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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
10章 シュインツ城塞都市攻防戦

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第97話 激昂

 本国軍第2部隊が急襲されたという報を受け、急ぎチェッカーは向かった。

 だが、彼が到着した時には、第2部隊はすべて骸に変わっていた。

 司令官も穴だらけにされ、他の兵たちも首筋を無残に切り裂かれている。


 残っているのは騎馬ぐらいだろう。

 もの悲しい響きを上げ、嘶いている。


「馬鹿な……」


 惨状を見て、チェッカーは言葉を失う。


 半数を第3部隊に振り分けていたとはいえ、まさか全滅しているとは思わなかった。

 決してチェッカーの初動は遅くない。

 部下が東の方で空に妙な光を確認し、急ぎ駆けつけたのだ。

 だが、その短期間で敵は8000の兵を平らげたのである。


「見事だ……」


 思わず唸りそうになって、チェッカーは口を噤んだ。

 だが、用兵家として讃えずにはいられない鮮やかな用兵だった。


「チェッカー様、いかがなさいますか?」


 部下が尋ねてくる。

 死臭が濃い。

 早く死体を埋葬しなければ、次に来た時には野生の獣に死肉を食わせることになる。


 戦場となった第2部隊の野営地の後片付けをする。

 その下知を待ったが、チェッカーの考えは違った。


「ひとまず放っておけ」


「しかし、骸を埋葬しなければ――」


「わかっておる。だが、ここで手をこまねいていては、今度は手薄になった本陣を狙われるかもしれない」


 本陣とは当然総司令官ダレマイルがいる第1部隊の野営地のことである。


 そこからチェッカーは援軍として、騎馬4000を借り受けてやって来た。

 故に今、本陣には15000ほどの兵力しかない。


 相手は手薄になった東の第2部隊を狙った。

 おそらく魔族側も隊内に間者を放っているのだろう。

 ならば、チェッカーの動きも筒抜けの可能性が高い。


 今すぐ戻らなければ、ダレマイルが危なくなる。


 チェッカー率いる騎馬部隊は、馬頭を返した。

 本陣へと戻る。

 すると、ちょうど朝日が東の空から現れた。


 シュインツ城塞都市に、開戦7日目の朝がやってくる。


 山にへばりつくようにしてたたずむシュインツ城塞都市を見ながら、チェッカーは目を細めた。


「ルミルラ・アノゥ・シュットガレンか……」


 彼女のことは、噂に聞いている。

 前線で竜騎士部隊を率い、活躍した竜騎士だ。

 指揮官としても優秀であったと記憶している。


 だが、所詮は1部隊の指揮官に過ぎない。

 大部隊、それも籠城戦は不得手だと思っていた。


 結果は逆だ。

 シュインツを見事防衛し、8000の兵を削ってみせた。

 これほど、彼女が手強いなど本国軍の誰も考えつかなかっただろう。


「そういえば……」


 チェッカーは馬に揺られながら、顎に手を置く。

 慌てて出てきたため、顔剃りの時間がなく、顎に無精髭が残ったままだった。


「ルミルラは確かあの軍師殿の門下生だったな。名前は確かヴァロウ……」


 すると、チェッカーは反応する。

 あっ、と口を開け、しばし固まった。


「確か魔王の副官にも同じ名前のものがいたな」


 そのヴァロウが頭角を現して以来、魔族は戦術を使用するようになった。


 人類において最強と謳われた軍師ヴァロウ。

 魔族軍にあって、その戦い方を変革しつつある魔王の副官ヴァロウ。


 単なる偶然の一致と考えていいものだろうか。


 やがてチェッカーは息を吐いた。


「疲れているな。ヴァロウ殿は死んだのだ」


 馬の腹を蹴る。

 加速すると、本陣へと急ぎ戻った。



 ◆◇◆◇◆



「なんだと!!」


 チェッカーは叫んだ。


 急ぎ戻った本陣であったが、こちらは平穏無事だった。

 どうやら第2部隊を潰すだけで、精根尽きたのだろう。

 そのままシュインツ城塞都市に引き揚げたようだ。


 無理をしないというところも、用兵家として心得ているらしい。


 だが、チェッカーの帰還と同時に、平穏無事といっていられない報告が、第1部隊の野営地にもたらされた。


 ルロイゼン城塞都市を攻めていた前線軍第7部隊が全滅。

 同行していた第5部隊にも被害が出て、現在膠着した状態が続いてるのだという。


「相手は200だぞ! 2万でもなければ、2000でもないのだ。なのに、まだ開戦して間もないというのに、兵力の半分を削られたとはどういうことだ!」


 我慢できず伝えに来た伝令を叱咤する。

 伝令はただ声を張り上げ、見聞きしたことを伝えるしかなかった。


「相手はステバノス様のストームブリンガーによって、我ら前線軍を強襲。その際、第7部隊の9割の兵が失われました。さらに前線軍は第7部隊と『爆滅の勇者』ロッキンド様を軸に、ルロイゼン城塞都市に猛攻を仕掛け、城門を突破!」


