表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/190

第17話 ストームブリンガー

おかげさまでジャンル別週間ランキングで5位に入りました。

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

引き続き頑張りますので、よろしくお願いします。

「な、なんでこんなところに魔族がいるんだ!!」


 ステバノスのヒステリックな叫びが暗い森の中で響く。

 一方、ザガスは動揺する勇者を愉快そうに見つめた。


「へへっ……。そんなことはどうもいいじゃねぇか。あんたは勇者。オレ様は魔族だ。問答なんて無用だろ? かかってこいよ!!」


 ザガスは手を掲げ、挑発する。

 だが、依然としてはステバノスは惑乱の最中にいるらしい。

 剣を構えども、一体何が起きているのか、必死に考えている様子だ。


「そっちが来ないってんなら……遠慮なく――」


 ザッとザガスは地面を蹴った。

 一足飛びでステバノスとの距離を縮める。

 宣言通り、遠慮なく己の得物を振り下ろした。


 地響きにも似た音が鳴る。

 地面はめくれ上がり、瓦礫が森の幹を抉った。

 まるで爆心地のような穴が空く。


 そんな中、ステバノスはかろうじて回避していた。

 彼の前には風の精霊アイギスがいる。

 彼女が交信者を守ったのだ。


「勇者様は腰抜けだが、あんたの精霊は優秀だな」


「う、うるさい! 悪魔め! アイギス――」


 腰抜け呼ばわりされ、『風の勇者』としての矜持を多少刺激することに成功したらしい。


 ザガスの攻撃を見て惚けていたステバノスは、一転攻撃を開始する。

 攻撃を命じられたアイギスは、風の刃を放つ。

 無数の真空の刃が、ザガスに襲いかかった。


 しかし、ザガスは回避しようとしない。

 その鋼のような肉体ですべての攻撃を受けきる。

 周りの幹があっさりと切断されているのに、ザガスに対しては浅い傷しかいれられなかった。


「効かねぇなあ」


 そう言いながらも、ザガスは血まみれだ。

 だが、致命傷は1つもない。

 笑いながら、再びステバノスに向かって突撃してくる。

 棍棒を振り下ろしたが、またステバノスにかわされた。


「ちょこまかと逃げやがって。お前の得意技は逃げ足かよ」


「ふん。お前こそ力と頑丈な身体だけで、脳みそには筋肉しか入っていないようだね」


「なんだと!!」


 ザガスはぴくりとこめかみを動かす。

 だが、それは安い挑発に乗ったのではない。

 ステバノスの雰囲気が変わったのを敏感に察したからである。


 ようやくステバノスは動揺から脱したらしい。

 鋭い闘気と、魔力が満ちるのを感じる。


「ようやく本気かよ」


「お前には感謝しよう。君の血の匂いで、ようやく戦場に戻って来れたような気がするよ」


「そりゃ結構だ。浮き足だった勇者様を倒しても、なんの面白味もねぇからな」


「いや、その方が良かったと思うよ。お前の最大の敗因は、僕を本気にさせてしまったことだ」


「かかっ! いいねぇ。なら、勇者様。オレ様を殺してくれよ。勇者に討たれたとあっちゃあ。冥利に尽きるってもんだ」


「わかった。遠慮はしない!」


「上等!」


「アイギス……。我が剣に宿れ!!」


 ステバノスは剣を掲げた。

 ザガスは一目見て見抜く。

 これでも武具には詳しい。

 おそらく魔法鉱石(ミスリル)と鉄の合金製の剣だ。


 そこにアイギスが吸い込まれていく。


 ミスリルと精霊の相性はいい。


 すると、突如豪風が唸る。

 森の中はたちまち嵐の真っ只中に突き落とされた。


「ほう……。魔法剣を使うのか?」


「これは大戦時、万の魔族を斬った技だ。降参するなら今のうちだぞ」


「かかっ! 参ったっていったら、許してくれるのかよ、勇者様はよ」


「それもそうだね。では、遠慮なく!」


「おう! さっきからそう言ってるだろ!!」


 ザガスはベロリと唇についた己の血を舐める。

 立ち上がった熊のように、両手を広げ、構えを取った。


「魔法剣を受け取める気か――」


「来いよ……。勇者様!!」


「馬鹿にするなぁぁああああああ!!」



 ストームブリンガー!!



 周囲の木を巻き込みながら、嵐を纏った剣は振り下ろされる。

 目の前の魔族を捉えた。

 ひどく耳障りな音が森を貫く。

 木、草、地面……。

 大地に根付いていたものすべてが、吹き飛ばされていった。


 現れたのは、巨大な亀裂である。

 地平の彼方まで続き、一切の木々が薙ぎ払われていた。

 濛々と土煙が立ち上る。


 ステバノスは剣を引こうとした。

 だが動かない。

 その時、ねっとりとした声が、ステバノスの耳朶を打った。


つかまえた(ヽヽヽヽヽ)


