第15話 補給部隊急襲
引き続き日間総合3位を維持してます!
ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!
「『風の勇者』ステバノス様ですか……」
やや感慨深げに呟いたのは、メトラだった。
小さな焚き火の向こうには、ヴァロウがいる。
その後ろで大鼾をかいて、ザガスが寝ていた。
他の魔物たちは周囲に散らばって、辺りを警戒をしている。
特にゴブリンは基本的に穴蔵で生活するので、夜目が利く。
しかも活動期が夜にあるので、見張りにはもってこいなのだ。
ヴァロウがいるのは、テーランから少し離れた森の中である。
時間は夜。深い闇の中で、小さな火がふんわりとメトラとヴァロウを包んでいた。
「引退したとはいえ、少々厄介な相手ではありませんか?」
ステバノスは強い。
確かに、これまで名を馳せてきた勇者と比べれば、その功績は見劣りする。
ステバノス1人だけなら、ヴァロウとザガスでなんとかなるが、ゴドーゼン城塞都市から引き連れてきた部隊も相手しなければならない。
今の戦力で真っ正面からぶつかるのは厳しかった。
一方、ザガスは事実を聞いて飛び上がり、喜び疲れて眠ってしまっている。
かつて王女だったメトラは、勇者という存在の強さを知っている。
それだけに、警戒せずにはいられなかった。
それはヴァロウも同じはずなのだが……。
「問題ない。すべては俺の手の平の上にある」
言葉通り、手の平を掲げてみせた。
さらにこう付け加える。
「おそらく勇者は直に自滅するだろう」
そう予言する。
すると、茂みの向こうからゴブリンが現れた。
ヴァロウに一礼すると、たった一言こう告げる。
「キタ」
「わかった」
ただそう言って、ヴァロウは立ち上がる。
側で寝ていたザガスの頭を足の爪先で小突いた。
「ん? ああ? なんだよ」
「起きろ、ザガス。お前の大好きな戦争の時間だ」
「なんだ? また夜襲をかけるのかよ。歯ごたえがねぇヤツと戦うのは、ごめんだぜ」
「それは否定しない。だが、心配するな。いずれ勇者と戦わせてやる。良質な果実酒を作るためには、熟成させる時間が必要だ。それと同じことだと思えばいい」
「チッ! 仕方ねぇなあ」
ザガスは起き上がる。
棍棒を担ぎ上げた。
「行くぞ」
ヴァロウは走り出す。
その後に、メトラ、ザガス、スライム、ゴブリンが続いた。
深い夜の森の中で、魔王軍第六師団は蠢動する。
崖の上に出た。
下にはゴドーゼンからテーランに続く街道が続いている。
そこに兵士たちが荷馬車を引き、松明で辺りを照らしながら進んでいた。
「ヴァロウ、ありゃなんだ?」
「ゴドーゼンから食糧を運んできた部隊だろう」
「じゃあ、この前みたいに食糧を奪うのか?」
「奪わなくていい。火を付けて燃やすだけだ」
「敵の補給線を断つのですね」
「そんなところだ」
メトラの質問に、ヴァロウは頷いた。
「なんだかよくわかんねぇが、暴れていいってことだよな」
「ああ……。存分にな」
「へへっ!」
ザガスは棍棒を担ぐ。
メトラとゴブリンの部隊は、弓を引いた。
ヴァロウが合図すると、先に油を付け、火をともす。
ちょうど部隊の中間が前に来た時、ヴァロウは告げた。
「放て!!」
メトラとゴブリンたちは、火矢を放つ。
前者はともかく、ゴブリンたちの命中精度は低い。
それでも見事、敵の荷馬車に火を付けることに成功する。
「な、なんだ!?」
「ひ、火だ!」
悲鳴を上げたのは、ゴドーゼン軍だ。
消火をしようとするが、すでに遅い。
さらに荷台を引いていた馬まで立ち上がり、暴走する。
火車になって、あろうことか兵士たちを追いかけ回し始めた。
「よし! かかれ!!」
「待ってました!!」
ザガスが叫ぶ。
スライムとともに一斉に崖から飛び降りた。
混乱を極めるゴドーゼン軍の前に現れる。
炎をバックに笑う人鬼を見て、兵たちはたちまちすくみ上がった。
「おらあああああああああああ!!」
ザガスは棍棒を振り回した。
一振りで10人の兵たちを吹き飛ばす。
あっさりと無力化した。
「ちっ! やっぱり歯応えがねぇ!!」
