表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/190

第15話 補給部隊急襲

引き続き日間総合3位を維持してます!

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!

「『風の勇者』ステバノス様ですか……」


 やや感慨深げに呟いたのは、メトラだった。

 小さな焚き火の向こうには、ヴァロウがいる。

 その後ろで大鼾をかいて、ザガスが寝ていた。


 他の魔物たちは周囲に散らばって、辺りを警戒をしている。

 特にゴブリンは基本的に穴蔵で生活するので、夜目が利く。

 しかも活動期が夜にあるので、見張りにはもってこいなのだ。


 ヴァロウがいるのは、テーランから少し離れた森の中である。

 時間は夜。深い闇の中で、小さな火がふんわりとメトラとヴァロウを包んでいた。


「引退したとはいえ、少々厄介な相手ではありませんか?」


 ステバノスは強い。

 確かに、これまで名を馳せてきた勇者と比べれば、その功績は見劣りする。

 ステバノス1人だけなら、ヴァロウとザガスでなんとかなるが、ゴドーゼン城塞都市から引き連れてきた部隊も相手しなければならない。

 今の戦力で真っ正面からぶつかるのは厳しかった。

 

 一方、ザガスは事実を聞いて飛び上がり、喜び疲れて眠ってしまっている。


 かつて王女だったメトラは、勇者という存在の強さを知っている。

 それだけに、警戒せずにはいられなかった。


 それはヴァロウも同じはずなのだが……。


「問題ない。すべては俺の手の平の上にある」


 言葉通り、手の平を掲げてみせた。

 さらにこう付け加える。


「おそらく勇者は直に自滅するだろう」


 そう予言する。


 すると、茂みの向こうからゴブリンが現れた。

 ヴァロウに一礼すると、たった一言こう告げる。


「キタ」


「わかった」


 ただそう言って、ヴァロウは立ち上がる。

 側で寝ていたザガスの頭を足の爪先で小突いた。


「ん? ああ? なんだよ」


「起きろ、ザガス。お前の大好きな戦争の時間だ」


「なんだ? また夜襲をかけるのかよ。歯ごたえがねぇヤツと戦うのは、ごめんだぜ」


「それは否定しない。だが、心配するな。いずれ勇者と戦わせてやる。良質な果実酒を作るためには、熟成させる時間が必要だ。それと同じことだと思えばいい」


「チッ! 仕方ねぇなあ」


 ザガスは起き上がる。

 棍棒を担ぎ上げた。


「行くぞ」


 ヴァロウは走り出す。

 その後に、メトラ、ザガス、スライム、ゴブリンが続いた。


 深い夜の森の中で、魔王軍第六師団は蠢動する。


 崖の上に出た。

 下にはゴドーゼンからテーランに続く街道が続いている。

 そこに兵士たちが荷馬車を引き、松明で辺りを照らしながら進んでいた。


「ヴァロウ、ありゃなんだ?」


「ゴドーゼンから食糧を運んできた部隊だろう」


「じゃあ、この前みたいに食糧を奪うのか?」


「奪わなくていい。火を付けて燃やすだけだ」


「敵の補給線を断つのですね」


「そんなところだ」


 メトラの質問に、ヴァロウは頷いた。


「なんだかよくわかんねぇが、暴れていいってことだよな」


「ああ……。存分にな」


「へへっ!」


 ザガスは棍棒を担ぐ。

 メトラとゴブリンの部隊は、弓を引いた。

 ヴァロウが合図すると、先に油を付け、火をともす。


 ちょうど部隊の中間が前に来た時、ヴァロウは告げた。


「放て!!」


 メトラとゴブリンたちは、火矢を放つ。

 前者はともかく、ゴブリンたちの命中精度は低い。

 それでも見事、敵の荷馬車に火を付けることに成功する。


「な、なんだ!?」

「ひ、火だ!」


 悲鳴を上げたのは、ゴドーゼン軍だ。

 消火をしようとするが、すでに遅い。

 さらに荷台を引いていた馬まで立ち上がり、暴走する。

 火車になって、あろうことか兵士たちを追いかけ回し始めた。


「よし! かかれ!!」


「待ってました!!」


 ザガスが叫ぶ。

 スライムとともに一斉に崖から飛び降りた。

 混乱を極めるゴドーゼン軍の前に現れる。


 炎をバックに笑う人鬼を見て、兵たちはたちまちすくみ上がった。


「おらあああああああああああ!!」


 ザガスは棍棒を振り回した。

 一振りで10人の兵たちを吹き飛ばす。

 あっさりと無力化した。


「ちっ! やっぱり歯応えがねぇ!!」


 と唾棄しながらも、笑みを浮かべ、小さな戦場を駆けめぐる。


 スライムたちも奮戦していた。

 浮き足立つ兵たちに襲いかかり、その気道を塞ぐ。

 1匹や2匹ぐらいなら、兵たちも対処しようがあっただろう。

 が、スライムたちは必ず兵士1人に対して最低5匹以上で襲いかかってくる。


