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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
12章 勝利の宴

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第117話 魔王の誓約

お待たせしました!

 ピィィィロロロロロロ……。


 笛の音が響く。

 さらにポン、ポン、ポンと動物の皮を巻いた鼓の音が軽快に聞こえてきた。

 それに合わせ、人々は踊る。

 そして歌う。


 空には月。

 夜である。


 更地となったルロイゼン城塞都市には無数の篝火が焚かれていた。

 橙色の炎が闇を裂く。

 絶望に沈みそうになる人の心には、音楽と笑い声が染み渡る。


 今ルロイゼン城塞都市には何もない。

 あるのは、壊れた壁と生き残った者の姿だけ。

 だが、それで十分であった。

 都市にとって、国にとって、人という財産ほどかけがえのないものはないからである。


 しかし、すべてが救われたわけではない。

 いまだ海には、洋上に残した戦艦には、人の骸がいる。

 涙がするものがいる。

 憤るものがいる。


 それでもルロイゼン城塞都市の民たちは前を向いた。


 唄と踊り、ほんの少しお酒。

 一時だけ悲しさを忘れ、勝利という美酒に酔うのであった。


 その人間たちに大きな影が迫る。

 ずらりと居並ぶ姿は小さな山のようだ。

 武装した竜人族である。

 長い首を動かし、夜の中でも目を光らせていた。


 そして中央に立っていたのは、ヴァロウ、メトラ、ドラゴラン、エスカリナ。

 最後に魔王ゼラムスだった。


 笛や鼓の音が途絶える。

 皆の視線が、ルロイゼン城塞都市に集結した魔族に剥く。

 先ほどまで楽しげだった夜会が一変する。

 空気が凍り、心臓を何かで突き上げられているような緊張感が支配した。


 だが、それも束の間だった。

 竜人族の群が縦に割れる。

 その間からペイペロに引き連れられた残りのルロイゼン城塞都市の領民たちが現れる。


 志願兵として戦うために残った兄や父を見つけると、女や子どもを中心に駆け寄っていった。


 緊張感が和らぐ。 

 たちまち和やかなムードに包まれた。

 その中で魔王ゼラムスの言葉だけが響く。


「ルロイゼン城塞都市の皆様、初めまして。わたくしは魔王。魔王ゼラムスと申します」


 魔王!


 どよめきが走る。

 皆が石のように固まり、まるで娼婦のような服を着た女性を見つめた。


 皆の視線に気付くと、ゼラムスはキッと顎を上げる。

 その特徴的な金色の瞳を光らせた。

 蠱惑的な光に、子どもは本能的に父親の首にすがる。


 いることは知っていた。

 しかし、その伝説的すぎる(ヽヽヽ)存在の登場に、皆が戸惑っていた――と言うのが、本音だった。


 一体、魔王が何をするのか。

 殺戮ショーを始めるのか。

 それとも血に飢えた魔族たちの生け贄にするのか。


 そもそもである。


 目の前にいるのはルロイゼン城塞都市を実行支配するヴァロウの上司だ。

 こんな時、一体どう対応すればいいのか。

 ルロイゼンの民たちは、とにかく戸惑っていた。


 しばらく沈黙が続くと、魔王ゼラムスの方から語りかける。


「皆さんにまず1つお伝えしたいことがあります。わたくしの部下、副官ヴァロウはこのルロイゼン城塞都市を占領するに当たって、いくつかの占領基本方針を掲げました」


 改めて列記するなら、次の3つである。


 1つ。領主代行をエスカリナ・ボア・ロヴィーニョとすること。

 2つ。重税を課さない。

 3つ。食糧の配給が必要であれば応じる。


「わたくしがこのルロイゼン城塞都市に降りたっても、そしてこの旧同盟領を支配することになっても、我々はこのヴァロウが掲げた占領基本方針を撤回するつもりはありません」


