第35話 神々
1度、総合ランキングの圏外近くまで落ち込んでおりましたが、
皆様のおかげで、日間総合71位まで戻って参りました。
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撤退戦は大成功に終わった。
魔王ゼラムスは、新居城ドライゼルに入城する。
機動力のある騎兵部隊と、さらに人類軍第二部隊が壊滅。
極めつけは、魔族に猛威を振るっていた『毒の勇者』を倒してしまった。
『まさか撤退戦で、我ら魔族が大戦果を上げることになるとは……』
とは、ドラゴランがドライゼル入城時に語った言葉である。
彼らにとってすれば、撤退戦=敗走だ。
だからこそ、これまで強く反対してきたのだ。
だが、ヴァロウの考えは違う。
『撤退戦もまた戦だ。ただ逃げるのとは違う』
戦いと名が付く以上、勝利しなければならない。
実に、最強軍師らしい言葉だった。
慌ただしい引っ越しが終わり、かなりバタバタした中、いよいよヴァロウの副官の任命式が、真新しいドライゼル城の謁見式で行われていた。
出席者は残りの副官とメトラ、そして魔王ゼラムスである。
「ヴァロウ……。あなたを魔王の副官として任命します」
「有り難き幸せでございます。このヴァロウ、いつ如何なる時も魔王陛下をお守りし、魔族の繁栄のために全力を注ぐ所存です」
「では、頭をこちらに……」
「はっ」
ヴァロウはゼラムスの方に頭を向ける。
衣擦れの音が聞こえた。
すぐ側までゼラムスはやってくるのがわかる。
甘い香りが鼻腔を突いた。
ゼラムスはヴァロウの頭に手を置く。
「我、ここにヴァロウを眷属として認める。よってここに魔王ゼラムスの力の1つ――“角”の力を与えるものとする」
赤い光が薄暗い謁見の間に閃いた。
すると、ヴァロウの右手が疼く。
手の甲が輝くと、燃え上がるように紋様が浮かんだ。
それは1本の角の形をしている。
魔王の副官となったものには、各々に魔王の力が与えられる。
6種類の力があり、それぞれに対応した紋章が身体のどこかに刻まれるのだ。
すなわち、竜、石、骨、牙、翼、そして角の6つである。
角の力は魔力を含めた身体能力の向上だ。
この力ならば、並の勇者程度では勝てないだろう。
これから動き出す第六師団は、しばらくの間少数の兵力で作戦に当たらなければならない。
ヴァロウ自身も、戦場に出なければならないだろう。
そういう意味でも、角の力は心強いものだった。
任命式が終わり、ヴァロウはまずドラゴランを交えて、ゼラムスと面会することになった。
ゼラムスから何か大事な話があるらしい。
別室に通され、長机の短辺で向かい合う。
ゼラムスは座り、ヴァロウは立ったまま話を聞いた。
「まず、この度の撤退戦について、よくやってくれました。あなたとそしてゴドラムがいなければ、わたくしはこうして椅子に座っていることもできなかったでしょう。ありがとうございます、ヴァロウ」
「いえ。俺は魔王様の副官として、当然のことをしたまでです。ところで、どういったお話でしょうか?」
ヴァロウは頭を垂れた後、ゼラムスの横に座ったドラゴランを一瞥しながら、尋ねた。
そのドラゴランが少し喉を整えた後、答える。
「まずわしから話そう。これは副官になった者すべてに話しておることだが、他の魔族には他言無用に願う」
「……かしこまりました」
「うむ。お前もずっと疑問に思っていたと思うが、何故我らは魔王様を戦場に出さないかということだ」
「――――ッ!」
珍しくヴァロウの表情が固まる。
さすがの軍師も、まさかこの話が今ここで聞けるとは思っていなかったのだ。
とはいえ、予想される話の種類の中に全くなかったわけではない。
その疑問は魔王軍に参加するようになってから、ずっと気になっていたことだ。
何度か上司であるゴドラムに尋ねたことはあったが、すべてはぐらかされてしまっていた。
その理由がようやくここで聞けるのである。
「単刀直入に言おう。魔王様が強すぎるからだ」
ドラゴランの声は、1滴の雨露が大きな湖に波紋を作るように広がっていく。
沈黙が流れ、部屋は静寂に包まれた。
常時、ドライゼル上空を覆う黒雲が、ゴロゴロと鬼の腹のような音を立てている。
「はっ?」
ヴァロウは聞き返すのがやっとだった。
ゼラムスが強いのはわかっている。
今、角の力をもらった今でも、勝てる気がしない。
いや、自分が今強くなったことによって、ぼんやりとした力の差が見えるようになり、さらにその距離の長さに絶望しているところだ。
人類は『毒の勇者』ならば、ゼラムスに勝てると思っていたようだが、本気でゼラムスとやれば、勝てたどうか微妙なところだった。
「ふふん。お主でもそういう顔をするのだな」
ドラゴランは鼻を鳴らす。
満足げに笑っていたが、すぐにその表情を引き締めた。
「まあ、今の回答ならば無理もないがな」
「はい。魔王様がお強いのは重々承知しております。ならば、何故戦力として戦っていただけないのでしょうか? であれば、今すぐにでも戦局が一変するかと思いますが……」
そうだ。
それほどの力をゼラムスは有している。
魔族領を侵略中の人類軍を一掃することもできるはずだ。
なのに、何故……?
