第13話 力比べ
4pt……。日間総合5位に4pt足りませんでした。
ショック……。油断してたのかな……(遠い目)
自分を戒める意味でも、本日2回目の投稿です。
よろしくお願いします。
ヴァロウたちはさらに北上した。
あらかじめ用意しておいた2台の荷馬車を引き、テーラン城塞都市を目指す。
藁いっぱいの荷台の中には、ゴブリンとスライムがひしめいていた。
時折、スライムの鳴き声やゴブリンが喉を鳴らす音が聞こえる。
なかなか賑やかな道中だった。
夜通し進み、昼にさしかかる頃、テーランの方から荷馬車を引いた商人たちが正面からやってくる。
凄まじいスピードですれ違った。
随分慌てた様子で、その着衣も着の身着のままといった恰好である。
「なんだ、何かあったのか?」
ザガスは欠伸をしながら、商人たちを見送った。
「ヴァロウ様!」
御者台の上でメトラは立ち上がる。
進行方向を指を差した。
現れたのは、テーランの城壁ではない。
黒い筋の煙である。
それも1つではなかった。
何本も立ち上っている。
徐々にテーランに近付くと、やはり煙がテーランの城塞内部から上がっていた。
「なんだ? 戦争でもおっぱじめてるのか?」
ザガスはにやりと牙を剥きだす。
その推理は単なるザガスの欲望ではあったのだが、概ね当たっていた。
正確な答えを出したのは、メトラである。
「まさか内乱ですか、ヴァロウ様」
軍師に尋ねる。
ヴァロウは頷き、説明した。
「総督と副総督が出ていき、兵の大半がいなくなったのだ。決起するにはいいタイミングだろう」
「レジスタンスがいることを、お前は知ってたのかよ」
「テーランはルロイゼンと違って豊かだが、貧富の差が激しい。特に総督と街道を牛耳る商人とは、癒着関係にあったのだろう。通行税が他の都市と比べて、3割も安い。経済の促進のためといっても、これは安すぎる。その帳尻を合わせていたのが、中間層から貧困層に対する重税だ。内乱が起きても、おかしくはない」
ヴァロウはレクチャーする。
メトラは感心する横で、ザガスは暇そうに聞いていた。
「つまりはあれだろ? 侵入するなら、今ってことだ」
「その通りだ」
ヴァロウは馬に鞭を入れる。
2台の馬車はそのまま開け放たれた城門へと突っ込んだ。
◆◇◆◇◆
ヴァロウの読みはすべて当たっていた。
レジスタンスを中心に、テーランの市民たちは総督府に雪崩れ込む。
投石と松明を投げ、守備隊を押し込もうとしていた。
だが――。
「おらあああああああああああ!!」
裂帛の気合いが総督府正面玄関に響き渡った。
同時に、数十人という人が吹き飛ばされる。
たちまち正面玄関を取り囲んだ民衆の顔が青くなった。
人垣の向こうに現れたのは、巨漢の戦士だ。
分厚い城壁すら砕けそうな大金鎚を軽々と持ち上げる。
青ざめた民衆を見ながら、「絶景。絶景」といわんばかりに目の上に手でひさしを作って眺めるのだった。
彼の名前はゲラドヴァ。
テーラン城塞都市総督アラジフの息子で、総督府守備隊の隊長である。
「どうした、ゴミどもが……!? さっきまでの威勢はどこへいったんだ、ああん!?」
胸をそびやかし、民衆たちを威嚇する。
突然の決起に戸惑っていた守備隊も、ゲラドヴァの登場で落ち着きを取り戻す。
隊列を整え、民衆に槍を構えた。
守備隊の人数は100名にも及ばない。
対して決起した民衆は、人口全体の4割。
2000人以上の人間が参加している。
数の上で有利なのは、間違いない。
それはわかっていても、武器を手にした兵士に向かって突っ込んでいくのは、勇気がいる。
「オラ! どうした、かかってこいよ、腰抜けどもが!!」
ゲラドヴァはしゃくれた顎を突き出す。
その時だった。
小さな小石が、その顎の横を捉える。
些細なダメージであったが、ゲラドヴァの顔色が変わった。
ギョロリと大きな目玉が動く。
その視界に捉えたのは、小さな少年だった。
すると、また小石を投げる。
今度はゲラドヴァの眉間にヒットした。
「母ちゃんを返せ!!」
男児は顔を真っ赤にしながら抗議の声を上げる。
2000人以上が集まる集団の中で、少年がもっとも勇敢であった。
ゲラドヴァは「にへぇ」と黄ばんだ歯を見せる。
「坊主、おめぇ……なかなかの勇者だな。才能あると思うぜ?」
