第12話 宝具【死霊を喚ぶ杖】
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パチパチと音を立てて、炎が燻っていた。
ヴァロウの前にあるのは、焼き払われた森の姿。
目の前にいたテーラン城塞都市の総督アラジフの姿は消えていた。
死者に対する弔いの言葉はない。
ただヘーゼルの瞳が冷たい光を讃えていた。
振り返り、戦場の中心へと戻る。
すでにアンデッドたちは兵を全滅させていた。
アンデッドたちは兵の死体に噛み付く。
すると、死体はゆっくりと立ち上がり、アンデッドとなった。
これは先日、魔王軍第一師団長ドラゴラン(正確に記すれば第三師団シドニムだが)からもらった【死霊を喚ぶ杖】の力である。
人間の肉体はおろか、古い人骨や地縛霊などからアンデッドを精製することができる宝具だ。
このアンデッドたちも、ルロイゼン近くの古戦場に残っていた骨を使って、ヴァロウによって生み出された。
使い方はさほど難しくない。
が、大量の魔力が必要になる。
しかし、ヴァロウは問題なく使える。
その魔力は、副官の中でも1、2を争うほど、強大であるからだ。
「むっ……」
ヴァロウは立ちくらみする。
倒れそうになるのをなんとか堪えた。
「うむ。予想以上に魔力を消費するな。多用は禁物か」
だが、アラジフが連れてきた兵を加えたおかげで、アンデッドの数が400匹近くにまで膨れ上がった。
アンデッドは非常に便利な魔物である。
1番は維持費がかからない。
つまり食糧を必要としないのだ。
あのスライムですら、定期的に栄養を補給しないと消滅してしまう。
その点、アンデッドは強力な聖属性魔法を浴びない限り死ぬことはない。
さらに矢や槍といった刺突攻撃に強い。
反面、打撃には弱いのだが、人類側の歩兵のほとんどが槍を武器としている。
対歩兵戦術において、アンデッドは有効な手段なのだ。
陽の当たる場所では動きが鈍くなったりするなど、デメリットも多いが、今のヴァロウの状況から考えれば、心強い援軍だった。
「誰だ?」
ヴァロウは振り返る。
かすかだが、物音が聞こえた。
すると、茂みの向こうが動く。
現れたのは、ヴァロウよりも小さなゴブリンだった。
それも1匹だけではない。
50匹はいるだろう。
武装を纏い、森の闇の中でぎょろりと開いた目を光らせていた。
ヴァロウの側に近付くと、すべてのゴブリンが傅く。
「人類の勢力圏に、これほどのゴブリンが残っているとはな」
人類の勢力圏では、今も大規模な魔物狩りが行われている。
最初こそ魔族側の戦力を削ぐためではあったが、現在では戦意を昂揚させるためのパフォーマンスの一貫として行われていると、ヴァロウは聞いていた。
魔物同士を戦わせるショーなどもあるのだという。
昔、魔物は畏怖の象徴的だった。
だが、今ではただ人類の快楽を満たすための愛玩具でしかないのだ。
特にゴブリンはスライムに次いで弱い魔物である。
よく生き残っていたな、とヴァロウは感心した。
「マゾク サマ。オレタチ マゾク サマ ノ モトデ ハタラク。イイ?」
「俺たちの師団に加わるというのか?」
すると、ゴブリンたちは頷いた。
ゴブリンは戦力としては弱いが、意外に手先が器用だ。
纏っている武具も、彼らが作ったものだろう。
城塞の簡単な修復であれば、教え込めばできるかもしれない。
ただスライムと違って、なまじ賢い。
人類に対する憎悪は強いはずである。
「俺は今、人類とともにルロイゼンを拠点として動いている。時に、人類と手を組み、戦うこともある。お前たちは、それを容認できるか?」
少々難しいが、それ以外に説明しようがなかった。
ゴブリンたちは顔を見合わす。
少しの間、議論した後、先頭のゴブリンがいった。
「イイ。シタガウ。オレタチ アンシン デキル バショ。ホシイ」
「なるほど。すでに争うことにお前たちは疲れているんだな」
ゴブリンはまた一斉に頷いた。
「わかった。お前たちを第六師団に迎え入れる。俺の名前はヴァロウ。第六師団師団長にして、魔王の副官だ」
「フクカン」
「マオウ サマ」
「スゴイ」
「オレタチ ヴァロウ サマ ニ ツイテイク」
