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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
12章 勝利の宴

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第115話 王女演説

「あ、ありがとうございます」


 ゼラムスの甘い匂いに包まれながら、ヴァロウは礼を述べる。

 普段、氷のように変化のない顔に朱が差していた。

 照れていることは間違いない。

 だが、ヴァロウからすれば、戸惑いしかなかった。


「(いつか膝枕を要求された時もそうだったな)」


 魔王ゼラムスの行動は、時々予測の斜め上を行く。

 ヴァロウからすれば、つまりのところまだゼラムスが自分の手の平にないということの証明でもあった。


「ゼラムス様……。あの――――」


「いや、ですか。わたくしに抱きしめられるのは?」


「そ、そういうわけではありません」


「では、このままで――」


「ですが……」


「?」


「人の目というか、魔族の目というものがありますので、そろそろ控えていただけるとよろしいかと」


 名前をもらったばかりの人魚ウルリカは目を大きく広げ、ドラゴランはちょっと羨ましそうにヴァロウとゼラムスの抱擁を見つめている。


 一際敏感に反応していたのは、メトラだ。

 顔を真っ赤にして、ややキツい視線を送っている。

 少し怒っていた。


 メトラの怒気が触れたのだろうか。

 ゼラムスはメトラの様子に気付く。

 少し微笑んでから、ようやくヴァロウの身体を離した。


「失礼しました、ヴァロウ。あまりにも抱き心地が良かったので、つい――」


 ゼラムスはぺろりと舌を出す。

 その反応だけを見るなら、どこにでもいる町娘のようだった。


 ヴァロウとゼラムスはあまり身長差はない。

 履いているヒールと、背中に生やした翼のおかげで、ゼラムスの方が高く見える。

 そのためか、ゼラムスが抱きしめると、ちょうどいい高さにヴァロウの頭が来るため、抱き心地良かったのだろうと推測できた。


 ゼラムスは身体の向きを変える。

 後ろで顔を赤らめていたメトラの方を向いて言った。


「ヴァロウ、メトラには礼をいいましたか……」


「はい。彼女がいなければ、作戦の完遂は難しかったでしょう」


「そうだ。よく礼をいっておけ、ヴァロウ」


 ドラゴランも話に加わる。


 ゼラムスを城から出陣させるどころか、人類軍の勢力圏内を突っ切り、援軍に来てほしいと懇願するのだ。

 説得はかなり困難なものであったに違いない。

 さりとて、ヴァロウが直接出向くほど余裕はない。

 ルミルラもダメだ。口は立つが、新米魔族では信用があまりになさ過ぎる。

 ザガスは論外である。


 消去法という形で、ヴァロウはメトラに賭けたわけだが、彼女なら交渉を成功させることができると信じていた。


 メトラは元王女だ。

 その美しい容姿と、巧みな話術によって社交界を席巻し、ヴァロウの和平路線を支えた実績がある。


 なんら心配していなかったといえば、さすがの最強軍師も否定するしかないが、メトラならやり通すと考えていた。


 突然、ゼラムスはくすりと笑う。

 目を細め、肩を振るわせた。

 何かを思い出して、1人楽しんでいるらしい。

 その理由をゼラムスは、すぐに口にした。


「あの時のメトラは、まるでヴァロウのようでした」


「俺の……」


「ま、魔王様!」


 メトラの顔は、先ほどよりもさらに真っ赤にしていた。


「そうですな。あの時のメトラはまさしくヴァロウでしたな」


 ドラゴランも髭を撫でながら同調する。

 ニヤリと笑い、回想した。



 ◆◇◆◇◆



 メトラが1人魔王城ドライゼルに辿り着いたのは、今から50日前である。


 ヴァロウの手紙をドラゴランに渡すまでは順調だった。

 特にドラゴランが、その作戦に同調してくれたことは大きい。

 その作戦の意義と、ヴァロウという弟分のために、ドラゴランはすぐに動いてくれた。


 いや、すでに動いていたというのが正しい。

 水面下でドライゼル城からルロイゼン城塞都市までのルートの調査が行われていたのである。

