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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
11章 旧同盟領攻防決着編

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第103話 絶望序曲

「よっ……」


 シドラーナが近づいてきた己の予備飛竜に跨る。

 手綱を握り、軽く自分の無事を部隊にアピールした。

 歓声を上げる間もなく、兵たちは包囲陣を作り始める。

 空は完全に前線軍特殊作戦部隊の制圧圏に置かれた。


 一方、戦艦には続々と第5部隊の兵士たちが乗り込んでくる。

 残っているもう1つの戦艦は完全に制圧され、すでに白旗を上げていた。


 空の竜騎士も、地上の勇者2人も、無言の圧力を加える。

 包囲陣が狭まる度に、エスカリナたちは後退を余儀なくされた。


 もはやルロイゼン側に戦う能力は残されていない。

 戦艦に乗っているのは、数十人の駐屯兵と領民だけだ。

 火薬の残弾はなく、砲弾を撃つことすらままならぬ。


 まともな戦力といえば、多くの人類が囲む中で立ちつくす2人の魔族だけ。

 つまりは、ヴァロウとザガスのみだった。


「くふふふ……。さあ、ヴァロウ。私たちを踊らせてみせなさい」


 空で一際異彩を放つ天使ことダレマイルが、手を広げる。

 悪魔のような醜悪な笑みを振りまく中、広げた翼はあまりにも美しい。

 思わず縋り付きたくなるような神々しさを身に纏い、ヴァロウを挑発する。


(無理よ……)


 心の中で叫んだのは、エスカリナである。

 普段はポジティブなルロイゼン城塞都市領主代行ですら、この状況に匙を投げていた。

 それはエスカリナだけではない。

 他の領民も同じだ。

 駐屯兵は槍を取り落とし、戦意を喪失していた。


 勝てるわけがない……。


 みながその考えで一致していた。


「脆いでしょう? 人間という生き物は……」


 その絶望に歪んだ民の顔を見ながら、ダレマイルは口を裂く。


「愛情やら友情やらといっても、自分の命が惜しくなれば絶望をし、あるいは感情を裏切ってでも、生にすがりつこうとする。……何も悪いことではありませんよ。神がそういう風に作ったのですから」


「なんですって……」


「種の存続を優先し生き残ることが、人間に課せられ絶対原則(プログラム)なのです」


「違う……」


「何が違うというのですか、エスカリナ嬢」


「確かに生きるということは重要よ。でも、わたしたちはそれを目的にして生きているわけじゃない。そんなの虚しすぎる。おいしいものを食べること、人と分かち合うこと、人を愛すること、それも大事なことだってわたしは知っている」


「くふふふ……。なかなかの名演説ですね。しかし、それはね、エスカリナ嬢。人間の価値観であって、神のそれではない。我々が人間に求めるのは、その強い生存本能を持って、魔族を倒すことです。それ以外、何も求めていない」


「言ったでしょ! そんなの虚しすぎる! それじゃ――――」


「家畜と変わらない――ですか?」


「――――ッ!!」


 エスカリナが顔を強ばらせるのを見て、ダレマイルはほくそ笑んだ。


「その通りですよ。人間は地上では随分と偉そうにしていますが、我々からすれば、家畜も同然です。牛や馬、豚と一緒です」


「そんな…………」


「あなたは厩舎の中で殺されるとわかっている豚に、飼い葉のおいしさに歓喜することを求めますか? その関係性を求めますか? 愛ある性交を望みますか? 違うでしょう? 豚は所詮豚です。人間もまたそうなのですよ」


「じゃあ、わたしたちは何のために生まれてきたのよ!」


「簡単な質問です。人間は神の兵……。魔族を殺すこと以外、何も求めません」


「じゃあ……。じゃあ、あなたたちは――――」



 なんでわたしたちに味覚を与えたの?

 なんでわたしたちに感情を与えたの?

 なんでわたしたちに愛を与えたのよ!?



