第14話 勇者入城
おかげさまで、日間総合ランキング3位に入ることができました。
昨日、4ptだけ足りなくて、めちゃくちゃ落ち込んだのですが、
今はめちゃくちゃ嬉しいです(≧◇≦)
ブックマーク、評価をつけていただいた方、本当にありがとうございます。
引き続き頑張ります!
「ゲラドヴァ様がやられた!」
「あのゲラドヴァ様が」
「くそ!」
「ゲラドヴァ様の仇を討つのだ!!」
守備兵たちは槍を構える。
赤髪の男――ザガスに襲いかかった。
だが、突風が渦を巻く。
半数以上の兵が巻き込まれ、吹き飛ばされた。
地面に倒れ、昏倒する。
2000人の民衆をおののかせた守備隊が、一瞬にしてなぎ払われた。
「すごい……」
「一撃で」
「一体、何者だ!」
残った兵たちは震え上がる。
その前に現れたのは、ヴァロウだった。
威嚇するように、そのヘーゼル色の瞳で睨み付ける。
それがとどめとなった。
指揮官の仇を取ろうとしていた真面目な兵たちは、槍を放り投げ、降伏の意志を示す。
その瞬間、わっと沸いたのは、総督府の正面に集まった民衆だった。
戦争に勝利した若い兵士のように声をあげる。
あるいは抱き合い、そして涙した。
ザガスとヴァロウはたちまち囲まれる。
だが、2人は憮然とした表情だった。
ザガスなどは、気安く自分の肌に触れてきた民衆たちを叫び声を上げて威嚇する。
2人は魔族である。
どういう風に反応していいのかわからなかった。
「ありがとう、君たち」
そう穏やかな声が聞こえる。
ヴァロウとザガスの前に進み出てきたのは若い男だ。
名前をロアリィと名乗った。
レジスタンスのリーダーであると明かすと、ヴァロウたちに握手を求める。
ヴァロウは無難に応じ、その感謝の言葉を受けた。
「君たちがいなければ、どうすることもできなかった。あのゲラドヴァは化け物みたいな強さだったからね」
「その化け物を倒したオレ様は、さらに化け物ってわけだ」
ザガスはニッと歯を見せて笑う。
人鬼の姿になる前なので、牙は生えていない。
その言葉は意味深であったが、ロアリィは気にしなかった。
「この際、化け物だって歓迎さ。できれば、もう少し協力してくれないか。おそらく総督府の中にも、守備隊は残っているはずだからね」
「いいだろう」
ヴァロウたちは民衆たちとともに、総督府へ雪崩れ込む。
ロアリィの指摘通り、守備隊が待ち構えていた。
「へっ!!」
ザガスは棍棒を振るう。
たちまち20人の兵士たちが吹き飛ばされた。
一方、ヴァロウは魔力を練る。
ジャッ!
鋭い音を立てて、氷の柱が立つ。
兵士たちを包み、氷漬けにした。
あっという間に、守備隊を無力化してしまう。
「一瞬で!」
「まさに鬼神のごとき活躍だな……」
「彼らは何者なんだ」
「いいじゃないか、何者でも……。私たちの味方になってくれているのは確かだ」
ロアリィは先を行く2人に付いていく。
ヴァロウとザガス――2人を止められるものなどいない。
ただ兵士たちはその花道を作ることしかできなかった。
「か、金なら出す! わ、私だけでも見逃してくれ!」
「ちょっと! あなたは! わたしたち家族はどうするんですか!?」
「うるさい! 家族よりも、自分の命だ! な? な? 頼む!」
金貨が入った袋を差し出したのは、総督府の役人やその家族である。
よほど甘い蜜を吸っていたのだろう。
どれも豚のように肥え太っていた。
「ザガス……」
「ええ……。オレ様かよ」
「手加減はしてやれ」
「チッ! ――ってわけで、お前ら……。歯ぁ食いしばれや」
ザガスは腕を振り上げた。
まさに暴力的な音が総督府の居室の中で響き渡る。
同時に悲しい豚の悲鳴も聞こえてくるのだった。
守備兵たちを蹴散らし、アラジフに胡麻をすっていた役人たちや家族や親類たちを捕まえた。
総督府の屋根に掲げられていたテーラン総督府の旗は燃やされる。
すると、民衆からは大歓声が巻き起こった。
◆◇◆◇◆
テーランの民衆たちは、汚職まみれの総督府を打倒することに成功した。
今後については不安があるが、レジスタンスには考えがあった。
そのための準備はすでに済んでいる。
後は、どのようにして中央と交渉を進めるかだった。
だが、彼らにも誤算はあった。
「これはどういうことだ?」
レジスタンスのリーダー――ロアリィは愕然とする。
その声はがらんどうとなった空間に響いた。
そこは国の食料庫だ。
飢饉などに対応するため、小麦粉や干し肉などが備蓄されているはずである。
しかし、そのすべてがなくなっていた。
「アラジフたちが全部食べてしまったのか?」
仲間の1人が質問する。
ロアリィは頭を振った。
