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第2話 魔王軍第6師団

 ヴァロウは魔王の副官であり、新設された第6師団の師団長である。


 だが、その手勢は少ない。

 現状直属の部下は、メトラとザガスだけだ。

 スライムも近くにいたものを、自らの魔力によって使役している。

 海の魔物もいるが、彼らは海では最強でも陸地では無力である。


 正直にいえば、師団ですらなかった。


 何故、こんなことになったかというと、単純に魔王軍に人員がいないからだ。


 人間であった時のヴァロウが、ルロイゼン城塞を攻略したことによって、人類軍は魔王領に進出することができた。

 そこからの人類軍は烈火のごとく魔王領になだれ込む。

 魔王こそ取り逃がしたが、魔王領の3分の2を手にすることができた。


 一方、魔王軍は大損害を被り、全盛期の3分の1にまで戦力が減ってしまった。

 現状で新設の軍を作るなど夢のまた夢なのだ。


 さらにいえば、魔王軍の中でも突出して、ヴァロウは若い。

 窮地の魔王を救い、その褒賞によって6人目の魔王の副官に取り立てられたが、それを面白く思わない者は多い。

 若造が指揮する新設の軍に、自分の手勢を割くものなどいなかったのだ。


 だが、ヴァロウはそれでもルロイゼン城塞を攻略すると豪語した。


 他の副官たちの目は冷ややかだ。

 後見人で、ヴァロウの唯一の理解者でもある第1師団師団長ドラゴランですら、首を捻った。


 しかし、嘲笑こそすれ反対するものはいない。


『たとえ全滅したとしても、3匹の人鬼族とスライム200匹が死ぬだけです』


 そう言ったのは、他の誰でもない。

 ヴァロウ自身だった。



 ◆◇◆◇◆



 崖を登り切り、ヴァロウが率いる第6師団は、ルロイゼン城塞都市に降り立つ。


 しばし風雨に呑まれる街を眺望した。

 ヴァロウが初攻略を達成してから、15年以上の年月が経っている。

 大きく変わったかといえば、そうでもない。

 武骨な石造りの家は、魔族が占領していた頃とあまり変わっていなかった。


 いや、むしろ――。


「荒れ果てていますね」


 と言ったのは、メトラだ。

 目を細める。

 彼女が見ていたのは、衰退した都市の姿だった。


 一地方の都市とはいえ、元王女としては何か心に来るものがあったのだろう。


 連戦連勝し、魔王領の奥深く浸透した人類に待っていたのは、膨大な戦費だ。

 兵站の確保なく敵領地へ急速に突出してしまったがために、戦費は増大した。

 そのお鉢は、重税となって民衆に回ってくる。


 特に地方は散々だ。


 中央から遠いことをいいことに、領主は私腹を肥やし放題。

 民衆からは「明日への勝利のため」といって、重い税を課す。


 結果、今ヴァロウとメトラが見ている姿となった。


「おい。いつまで街を見てんだよ? 早く行こうぜ」


 ぐるぐると肩を回したのは、ザガスである。

 早く暴れたいといわんばかりに、拳と拳を打ち鳴らした。


 ヴァロウは目を細める。


「ザガス、最初に言ったと思うが……」


「わかってるよ。人間は傷つけないだろ? 相手は地方の雑兵だ。そんなもん興味はねぇよ」


「わかっていればいい」


「お前こそわかってんだろうなあ、ヴァロウ」


 ザガスはにやりと笑う。

 今にも上司であるヴァロウに飛びかからんばかりに、殺気を膨らませる。


「オレ様を退屈させない戦場を作る。お前、そういったよな」


「心配するな。覚えている。お前の死に(ヽヽ)道は作ってやるさ」


「上等よ!」


 再び拳を打ち鳴らす。

 パシィン! と鋭い音が、嵐の中で鳴り響いた。


「行くぞ……。目指すは領主の館だ」


 ヴァロウたちは再び動き出す。

 手を掲げたヴァロウは、合図を送った。

 付いてきたスライムがもこもこと動く。

 ヴァロウたちの足に纏わり付くと、そのまま動き出した。


 嵐の中を無音で動き始める。


「へぇ。こりゃ便利だ」


 ザガスは感心した。


 何も考え無しに、ヴァロウはスライムを選んだわけではない。

 スライムは雑魚の魔物。

 それは人類・魔族問わず、共通の理解だ。


 しかし、使いようによっては、スライムは優秀な戦力となる。


 不定形の本体はどんな形にもなれるし、あらゆるところに侵入ができる。

 しかも、無音でだ。


 軍師時代、ヴァロウは何故、この魔物を魔族たちはただ放置しているのか不思議でならなかった。


 だが、今ヴァロウは魔族である。

 魔族は下級の魔物を使役することができる。

 存分に軍師時代から考えていたことを振るうのみであった。


 無音移動に加えて、この嵐である。

 いまだに誰とも接敵しない。