「な――」

「それって、どういうこと?」

「つまり、あれか?」

「何も変わらないってことか?」

「魔族のお偉いさんが来たっていうのに?」


 ホント? と領民たちは首を傾げる。

 当の魔王の方を向き、目で尋ねた。

 魔王ゼラムスは薄く微笑む。

 まるで聖母のような表情で、こう告げた。


「はい。その通りです。あなた方の生活は今まで通りということです」


「「「「「「おお!」」」」」」


 歓声が上がる。


 だが、すぐに魔王の声のトーンは下がった。


「ただし……」


 逆説的な言葉を聞き、皆はすぐに息を呑むことになる。

 魔王ゼラムスの次の言葉を待った。


「あなた方の街をこんな風にしてしまったことは申し訳ありません。それ故に、わたくしはヴァロウの掲げた基本方針に1つ付け加えようと思います。それは――」



 移動の自由です。



「この戦いで、ルロイゼン城塞都市の皆様はたくさんのものを失いました。街、家、家畜、畑、そして家族を亡くした方もいらっしゃるでしょう。魔族と付き合うなどできないと思う方もいると思います。その場合、どうか気兼ねなくこの都市から去り、人類の支配域へとお逃げください。我々は咎めません。危害も加えません。良いですね、ドラゴラン、ファーファリア」


 ドラゴランは厳かに頭を下げる。

 ルロイゼンの空の闇の中に溶け込むように旋回していたファーファリアは、大きな鳴き声を上げて、返事した。


 2人の副官の様子を見て、ゼラムスは1つ頷く。

 さらに言葉を続けた。


「今後も戦いは続きます。そして、ここにわたくしがいたところで、いまだ有利は人類軍にあります」


 それは単純に兵力の差である。

 魔王と第一、第五師団がやってきて、王国側と人類の前線軍が分断できたことは、喜ぶことだ。


 しかし、いまだ前線軍主力10万以上。

 王国軍には30万以上の予備兵力があると聞く。


 対して、今旧同盟領にいるのは、竜人族を主力とする第一師団が2000、鳥人族を主力とする第五師団が10000、魔狼族が主力とする第四師団が1500、ヴァルファル軍が5000弱である。

 すべて足しても、兵数でいえば2万もない。

 兵の質から算出して、この倍以上だとしても、4万。


 40万vs4万。

 子どもでもわかる戦力差である。


「あなた方の命の保証はない。そして、あなた方を守る戦力すらわたくしたちにはない。ここにいても、あなたたちの身は自分で守ってもらうしかない。それでも、あなた方は残ってくれますか?」


 どうする?


 そんな空気がルロイゼンの民たちに蔓延する。

 ここに残っていれば、危険だと魔王は言った。

 だから、ここから出ていった方がいい――そういうことなのだろう。


 しかし、ルロイゼンの民たちは忘れていない。

 先ほどまでのことなのだ。

 あのダレマイルという天使が行った所業。

 人間を人形(こま)だと言い放った言動。


 そんな存在が、今人類を支配しているのである。


 たとえ戻ったところで、地獄を見るのは明らかだった。

 ならば、まだ重税を課さない、食糧を配給すると約束してくれた魔王軍の方が、よっぽど安心ができる。


 皆の思いが一つになる。


 1人、また1人と更地に膝を突く。

 魔王ゼラムスを前にして、ルロイゼンの民たちは頭を垂れた。


「これは――」


 さしもの魔王ゼラムスも、この反応は予期していなかったらしい。

 目を丸め、逆に息を呑んでいた。


「よろしいのですか、皆様?」


「構わない」

「ここは俺たちの街だ」

「なら、私たちが守るだけだわ」

「そうだ。人類も、魔族の手は借りない」

「私たちの街は自分たちで……」

「守ってやる!」


「みなさん……」


「その代わり、私たちに戦い方を教えてほしい」

「ああ。俺たちはそこらへんは素人だ」

「今回の戦さで嫌と言うほどわかったよ」

「どうか頼む」

「ヴァロウ様、そして魔王様。どうか我らをお導き下さい」


 民たちは次々に声を上げる。

 皆がルロイゼン城塞都市――自分たちの街を守ると、一致団結していた。


「ありがとう。わかりました。出来るだけのことはやるつもりです。よろしいですね、ヴァロウ」


「はっ! かしこまりました!」


 ヴァロウは恭しく頭を下げる。


 直後、パンと手を鳴らす者がいた。

 エスカリナである。


「さて、話がまとまったところで、宴会を始めましょう!」


 一番のお祭り娘が、皆の前で飛び跳ねると、一斉に手を挙げ、勝ち鬨のように大きな声を上げるのだった。


今週もコミカライズ版『ゼロスキルの料理番』の最新話が更新されております。

是非チェックしてくださいね。

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