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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
11章 旧同盟領攻防決着編

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第105話 霧の中にて……

少し前線のお話に飛びます。

 魔王城ドライゼルは周囲を剣のような山々に囲まれている。

 谷と複雑な地形によって、山を突っ切ることは不可能。

 標高も高く、飛竜の限界高度を越えているため、空からの侵入も難しい。


 ドライゼル城に行くには、3つ街道のうちのどれかを通るしかない。


 北からムカベスク、デッラー、ゼルザーンと名付けられた街道のどれかを突破すれば、魔王城に至ることができる。

 つまり、その3つの街道は、常に人類軍の前線であり、後のない魔族軍にとっては、絶対の防衛線であった。


 ここ十数年においては、その街道内で一進一退の攻防が続いており、お互いが街道内に建築された要塞を取り合うことが続いていた。


 その街道の1つ――もっとも南に位置するゼルザーンへと向かう道に、2人の騎兵の姿があった。


 早馬を駆り、なるべく馬の負担を軽くするため、軽装を纏っている。

 2人はいわば、伝令や斥候などを主とする騎兵だ。

 昼夜を問わず走っていた騎兵たちは、突然手綱を引いた。

 馬はぶるるっと唸りを上げる。

 跨った騎兵は辺りを見渡した。


 霧である。


 白い羊乳のような霧が周囲に漂い、騎兵たちの視界を覆っていた。

 騎兵たちは首を回し、辺りを窺う。

 馬に休みを与えながら、何かを探していた。


「おかしい……」


「ああ。この辺りに展開しているはずだが……」


 彼らが探しているのは、ゼルザーン街道に駐留する人類軍の第8、第11部隊である。


 元々この辺りは、第5、第7部隊が陣を構えていた。

 つまりは、『氷烈の勇者』レインと『爆滅の勇者』ロッキンドが指揮官を務める部隊である。


 しかし、その2部隊は本国からの命令で、ルロイゼン城塞都市に向かった。

 スライドする形で北から部隊配置がずれ、デッラーの守りを務めていた第8、第11部隊が新たにゼルザーン街道に駐留することになったのだ。


 現在、前線は小康状態にあった。

 最近、ムカベスク要塞が魔族に占領され、今その反攻作戦の準備をしていた矢先に、本国――正確には本国軍旧同盟領攻略部隊指揮官ダレマイルより、旧同盟領に向けて4万以上の援軍を求められたのだ。


