、その迫力に負けてしまう。

 肩を竦めて、握手でもするようにザガスの腕に手を置いた。


「相変わらずね、あなたは……。まあ、いいわ」


「何か変わったことはないか?」


 早速切り出したのは、ヴァロウだった。


「もう……。世間話ぐらいさせてよ、ヴァロウ。まあ、あなたらしいけどね。とりあえず、急を要することはないわ。あなたの大好きな紅茶でも飲みながら、じっくり話をしましょう」


「……ああ、そうだな」


 ヴァロウは妙に素直に応じ、ルロイゼンの中心へ向かって歩き出す。

 その後ろを見ながら、エスカリナはまた肩を竦めた。


「まったく……。ヴァロウの紅茶好きは筋金入りね。ちょっと引き合いに出すだけで、動いてくれるんだから」


「船の中では紅茶が飲めないからですよ」


「なるほど。そういうことか……」


 メトラの忠言に、エスカリナはポンと手を打つ。

 そして、ヴァロウの後を追いかけた。



 ◆◇◆◇◆



 久しぶりのルロイゼン城塞都市は活気づいていた。


 ヴァロウが魔族としてこの都市を占拠した時とはまるで違う。

 民衆の顔に、人間としての輝きが戻っていた。

 経済活動も活発のようだ。

 ペイベロが積極的に船で海に出て、物資を運んでくるらしい。

 さらに城塞内で取れた野菜などを売る物もいて、市場も盛況だ。


 特にヴァロウの目についたのは、城壁やインフラだ。

 所々穴の開いた三段城壁や、割れた石畳などが綺麗に整備されている。

 あちこちで見られた雑草も引き抜かれ、ボロボロだった城塞都市の面影はなくなっていた。


「すごい……」


 メトラも感心する。


 すると、ゴブリンが走り寄ってきた。

 ヴァロウに挨拶するのかと思ったが、用事があったのはエスカリナの方らしい。

 2、3会話を交わすと、ゴブリンは頷き、またどこかへ言ってしまった。


「ゴブリンとうまくやっているようだな」


「え? ええ……。まあね。最初はおっかなびっくりだったけど、話してみると結構物わかりがよくて、いい子たちよ。素直じゃない軍師様と違ってね」


 エスカリナはニヤリと笑う。

 すると、メトラが咳払いした。


「エスカリナ……。些細なことであろうと、ヴァロウ様に対する暴言は許しませんよ」


「誰もヴァロウのことだと言ってないわよ」


「うっ……」


 メトラは喉を詰まらせた。


「うふふふ……。でも、助かったわ。彼らのおかげよ。ルロイゼンがここまで蘇ったのは……」


「どういうことですか?」


「彼らが城壁や道路、下水を修理してくれたおかげで、民も元気になり始めたのよ。ほら、やっぱり身体が元気でも、周りが汚いと気分が落ち込むじゃない。けれど、今は違う。都市が蘇ったことによって、人もまた蘇ったのよ」


「そうか……」


 ヴァロウは目を伏せる。

 実はこの効果もまた、ヴァロウの手の平の上であった。


 ルロイゼンから離れる前、ヴァロウはゴブリンにある指令を与えていた。

 それがさっきエスカリナが言ったようなことだ。


 人間というのは、気分一つで変わる生き物である。

 たとえ、毎日お腹いっぱいに飯を食うことができて、身体に異常はなくても、環境によってその活力が違ってくる。

 特に作業効率という点において、雲泥の差が出てくるものだ。


 特に数が望めない今の状況では、質に頼るしかない。


 環境の充実は必須事項であった。


 そういう観点から手先が器用なゴブリンに、都市の整備を申しつけたのだが、かなりの効果があったらしい。

 ヴァロウたちから遠ざかっていくゴブリンを見ても、彼らを過剰に恐れたり、敵意を剥き出すものはいない。


 むしろ、人間の方から積極的にコミュニケーションを図ろうとしているようにも見える。


 おそらくそれは、領主代行であったエスカリナの影響も大きい。

 彼女が率先して、ゴブリンたちと言葉をかわすことによって、周りにいる人間たちも心を開くようになったのだ。


 人類と魔族の融和を1つの目標と捉えるヴァロウにとって、ルロイゼン城塞都市は希有なモデルケースになろうとしていた。


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