「「「おお……」」」


 伝令の話を聞いていた兵はどよめいた。

 あの難攻不落のルロイゼン城塞都市の城門を突破したのだ。

 それだけで勲章に値する功績だった。


 チェッカーも満足そうに頷く。


「さすがは『爆滅の勇者』だな……。それで――」


「城塞都市に侵入したのですが、そこに罠が張られていたようで、城塞内に突撃した兵は、ロッキンド様を除き全滅したようです」


「馬鹿な! 罠だと!」


 考えられない。

 ロッキンドの力であれば、多少の罠など吹き飛ばせるはずだ。

 それを――。


「一体、どのようにして全滅させたのですか?」


 声が御簾の奥から聞こえる。

 顔を赤くするチェッカーとは違い、落ち着いていた。


 総司令官ダレマイルである。


 起きたばかりの上級貴族は、ベッドに腰掛けたまま報告を聞いていた。

 今日は伽をする女の姿はない。

 伝令の報告を受ける前に、チェッカーが処理をしておいたからだ。

 ただ香の匂いだけが、ダレマイルの豪奢な天幕に立ちこめていた。


 総司令官の声に、伝令は一層かしこまり、頭を下げる。

 少し言葉を濁した。


「そ、それが信じがたいことなのですが?」


「どうした? 申してみよ」


 チェッカーは説明を求める。


「はっ! 唯一生き残ったロッキンド様のお話だと、魔族軍はルロイゼン城塞都市を海水で満たし、そこに海の魔物を放ったとのことです」


「海の魔物だと!!」


 チェッカーは思わず声を荒らげた。


 当然、信じがたいことだ。


 だが、これでルロイゼンの攻略は難しくなっただろう。

 海の魔物が一体何匹いるかはわからない。

 それでも5000以下ということはないはずだ。

 しかも、海水を満たした城塞都市など、一体どうやって攻めればいい。


 チェッカーは一瞬途方に暮れる。


「くふふふふふふ……」


 奇妙な笑い声が御簾の奥から聞こえてくる。

 耳で捉えた者の寒気を誘った。

 無意識に背筋を立てるものもいる。

 かくいうチェッカーも、首に浮かび上がった冷たい汗を拭った。


「城塞都市を海水で満たすですか。面白いです。実に面白い」


 ダレマイルはパチパチと赤子のように手を叩く。

 しかし、御簾の奥から漂ってくる殺気のようなものは消えない。


 やがて穏やかな声が聞こえた。


「ご苦労様でした。ゆっくりと休んで下さい」



 あの世でね……。



 御簾の奥で、ダレマイルは手を払うのがわかった。

 その瞬間、伝令の側にいた兵士が何も言わず剣を抜き放つ。

 ごろりと伝令の首が転がった。

 「え?」という表情だけを、この世に残し、絶命する。


 兵士は血の付いた剣を払い、何事もなかったかのように鞘に収めた。

 再びダレマイルは合図を送る。

 くるりと回れ右をして、天幕の中から出ていった。

 その目に生気はなかった。


 異様な一幕に、ただチェッカーは汗を拭うだけだった。

 何度と見てきたダレマイルの所行だ。

 その行動よりも、徐々にこの凶行に慣れていく自分が恐ろしかった。


「チェッカー、あなたもです」


 ダレマイルは手を払った。

 チェッカーは何も言わず、頭を下げる。

