第29話 副官任命
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ヴァロウたちが向かったのは、ラングズロスから西にある森である。
そこには魔王城から撤退した魔王以下、第一師団が隠れていた。
「おお! 戻ってきたか」
ヴァロウの姿を見つけると、ドラゴランは椅子から立ち上がる。
魔王ゼラムスも【闇の羽衣】を纏いつつ、近寄ってきた。
魔馬から下馬すると、ヴァロウは周りを見渡す。
第二、第五師団の姿がない。
だが、これはヴァロウの作戦指示書通りだった。
第二師団は巨人族だ。
身体こそ大きいが、種族によっては足が遅いものが多い。
撤退作戦においては、速度の遅さは1番のネックになる。
だから、ヴァロウは巨人族を先に行かせ、周囲の安全を確保するとともに、この先にある狭い街道内に要塞を築城するように求めた。
ドライゼル城まで先は長い。
城を動かすことはできないが、安全な場所を作ることは簡単だ。
要塞の築城がうまくいけば、逃げる距離が縮まり、撤退作戦の成功率は格段に上がる。
一方、主に鳥人族を主戦力にする第五師団は、二部隊に分けた。
第1部隊はラングズロスから運んできた宝具を、次の居城ドライゼルへ送り届けるため。
第2部隊は鈍足な第二部隊の一部を空輸するために使っている。
どちらも重要な役目だ。
特に宝具は、人間たちに奪われるわけにはいかない。
またきちんとした宝具庫に置かなければ、勝手に発動する危険な宝具も存在する。その輸送は細心の注意を払うのだ。
鳥人族は宝具の扱いに長ける。
第五師団にしか頼めない任務だった。
そして、第一師団である。
彼らの役割は、ずばり魔王を守ることだ。
数こそ師団の中では最小だが、一騎当千の兵はギラギラした目で周囲を警戒していた。
すべての師団の特性を活かした見事な差配。
御前会議で反対していた師団長も、舌を巻くしかなかった。
「先ほどの轟音……。一体、なんだったのだ、ヴァロウ?」
ドラゴランは質問する。
ヴァロウは傅いた。
「それは……」
いきなりヴァロウは言葉に詰まらせた。
手で顔を覆う。
すると、さめざめと涙を流し始めた。
これには師団長はおろか、横で見ていたメトラも驚く。
【闇の羽衣】の奥で、ゼラムスも息を呑んでいた。
「どうした? 何故、泣く? 一体何があった?」
「はい……。申し訳ありません」
その声は震えていた。
「ヴァロウ、ラングズロスで何が起こったのですか?」
見たこともないヴァロウの動揺ぶりに、ゼラムスもまた狼狽えていた。
「はっ! 実は……。ゴドラム様が戦死されました」
「「――――ッ!!」」
ドラゴランとゼラムスは同時に息を呑む。
ヴァロウは時々鼻をすすりながら、説明を続けた。
「ゴドラム様は『毒の勇者』をラングズロスに誘い込み、城もろとも爆破。おそらく、ゴドラム様も『毒の勇者』も爆発に巻き込まれたと思われます。立派な最後だったかと……」
「な、なんと……」
「ゴドラムが……」
ドラゴランとゼラムスはそれぞれ口を開いたまま固まる。
やがて目を伏せ、黙祷した。
「覚悟はしていたことだ。……ヴァロウよ、泣くな。師団長補佐たるものが、そうでは他の兵が動揺する。そんな顔では、死んでいった第六師団の兵たちに笑われてしまうぞ。……案ずるな。お前の処遇も、悪いようにはせん。今はともかく我が師団の補佐となるがよい。お主の知略。我が師団で振るうがよい」
「ええ……。それは良いことです。ドラゴランの勇と、あなたの知略が合わされば、どんな敵にも勝利することができるでしょう」
ドラゴランの提案に、ゼラムスも同意する。
副官筆頭と呼べるドラゴランの補佐。
最強といわれる第一師団を意のままに操るのもいいだろう。
(やはり、こうなるか。ならば…………)
だが、この男は納得していなかった。
ドラゴランはそっとヴァロウの肩を抱こうとする。
すると――。
「そうではないのです!!」
