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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
12章 勝利の宴

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第116話 わがまま

このたびの台風被害に際し、心よりお見舞いを申し上げます。

皆様の1日も早い復旧をお祈りしています。

「――とまあ、そういうことがあったのだ」


 ドラゴランは話を結ぶ。

 内臣派は結局押し切られるような形で軍の作戦を了承し、議会は閉会となった。


「よくあの場で臆せず発言しましたね」


 ゼラムスは目を細める。

 議場の監督役として、様子を伺っていたゼラムスもまたその時のことを思い出した様子だった。

 一方、メトラは顔を赤くする。


「あの時は、なんとかヴァロウ様の作戦を通すのに夢中で……。むしろ、出過ぎたことをしてしまい、申し訳ありません、ドラゴラン様」


 頭を下げる。


 メトラからすれば、ドラゴランが作ったお膳立てを潰してしまったという意識の方が強かった。

 あの場にいられたのも、ドラゴランやゼラムスの後押しがあったからである。

 うまくいったからよかったが、1つ間違えれば内臣派の心証を悪くしていた可能性すらあったのだ。


 軽挙妄動であったことは、間違いない。


 すると、ポンと頭に手を置いたのは、ヴァロウではない。

 ドラゴランだ。

 手の平はゴツゴツしていて硬い。

 撫で回されると、髪を巻き込んで痛かった。


「なんの! あれぐらいが丁度良いのだ、内臣派(おくびょうもの)には。お主が何か言わなければ、わしがあやつらを捻り潰しておっただろう」


「そ、それは――――」


 メトラは苦笑する。

 そんなことになれば、魔族は真っ二つに別れていただろう。


「同意ですね。ドラゴランがいなければ、わたくしが言って、力ずくで黙らしていたでしょう」


 発言したのは、ゼラムスだった。

 あの議場でのことを思い出しているのか。

 発言には怒気が混じっていた。


 もし、ゼラムスが参戦すれば、魔族どころか世界の終わりだ。


 メトラはさらに苦笑するしかなかった。


「だから、ヴァロウ。大いにメトラを褒めてあげるのですよ。彼女が今回の戦さの1番の功労者といっても過言ではないのですから」


「い、いえ。そんな……。すでに私はヴァロウ様に――――キャッ!」


 メトラの銀髪が揺れた。

 力強く引き寄せられると、目の前にヴァロウの顔があった。

 そのままメトラを強く抱きしめられる。


「メトラ、よくやった」


 耳に息がかかる。

 顔を真っ赤にしながら、メトラはまた涙が出てきた。

 空での睦み合いの時に流した涙は、寂しさからだ。

 けれど、今は違う。

 単純にヴァロウから褒めてもらい、嬉しかったのである。


 2人の魔族の抱擁を見ながら、ドラゴランはうんと頷く。

 ウルリカも顔を真っ赤にしながら、ヴァロウとメトラを見つめていた。

 そして、ゼラムスは別の意味で頬を赤らめている。


 すると、何を思ったのか、ゼラムスはヴァロウの前に進み出た。


「ヴァロウ……。わたくしも褒めてください」


「はっ?」


 何かを言い始めたゼラムスを見て、ヴァロウは素っ頓狂な声を上げる。

 メトラもまた目を丸くしていた。


 途端、ゼラムスは足を押さえ蹲る。


「痛い! 長旅だったから、足が痛くなってきましたわ。ちらっ」


 ヴァロウの様子を見る。

 さしもの最強の軍師も慌てていた。


「す、すみません。ここまでご足労いただき……」


「では、ヴァロウ。わたくしにもご褒美を」


 ゼラムスは手を広げた。

 何を所望しているのか、一目瞭然だ。

 つまり、「魔王を抱きしめよ」ということなのだろう。


「ま、魔王様。恐れながら、先ほど俺は魔王様に――」


「あれはわたくしから抱きしめたのです。今度は、ヴァロウの方から抱きしめてください」


「は、はあ……」


 子どもみたいな言い分だが、ゼラムスの命令である。

 ただヴァロウは圧倒され、ひるむしかなかった。

 ちらり、メトラの方を見る。

 困って助けを求めるヴァロウを見て、メトラは「ふふふ」と微笑んだ。


「さしもの軍師も、策がありませんか?」


「ああ……。こればかりはな」


「あなたは昔からそうですからね」


 ヴァロウは髪を掻いて、誤魔化した。


 一方、ゼラムスは態勢万全だ。

 早くとばかりに、恨めしい視線をヴァロウに向ける。


 我が侭なゼラムスに、ヴァロウはため息を吐くことすらできない。

 やがて前に進み出た。

 本当に抱きしめるのかと思えば違う。

 その場に跪く。


 いつもの対応にゼラムスはため息を吐きそうになったが、違う。


