第104話 降臨
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いよいよ佳境に迫ってまいりました。
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前線軍特殊作戦部隊のさらに上空。
竜騎士たち、あるいは天使ダレマイルの頭上に現れたのは、翼を持った鳥人族だった。
ハルピュイア、サキュバス、ガーゴイル。
人の背中に翼を付属させたような魔族から、グリフォン、コカトリス、キマイラ、ルフといったゾウのように大きな魔物まで集結している。
その数はおよそ10000。
単純な数の上では、人類軍にとってさほど脅威ではないだろう。
しかし、空を埋め尽くすほどの魔族と魔物の混成部隊は、圧巻の一言に尽きた。
様々な空の怪物で埋め尽くされた空に一際異彩を放つ化け物がいる。
大きさもさることながら、印象的なのは色だ。
色鮮やかというわけでも、恐怖を振りまくというわけでもない。
魔物の中にあって、白の絵の具を1つ落としたかのように純白の色をしている。
だが、翼を広げた姿は雄々しく、己を空の王者と誇示するような神々しさがあった。
魔王軍第五師団師団長にして、魔王の副官。
怪鳥ファーファリアである。
「馬鹿な……。馬鹿な。馬鹿な! 馬鹿な!! 何故、第五師団がここにいる! ヤツらは前線軍と戦っているはずではないのか!?」
ダレマイルは叫ぶ。
眼球がもげるのではないかと思うほど、丸く赤黒い瞳を広げた。
しかし、その瞳に映っていたのは、幻影でも夢でもない。
紛れもない事実だった。
驚いていたのは、ダレマイルだけではない。
すでに精神が壊れ、ダレマイルの戒律の影響下にないシドラーナも息を呑んでいる。
「嘘だろ……。なんで鳥人族がいるんだよ」
「ぬははは! こんなところにいたのかい、シドラーナ」
声を響かせたのは、ファーファリアだ。
翼を広げ、シドラーナの頭上を旋回する。
幾分しゃがれてはいたが、その声は雷鳴のように轟いた。
ファーファリアとシドラーナは、共に前線の制空権を争ったライバルである。
何度も会敵し、嫌と言うほど顔を突き合わせていた。
「ファーファリア……」
「こんな僻地で会うとは奇遇だね」
「偶然……。私に会いたくて追いかけてきたの間違いじゃないのか、ストーカーめ」
「はっ! そんなことあるわけないだろ。ちょうど良い。あんたとの因縁……ここで決着を付けてやろう」
「望むところだ。お前に今日こそ火薬のなんたるかを教えてやろう。よろしいか、ダレマイル殿」
「ええ……。空はお任せしますよ、シドラーナ」
シドラーナは飛竜に鞭を打つと、飛び出していった。
指揮官の後をついで、竜騎士部隊が第五師団に殺到する。
空の上で鬨の声が上がり、早速空中戦が始まった。
ダレマイルはその開戦を見送った後、再び戦艦の甲板を見つめる。
くふっと口端を歪め笑った。
「少し驚きましたが、なんてことはない。鳥人族は脅威ですが、シドラーナに任せておけば済むことです。その間に、ヴァロウ……あなたの息の根を止めて上げましょう」
ダレマイルが手を掲げる。
再び戒律を読み上げ、人を襲わせた。
その時である。
前線軍特殊作戦部隊を突っ切り、急速に戦艦に向かって降下する影があった。
ダレマイルの側を通る。
衝撃波で、その天使の身体は揺らめいた。
真っ直ぐ向かうと、甲板上で急停止する。
突風が巻き起こり、側にいた人間を吹き飛ばした。
その影はヴァロウを守るように現れる。
「な、なんだ……」
ダレマイルが息を呑む。
甲板上に現れたのは、白と黒の翼を持つサキュバスだった。
銀髪を靡かせ、鋭い視線を周囲に放っている。
しかし、その視線がヴァロウに移った時、ほろりと涙を流した。
「ヴァロウ様……。よくご無事で」
「メトラか」
「はい!」
元気の良い返事が返ってくる。
メトラという名前に、ダレマイルも反応する。
「メトラ……。まさかメトラ王女か!!」
「そうです、ダレマイル!」