突如、ヴァロウは声を荒らげた。
思わずメトラはびくりと肩を震わせる。
ドラゴランも同様だった。
再びさめざめと泣きながら、ヴァロウは告白する。
「俺は嘘をついておりました」
「嘘……。どういうことだ、ヴァロウ!」
「すべてはゴドラム様からの提案であったのです、この撤退作戦は」
「撤退作戦が、ゴドラムの提案だったと? そんな話、初めて聞いたぞ。いや、そもそもゴドラム自体が、この作戦に反対していたではないか!!」
ドラゴランは怒鳴りつける。
ヴァロウは顔を伏せたまま話を続けた。
「はい。今、俺も初めて告白した故……。当然でありましょう。ですが、事実です。ゴドラム様は初めから撤退をする気でおりました。しかし、必ず他の師団長から反対を受けると考え、俺に相談をしました。撤退作戦を了承させ、如何に安全に魔王様をドライゼルへ送り届けるか。俺は悩みました。様々な方法を検討しましたが、どうしても犠牲が出てしまうのです。そこで俺は逆にゴドラム様に相談しました。そして、こう言われたのです」
ならば、自分と第六師団を犠牲にせよ、と……。
「俺は真っ先に反対しました。ゴドラム様と諍いがあったのは、そのためです」
「あの喧嘩はそのためか……」
「はい。そしてゴドラム様は戦場へ赴かれました。俺を1人残して……」
「では、ゴドラムが人類についたというのは……?」
「真っ赤な嘘です」
「ヴァロウ! 貴様!!」
ドラゴランはヴァロウの胸倉を掴む。
引き揚げ、締め上げた。
だが、その手が止まる。
ヴァロウの顔は真っ赤になり、涙で溢れていた。
「おやめなさい、ドラゴラン」
大柄な竜人族を止めたのは、ゼラムスだった。
「察するに、それもゴドラムの指示だったのではないのですか?」
「いえ、魔王様……。それも俺が立てた作戦でした。ゴドラム様は、ただ俺の作戦を忠実に実行したにすぎません」
「貴様! どうして、そんな作戦を立てたのだ!!」
「ドラゴラン……。わたくしにはわかります」
「魔王様……」
「逆に考えるのです。もし、ゴドラムが裏切っていなければ――」
その瞬間、ドラゴランは口を開いた。
「……そうか。我々は撤退作戦を支持しなかっただろう……。では、他の師団長を説得するための虚言だったというのだな、ヴァロウ」
「その通りです、ゼラムス様、ドラゴラン様」
「なんということだ……」
ドラゴランはヴァロウから手を離した。
膝を突き、大きな瞳を彼方へと向ける。
ヴァロウもまた同じく膝を突き、項垂れたまま説明を続けた。
「この作戦の要は、師団長の方々を説得できるかということでした。撤退戦はどんな戦よりも過酷です。一致団結しなければ、完遂は難しい」
「ヴァロウよ。そのために、裏切り者が必要だったというのか」
「はい……」
「裏切り者、卑怯者と罵られてまで、ゴドラムがこの撤退作戦にかけていたとは……。わしはゴドラムがただ猪突猛進な武将だと思っていた。だが、その認識は誤っていたのかもしれない」
「ゴドラム様は誰よりも忠義のお厚い方でした」
「ええ……。ヴァロウの言うとおりです。ゴドラムは魔族一の忠義者でしょう。それに、ヴァロウ。あなたもです」
「お、俺は――」
ヴァロウは反論しようとするが、ゼラムスは【闇の羽衣】を解き、前に現れた。
まるで女神のような笑みを浮かべ、そっとヴァロウの頬を撫でる。
「よくここまで嘘を通しました。あなたもまた、ゴドラムと同じく忠義者ですよ」
「あ、ありがとうございます……!」
ヴァロウは頭を下げる。
すると、さらに言葉を続けた。
「ゼラムス様……。お願いがございます」
「なんでしょうか?」
「もし、お許しをいただけるのであれば、第六師団を率い、ゴドラム様の仇を討ちたいと考えています」
「しかし、第六師団はもうお主とそこにいるメトラしかいないではないか」
「構いません。新たな第六師団を組織し、ゴドラム様に勇者の首を捧げる所存です」
