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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
4章 ラングズロス撤退戦

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第29話 副官任命

16000pt突破しました。

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

 ヴァロウたちが向かったのは、ラングズロスから西にある森である。

 そこには魔王城から撤退した魔王以下、第一師団が隠れていた。


「おお! 戻ってきたか」


 ヴァロウの姿を見つけると、ドラゴランは椅子から立ち上がる。

 魔王ゼラムスも【闇の羽衣】を纏いつつ、近寄ってきた。


 魔馬から下馬すると、ヴァロウは周りを見渡す。

 第二、第五師団の姿がない。

 だが、これはヴァロウの作戦指示書通りだった。


 第二師団は巨人族だ。

 身体こそ大きいが、種族によっては足が遅いものが多い。

 撤退作戦においては、速度の遅さは1番のネックになる。

 だから、ヴァロウは巨人族を先に行かせ、周囲の安全を確保するとともに、この先にある狭い街道内に要塞を築城するように求めた。


 ドライゼル城まで先は長い。

 城を動かすことはできないが、安全な場所を作ることは簡単だ。

 要塞の築城がうまくいけば、逃げる距離が縮まり、撤退作戦の成功率は格段に上がる。


 一方、主に鳥人族を主戦力にする第五師団は、二部隊に分けた。


 第1部隊はラングズロスから運んできた宝具を、次の居城ドライゼルへ送り届けるため。

 第2部隊は鈍足な第二部隊の一部を空輸するために使っている。


 どちらも重要な役目だ。

 特に宝具は、人間たちに奪われるわけにはいかない。

 またきちんとした宝具庫に置かなければ、勝手に発動する危険な宝具も存在する。その輸送は細心の注意を払うのだ。

 鳥人族は宝具の扱いに長ける。

 第五師団にしか頼めない任務だった。


 そして、第一師団である。

 彼らの役割は、ずばり魔王を守ることだ。

 数こそ師団の中では最小だが、一騎当千の兵はギラギラした目で周囲を警戒していた。


 すべての師団の特性を活かした見事な差配。

 御前会議で反対していた師団長も、舌を巻くしかなかった。


「先ほどの轟音……。一体、なんだったのだ、ヴァロウ?」


 ドラゴランは質問する。

 ヴァロウは傅いた。


「それは……」


 いきなりヴァロウは言葉に詰まらせた。

 手で顔を覆う。

 すると、さめざめと涙を流し始めた。


 これには師団長はおろか、横で見ていたメトラも驚く。

 【闇の羽衣】の奥で、ゼラムスも息を呑んでいた。


「どうした? 何故、泣く? 一体何があった?」


「はい……。申し訳ありません」


 その声は震えていた。


「ヴァロウ、ラングズロスで何が起こったのですか?」


 見たこともないヴァロウの動揺ぶりに、ゼラムスもまた狼狽えていた。


「はっ! 実は……。ゴドラム様が戦死されました」


「「――――ッ!!」」


 ドラゴランとゼラムスは同時に息を呑む。

 ヴァロウは時々鼻をすすりながら、説明を続けた。


「ゴドラム様は『毒の勇者』をラングズロスに誘い込み、城もろとも爆破。おそらく、ゴドラム様も『毒の勇者』も爆発に巻き込まれたと思われます。立派な最後だったかと……」


「な、なんと……」


「ゴドラムが……」


 ドラゴランとゼラムスはそれぞれ口を開いたまま固まる。

 やがて目を伏せ、黙祷した。


「覚悟はしていたことだ。……ヴァロウよ、泣くな。師団長補佐たるものが、そうでは他の兵が動揺する。そんな顔では、死んでいった第六師団の兵たちに笑われてしまうぞ。……案ずるな。お前の処遇も、悪いようにはせん。今はともかく我が師団の補佐となるがよい。お主の知略。我が師団で振るうがよい」


「ええ……。それは良いことです。ドラゴランの勇と、あなたの知略が合わされば、どんな敵にも勝利することができるでしょう」


 ドラゴランの提案に、ゼラムスも同意する。

 副官筆頭と呼べるドラゴランの補佐。

 最強といわれる第一師団を意のままに操るのもいいだろう。


(やはり、こうなるか。ならば…………)