「そんなことはないはずだ。総督府に務めている仲間の情報では、2ヶ月分の備蓄があると……」
「だけど、ないじゃないか!? どうするんだよ!」
今回の騒ぎでアラジフの息がかかった商人たちは、すべて逃げ出してしまった。
残っている商人もいるが、無政府状態となった今では、通商手形が無効となり、各都市との交易ができない状態にある。
つまり、食糧が入ってこない。
元々テーラン城塞都市の主産業は交易だ。
そのため食糧自給率は他の都市と比べて低い。
水は地下水をくみ上げれば済むが、
「支援者にお願いするしかない」
「大丈夫なのか?」
「ああ……。あの方ならば、きっと我らの願いを聞き届けてくれる」
自信満々に言い切る。
すると、ロアリィは後ろを振り返った。
誰かを捜すような仕草を繰り返す。
「ところで、あの2人の姿が見えないのだが……」
「あの2人? ああ、守備隊を倒した」
「そうだ。一体どこへ行ったのだろうか。ちゃんとお礼をしたかったのだが」
「そのうち会えるだろう」
「そうだな」
そう言って、ロアリィは空の倉庫を後にするのだった。
◆◇◆◇◆
総督府に掲げられた旗が燃えるのを、ヴァロウは小高い丘から見つめていた。
その後ろには、メトラとザガスが控える。
さらにスライムとゴブリンたちがいて、小麦粉や干し肉が入った樽を抱えていた。
それらはすべてテーランの食料庫から奪取したものである。
「このままテーランを放置してよろしいのですが、ヴァロウ様」
メトラは質問する。
恩を売った今、テーランもまたルロイゼンのように占領することも可能だろう。
何故、そうしないのか?
メトラは不思議でならなかった。
「簡単だ。今の俺たちの戦力では、2都市を占拠することは難しいからな」
「ああ。そういうことですか」
メトラは得心する。
だが、別の意味で納得していないのが、ザガスだった。
「おい、ヴァロウ。あんなしょうもない相手が、お前がいう大物だとかいわないよな」
「相手としては不足か?」
「当たり前だろ。腹の足しにもならねぇよ」
ザガスは不満げな顔で、自分の腹をさすった。
「心配するな。あれは違う。もっと大物が、テーランにもうすぐやってくるはずだ」
「一体何者ですか、ヴァロウ様?」
ヴァロウは薄く笑う。
珍しく彼も昂揚している様子だった。
「魔族の大敵――」
勇者だよ。
◆◇◆◇◆
勇者。
それを明確に定義する説明はない。
武功を立てたもの。
困難を乗り越えたもの。
単純に人気者。
それぞれの理由で、勇者は「勇者」と呼ばれるようになる。
だが、魔族と人類が長い間争っている中で、「勇者」と呼ばれる人間に共通しているのは、まるで突然変異のように強大な力を持って生まれるということだ。
ステバノス・マシュ・エフゲスキもまた、その1人だった。
現在37歳の彼は、元勇者である。
現役を引退した後は、大要塞同盟を組む6つの都市の1つ――ゴドーセンの領主になっていた。
そのステバノスは、自領の半分の人口しかないテーランに入領する。
熱狂的に迎えられたステバノスは、甘い笑みを沿道の女たちに振りまいた。
やがて彼の前に、レジスタンスのリーダーであるロアリィが進み出る。
「お待ちしておりました、ステバノス様」
頭を下げる。
するとステバノスは下馬した。
頭を垂れるロアリィをそっと優しく抱く。
周りの女たちが悲鳴を上げた。
ロアリィは「な、なにを」と戸惑ったが、ステバノスはなかなか離れようとせず、ただそっと耳元で囁いた。
「頑張ったね、君たち。もう大丈夫だ。『風の勇者』が助けに来たよ」
「す、ステバノス様……」
ロアリィは涙を馴染ませる。
レジスタンスのリーダーである彼の頭をポンポンと叩く。
やがてステバノスは連れてきた自軍に振り返った。
「全員下馬せよ! 早速、テーランの民衆に食糧を届けるのだ。女子供を最優先とする。かかれ!!」
ゴドーゼンから連れてきた兵士たちは命令されるまま、すぐに動いた。
統率が取れており、整然としている。
その手際の良さに、ロアリィ以下テーランの民衆たちは、ただただ呆気に取られ、見ていることしかできなかった。
「もう安心だ。あとは、この元勇者ステバノスに任せてくれたまえ」
高らかに宣言する。
すると、再び大きな声援が上がった。
ステバノスたちが入城するまでの7日間、
地獄を見たテーランの民衆は一気に舞い上がるのだった。
平成最後の日に、こうやって目標のベスト5に入れたのはひとえに皆様のおかげです。
次は、いまだ未踏のベスト1を目指して頑張ります。
引き続き、ブックマーク、下欄にある評価をつけていただけるとありがたいです!