 ヴァロウはドライゼル城を離れる前から、この事態を予測していたのだ。


 しかし、うまくいったのは、ここまでだ。


 実は、現在魔族は2つの派閥に分かれていた。

 ドラゴランなどの魔王の副官を主とした軍派閥。

 魔王城の維持や内政の充実化を推進する内臣派閥である。


 2年前までは、前者がとても大きな力を持っていたが、戦況の悪化とともに、後者が盛り返してきた。


 特に御前会議が撤廃されたことは大きい。

 6人の副官と魔王だけで魔族の意志と民意を聞いたことにはならないと、内臣派は声を上げ、結局200人以上の種族の代表者が集まり、議論する議会制度が開始された。


 魔王も苦渋の決断であった。


 今、内臣派の意見を無視し、魔族を2つに割るにはいかなかったからである。


 当然、ヴァロウが提案した作戦も、議会にかけられた。

 そこで内臣派から猛反対に合う。


「ルロイゼンに援軍を送るだと! 馬鹿を言うな!!」

「どれほどの距離があると思っているのだ」

「小さな拠点に援軍を送って、我々に何の得がある!!」


 だが、軍派も負けていない。

 率先して、口を開いたのはドラゴランだった。


「口を出すな、内臣派! これは軍の作戦を開示したにすぎない。黙れ! 引きこもりどもめ」


「なんだと!」

「ドラゴラン殿、冷静に……」

「我らとて、援軍を送りたくないわけではない」

「その通りだ。今は時ではないといっている」

「今は、内政の充実化に努め、しかるべき時に――」


 このような議論が延々と繰り返された。

 要は内臣派は現状維持を要求していた。

 ヴァロウが示唆した負けない戦い方のおかげで、魔族は見た目上、安定期に入っている。

 最前線では人類軍とのにらみ合いが続いているが、ドライゼル城では比較的穏やかな日々が続いていた。


 日和見主義の多い内臣派にとっては、この現状が心地よいのだろう。


 それにゼラムスが居を変えるということは、このドライゼル城を破棄するということでもある。


 ラングズロス城から脱出して日も浅い。

 2年前の逃亡劇を、いまだ覚えているものにとって、あれは軽いトラウマだったのだ。


「あんな作戦2度とごめんだ……」


 それが内臣派の本音なのだろう。

 喧々諤々たる議論の場は、次第に中だるみしていく。

 次の議論に進めるよう議長に提言する魔族もいた。


 ヴァロウが考えた作戦が、つまらない考えの魔族に圧殺されそうになったその時、とある一声が議会を貫く。



「あなた方は、それでも魔族ですか!!」



 それぞれが思い思い発言し、まとまりを失いつつあった議場が、一気に冷めていく。

 しん、と魔法のように静まり返った。


 皆の視線が、その声の出所を追う。

 探す前に現れたのは、ドラゴランの側で議会の推移を見守っていたメトラだった。

 自ら議場の中央に進み出る。

 炎のように赤くなった瞳のサキュバスを見て、魔族たちは息を呑んだ。


「2年前、我らはラングズロスを追われ、このドライゼルへと移りました」


 メトラは滾々(こんこん)と話を始めた。


「その時、我が上司ヴァロウは、当時の第六師団師団長ゴドラムの指示のもと、撤退作戦を立案しました。結果的にゴドラム様は殉職されましたが、作戦は成功。魔族はこのドライゼルの地にて、再起を図ることになりました」


 ドラゴランはメトラの話を聞きながら、うんと1つ頷く。

 友のことを思い出すように、議会の天井を仰いだ。


「それから2年、我ら魔族は人類の猛攻を守勢によって耐え忍んできました。そして、ついに我々は攻勢に転じることができるのです。いよいよ魔族の反抗作戦が開始されるのに、あなた方は今何を議論しているのですか!!」


「し、しかし、君ねぇ。リスクが――――」


「リスク? 何のリスクがあるのですか? この作戦を立てたのは、我ら魔族に知恵と策を与え、2年間の平穏を保証し、あなた方にくだらない議論まで許したヴァロウ様なのです。その方が立てた作戦に従わない方が、よっぽどリスクだと考えないのですか!!」


「貴様!」

「我々の議論がくだらないだと」

「議会を軽視するとは……」

「そもそもサキュバス程度がここにいて」



 黙りなさい!!