 だが、この男(ヴァロウ)は納得していなかった。


 ドラゴランはそっとヴァロウの肩を抱こうとする。

 すると――。


「そうではないのです!!」


 突如、ヴァロウは声を荒らげた。

 思わずメトラはびくりと肩を震わせる。

 ドラゴランも同様だった。


 再びさめざめと泣きながら、ヴァロウは告白する。


「俺は嘘をついておりました」


「嘘……。どういうことだ、ヴァロウ!」


「すべてはゴドラム様からの提案であったのです、この撤退作戦は」


「撤退作戦が、ゴドラムの提案だったと? そんな話、初めて聞いたぞ。いや、そもそもゴドラム自体が、この作戦に反対していたではないか!!」


 ドラゴランは怒鳴りつける。

 ヴァロウは顔を伏せたまま話を続けた。


「はい。今、俺も初めて告白した故……。当然でありましょう。ですが、事実です。ゴドラム様は初めから撤退をする気でおりました。しかし、必ず他の師団長から反対を受けると考え、俺に相談をしました。撤退作戦を了承させ、如何に安全に魔王様をドライゼルへ送り届けるか。俺は悩みました。様々な方法を検討しましたが、どうしても犠牲が出てしまうのです。そこで俺は逆にゴドラム様に相談しました。そして、こう言われたのです」



 ならば、自分と第六師団を犠牲にせよ、と……。



「俺は真っ先に反対しました。ゴドラム様と諍いがあったのは、そのためです」


「あの喧嘩はそのためか……」


「はい。そしてゴドラム様は戦場へ赴かれました。俺を1人残して……」


「では、ゴドラムが人類についたというのは……?」


「真っ赤な嘘です」


「ヴァロウ! 貴様!!」


 ドラゴランはヴァロウの胸倉を掴む。

 引き揚げ、締め上げた。

 だが、その手が止まる。

 ヴァロウの顔は真っ赤になり、涙で溢れていた。


「おやめなさい、ドラゴラン」


 大柄な竜人族を止めたのは、ゼラムスだった。


「察するに、それもゴドラムの指示だったのではないのですか?」


「いえ、魔王様……。それも俺が立てた作戦でした。ゴドラム様は、ただ俺の作戦を忠実に実行したにすぎません」


「貴様! どうして、そんな作戦を立てたのだ!!」


「ドラゴラン……。わたくしにはわかります」


「魔王様……」


「逆に考えるのです。もし、ゴドラムが裏切っていなければ――」


 その瞬間、ドラゴランは口を開いた。


「……そうか。我々は撤退作戦を支持しなかっただろう……。では、他の師団長を説得するための虚言だったというのだな、ヴァロウ」


「その通りです、ゼラムス様、ドラゴラン様」


「なんということだ……」


 ドラゴランはヴァロウから手を離した。

 膝を突き、大きな瞳を彼方へと向ける。


 ヴァロウもまた同じく膝を突き、項垂れたまま説明を続けた。


「この作戦の要は、師団長の方々を説得できるかということでした。撤退戦はどんな戦よりも過酷です。一致団結しなければ、完遂は難しい」


「ヴァロウよ。そのために、裏切り者が必要だったというのか」


「はい……」


「裏切り者、卑怯者と罵られてまで、ゴドラムがこの撤退作戦にかけていたとは……。わしはゴドラムがただ猪突猛進な武将だと思っていた。だが、その認識は誤っていたのかもしれない」


「ゴドラム様は誰よりも忠義のお厚い方でした」


「ええ……。ヴァロウの言うとおりです。ゴドラムは魔族一の忠義者でしょう。それに、ヴァロウ。あなたもです」


「お、俺は――」


 ヴァロウは反論しようとするが、ゼラムスは【闇の羽衣】を解き、前に現れた。

 まるで女神のような笑みを浮かべ、そっとヴァロウの頬を撫でる。


「よくここまで嘘を通しました。あなたもまた、ゴドラムと同じく忠義者ですよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 ヴァロウは頭を下げる。