 ともかく外に出て行きたい一心で、足早に天幕を後にした。




 チェッカーと兵士がいなくなった天幕で、ダレマイルは崩れ落ちた。

 否――四つん這いになると、何層も敷かれた絨毯に頭を叩きつける。


「おのれ! おのれ! おのれ!!」


 額が赤くなり、血が噴き出しても、ダレマイルは辞めない。

 終いに立ち上がり、御簾を破り、寝ていたベッドのシーツを引き裂いた。

 最後に枕を噛みちぎると、詰まっていた羽毛が天幕に舞う。


 そうして暴走したダレマイルは、活動を停止した。


 再び四つん這いのポーズになり、顔を上げる。

 鬼の形相となりながらも、にぃと口を裂いて、上級貴族ダレマイルは笑った。


「やりますねぇ……」


 ヘーゼル色の瞳を思い浮かべ、静かに敵将を讃えるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 一方、シュインツ城塞都市は沸き返っていた。


 銀髪を朱に染めながらも、ベガラスクと100名の魔狼族が帰還したのである。

 しかも、ただ陽動しただけではない。

 3000の兵を屠ったのだ。


「ベガラスクさん!」


 奇跡のような戦果に、軍師の弟子ルミルラも興奮していた。


 パタパタと走ってくると、思わずベガラスクに飛びつく。


「ちょ! ルミ――貴様ッ! 何をする!!」


「よくご無事で……。そしてよくやってくれました!」


 魔狼族の指揮官を讃えながら、その銀毛を撫でた。


 わぉ! という感じで、ヴァルファルの兵士や魔狼族は口を開けたまま固まっている。

 魔王の副官に向かって、あまりに大それた行為だった。

 周囲はそれを理解していたが、唯一気付いていないのは、おてんばな女軍師ぐらいなのだろう。


 ルミルラはまるで飛竜を撫でるようにベガラスクの毛を堪能する。


「ふふふ……。なかなか触り心地がいいですね。モフモフだ」


「いい加減離れろ」


 とうとうベガラスクに摘まみ上げられる。


「良いじゃないですか。減るもんじゃあるまいし。お互い魔族なんですから。これぐらいのスキンシップはいいでしょう」


「ふん。それは周りの反応を見て、気付くんだな」


 ルミルラは周りを見る。

 目を剥き、固まる魔族と人間を見て、「ふふっ」と笑った。


「ベガラスク殿の毛はなかなか柔らかいですよ。皆さんもどうぞご堪能を――」


「喧伝するな! それよりもお前の方はうまくいったのか?」


「東の部隊を壊滅させました。あなたの戦果と合わせて、1万以上の戦力を削ったことになります」


 ルミルラはにっこりと微笑む。


 対し、ベガラスクはふんと鼻息を荒くした。


「よくやった。新参者にしてはだがな」


「ありがとうございます、ベガラスク副官殿。というわけで、今度は尻尾の柔らかさを堪能させてくれませんか……」


 ルミルラは光を求める蛾のようにベガラスクの尻尾に近づいていく。


「な! やめんか!!」


「待ってくださいよー」


 新参の魔族と、魔王の副官の追いかけっこが始まる。

 2人の姿を、東の城壁から昇ってきた太陽が捉えるのだった。


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