そこがヴァロウが聞きたいところだった。
すると、ドラゴランは首を振る。
「強さの次元が違うのだ」
「どういうことですか?」
「1度、その力を振るえば、世界は滅ぶ」
「…………!!」
「決して言葉の綾などではない。人間どもは、我ら魔族が世界を支配すれば、この世界は滅ぶと思っているようだが、あながち間違ってはおらん。正確には、魔王様がそのお力を振るうことによって、世界は滅ぶのだ。それは我ら魔族も例外ではない。すべて無に帰すのだ」
ドラゴランが冗談を言っているようには見えなかった。
ゼラムスも沈痛な面もちで、少し目線を下げながら、ドラゴランの話を聞いている。
そのゼラムスは、何か1つ意を決したように顔を上げた。
「ドラゴランの話したことは事実です」
「……それを確かめたことがあるのですね?」
ヴァロウは確認した。
世界が滅ぶ力と断じる限りは、1度はその力を振るったということだ。
ヴァロウの質問に、ゼラムスは慎重に頷く。
「はい。その通りです。すでにわたくしは、3回この力を振るっています」
「3回……」
つまり、3回……。
この世界は滅んでいるということだ。
驚天動地の告白である。
しかし、ヴァロウはこうも思っていた。
(なるほど。……大昔の遺跡からそういう痕跡が見つかっているのはそういうことか?)
最強軍師の知識は多岐に渡る。
特に歴史研究においては、他の追随を許さないほどの博識だ。
まさか魔族になって、過去の文明が滅んだ原因について知ることになるとは、思わなかったが……。
「わたくしが生まれた直後、わたくしは神という存在と出会いました。彼らはわたくしにこう言い残し、去っていきました」
お前は、リセットボタンなのだと……。
「りせっと…………ぼたん………………?」
「意味まではわかりません。ただ最近思うのは、この世界の文明とあらゆる生物を消去する。それがわたくしに課せられた唯一の務めのような気がします」
そしてゼラムスは次の言葉を強い調子で口にした。
「ですが、わたくしはその務めを甘んじて受けるつもりはありません」
金色の瞳を輝かせた。
その純粋な光は、もはや魔王という雰囲気ではない。
この世を救おうと立ち上がる勇者のような風格を漂わせていた。
「そのための副官というシステム。そして、紋章の力です。どうかヴァロウ、お願いします。この世界を救い、安寧の日々を魔族にもたらしてください」
ゼラムスは頭を下げる。
横のドラゴランが驚き、上顎をパカリと開けて固まっていた。
ゼラムスの行動はそれほど前例のないことだったのだ。
ヴァロウは「はっ!」と声を上げて、膝を折る。
「必ずや魔族領から人類を追い出し、魔族の世界を作りあげてみせます」
「はい。よろしくお願いします、ヴァロウ」
「それと……。可能な限り、魔王様の運命を断ちたいとも考えております」
「ヴァロウ……」
「いらぬお世話でしょうか?」
ゼラムスは目を細め、微笑む。
やがて首を振った。
「いえ。……あなたならやってくれる。そう信じています」
「過分な期待に必ずや応えてみせましょう!」
こうしてヴァロウと魔王の謁見は終わるのだった。
◆◇◆◇◆
「お前の話は、本当だったようだな……」
私室に戻り、ヴァロウは好物の紅茶を飲んでいた。
ティーカップに紅茶を注いだのは、メトラである。
1度ティーポットを置くと、彼女は目をつむり、精神を集中させた。
すると、人鬼族である彼女の頭の上から角が消滅する。
代わりに開いたのは、美しい翼だった。
だが、片方は真っ白だったが、もう片方は真っ黒に染まっている。
いずれにしろ、その姿は神々しく、ぼんやりとした後光を放っていた。
これがメトラの本当の姿である。
彼女は元々女神であり、ヴァロウを転生させた張本人だった。
「やはり、魔王がこの世界のリセットボタンだったのですね」
「お前の話をあらかじめ聞いていなければ、荒唐無稽すぎて聞き流していたところだろうがな」
「いかがなさいますか?」
「やることは代わらん。この世界を2分し、両方の種族を融和させるという俺の計略に狂いはない。それに――」
「それに?」
「今は、俺の手の平の上にはないが、いずれ踊らせてみせるさ」
神とやらもな……。
ヴァロウは笑みを浮かべる。
その歪んだ顔は、魔王以上に魔王の顔をしていた。
面白い! 更新マダー!
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