少年に近付いていく。
その巨体が少年の瞳に大きく映り込む。
たちまちすくみ上がると、ぺたりと小さな尻を地面に付けた。
「オレに小石を投げつけるたぁイイ度胸だ。で、お前の母ちゃんがどうした?」
「か、母ちゃんは病気で……。く、薬も買えなくて……」
「そうかい? 死んじまったってことか?」
少年はしゃくり上げながら、何度も首を振る。
首に下げていた小さな木の像を握った。
見事な聖霊ラヌビスである。
古くから崇められている神の1体だ。
「そうか。そいつは残念だったな。じゃあよ。母ちゃんの元に連れってやるよ、オレが」
「え?」
「天国か地獄か。知らねぇけどな!!」
ゲラドヴァは大金槌を振り上げる。
そして子どもの脳天を目がけて、振り下ろした。
「ひゃあああああああ!!」
大金槌が地面を割る音とゲラドヴァの奇声が重なった。
その膂力は凄まじい。
たった一振りで大穴を開いた。
だが、そこにゲラドヴァが狙った獲物の姿はない。
ぺしゃんこにしてしまったのか。
そう思って、大金槌の小口を覗き込んだが、1滴の血も付いていなかった。
「どういうことだ?」
首を捻った時、気配に気付く。
振り返ると、先ほどの少年が、青年に抱きかかえられていた。
黒髪に、ヘーゼルの瞳。
如何にも生意気そうな顔で、ゲラドヴァを威嚇している。
「てめぇ、何者だ!?」
「別に何者だっていいだろ?」
その声は正面からだった。
自分と同じ大柄の男が、肩を回しながら近付いてくる。
歯をむき出し、嬉々としてゲラドヴァに立ちはだかった。
1度針金のように硬そうな赤髪を掻き上げ、首を回す。
準備完了とばかりにゲラドヴァに向かって手を伸ばした。
「はっ! オレと力比べをしようっていうのか? 誰だか知らんが、身の程知らずだな」
「ご託はいい。好きなんだろ、こういうの?」
「はっ! 確かに悪くはない」
ゲラドヴァは慎重に手を合わせる。
力には自信があった。
子どもの頃から負けたことがない。
自分と似たような体格の強者を、何度もねじ伏せてきた。
力は絶対だ。
力こそ己なのだ。
揺るがぬ自信を胸に、ゲラドヴァは男と手を合わせた。
瞬間、力を限界まで引き出す。
一気に押し込み、相手の腕と腰を砕いてやろうと考えた。
しかし――――。
「な、なんだ……」
まるで動いていない。
巨大な岩石を相手にしているかのように、ビクともしなかった。
ゲラドヴァはさらに力を上げようとする。
眉間に筋を浮かべながら、顔を熱した鉄のように赤くした。
それでも、優位は変わらない。
その時、ゲラドヴァは見る。
男の顔をだ。
弱者をいたぶるかのように笑っていたのかと思えば、そうではない。
男は実につまらなそうな顔をしていた。
表情は全く歪んでいない。
婦人のスカートを摘んでいる方がよっぽど面白い――とでもいうように、「つまらん」という言葉を表情によって体現していた。
「お前さ。それで全力なのか?」
「う、うるさい! ここからだ! ここから逆転してみせる」
ゲラドヴァは渾身の力を込める。
いや、とっくの昔に精いっぱいの力を込めていた。
だが、それでも跳ね返される。
徐々に押し込まれ、ゲラドヴァの巨躯が後ろへ反り返り始めた。
その姿はまさにゲラドヴァが、男にさせようとしていた体勢だ。
骨が悲鳴を上げる。
視線はもう空ではなく、はっきりと後ろを向いていた。
まるで目の前の男に食われているようだ。
ようやくその段になって、ゲラドヴァは声を張り上げる。
「や、やめ――――」
ごきぃッ!
その音は周囲にはっきりと聞こえた。
背骨が折れる音である。
ただゲラドヴァの姿はそれだけに留まらない。
まるで鞄のように折り畳まれ、頭頂が地面についた状態で意識を失っていた。
白目を向き、そこから涙に混じって、赤い鮮血が垂れる。
赤髪の男は、手を離した。
「つまんね」
真っ二つに折れたゲラドヴァを見ながら、唾を吐くのだった。
実は初めて2300ptも1日で取りました。
ブックマーク、評価をつけていただいた方ありがとうございます。
でも、日間総合6位でした。めちゃくちゃ悔しいです。
もう1歩上にいけるように頑張ります。
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