「ふむ。そうなれば、お主を新たな魔王の副官として、取り立てることになるが」
「よろしいではありませんか、ドラゴラン」
許可を出したのは、ゼラムス自身だった。
ドラゴランは少し慌てた様子で、その大きな口を開く。
「ですが、魔王様。ヴァロウはまだ13歳の魔族です。いささか年が若すぎると思いますが……」
「彼の知謀知略、強さ、何よりもゴドラムより受け継いだ忠義の厚さ。わたくしは、十分ヴァロウが副官としての素質を兼ね備えていると思います。むろん、年を理由に侮るものもいるでしょう。誰か後見人になってくれればいいのですが……」
ゼラムスはチラリとドラゴランの方を見る。
ドラゴランは目の上を少し掻いた後、咳をした。
「わかりました。わしが彼の面倒を見ましょう」
「よろしくお願いしますよ、ドラゴラン。……さて、ヴァロウ」
「はっ!」
「今、ここであなたを6人目の魔王の副官として命じます。略式で申し訳ありませんが、正式な任官式はドライゼルで行えると、わたくしは信じております」
「ありがとうございます、魔王様。必ずや御身をドライゼルまでお届けしましょう」
「よろしくお願いします。はあ……。わたくしも、飛べたらよかったのですが……」
ゼラムスは顔を上げた。
実はゼラムスはこう見えて非常に重い。
サイズこそヴァロウと変わらないのだが、それは単に魔法で身体を圧縮しているだけで、質量自体は変わらない。
また魔法による転送は、纏っている【闇の羽衣】のせいで弾かれてしまうのだ。
そういう訳もあって、馬にも乗れず、ゼラムスは徒歩での撤退を余儀なくされていた。
「そろそろ参りましょう、魔王様」
「そうですね。行きましょうか、ヴァロウ」
「先に行っててください。俺はもう少し人類軍の様子を見たいと思います」
再び第一師団は、魔王城を伴い、西へと進み始めた。
◆◇◆◇◆
むろん、すべて嘘である。
ヴァロウが言ったことは全部出鱈目だ。
何故、あんな芝居を打ったのか……。
それは、第六師団の師団長の椅子に座るためだった。
仮に淡々とゴドラムが死んだことを報告したところで、魔王の副官という地位は手に入れられなかっただろう。
だが、嘘をついてまで忠義を尽くしたといえば、他の者は一目を置かざるえない。
それが、魔王のためとあれば、信頼度も高くなるだろう。
魔族の信頼は、魔王に対する忠誠心で決まるといっていい。
どんなに武功を立てても、それが魔王に直結しなければ意味がないのだ。
そしてヴァロウは、嘘をついてまで、己の忠義をアピールしたのである。
「迫真の演技でしたね」
といったのは、メトラだった。
あの時、自分に言われた言葉をそのまま返す。
第一師団と魔王は先に行ったため、今はヴァロウとメトラしかここにはいない。
「まさか……。ヴァロウ様がお泣きになるとは思いませんでした」
「ああ……。あれか」
ヴァロウは顔を手で覆った。
すると、再び涙が滂沱と流れてくる。
「え? それって――」
「簡単な手品だ」
ヴァロウは手を開く。
指先からちょろちょろと水が流れていた。
「水属性の魔法を使っていただけだ」
事も無げにいう。
メトラは「ほう」と息を吐いた。
「女の涙より、ヴァロウ様の涙の方が怖いですわ」
「軽蔑するか? 上司の死を使い、出世した俺を……」
「いえ……。ヴァロウ様は以前私に言いました。あらゆる手段を使うと……。『俺を許さなくてもいい』と……」
「ああ。確かメトラはこう答えたな」
世界の誰も許さなくても、私だけがあなたのことを許します。
「あの言葉を違えるつもりはありません」
すると、メトラはヴァロウに向かって膝を突いた。
「副官への昇進おめでとうございます、ヴァロウ様」
「ああ……。だが、ここからがスタートだ」
「心得ております。どこにでも参る所存です」
それがたとえ、地獄であろうとも……。
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