「それは我々が与えたものではない。勘違いですよ。錯覚に近いものです」


「ふざけんな!!」


 突然、叫び声が聞こえた。

 次の瞬間、空中で爆発が起こる。

 ダレマイルだ。

 彼が手元に持っていた本がいきなり爆発したのである。


 みなの視線が一斉に甲板にいる人物に集中した。

 『爆滅の勇者』ロッキンドだった。

 何度も頭を振りながら、近づいてくる。

 先ほどまでの無言で、エスカリナたちを囲んでいた雰囲気から一変している。


 目に生気が宿り、表情に人らしい感情が生まれていた。


「オレたちを神の神兵だの、豚だの好き勝手いいやがって……。天使様だか神様だか知らないけどな。オレたちはお前らのために戦ってるわけじゃない! オレたちは国を守るため、民を守るため戦っている。中には家族の仇を取るものもいるだろう。オレも自軍の兵を失った! そういう気持ちを大事にして生きてるんだ! 決してお前らのためじゃない」


「くふふふ……」


 爆発の中からダレマイルが現れる。

 黒い服がすべて吹き飛んでいた。

 一糸纏わぬ真っ白な素肌が露わになっている。

 胸板は厚く、肩幅は広い。

 見事な逆三角形の身体に、その背中から生える白い翼は、爆発の影響を微塵も感じさせず、輝いていた。


 つまり、ほぼ無傷だったのだ。


「さすがは勇者といったところですか。私の洗脳を解くとは……」


「ロッキンドだけじゃない」


 ロッキンドの横に進み出たのは、レインだった。

 相棒と同じく、正気に戻ったらしい。

 釣り上げた眼鏡の奥から、鋭い視線をダレマイルに放っていた。


「あなたも、ロッキンドと同意見ですか、レイン」


「こいつと同意見といわれると、否定したくなる」


「お、おい。レイン……」


 横のロッキンドがギョッと目を剥く。

 しかし、レインは言葉を続けた。


「しかし、ダレマイル様。いや、ダレマイル! あなたの言葉は明確に否定させてもらう」


「あなたはもっと賢い人間だと思っていたのですがねぇ」


「よく言う。先ほどまで散々人間を豚と罵っていた者が――」


 レインは槍を握る。

 その反抗の意志を見せるように切っ先をダレマイルに向けた。


「ダレマイル、これだけは覚えておけ。私は勇者だ。人間を家畜呼ばわりし、ただ戦う道具として我々を扱うならば、私は勇者として戦う」


「ほう……」


「勇者は人を守るもの……。そしてその尊厳を守るために、剣を振るわなければならない」


 レインはチラリと自分の方を向くエスカリナを見つめた。


「たとえ、相手が天使であっても、無辜の民が助けを求めるなら、私は弓を引こう。これ以上、見て見ぬ振りはできない。それが私の道だ。誰にも否定はさせん」


 レインはいつになく熱く言い切る。

 横のロッキンドは歯をむき出し、子どものように笑った。


「へへへ……。カッコイイこというじゃねぇか、レイン」


「う、うるさい……!」


「オレはレインの意見に賛成だ。大賛成だ。困ってる民を救うのが、勇者の務めだ。それ以上でもそれ以外でもねぇ」


「本当に助けてくれるの?」


 キョトンとしながらエスカリナは呟いた。

 本当だとしたら、とんでもない援軍だ。

 一気に形勢が傾くかもしれない。


 すると、ロッキンドは笑顔を見せる。


「結果的にそうかな」


「だが、勘違いするな。我々は守るのは、あくまで人類だ」


 だとしても、心強い援軍であることは間違いない。


 いけるかも……。

 絶望の淵で、2つの希望が輝く。

 手の先に力が戻ってきた。

 止まっていた血流が、動き始めたような気さえする。


 だが、ダレマイルの態度は変わらない。

 やれやれ、と首を振り、余裕の笑みを見せた。


「シドラーナ、あなたはどうされますか?」


「私? そうですねぇ。私はあなたに付きますよ、ダレマイル殿。尊厳や民のために戦うのも悪くないですがね。私が求めるのは火薬(あい)。そして戦場だ。その点において、あなたに付いた方が面白そうではある」