 これは、ヴァロウが猛特訓し、身につけさせた習性だった。


 戦闘は短時間に終わる。

 補給部隊であったためか、さほど兵を配置してなかったらしい。

 ここは内地だ。

 まさか魔族に襲われるとは、全く考慮に入れてなかったのだろう

 ヴァロウが知るセオリーよりも、少なかった。


「被害は?」


 ヴァロウはメトラに尋ねる。

 ザガスもメトラも無事。

 多少スライムが火傷した程度で、ほぼ無傷の勝利だった。



 ◆◇◆◇◆



「なんだって? 補給部隊が定刻に到着していない?」


 ヴァロウたちが補給部隊を襲った次の日。

 その知らせはステバノスにも届いた。


 テーラン城塞都市の食糧事情は、ステバノスが考えた以上に深刻だった。

 このままでは民衆を飢え死にさせてしまう。

 テーラン代表となったロアリィの嘆願もあって、ステバノスは早々にゴドーゼンから追加の食糧を送るように命じた。


 だが、今日の朝には届くはずの物資が、今日の昼になっても届かないという。


 何かトラブルがあったのか。

 ステバノスは早速、調査をさせた。

 すると、補給部隊が全滅していたのだという。


「なんてことだ……」


 その報告を聞いて落ち込んだのは、ロアリィだ。

 がっくりと項垂れる。

 その彼を、ステバノスはなだめた。


「大丈夫だよ、ロアリィ。何者の犯行かはさておき、食糧がないなら、また送らせればいいんだ」


「よ、よろしいのですか、ステバノス様。大事な食糧を」


「ゴドーゼンの民はとても寛容だ。それにテーランは大事な同盟都市で、兄弟だ。

弟が困っている時に、手を差し伸べることをやめる兄はいないよ」


「ありがとうございます、ステバノス様」


 ロアリィはステバノスの両手をがっしり握りしめる。

 そこにポタポタと涙がこぼれ落ちた。


「ロアリィおじさん、大丈夫?」


 横から声がかかる。

 少年が、心配そうに涙するロアリィを見つめていた。


 突然の子どもの登場に、ステバノスは一瞬目を丸くする。


「この子は?」


「前にお話した少年です。ゲラドヴァに石を投げつけた……」


「ああ! あの勇敢な少年か」


「アラジフ政権の時に、母親を亡くして。身寄りがないそうなので、今は私と一緒に暮らしているんです」


「そうか。君も大変だったね。お名前は?」


「げ、ゲリィだよ」


 ステバノスはゲリィの頭を撫でる。

 その目は恍惚として、少年と言うよりは、ゲリィの内臓をのぞき見ているような――そんな遠い目をしていた。


 すると、ステバノスはゲリィの首から下げているものに気付く。

 それは聖霊ラヌビスが掘られた小さな像だ。


「よくできているね。君が作ったのかい?」


「ううん! 母ちゃんが……」


「そうかい。君の母上の形見なんだね」


 ステバノスが尋ねると、ゲリィは大きく頷いた。


「かわいいねぇ……。どうだろう、ロアリィ。ゲリィを僕の宿営地に招待したいのだけど」


「よろしいのですか? お忙しそうなのに」


「これでも僕は子ども好きなんだ? どうかな?」


 ステバノスは直接ゲリィに尋ねる。


 引退したとはいえ、元勇者だ。

 その誘いに、ゲリィは心躍った。

 望外の喜びを表すように、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 その姿をステバノスは眩しそうに見つめた。


「ゲリィがいいなら、私に反対する理由はないよ」


「良かった! さあ、行こうか。おいしいものを食べさせてあげよう」


「やった! ありがとう、勇者様!」


 ステバノスはゲリィと手を繋ぎ歩いていく。


 それはまるで本物の親子のように見えた。


すでに投稿している作品の中で、

書籍化作品、書籍化予定の作品のリンクを下欄に貼らせていただきました。

かなりの話数がありますので、GWのお供としてご活用下さい。

こちらも応援いただけたら幸いですm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『前世で処刑された大聖女は自由に暮らしたい~魔術書を読めるだけなのに聖女とかおかしくないですか?~』


コミックス1巻、好評発売中です!
『叛逆のヴァロウ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~』

↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPへ↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカ他でコミカライズ絶賛連載中!
↓↓表紙をクリックすると、コミックポルカ公式HPに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