 すると、さらに言葉を続けた。


「ゼラムス様……。お願いがございます」


「なんでしょうか?」


「もし、お許しをいただけるのであれば、第六師団を率い、ゴドラム様の仇を討ちたいと考えています」


「しかし、第六師団はもうお主とそこにいるメトラしかいないではないか」


「構いません。新たな第六師団を組織し、ゴドラム様に勇者の首を捧げる所存です」


「ふむ。そうなれば、お主を新たな魔王の副官として、取り立てることになるが」


「よろしいではありませんか、ドラゴラン」


 許可を出したのは、ゼラムス自身だった。

 ドラゴランは少し慌てた様子で、その大きな口を開く。


「ですが、魔王様。ヴァロウはまだ13歳の魔族です。いささか年が若すぎると思いますが……」


「彼の知謀知略、強さ、何よりもゴドラムより受け継いだ忠義の厚さ。わたくしは、十分ヴァロウが副官としての素質を兼ね備えていると思います。むろん、年を理由に侮るものもいるでしょう。誰か後見人になってくれればいいのですが……」


 ゼラムスはチラリとドラゴランの方を見る。

 ドラゴランは目の上を少し掻いた後、咳をした。


「わかりました。わしが彼の面倒を見ましょう」


「よろしくお願いしますよ、ドラゴラン。……さて、ヴァロウ」


「はっ!」


「今、ここであなたを6人目の魔王の副官として命じます。略式で申し訳ありませんが、正式な任官式はドライゼルで行えると、わたくしは信じております」


「ありがとうございます、魔王様。必ずや御身をドライゼルまでお届けしましょう」


「よろしくお願いします。はあ……。わたくしも、飛べたらよかったのですが……」


 ゼラムスは顔を上げた。


 実はゼラムスはこう見えて非常に重い。

 サイズこそヴァロウと変わらないのだが、それは単に魔法で身体を圧縮しているだけで、質量自体は変わらない。

 また魔法による転送は、纏っている【闇の羽衣】のせいで弾かれてしまうのだ。


 そういう訳もあって、馬にも乗れず、ゼラムスは徒歩での撤退を余儀なくされていた。


「そろそろ参りましょう、魔王様」


「そうですね。行きましょうか、ヴァロウ」


「先に行っててください。俺はもう少し人類軍の様子を見たいと思います」


 再び第一師団は、魔王城を伴い、西へと進み始めた。



 ◆◇◆◇◆



 むろん(ヽヽヽ)すべて嘘である(ヽヽヽヽヽヽヽ)


 ヴァロウが言ったことは全部出鱈目だ。

 何故、あんな芝居を打ったのか……。

 それは、第六師団の師団長の椅子に座るためだった。


 仮に淡々とゴドラムが死んだことを報告したところで、魔王の副官という地位は手に入れられなかっただろう。


 だが、嘘をついてまで忠義を尽くしたといえば、他の者は一目を置かざるえない。

 それが、魔王のためとあれば、信頼度も高くなるだろう。

 魔族の信頼は、魔王に対する忠誠心で決まるといっていい。


 どんなに武功を立てても、それが魔王に直結しなければ意味がないのだ。


 そしてヴァロウは、嘘をついてまで、己の忠義をアピールしたのである。


「迫真の演技でしたね」


 といったのは、メトラだった。

 あの時、自分に言われた言葉をそのまま返す。


 第一師団と魔王は先に行ったため、今はヴァロウとメトラしかここにはいない。


「まさか……。ヴァロウ様がお泣きになるとは思いませんでした」


「ああ……。あれか」


 ヴァロウは顔を手で覆った。

 すると、再び涙が滂沱と流れてくる。


「え? それって――」


「簡単な手品だ」


 ヴァロウは手を開く。

 指先からちょろちょろと水が流れていた。


「水属性の魔法を使っていただけだ」


 事も無げにいう。

 メトラは「ほう」と息を吐いた。


「女の涙より、ヴァロウ様の涙の方が怖いですわ」


「軽蔑するか? 上司の死を使い、出世した俺を……」


「いえ……。ヴァロウ様は以前私に言いました。あらゆる手段を使うと……。『俺を許さなくてもいい』と……」


「ああ。確かメトラはこう答えたな」



 世界の誰も許さなくても、私だけがあなたのことを許します。



「あの言葉を違えるつもりはありません」


 すると、メトラはヴァロウに向かって膝を突いた。


「副官への昇進おめでとうございます、ヴァロウ様」


「ああ……。だが、ここからがスタートだ」


「心得ております。どこにでも参る所存です」



 それがたとえ、地獄であろうとも……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 真の目的はなんなんだろうな
[一言] なんか、ヴァロウがル○ーシュと被るんだが(笑)
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