 ヴァロウたちは、あっさりと領主の館に侵入する。


「行け……」


 ヴァロウは1匹のスライムに命令する。

 壁伝いに屋根裏に上り、中の様子を探らせ、戻ってきた。

 意思疎通が難しく、ほとんど知能がないのだが、ヴァロウは数字を理解させることに成功する。


 紙を見せ、衛士の数を尋ねると「50人」という答えが返ってきた。


「よし。いい子だ」


 ヴァロウは大役を果たしたスライムを撫でる。

 干し肉を与えると、飛びつき、あっという間に消化してしまった。

 ぷよぷよと飛びはね、まるで喜んでいるようだ。


「50人か。想定内だな」


「暴れていいんだな?」


 ザガスは笑う。

 ヴァロウは1つ息を吐いた。


「もう1度いうが……」


「殺すなよ――だろ? 耳タコだって」


「メトラ……。すまんが、付いててやってくれ」


「しかし、ヴァロウ様がお一人になってしまいますわ」


 心配げな視線を向ける。

 そのメトラの銀髪を、ヴァロウは撫でた。


「俺なら大丈夫だ。何匹かスライムをもらうぞ」


「それは構いませんが……」


「心配するな。俺はただの軍師ではない。お前もわかっているだろ?」


「…………わかりました。お気を付けて」


「ああ……。お前もな」


 ヴァロウは2人と別れる。

 スライムを20匹ほど引き連れ、館の奥を目指した。


 同時に轟音が響く。

 ザガスが建物の一部を破壊したのだろう。

 その音を聞いて、衛士たちが集まってくる。

 50人程度ぐらいなら、ザガスとメトラに任せておけば大丈夫だ。


 だが、それ以上に気がかりなことがあった。


 スライムと共に移動しながら、ヴァロウは顔を伏せる。


「ザガスめ。占領した暁には、ここを接収して司令部にするつもりだったのに」


 致し方がない。

 「殺すな」とは言ったが「壊すな」とはいわなかった。

 ザガスに注意しなかったヴァロウが悪い――そう自分に言い聞かせた。


 ほとんど衛士と接敵しない。

 陽動はうまくいったかに見えた。

 だが――。


「まだいたぞ!」


 背後から衛士が近づいてきた。

 相手は4人。

 ヴァロウの力なら余裕である。

 だが、ザガスに言った縛りは、むろん自身にも課されている。

 抵抗せずにいると、あっという間に4人に囲まれた。


「袋の鼠だ。大人しくしろ!」

「なんで、こんなところに魔族がいるんだ」

「一体どこから……」

「なんだよ、このスライムは……」


 戸惑いを吐露する。

明らかに集中できていない。

 魔族を囲み、絶対的な優位を得て安心したのだろう。


 相手は魔族1匹とスライムである。

 気が緩むのもわかる。

 しかし、衛士たちは油断しすぎていた。


「領主を守る衛士がこうでは、都市を守る駐屯兵の実力もたかが知れているな」


「なんだと!」

「魔族風情が……」

「舐めやがって」


「1つお前たちに説教してやろう」


「は?」

「何を言って――」


「いくら強固の要塞も、扱う人間次第では紙切れ同然になる。すなわち――」



 お前たちには練度が足りていない。



 ヴァロウは足に纏わり付いていたスライムを蹴り出す。

 一直線に1人の衛士に襲いかかった。

 突然のことで、衛士たちの反応が遅れる。

 あっという間に、そのアメーバ状の身体に飲み込まれ、動けなくなってしまった。


「うわああああああああ!!」


 衛士はパニックを起こし、ジタバタともがく。

 スライムから逃れることはできない。

 そこにさらにスライムたちが殺到した。

 たちまち全身をくるまれ、身動きが取れなくなる。


「一体、何が――ぎゃあ!」

「ちょ! ま――ぎゃあ!」

「待て! ちょっと――ぎゃあ!」


 ヴァロウは次々とスライムを投げつける。

 4人の衛士たちは、20匹のスライムによってたちまち無力化されてしまった。


「動けないだろ? お前らが馬鹿にするスライムだが、使いようによっては、強力な武器になるのだ」


『ピキィイ!』


 スライムたちは声を上げる。

 どんなものだ、と勝ち誇っているようだ。


 ヴァロウは腰に差していた剣を、いよいよ抜く。

 4人の中で1人兜のデザインが違う男に、刃の切っ先を向けた。


「領主はどこにいる?」


「そ、そんなこと……」


「心配するな、お前たちを殺すつもりはない」


「そんなこと、し、信じられるはずが……」


「苦しんでいるのだろう、ここの領主に? お前たちだけではない、ここの民は全員が……」


「――――ッ!」


「俺はここを占領しに来たつもりはない」



 解放しにきたのだ……。


いわゆる独立愚連隊ですな。


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