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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
11章 旧同盟領攻防決着編

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第102話 上級貴族

「くふふふふ……」


 奇妙な笑いが頭上から降ってきた。

 ヴァロウを含めた甲板にいるすべての人や魔族が、空を仰ぐ。

 黒い煙がたなびく中で、1人の男が浮いていた。


 石版のような四角い輪郭。

 蛇のように大きく歪んだ唇。

 胸板は厚く、肩幅は広い身体には、葬儀屋のような真っ黒な服を纏っていた。


 男の小脇には、本――ではなく前線軍特殊作戦部隊司令官シドラーナが抱えられている。

 意識はなく気絶していたが、五体は無事である。

 どうやら男がシドラーナを助けたらしい。


 その異様な男の姿に、みなが言葉を失う。

 いや、そもそもその容姿というよりは、別のことに驚いていた。


「浮いてる……?」


 エスカリナは声を震わせる。


 男は確かに空中で止まって見えた。

 目の錯覚か。

 奇術の類か。

 それとも魔法か。

 それはわからないが、男の周りだけ時間停止したかのように、ピタリと空中で止まっていたのである。


「ダレマイル……」


 呟いたのは、ヴァロウだった。

 エスカリナは金髪を乱しながら、振り返る。

 珍しくヴァロウの言葉に、感情がこもっていたからだ。

 何か憎しみを絞り出したような声音だった。


 しかし、それ以上にエスカリナはその名前に反応する。


「ダレマイル? あれが?」


 本国軍指揮官。

 そして上級貴族……。


 エスカリナは子どもの頃、1度だけ王宮に赴いたことがある。

 大人がたくさんいる社交界の場で、その時初めて上級貴族を見た。

 現れれば人間が蟻のように群がっていく。

 その様を見て、子どものながらに恐ろしいと思ったものだ。


 そして、これが上級貴族との2度目の邂逅だった。


 あの時見た上級貴族とは容姿が違う。

 だが、似たような雰囲気をエスカリナは肌身に感じていた。


 すると、片方の脇にシドラーナを抱えながら、ダレマイルはもう片方の手を胸に添えた。

 ゆっくりとお辞儀をする。

 礼儀正しいと思ったが、上げた顔には相変わらず嫌らしい笑みを浮かんでいた。


「初めまして、エスカリナ・ボア・ロヴィーニョ様。私はダレマイル。ダレマイル・ゼノ・チューザーと申します。本国軍同盟攻略部隊の司令官を務めております」


 丁寧に自己紹介をする。

 エスカリナは呆気に取られた。

 だが、慌てて頭を下げた。


「丁寧に挨拶ありがとうございます。こちらこそ初めまして、ダレマイル様。私は元ルロイゼン城塞都市領主ドルガン・ボア・ロヴィーニョの娘エスカリナと申します」


「ほう……」


 ダレマイルは声を上げ、エスカリナの典雅な挨拶を受ける。


 エスカリナがダレマイルの挨拶を受けたのには理由があった。

 単純な時間稼ぎだ。

 おそらくヴァロウは何かを待っている。

 それが何なのか想像も付かないが、今は1秒でも2秒でも時を稼ぐのが重要だと考えた。


「さて、ヴァロウ(ヽヽヽヽ)。あなたにも挨拶が必要でしょうか? こうして面と向かって会うのは初めてですよね」


「お前がそうしたければ、そうしろ」


「メッツァーでは挨拶する機会がありませんでした。どうして、あの時一言声をかけてくれなかったのですか? 最強の軍師(ヽヽヽヽヽ)



 ヴァロウ・ゴズ・ヒューネル……。



「え?」


 エスカリナの瞳が大きく見開かれる。

 再びヴァロウの方に視線を戻した。


「ヴァロウが……。あのヴァロウ・ゴズ・ヒューネルなの?」


 エスカリナは言葉を絞り出す。


 ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルはエスカリナにとって憧れである。

 1度だけ行った王宮。

 その社交界の場で見たのは、何も上級貴族だけではなかった。

 人が1000人以上も集まった場所の隅で、1人紅茶に舌鼓を打っていた男。

 それがヴァロウ・ゴズ・ヒューネルである。


 上級貴族とは違った独特の雰囲気があり、人が近づけば声をかけられるも、言葉少なに人が遠ざかっていく。


 まさしく孤高の狼だった。

 が、1人紅茶を味わっていた姿は、子どものように嬉しそうだったのをよく覚えている。


 それから、ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルが『最強の軍師』と呼ばれ、人類の救世主であることを知ってからは、彼が出した著作を何度も読み返した。