メトラは振り返る。
その白と黒の翼を、背後にいる主君を守るように広げた。
同時に、ダレマイルに己の存在を見せつけるようでもあった。
「まだ我々に楯突きますか! あなたは神族側の人間でしょう!」
「確かに私は1度神族として生を受けました。ですが、誰もあなたの仲間になるとは言っていません」
すると、メトラはヴァロウの腕を捕まえる。
豊満な胸を押しつけた。
「私にとってヴァロウ様がすべて……。彼を守るためならば、どんな汚辱にも侮辱に耐えましょう」
「このぉぉぉおおお! あ〇ずれがぁああああああああ!!」
ダレマイルは「殺せ」と周囲の人間に指示を出す。
だが――。
「戒律。神々の権限を破棄する!!」
唱えたのはメトラだった。
瞬間、何か硝子が割れたようなけたたましい音が響く。
すると、周囲の人間の目に生気が戻った。
「あれ? わたしは?」
エスカリナの意識が戻る。
同様に勇者ロッキンドとレインの意識も戻っていた。
その様を見て、ダレマイルは驚声を上げる。
「馬鹿な! 神の戒律を!」
「私とて、元は神族です。さらに言えば、あなたよりも位階の高い上級天使でした。堕天した今でも、戒律を破棄するぐらいのことはできます」
「貴様ッ!!」
「ダレマイル……。あなたは上級貴族と名乗り、人間社会に多大な影響を与えていますが、所詮人間を監視するための下級天使でしかありません」
「黙れぇえええええええええええ!!」
ダレマイルの叫びが天地を貫いた。
「私を愚弄するな! 私は上級貴族だぞ! 人間でも、魔族でも、まして堕天した天使よりも上位の存在なのだ! 卑下するのも、哀れむのも、私だ。私の役目なのだ!」
どんと胸を叩きながら、激昂する
「人間よ! どうした!? 魔族は生きているぞ! 切り刻め! お前達の敵は目の前だ!!」
ダレマイルは命令する。
だが、誰も彼のいうことを聞き、動く者はいない。
すべての兵士がダレマイルの戒律から脱し、ただ空に浮かぶ哀れな天使を見つめていた。
その哀れみの眼差しに耐えられなくなったのか。
己の隠すように、ガリガリと顔を掻きむしる。
野獣のように吠えた姿は、神々しさの欠片もない。
ただの獣だった。
「ふん! 化けの皮がはがれたな」
「誰もお前の言うことは聞けないってよ」
レインは眼鏡を釣り上げ、ロッキンドは鋭い視線を放つ。
明確な殺気を漲らせ、ダレマイルの前に立ちはだかった。
勇者だけではない。
残った第5部隊の兵士達もまた、ダレマイルの命令に頭を垂れることなく、指揮官の命令を待っていた。
「何故だ! 何故だ? 何故だ!?」
少し前まで、すべてがダレマイルの思いのままだった。
この戦もそうだった。
すべて自分のシナリオ通りだった。
シュインツの敗戦ですら、予想の範囲内であった。
順調に魔族を追い込むことができた。
あと1歩! あと1歩だったのである。
なのに――。
「どこで狂った!?」
「そんなもの最初から決まっておる」
野太い声が突如響き渡った。
戦艦の縁に鱗を纏った大きな手が現れる。
かと思えば、長い首を持った巨躯の影が甲板を覆った。
ダレマイルが再び目を見開く。
「りゅ、竜人族だと!」
そう。
ダレマイルの前に、竜人族が現れる。
しかも、最初に出現したそれは、魔王軍第一師団師団長ドラゴランだった。
「馬鹿な! 魔王城の警備隊たる竜人族が何故、ここにいる!」
「それは簡単なことです」
凜と声が響き渡った。
美しい声なのに、うっと喉を締め付けられたような殺意を感じる。
実際、周囲の人間たちはその“気”にやられ、卒倒するものが続出した。
現れたのは、闇そのものだった。
周囲を黒い霧のようなもので覆い、その存在は甲板に降臨した。
ダレマイルはふらりとよろめく。
空中にいながら、ペタリと尻を付けるように狼狽した。
「き、貴様はっっっっ!!」
「初めまして、ダレマイル上級貴族殿。わたくしは魔王――」
魔王ゼラムスと申します……。
とうとう魔王様まで……。
そして次回は密かに作者の好きなキャラが再登場です。