 前線軍としてはいい迷惑である。


 相手はたかだか1万足らずの魔族軍だ。

 それに対して、4万も送らなければならない。

 前線軍は反攻作戦のために1兵でも欲しい時にある。


 前線軍の指揮官たちが、渋い顔をしたのはいうまでもない。


 さて、2人の騎兵の話に戻ろう。

 彼らは街道ごとの駐留軍の情報伝達の要だ。

 駐留軍は定期的に伝令を送り、頻繁に情報のやりとりを行っていた。


 しかし、つい8日前ぐらいから、南のゼルザーン街道に駐留する第8、第11部隊からの定時連絡が途絶えた。


 何度か魔法による通信や、使い魔を飛ばした音沙汰無し。


 おかしい、と感じたデッラー駐留軍指揮官は、様子を確認するため、2人の騎兵を派遣したというわけだ。


 指揮官の予想は当たる。

 第8、第11部隊が布陣している場所に、人はおろか鼠1匹いなかった。

 陣が立てられたと思われる痕跡すらない。

 陣地を変えた可能性はあるが、そのような報告は聞いていなかった。


「しかし、すごい霧だな」


「この辺り特有の霧だそうだ。昔、ここに来た時にレイン様に教えてもらった」


「こんな霧の中で奇襲でも受けたら最悪だな」


「それはなかろう。こんな霧では相手だって――ッッッ!!」


「どうした?」


「シッ!」


 騎兵の1人が唇に指を当てる。

 手話で状況を伝えた。

 何か音が聞こえたらしい。


 2人はゆっくりと下馬した。

 馬の蹄の音が大きすぎる。

 長い距離を走ったため、いまだ興奮状態にあった。


 2人の騎兵は槍を構えたまま進む。

 周囲に視線を巡らすも、やはり霧のせいで視界は0だ。

 頼りになるのは、音だけである。


 からり……。


 2人の騎兵は同時に止まった。

 やはり音が聞こえた。

 乾いた木の枝を打ち鳴らしたような音。

 もしくは、原始的な打楽器の音にも聞こえる。


 からり……。

 からり……。

 からり……。


 音は次第に近づいてくる。

 すると、霧の中でぼうと何かが光った。

 まるで魂魄のようにゆらゆらと揺れ、2人の騎兵の方へと近づいてくる。


「なんだ、あれは?」


 1人が息を呑む。


「ひっぃいいぃぃいぃぃいいぃぃ!」


 もう1人は悲鳴を上げた。

 振り返った時、もう1人も叫ぶ。

 2人の騎兵の前に映っていたのは、無数の光だった。


 すると、一陣の風が街道を通り抜ける。

 瞬間、霧のヴェールが剥がれた。


 騎兵たちの前に現れたのは、無数の骸骨だった。


「「あ、アンデッド!!」」


 ほぼ悲鳴に近い叫び声が上がる。

 2人の騎兵を囲んでいたのは、アンデッドだった。

 武装をし、骨を鳴らし、肉が爛れながら、うめき声なのか吠声なのかわからない声を上げ、騎兵たちに近づく。


 その数は優に1000……いや、もっといるかもしれない。


「な、何故、こんなところにアンデッドが…………痛ッ!」


 何かに躓き、1人の騎兵が尻餅を付く。


「何をやってんだ! 逃げるぞ!」


「す、すまない!」


 もう1人が手を差しだし、助け起こす。

 だが、手を引いた瞬間、もう1人は固まった。

 地面を指差す。

 そこに合ったのは人の骸だった。

 腐敗が始まっており、死後数日といったところだろう。


 死骸といっても様々だ。

 かなりの熱を持って、丸焼きにされた焼死体。

 四肢が四散したもの。

 肉や骨、あるいは脳髄を飛散した無残な死体も存在する。

 それはまるで、高い所から落とされたような傷痕だった。


 1つ共通しているものがあるとすれば、恰好だろう。


 総じて武具を纏っている。

 その1つに、どこかの家の紋章が刻まれていた。

 側には人類軍の旗の切れ端と思われるものもある。

 慌てて、もう1度周囲を窺った。

 今まで気付かなかったが、無数の死体が転がっている。

 それもみんな、人類軍だ。


「おい! これ、もしかして第8、第11部隊の――――」


「いや、それだけじゃない」


「え?」


 尻餅を付いた騎兵は、恐る恐る腕を上げる。

 指をアンデッドたちがいる方へと向けた。


「その死体だけじゃない」


「まさか――――ッ!」


「ここにいるアンデッド全員が、元々人類軍だったヤツらなんだ!!」


 騎兵が叫んだ。


 そう。

 よく見ると、アンデッドが装備する武装も、官級品のものばかりだった。

 中には、人類軍の紋章が刻まれた盾を持っているものもいる。


「とにかく馬まで突っ切れ!!」


「お、おう!!」


 騎兵たちは死体で埋め尽くされた草地を走る。

 置いてきた騎馬の方へと走った。


「くそ!」


「この!!」


 アンデッドたちをなぎ倒す。


 騎兵たちは強かった。

 戦地では、単独で斥候を行うこともある。

 それなりの手練れでなければ、任務は務まらない。


 槍の柄を振るい、アンデッドたちを薙ぎ払っていく。


「こいつら、弱いぞ」


「ああ! これなら――」


 その時、彼らの頭上が暗くなる。

 ザザッと長いローブをなびかせ、2人の騎兵の上を飛んでいく。

 軽やかに着地すると、行く手を阻んだ。

 明らかにアンデッドとは様子が違う。

 それに背が低く、目深に被ったフードの奥から白い髪が垂れていた。


 まるで騎兵たちの馬を人質にでも取るように待ちかまえている。


「なんだ、こいつ。雰囲気が違うぞ!」


「だが、あと少しだ! この情報を何としてでも本隊に……」


 1人の騎兵が槍を構え、突撃していく。

 間合いを侵略すると、最高のタイミングで突きを放った。

 速い。さすがは鍛えられた前線軍の騎兵といったところだろう。

 空気を斬り裂き、その突きは謎の人物に吸い込まれていく。


 ジャッ!


 だが、騎兵の槍はわずかにローブの切り裂くだけだった。

 相手はギリギリを見切ると、さらに騎兵との距離を詰めてくる。

 ローブの奥から剣を抜き、剣線を閃かせた。


「あっ……」


 噴水のように騎兵の首から血が舞う。

 どぉ、とその場に崩れ落ちた。


「き、きさまぁぁあああ!!」


 仲間の死に騎兵は恐れるどころか憤激する。

 槍を強く握り、先ほどと同じく槍を突いた。

 すると、ローブの人物はとんっと涼やかな音を鳴らし、宙を舞う。

 そのまま突き出した槍の柄の部分に降り立った。


 残った騎兵は顔を上げる。

 目深に被ったフードの奥に、女の顔が見えた。

 山猫のようなライトブラウンの瞳と目が合う。


 あっ――と、騎兵は口を噤んだ。


 その目に覚えがあった。


「そんな……。まさか――。お前は、2年前に死ん――――」


 瞬間、騎兵の首は宙を飛んでいた。

 くるりと1回転すると、麻球のように転々と転がる。

 その肉に、多くのアンデッドが群がり、貪る音が戦地に響いた。


 その様子を冷たいライトブラウンの瞳が見ていた。


「今、ここの状況をお前たちに知られるわけにはいかないのだ」


 もう1度フードを被り直し、剣を鞘に納めると、女はアンデッドとともに、濃い霧の中に消えるだった。


まさかあのキャラが……!?

需要があれば、また再登場願いたいところです。

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