 いつかヴァロウの元で働きたい。

 そう思って、女だてらに剣を振るったものだ。


 そんな男が今、目の前にいる。


 頭の片隅では、「もしや」と思うこともあった。

 しかし、ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルは死んだとはっきり聞いていた。

 他人のそら似、そもそも魔族であるはずがない。

 何度も否定し、目をつぶりながら、ヴァロウとここまでやってきたのだ。


 聞きたい。


 今、ダレマイルが言った言葉が本当なのか、と。


 しかし、ヴァロウは――。


「なんのことだ?」


 否定した。


 特にショックはなかった。

 ヴァロウならそういうだろうと思ったからだ。


 すると、また「くふふふ……」と気味の悪い声が響き渡った。


「とぼけても無駄ですよ。魔族に転生なさったのでしょう?」


「転生??」


 ダレマイルの言葉に、エスカリナは反応する。


「大方……。あなたに付いているメトラ王女の仕業でしょう。馬鹿ですね。哀れと思って、神族に引き立てたのに裏切り、しかも堕天するとは……。随分とあなたにご執心のご様子。よっぽどあなたに生えている()が気に入ったのでしょうか?」


「黙れ……」


 ヴァロウは睨む。

 いつもは無表情であるはずの顔が歪んでいた。

 殺気が膨れあがるのを、横にいたエスカリナが確認する。


 ヴァロウの殺気に、ダレマイルがおののくことはなかった。

 それどころか「くふふふ」とまた奇妙な声を上げて笑う。


「若いですねぇ。立派なことだと思いますよ。1人の女を支配し、狂わせる。男の冥利に尽きるというものです。ねぇ、ヴァロウ」


「ダレマイル!!」


 ヴァロウは今にも飛び出していきそうな程、殺気をまき散らす。


 だが――。


「待って!」


 凛とした声が、濛々と煙を噴き上がる戦場で響いた。

 エスカリナである。


「何故、あなたがそんなことを知っているの? そもそもあなたはなんで……」


 浮いているのか。


 その最大の謎の答えをまだ聞いていなかった。


「ああ。なるほど。エスカリナ嬢は根本的なことを知らないのですね」


 くふふふ……、ダレマイルは笑う。


「まず最初のご質問にお答えしましょう。私が当事者ではありませんが、ヴァロウ・ゴズ・ヒューネルを殺した人物のことは知っています。そして、もう1つの質問ですが……」


 途端、ダレマイルの着ている服が盛り上がる。

 まるで服の中に大蛇でも飼っているかのように、何かが蠢いていた。


 瞬間、絹を引き裂く音がこだます。

 その瞬間、煙が払われ、戦地に陽光が注がれる。


「え? なに……あれ…………」


 真っ白な翼だった。


 ダレマイルの背中から白い翼が飛び出していたのである。

 それはまるで――。


「天使…………?」


 ――のようだった。


 再びダレマイルの奇妙な笑声が響く。


「そうですよ、エスカリナ嬢。上級貴族とは国を統治する王以上の存在……」



 すなわち天使なのです……。



「ちょっと待ってよ。天使ってことは、神様なんでしょ? なんで……。人間の社会にいるのよ」


「簡単なことですよ。魔族を…………いや、この世界の害虫を殺すためです」


「そんな……」


 エスカリナは息を呑む。

 その周りには白い羽根がひらひらと落ちていた。

 後光を纏い、翼を広げる姿は神々しく、無意識に跪いてしまうような圧力を感じる。


 そして、すとんとエスカリナの心に落ちてきたのは、絶望だった。


 相手は天使……。

 神なのだ。


 勝てるわけがない……。


 肩を落としたエスカリナに声をかけるものはいなかった。

 戦に参加した領民すべてが、話を聞きながら同じ思いだったからである。


 そして、絶望は続く。


 ごとりと音を立て、甲板に兵士が乗り込んできた。

 前線軍第5部隊である。

 さらに、その中には『爆滅の勇者』ロッキンド、『氷烈の勇者』レインが立っていた。


 いずれも救いを求める領民に対して、鋭い視線を送っている。


「ん? あれ……。私は生きているのか?」


 ダレマイルに抱えられたシドラーナも目を覚ます。


 空に竜騎士と天使。

 地上には勇者2人。

 

 ヴァロウたちは完全に包囲されていた。


「ヴァロウ……。先ほど、奇妙な言葉を仰っていましたね。この戦場は、自分の手の平だとかなんとか。ならば、今この窮地を脱してみなさい」



 出来るものならね……。



 ダレマイルは口を裂き、大笑を響かせるのだった。


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