副官たるヴァロウの元で働くのが嬉しいらしい。
ゴブリンたちは手を叩き、あるいは地面を踏みならして喜んだ。
「俺たちはこの後、北上する。早速、働いてもらうぞ。いいな」
ゴブリンたちは三度頷いた。
こうしてゴブリンたちが、第六師団に加わるのだった。
◆◇◆◇◆
ヴァロウはアンデッドとゴブリンたちを連れ、テーラン軍の野営地へと戻る。
こちらの戦闘も終わっていた。
「ヴァロウ様、ご無事ですか?」
メトラは心配そうにヴァロウを見つめる。
「問題ない」
「そのゴブリンたちは?」
「森の中に潜んでいた。第六師団に加わってくれるらしい」
「かかっ! なかなか頼もしい援軍じゃねぇか?」
ザガスがゴブリンたちを見下ろした。
牙を剥きだし、侮るように微笑んだ。
ヴァロウはメトラに尋ねる。
「状況は?」
「全滅させました。いつでもアンデッド化が可能です」
「よし」
ヴァロウは【死霊を喚ぶ杖】を振って、合図を送る。
するとアンデッドたちは、地面に転がって死体に群がった。
【死霊を喚ぶ杖】の利点は2つある。
1つは杖の力によって、死体をアンデッドにできること。
2つ目は、そのアンデッドに噛まれると、アンデッドになることである。
つまり、1度アンデッドを作れば、死体がある限りほぼ無限にアンデッドを精製することができるのだ。
「おそろしい宝具ですね」
「ああ……」
アンデッドに噛まれる敵の死体を見ながら、メトラはキュッと胸の前で手を組む。
ヴァロウは無表情のままその光景を見つめていた。
少し感傷に浸る元人間たちの横で、実に魔族らしく振る舞ったのはザガスである。
棍棒を肩に担ぎ、唾棄した。
「チッ! 歯ごたえのねぇヤツらだったぜ! 重戦士部隊と聞いて、ちょっと楽しみにしていたのによ」
「ここは前線から離れているからな。兵の練度が低いのだろう」
「いつになったら、ひりつくような戦場に出会えるんだ、オレ様は?」
「慌てるな、ザガス。次は大物を狙う。存分に働いてもらうぞ」
「今度は信じていいんだろうな? 今回みたいな雑兵に毛が生えた程度じゃオレ様は満足しねぇぞ」
「楽しみにしておけ」
「ヴァロウ様、この後いかがされますか?」
メトラが尋ねる。
「このまま一気にテーランへ向かう。主力部隊は潰した。大した戦力も残っていないはずだ」
「しかし、テーランには6000人の市民がいます。武装はしていなくても、その数は脅威ですよ?」
「そのことについては心配していない」
「さすがはヴァロウ様……。何かお考えがあるのですね?」
「ああ。実は――」
ヴァロウが答える前に、森の茂みが動いた。
残存兵かと警戒したが違う。
現れたのは、スライムだった。
ヴァロウはいつも通りコミュニケーションを図る。
やがて「よくやった」とスライムを讃え、干し肉を3枚も渡した。
そこに他のスライムたちが群がってくる。
美味しそうに干し肉を溶かしていく仲間のスライムを見て、何か羨ましそうだった。
戦場にあって、何かホッといやしてくれるスライムたちを見ながら、メトラは尋ねた。
「ヴァロウ様、そのスライムは?」
「テーランに潜入させていたスライムだ」
「テーランを?! いや、そもそもスライムに諜報活動させていたのですか?」
「何を言う。スライムは優秀な諜報員だぞ」
スライムといえば、無音移動だ。
しかし他にも優秀な部分がある。
それは「疲れる」という感覚がないことだ。
動きこそ鈍いが、一昼夜ぶっ続けで動くことができる。
定期的なエネルギー補給が必要ではあるものの、時間をかければ、各都市の情報を持ち帰ることも難しいことではなかった。
そのスライムからテーランの状況を聞いたヴァロウは牙を剥き出し笑う。
「やはりな……」
「いかがなさいました?」
「ああ。別に大したことではない。が、やはり――」
状況は俺の手の平の上のようだ……。
ジャンル別5位でも、2000pt近くとっても
日間総合では9位…………。
ベスト5の壁は本当に険しいです。
でも、だからこそ価値があると思っております。
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