「魔王様……。お疲れなのであれば、俺が魔王様を背負いましょう」


「え? それは――」


 意外な提案に、ゼラムスは口を噤む。

 ただ悪くないと思ってしまった。

 これまで人にも魔族にも、背負われたことがないからだ。


「知っていますか? 自分で言うのもなんですが、重いですよ」


「これでも俺は人鬼です。力には多少自信があります」


 ヴァロウは角の力を解放する。


「そこまでして、わたくしを抱きしめたくないのですね」


「恐れ多いことゆえ……」


「わかりました。いいでしょう。わたくしを背負えるなら、許しましょう」


「では――」


 何だかおかしな展開になってきた。

 ヴァロウは主君に背を向ける。

 背負う態勢を作った。

 かくいうゼラムスも何をしたらいいかわからない。

 何せ生まれてこの方、背負われたことがないのだ。


 足が先か、手が先か。

 それとも全身か。

 どう背中に寄りかかったらいいのかわからなかった。


「とりあえず、俺の背中に体重を預けてください」


「こうですか?」


 ゼラムスはヴァロウに寄りかかる。

 その時、無茶苦茶柔らかいものが、ヴァロウの背中に当たった。

 が、ヴァロウがそれを言及することはない。

 ゼラムスの足に手を入れ、手を肩の前に出すように指示する。


 一気に持ち上げた。


「ぐっ!」


 重い――。


 とは意地でも口に出さなかった。

 だが、予想以上の重さだ。

 なるほど。

 ラングズロス脱出の際、鳥人族たちが嫌がったのもわかる。


 ヴァロウは始めから全力だった。

 意識が切れた瞬間、後ろに倒れてしまうだろう。

 それほど、魔王ゼラムスは重たかったのだ。


 致し方なかったとはいえ、それでも自ら抱きしめるよりはいい。

 些か背中に当たった柔らかいものが気になるが、今はそれどころではない。


「大丈夫ですか、ヴァロウ」


「問題ありません」


 そう言いながら、ヴァロウの額には玉のような汗を浮かんでいた。


 一方、ゼラムスは思いの外楽しんでいた。

 翼の力で飛翔することができないが、滑空することぐらいならできるゼラムスは、その浮遊感とは違う未知の体験に、単純にときめいていたのである。


 ヴァロウが苦労する一方で、目をキラキラさせていた。


「なかなか快適ですね。ずっとヴァロウに背負ってもらおうかしら」


「それは良かった。…………では、行きましょう、魔王様」


「え? どこへですか、ヴァロウ?」


「決まっています、ゼラムス様。我が所領ルロイゼン城塞都市ですよ」


「し、しかし、今そこには――――」


「はい。我らが宿敵人類がおります。ですが、ご安心ください、魔王様。すでに彼らは我らの臣下として働いております。俺の臣下は、魔王様の臣下も同然。是非、その雄々しい姿を皆の前で披露していただきたい」


 ヴァロウは1歩1歩進んでいく。

 その度に地面が陥没した。

 魔王ゼラムスの重さを物語っている。

 それでも、ヴァロウは荒い息を吐き出しながら、前へと進んだ。


 慌てたのはゼラムスだ。

 魔族に背負われた状態で、人類の前に出ていけるわけがない。

 魔王としての威厳を失う行為であることは、さしものゼラムスも理解できた。


「ヴァロウ、下ろしてください」


「ダメです」


 手を払いのけるように、ヴァロウは言い放つ。


「魔王様はお疲れの様子……。遠路はるばる来られ、足が痛いのでしょう? そんな主君を歩かせるなど、臣下としてはあるまじき――」


 そこでゼラムスはヴァロウの計略を察した。


「う゛ぁ、ヴァロウ! 計りましたね!」


「滅相もありません。主君を思えば、わたくしは――」


「ああ。もうわかりました!! 下ろしてください。自分で歩きますから」


 バタバタと動かす。

 このまま空中で駄々をこねるゼラムスを見ているのも、捨てがたい。

 が、さすがにヴァロウも限界が来ていた。

 大人しく命令に従う。


「もう……」


 プイッとゼラムスはヴァロウから目を背ける。

 赤い頬が風船のように膨らんでいた。


「ヴァロウ様、あれ?」


 声をかけたのは、ウルリカだ。

 いよいよ暗くなり始めた水平線に、薄らと影が見える。

 大きな構造物がこちらに向かってきていた。


 戦艦だ。

 船首にはターバンを巻いた男が手を振っている。

 ペイベロである。

 その後ろには、戦線を離脱していたルロイゼンの領民たちがいた。


 戦闘が終結し、早速海の魔物によって曳航されてきたらしい。


「揃ったわね」


 また別の方向から声がかかる。

 今度は崖の上だ。

 エスカリナが腕を組み、潮風に金髪をさらしていた。


「用意はできたわよ」



 宴の準備がね。



 エスカリナの口端がくいっと上がった。


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