 再びメトラの声が響く。

 またしても、しんと静まり返った。


 声の大きさでも、その威勢の良さでもない。


 メトラの声には王気があった。

 人を従え、耳を貸さずにはいられない不思議な力があったのだ。


 もう1度メトラは「黙りなさい」と静かに忠告する。

 そして再びあの言葉を口にした。


「何度でも言いましょう? あなた方は本当に魔族ですか? 私が知るのは、血と肉を求め、悲鳴を愛しみ、生命を暴虐する悪魔……。それこそ魔族本来の姿のはずです。こんな穴蔵で言葉を交わすことが、魔族のやり方なのですか!」


「言わせておけば!!」


 激昂したのは、巨躯のオーガであった。

 内臣派の中でも、武闘派と知られる鬼族の長である。

 座っていた椅子から飛び上がると、メトラの前に現れた。

 腐臭を履き、血走った目を向ける。


 慌ててドラゴランが助けに入る。

 だが、それを手で制したのは、他の誰でもない。

 メトラ本人だった。


 メトラは怯まない。

 逆にオーガを睨み返し、さらに言葉を続けた。


「これは好機なのです。敵陣深く浸透し、拠点を打ち立てる。そうすれば、我らは2年前に失った版図を取り返すこともできる。……何も難しいことはいっていない。今、私に向けようとしている牙と爪を、人類に向ければいいだけのことです」


「ぬぅぅぅううぅ……」


「そんな目をしても、私は怖くはない。今のあなた方は、人間に怯えている。それは本来逆のはずでしょ? 人間が魔族に怯える。それこそが、本物の魔族ではないのですか!?」



 がしゃああぁぁぁああぁあぁああぁあぁあぁああ!!



 議場に並んだ椅子や机が吹き飛ばされる。

 壁や天井に当たると、議場に座っていた魔族たちに振り注いだ。

 当然、滅茶苦茶だ。


 熱弁を振るっていたメトラは無事だった。

 ただただ議場の惨状に、目を広げる。


 やったのは、あのオーガである。

 手で一振りすると、周囲の椅子や机、あるいは魔族そのものが飛んでいった。

 そして、口を開けて、大声で笑う。


「がははははははははは! その通りだ、お嬢ちゃん」


 ぽんぽん、とメトラの頭を軽く撫でる。


「あんた、一体何をやってるんだ!」

「そうだ! 神聖な議場をこんな――」

「極刑に値するぞ……」


「うるせぇ! 議論(ママごと)は終わりだ」


「あなた……」


 メトラも目を丸くする。

 オーガは牙を剥きだし、ギラリと光らせた。


「俺様もよ。こんな議論に飽き飽きしてたんだ。……神聖? 馬鹿か、お前たちは。いつから俺様たちが神聖なんて言葉を使ってるんだ。何を尊ぶんだよ、魔族が。俺様たちに神なんていねぇ。魔族は魔族だ。己を誇り、種を尊ぶ。それがわからねぇなら、お前らは魔族でもなんでもねぇ」



 ただの弱虫だ……。



「文句あるなら出てこい。俺様が相手になってやる。本来の決めごとに戻そうじゃねぇか。力尽くってヤツでな」


「その意見……。わしも乗ったぞ」


 ドラゴランも演台に乗る。

 安心させるようにメトラの肩を掴んだ。

 次々と軍派の魔族が集まってくる。

 中には内臣派を抜け、加わるものもいた。


 メトラの元に集まった魔族たちは、ぼろぼろの議場に座る内臣派を睨むのだった。


書籍化作業のため10~11月いっぱいの間、週1更新とさせていただきます。

書籍版をより良い作品にするための時間だとご理解いただければ幸いです。

今後とも『上級貴族様に虐げられたので、魔王の副官に転生し復讐することにしました』よろしくお願いしますm(_ _)m

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