「なるほど。わかりました」


「しかし、勇者が2人付きましたよ。ちとまずくないですか?」


「問題ありません……」


 ダレマイルは手を振った。

 現れたのは、ロッキンドが破壊したはずの本だ。

 ぱらりとめくり、ダレマイルは読み上げる。


戒律(コマンド)。第3条、第2項の適用を申請する」


 その瞬間、ダレマイルの頭の上に幾何学模様が輝いた。

 魔法陣である。

 だが、それは誰も見たことのない陣だった。

 博識なヴァロウですら理解できない。

 おそらく、神族特有の起動陣なのだろう。


 辺りの魔力が膨れあがる。

 同時に、白い光が周囲を包んでいく。

 神々しい雰囲気だった。

 今にも、雲間から神が光臨していくような……。


 エスカリナは息を呑むだけだった。

 他の勇者たちも一緒だ。

 ヴァロウはただ顔を上げて、白く染まる風景を見つめていた。


 その中で、ダレマイルだけが笑みを浮かべている。


 にやり――そんな擬音が聞こえてきそうな最中、変化は起こった。


「ぐああああああああ!!」


 頭を抱えたのは、エスカリナだった。


「何かが……。何かが入り込んでくる」


 喚く。

 エスカリナだけではない。

 ルロイゼンの領民たちや、目を覚ましたロッキンドやレインですら悶えていた。


「てめぇ、何をしやがった……」


 目を細めたのは、ザガスである。

 こん棒をダレマイルに向けて、威嚇する。


「言ったでしょ? 人間は我々の神兵だと。少し私が囁くだけで、その忠実さを思い出してくれる。所詮は人形……。いえ、ただの豚です」


「てめぇ……」


 ザガスが睨む。

 珍しく人間に関することで、怒りを露わにしていた。


「う゛ぁ、ヴァロウ……」


 エスカリナが手を伸ばす。

 片方の瞳からは、滂沱と涙滴を流していた。


「た、たすけ…………」


 すっと、エスカリナの瞳から生気が消えていく。

 細剣に手を伸ばし、引き抜いた。

 ヴァロウに向かって猛然とダッシュする。

 喉元に向けて放たれた突きを、制したのはザガスだった。


「てめぇ、裏切ったのか!!」


「そうではない……。おそらくこれがヤツの力なのだろう」


 ザガスが激昂する一方、ヴァロウは冷静に分析していた。


 さらにザガスは周りを見る。

 駐屯兵や領民たちが、ゆっくりとヴァロウたちの方に近づいてきていた。

 1度洗脳が解かれたはずのロッキンドやレインも同じだ。

 物言わぬ人形のように、ヴァロウたちを粛々と囲んでいく。


 空の上も、すでにダレマイルの息がかかり、忠誠を誓ったはずのシドラーナすら、その瞳から生気を失っていた。



 すべての人類が、ダレマイルの手の平の上にあったのである。



「ヴァロウ……。これが掌握するというものですよ」


 ダレマイルは微笑む。


 戦場にいる魔族はたった2人。

 他すべて――彼らの敵に回った。

 逃げ場などない。

 ただ死を待つのみだ。


「どうしますか、最強の軍師……。この状況をどう打破します?」


「おい。ヴァロウ! さすがにまずいだろ! オレ様はごめんだぞ。こんなところで犬死になんて。みっともねぇ!」


「お前が戦に美学を見出すとはな」


「死に場所をくれとはいったが、これはオレ様の理想じゃねぇって話だ」


「心配するな、ザガス」


「あん?」


「もう1度言おう……」



 すでにこの戦場は、オレの手の平の上だ。



 ヴァロウの言葉を聞いて、ダレマイルは「くふふふ」と声を上げた。


「強がりを……。ここで逆転の一手はありませんよ。シュインツはわたしの部下が包囲中。魔族軍本隊は遥か彼方……。海の魔物も無力化しました。今のあなたたちに味方してくれる勢力などどこにも――――」


「それに気付かないから、お前は敗北するのだ、ダレマイルよ」


「なんだ、と――――」


 その瞬間だった。

 白く迫っていた戦場が突然闇に染まる。

 まるで黒い衣にでも覆われたかのようだった。


 みなが自然と頭を上げた。

 雲が太陽を隠したのか。

 そう思ったが、最初から太陽など出ていない。

 いつの間にか、空には分厚い雲が覆われている。


 否――。違う。


『ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!』


 騒がしい声が空から降ってくる。

 その異形の姿を確認した時、とうとうダレマイルの顔から笑みが消えた。


「馬鹿な! 第五師団――鳥人族だと!!」


 遠く本国にいるはずの第五師団10000が、空を覆い尽くしていた。


さあ……。盛り上がって参りました。

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