 ぬっと煙の中から出てきたのは、丸太のような太い(かいな)だった。

 ステバノスを引き寄せる。

 現れたのは、血染めの人鬼だ。

 その三白眼には、確かな生気が宿っている。

 牙を剥きだし、笑っていた。


「馬鹿な!! ストームブリンガーを食らって生きてるだと!!」


「なかなかいい一撃だったぜ」


 ザガスはステバノスを称賛する。

 事実、ステバノスのストームブリンガーは、彼の左肩から下肋骨付近までを斬り裂いていた。


 人間ならば、ショック死しているような大怪我である。

 だが、ザガスは人間ではない。

 人鬼であり、そして魔族なのだ。


「だが、残念だ」


 笑みが消える。

 一転、がっくりと項垂れた。


「また生き残っちまった……。なあ、勇者様よ。さっきの一撃が本気か。もっと大業を隠してねぇか」


「ふざけるな! ぼ、ぼぼぼ僕の魔法剣を直撃で受けて生きている魔族なんて」


「あるのかねぇのか、どっちか答えやがれ!」


「あ、あるわけないだろ! 今のが僕とアイギスの最高の――」


「なんでぇつまんねぇな!!」


 ザガスはステバノスを地面に叩きつけた。

 まるでゴムボールのように跳ね上がる。

 それでもステバノスには意識があった。


「アイギス!!」


 剣からアイギスが飛び出る。

 再びザガスに真空の刃を叩きつけた。

 ザガスの皮膚を斬り裂く。

 さすがに深手を負いすぎたのか、ザガスはステバノスを手放してしまう。


 すると、勇者は好機とばかりに背中を向けて逃げ始めた。


「あ! てめぇ! 逃げるな!!」


「アイギス! そいつを抑えておけ!!」


 命令だけ残し、森の中に勇者は消えた。



 ◆◇◆◇◆



 肩が外れていた。

 肋も折れて、内臓に刺さったのだろう。

 血の匂いがこみ上げてくる。

 呼吸もおかしい。


 それでも、ステバノスは走るしかなかった。


(逃げる! 絶対に逃げてやる!! こんなところで死ぬわけにはいかない。いや、死んでいい人間ではないんだ、僕は)


 とにかくステバノスの目標は、置いてきた本隊と合流することだった。

 800名の兵士を従え、もう1度あの魔族を討つ。


(いや……。1度テーランに帰ろう。そして癒してもらうんだ)



 僕の天使たちに……。



「待っててね。僕の天使たち……。今、帰るからね」


 ステバノスは熱病に浮かされたように1人呟く。

 その表情はひどく歪んでいた。

 それは誰にも見せたことがない。

 第二のステバノス・マシュ・エフゲスキの笑顔だった。


 すると、ステバノスは突如として立ち止まる。

 血の匂いを感じたのだ。

 はじめ「自分のものか?」と疑ったが違う。

 前方にある崖下からだった。


 そこには本隊がいるはずである。


 ステバノスは恐る恐る覗き込んだ。


「――――ッ!」


 そこにいたのは、アンデッドたち。

 そしてアンデッドに食われ、アンデッド化する兵士たちだった。


(ば、馬鹿な!!)


 叫びそうになるのをステバノスは口を塞ぎ堪える。


 800名の兵士が、アンデッドによって全滅していた。

 軽く900匹はいるだろう。

 今増えた者を引いても、700~800匹のアンデッドに襲われたことになる。


(一体、どこにこんなアンデッドたちが!)


 しばらく観察しているとステバノスは気付いた。

 半数以上のアンデッドが纏っている武具や槍は、すべてゴドーゼン製のものだったのだ。


(まさか!! あのアンデッドたちのほとんどが、補給部隊のものか!?)


 5度に渡って行われた補給部隊による食糧輸送。

 そこには計500名近くの兵が投入されている。

 そのすべてが、アンデッド化していたとすれば……。


(計算が合うではないか。一体誰がこんな悪魔的所業を……。あ、あの頭の悪そうな人鬼か。いや、絶対に違う。ヤツではない。もっとクレバーなヤツがやったのだ)


 魔族は基本的に策を弄さない。

 ほとんどの部隊が、高い基礎能力を存分に使った中央突破を計ってくる。

 それがステバノスの印象だ。


 だから、これまで補給線を襲われることもなかった。

 敵を挑発して、部隊を分断することもなかった。


 しかし、今回は違う。

 明らかに意図を感じた。


(どうする? いや、どうなる? 僕が仮に指揮官なら……)


 混乱する頭で、ステバノスは必死に回答を探る。

 冷静になれ、と何度も言い聞かせながら。

 もし判断を誤れば、たちまちこの指揮官の手の平の上で殺されることになる。


(もし、僕なら……。本隊を再合流する僕を――――)


 ドスッ!


 ステバノスに衝撃が走る。

 お腹の周りが急に温かくなり始めた。

 視線を落とす。

 腹の中から、槍の切っ先が生えていた。


 いや、貫かれていたのである。


「は、はぐぅ……」


 鮮血を吐く。

 激痛が頭の上まで駆け上っていった。

 だが、ぐるりと暗転しようとする意識をかろうじてとどめる。


 倒れそうになった身体を支え、ステバノスは叫んだ。


「アイギス!!」


 相棒の名前を呼ぶ。

 アイギスは再びステバノスの背後に現れる。

 交信者を守ろうと、真空の刃を放った。


 バラバラになったのは、アンデッドである。


 槍を引き抜き、アイギスを置いてまた逃げ始めた。

 だが、もう遅い。

 すでにステバノスは無数のアンデッドたちに囲まれていた。


 すると、1人の黒髪の人鬼が進み出てくる。

 薄暗い森の中で、ヘーゼル色の瞳を光らせていた。

 氷のような瞳だった。

 なのに、強い意志を感じる。


 ステバノスは直感的に悟った。


(こいつだ……。こいつが指揮官だ!)


 人鬼は手を振るう。


「やれ……」


 冷徹な指令を下す。

 アンデッドたちはステバノスに向かって一斉に向かっていった。


 彼らは容赦という言葉を知らない。

 そしてステバノスは無残にアンデッドたちの餌になるしかなかった。


「いや……。いやだ! 来るな!! くるなぁあぁあぁあぁあぁ!!」


 風の勇者の叫び声が、風に乗って空へと打ち上がっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『前世で処刑された大聖女は自由に暮らしたい~魔術書を読めるだけなのに聖女とかおかしくないですか?~』


コミックス1巻、好評発売中です!
『叛逆のヴァロウ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~』

↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPへ↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカ他でコミカライズ絶賛連載中!
↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