と唾棄しながらも、笑みを浮かべ、小さな戦場を駆けめぐる。
スライムたちも奮戦していた。
浮き足立つ兵たちに襲いかかり、その気道を塞ぐ。
1匹や2匹ぐらいなら、兵たちも対処しようがあっただろう。
が、スライムたちは必ず兵士1人に対して最低5匹以上で襲いかかってくる。
これは、ヴァロウが猛特訓し、身につけさせた習性だった。
戦闘は短時間に終わる。
補給部隊であったためか、さほど兵を配置してなかったらしい。
ここは内地だ。
まさか魔族に襲われるとは、全く考慮に入れてなかったのだろう
ヴァロウが知るセオリーよりも、少なかった。
「被害は?」
ヴァロウはメトラに尋ねる。
ザガスもメトラも無事。
多少スライムが火傷した程度で、ほぼ無傷の勝利だった。
◆◇◆◇◆
「なんだって? 補給部隊が定刻に到着していない?」
ヴァロウたちが補給部隊を襲った次の日。
その知らせはステバノスにも届いた。
テーラン城塞都市の食糧事情は、ステバノスが考えた以上に深刻だった。
このままでは民衆を飢え死にさせてしまう。
テーラン代表となったロアリィの嘆願もあって、ステバノスは早々にゴドーゼンから追加の食糧を送るように命じた。
だが、今日の朝には届くはずの物資が、今日の昼になっても届かないという。
何かトラブルがあったのか。
ステバノスは早速、調査をさせた。
すると、補給部隊が全滅していたのだという。
「なんてことだ……」
その報告を聞いて落ち込んだのは、ロアリィだ。
がっくりと項垂れる。
その彼を、ステバノスはなだめた。
「大丈夫だよ、ロアリィ。何者の犯行かはさておき、食糧がないなら、また送らせればいいんだ」
「よ、よろしいのですか、ステバノス様。大事な食糧を」
「ゴドーゼンの民はとても寛容だ。それにテーランは大事な同盟都市で、兄弟だ。
弟が困っている時に、手を差し伸べることをやめる兄はいないよ」
「ありがとうございます、ステバノス様」
ロアリィはステバノスの両手をがっしり握りしめる。
そこにポタポタと涙がこぼれ落ちた。
「ロアリィおじさん、大丈夫?」
横から声がかかる。
少年が、心配そうに涙するロアリィを見つめていた。
突然の子どもの登場に、ステバノスは一瞬目を丸くする。
「この子は?」
「前にお話した少年です。ゲラドヴァに石を投げつけた……」
「ああ! あの勇敢な少年か」
「アラジフ政権の時に、母親を亡くして。身寄りがないそうなので、今は私と一緒に暮らしているんです」
「そうか。君も大変だったね。お名前は?」
「げ、ゲリィだよ」
ステバノスはゲリィの頭を撫でる。
その目は恍惚として、少年と言うよりは、ゲリィの内臓をのぞき見ているような――そんな遠い目をしていた。
すると、ステバノスはゲリィの首から下げているものに気付く。
それは聖霊ラヌビスが掘られた小さな像だ。
「よくできているね。君が作ったのかい?」
「ううん! 母ちゃんが……」
「そうかい。君の母上の形見なんだね」
ステバノスが尋ねると、ゲリィは大きく頷いた。
「かわいいねぇ……。どうだろう、ロアリィ。ゲリィを僕の宿営地に招待したいのだけど」
「よろしいのですか? お忙しそうなのに」
「これでも僕は子ども好きなんだ? どうかな?」
ステバノスは直接ゲリィに尋ねる。
引退したとはいえ、元勇者だ。
その誘いに、ゲリィは心躍った。
望外の喜びを表すように、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その姿をステバノスは眩しそうに見つめた。
「ゲリィがいいなら、私に反対する理由はないよ」
「良かった! さあ、行こうか。おいしいものを食べさせてあげよう」
「やった! ありがとう、勇者様!」
ステバノスはゲリィと手を繋ぎ歩いていく。
それはまるで本物の親子のように見えた。
すでに投稿している作品の中で、
書籍化作品、書籍化予定の作品のリンクを下欄に貼らせていただきました。
かなりの話数がありますので、GWのお供としてご活用下さい。
こちらも応援いただけたら幸いですm(_ _)m